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■関西ウーマンインタビュー(お店オーナー)


檀上 まきさん(『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』店主)

10年ぶりに「久しぶり」と思える、ほっとする場所でありたい

檀上 まきさん
『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』店主
松屋町筋から上町筋まで東西に続く『空堀商店街』。その周辺には、古い長屋や狭い路地など昔ながらの街並みが残り、長屋を改装した雑貨店やギャラリー、飲食店などが点在しています。

その一角にある『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』も、築100年ほどの長屋を改装したお店です。店内には、アクセサリーや紙雑貨、食器など愛らしい手づくり雑貨が並び、企画展や作家の個展などを行なうギャラリーや小さな喫茶スペースもあります。

店主の壇上まきさんがお店をオープンしたのは2003年、今から15年前のことです。「10年以上も続けていると、モチベーションを維持するのが難しい」と檀上さんは言います。長年続けてきたのは「やめる理由が見つからないから」と笑いますが、その言葉には、続ける選択を重ね、この場所であり続けることに対する強い信念が宿っていました。

『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』を「お店」と言わず、「居場所」と表現する檀上さん。その根っこにある想いとは何でしょうか?
人との出会いやつながりの豊かさ
以前は保育士をされていたそうですね。
保育士は子どもの頃からの憧れの職業で、短大卒業後は私立保育園で6年ほど働いていました。よい仕事だと思っていましたし、特に大きな理由はなかったのですが、卒業してからずっと同じ職業、同じ場所で働いてきたので、ほかの世界も経験してみたい、と。

自分を表現できることをしてみたいという気持ちもあったんだと思います。在職中から、ポーチやベビースタイといった布小物をつくって、フリーマーケットに出店したり、「ここなら手づくり雑貨を置いてくれそう」という雑貨店やギャラリーに連絡して委託販売したりしていました。

最初は趣味だったのが、大阪市内のさまざまな雑貨店やギャラリーに通って、作品を自分の手で生み出すアーティストや背景を感じる手づくり雑貨に触れるうち、刺激を受けたのでしょうか。

いつしか「自分を表現できる、自分の居場所をつくりたい」「その場所にさまざまな人が遊びに来てくれたら」と考えるようになっていったんです。

その居場所のイメージは、自分が好きでよく通っている雑貨店やギャラリーに近かったから、2003年7月に雑貨とギャラリー、喫茶のお店としてオープンしました。
4ヵ月半をかけて、長屋を改装し、お店にされたとのこと。友人や知人をはじめ、初対面の人も含めて60人が改装に関わられたそうですね。
地元の方によると、築100年ほどの長屋で、当時1階は倉庫、2階は部屋となっていました。ボロボロで廃墟同然だったのですが、むしろ「ここに、自分で、自分の秘密基地をつくろう」とわくわくしたことを覚えています。

改装は1人でできることではありませんし、やっぱり人と出会い、交流することも楽しかったから、人を巻き込みたかったんでしょうね。

『おみせをはじめることにしました』というフリーペーパーをつくって配布したり、ブログに改装中の様子を書き綴ったりしていたら、「こんにちは!」と訪ねてきてくれる人たちがいました。

たまたま前を通りかかった大工のおっちゃんが手伝ってくれたり、写真家が改装の様子を写真で撮ってWEBにアップしてくれたら、それを見てさらに人が集まってきてくれたり、お店のチラシをつくろうと考えていたら、手伝ってくれている人の中にデザイナーがいてお願いできたり。手づくり作家として活動する人たちとも知り合え、雑貨を置いてもらえることにもなりました。

オープン前から、いろんなミラクルが重なって、今につながっているんです。
目の前で起きる、日々の出来事を励みにして
お店を始めて、今年で15年。これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
昔より最近のほうが、悩みが出てきたかもしれません。

手づくり雑貨が珍しい時代に始めて、手づくり雑貨が一般的な時代になり、WEBショップの時代になり、雑貨店が百貨店に出店する時代になりと、時代の変化をひしひしと感じています。

ここを始めた頃は、決して経営がいいというわけではないけれど、手づくり雑貨が好きな人や大事に思ってくれる人が多かったから、楽しかったんだと思います。

今は、わざわざ個店に足を運ばなくても身近で安くてかわいいものが手に入りますし、大量生産品と比べられることもあります。年々、足を運んでくれる人も減っているから、さみしさもあります。

さらには、この数年のうちに、オープンから10年越えのお店が閉店する話も聞く機会が増え、私自身も考えることだからハッとするんです。継続するためには、自分のモチベーションをどう維持するかが一番難しいと思いました。
檀上さんはどのようにモチベーションを維持されているのですか?
日々の出来事によって、気持ちをつなぎとめている感じでしょうか。

この年末、お店に来てくれる人が少なくて、年始すぐは誰も来てくれないかもしれないと思っていたら、毎年来てくれる人たちがいて、ほっとする。「まだ大丈夫」とちょっと自信になって、頑張ろうと励まされるんです。

ギャラリーで作家さんとお客さんがつながるのを見るのも、「これがほしかったんです」と来てくれる人がいるのも、馴染みのお客さんと「懐かしいね」とお話するのも、嬉しいし、楽しい。

10年ぶりに来てくれる人もいて、あるお客さんは小学生の頃にお母さんと一緒に来てくれたことがあったそうです。この歳月の中で、「小学生が成人したんだ」としみじみしました。

この人、あの人、その人・・・考えれば考えるほど、ここがなかったら、出会っていなかった人の多さにびっくりします。もしやめてしまったら、再会できない人や出会えない人がいるかもしれないから、やめられないんです。
檀上さんは、オープン時に『ひなたの作り方』、10周年に『ひなたむし』という、日々の出来事を書き綴った本をおつくりになっていますね。記録していくことが、目の前の日常を大切にする心にもつながっているのでしょうか?
自分が今ここにいるのは特別なことなんだと思っていて、忘れてしまったらもったいないから、書き留めておきたいという気持ちから記録しています。日々の何気ない出来事こそ、年齢を重ねて振り返ったら、すごく感動するんじゃないかな、とも。

それほど、ここで過ごす時間に思い入れがあるのだと思います。

書き綴っている時も、「ありがたいなあ」「やっぱり、幸せだな」と感謝しながら、自分の気持ちを整理して、確認しているんでしょうね。

だからなのか、今でも自分が好きなもの、軸がぶれることはないんです。
檀上さんにとって、「好きなもの」「軸」とは?
ここを始める時に「時間と、空間と、人とのつながりを大事にする」と思いました。それは今も変わりません。

物を売りたいわけでも、お店として繁盛させたいわけでもなくて、この場所での出会いやつながりを大切に思っています。それは、最初に、人にたくさん助けてもらって空間づくりをしたからかもしれません。

あの柱時計はここを改装する時に手伝ってくれた大工さんが倉庫からひっぱり出してきてくれたもの、あの建具は誰々さんからもらったもの、あの照明のライトは誰々さんがつけてくれたもの・・・プレゼントでマグカップをもらったら、「誰々ちゃんからもらったマグカップ」になっていとおしくなるのと同じで、お店の一つひとつに、誰かとのエピソードがあるんです。

雑貨についても、その物のことより、つくった作家さんの背景をよく話します。まるで家族に「近所の子にこの間会ったら、こんな感じになっていたわ」と話すみたいな感じで、この人はこんな人で、こんな想いでつくっていて、先日来た時はこんなことを話していましたよって。その人自身のファンになってもらえると嬉しいんです。
「この場所」「自分」がいるからこそ
お仕事をされる中で、いつも心にある「想い」は何ですか?
自己流であること。他に惑わされすぎず、背伸びもしすぎないこと。

保育士時代に研修で、画家の元永定正さんからお話をうかがった時、「我流は一流」という言葉に勇気をもらいました。「上手は上手なりに、下手は下手なりに、普通は普通なりにやったらいい。それが一番の自己流だから」というメッセージとして受け取り、私も自己流を貫きたいと思ったんです。

時代や自分のライフステージの変化にあわせて、複数店舗を経営したり、移転したり、WEBショップに切り替えたりなどしているお店を見ると、正直「いいなあ」「すごいなあ」と羨ましく思うことがあります。そうなれない、そうならない自分が落ちこぼれているような気持ちになることもあります。

でも、そうしたいわけではなくて、自分のやりたいことをやってきての今だから。

複数店舗を展開しないのも、移転しないのも、この場所にこだわりがあるからこそ。やめないのも、この場所でのこれまでの出会い、これからの出会い、再会の可能性を手放したくないから。

結局は自分の好きなことしかしていないんです。好きなことだから、15年続いているんだと思います。
最後に、近い将来、お仕事で実現したいことを教えてください。
ここ数年は新展開を考えなくなりました。

久しぶりに来てくれた人が「変わらないなあ」と言ってくれる・・・そんなふうに、10年ぶりに「久しぶり」と思える、ほっとする場所が街にあってもよいのではないかなと、最近は思っています。だから、継続していくこと自体が目標なんです。

耐震工事などハード面はもちろん、ソフト面では「自分の喜びをちゃんと喜びとして感じられているか」「お店の一つひとつに幸せを感じられているか」「お客さんに楽しいもの、ことを提供できているか」を見つめ直して、もう一度、原点に戻って、今あるものを充実させたいと考えています。

変な話なんですけど、自分が死んでいなくなった後、1、2年後にここを通った人が「そういえば、こういう人いたよね」と思い出してもらえたら嬉しいなあ、と。

私にとって、この場所は「自分が生きている証」でもあるんです。
profile
壇上 まきさん
1975年生まれ。大阪キリスト教短期大学幼児教育学科卒業後、私立保育園に6年間勤務。2002年に「ほかの世界も経験してみたい」と退職した。在職中の2000年から手づくり雑貨作家としての活動をスタートし、フリーマーケットに出店するほか、雑貨店やギャラリーで委託販売する。2003年3月から谷町6丁目の長屋の改装を始め、7月に『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』をオープン。2005年には『ひなたの作り方』、2013年には『ひなたむし』という本を自身で発行した。
雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた
大阪市中央区谷町6-6-10 TEL:06-6763-3905
HP: http://www.geocities.jp/hinata_tanimachi/
FB: hinata.tani6
BLOG: http://hinata-hibi.jugem.jp/
(取材:2018年2月)
editor's note
「10年ぶりに『久しぶり』と思える、ほっとする場所が街にあってもよいのではないかなと、最近は思っています」という檀上さん。

私は10年前から『雑貨と喫茶とギャラリーと ひなた』を知っています。その当時からレイアウトもほとんど変わっていなくて、「ああ、変わっていない」とほっとしました。以前訪れた時は「ちょうどこのあたりでマスキングテープを見て、ときめいていたんだよなあ」と懐かしい気持ちに。

「このあたりも変わりましたね」「以前はこんなところもありましたね」と話しながら、思い出せることがあるのも嬉しかったです。

10年、15年という歳月の中で、時代も、人も、自分も、変わるものです。その都度、さまざまな選択を重ねて、今があります。

「変わる」のはもちろん、「変わらない」というのも、選択の一つ。「変わる」ことにも覚悟や勇気、努力などを伴いますが、「変わらない」こともまた同じ。

檀上さんは「変わらない」ことを選んで、そのための努力をされているのだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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