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■関西ウーマンインタビュー(お店オーナー)


清水 すがたさん(『マナビ舎カフェ 一心茶房』店主)

「無理をしない」は 「自分に正直に生きる」こと

清水 すがたさん
『マナビ舎カフェ 一心茶房』店主
JR難波駅のそばにある古い木造アパートをリノベーションした『マナビ舎カフェ 一心茶房』。大通りから細い路地に一歩入ったところにあり、そこだけ「現在」とは異なる時間が流れているような、どこか懐かしい佇まい。

玄関で靴を脱いであがると、座布団にちゃぶ台の席へ。慣れ親しんだ家に遊びに来たみたいにほっとします。「自分の時間を過ごしてほしい」、店主・清水すがたさんの想いがお店のすみずみまで表れているのです。

清水さんは14年ほど美容関係のお仕事をされていました。32歳の時に転身、お店を始めて11年になります。転身するきっかけは? どんな想いでお店をされているのでしょうか。
これからの人生は『無理をしない』
以前は美容学校で講師をされていたそうですが、どうして飲食店店主に転身されたのですか?
美容師、ヘアメイクアーティストを経て、美容学校の講師を10年ほど務めていました。

お店を始めたのは32歳の時。「民宿をしたい」という夢があって、その第一歩でした。この夢は、美容関係の仕事をしたからこそ、見つけられたものでもあります。

美容師時代には、仲間と仕事帰りに閉店時間までご飯を食べたりお酒を呑んだりしながら、それぞれの悩みや夢を語り合っていました。

このまま語り明かして、一緒に眠って、朝ごはんを食べて、みんなで「今日も頑張ろう!」と出かけられたらいいのになあ・・・そんな想いからの始まりでした。

講師時代には、生徒の多くは地方出身者でひとり暮らしの子が多い。「このパン1本が一週間分の食事」と話す子もいて、「野菜をいっぱい食べさせてあげたい」と。

卒業生にも、私の家で悩みを聞きながら、ごはんを振舞うことがありました。「先生も忙しいのに」と申し訳なく思ってくれている子もいたので、お店だったら気軽に来てもらえるようになるのかなあとも。

もともと食べることも、つくることも好き。泊ってくれたお客さんと一緒に山菜をとって「天ぷらにしますか?どう調理して食べたいですか?」などできたら楽しそうと、夢は膨らんでいったんです。
「民宿」の夢に向けて、飲食業界へ。未経験からお店をオープンされますが、不安はありませんでしたか?
ホテルや飲食店で働くことも一瞬考えたのですが、美容学校を辞めた時点で、これからの人生は「無理をしない」と決めていました。

これまで頑張ってきた自分へのご褒美みたいな感じで、「借金をしない」「赤字になったらやめる」と決めて、自分ができること、できる範囲からお店を始めたんです。
「これからの人生は『無理をしない』」とは?
「無理をしない」、つまりは「自分に正直に生きる」ということです。そう思った背景には、美容学校での日々があります。

マンモス校で毎年何百人もの生徒が入学してくるので、たくさんの出会いがありました。中には、頑張りすぎて心身を壊してしまう子も。

まわりの人たちを思うがゆえに無理していたのに、結果的にまわりの人たちを悲しませてしまう・・・ということも目の当たりにしてきたんです。

「自分はどうだろう」と見つめ直した時、美容学校の10年間は生徒たちの人生を抱えている責任感からすごく張りつめていたことに気づきました。

「こんなにもたくさんの人と出会え、深く関われる仕事は他にはない」とやりがいを感じて楽しくもあったのですが、濃密で一生懸命だったがゆえに10年という歳月があっという間に過ぎ去っていて、自分が「何を我慢してきたのか」「何を無理してきたのか」がわからない。まるで、自分を見失ってしまったような気持ちになったんです。

自分の人生をどうするかはすべて自分で選べるもの、選択肢は少なくとも最終的に選ぶのは自分です。

これからの人生は自分の気持ちを優先しよう。ゼロからスタートするのだから、またここから自分に嘘をつかず、自分がいいなあと思うことを、自分で選ぼうと心に決めたんです。
自分の想いをちゃんと聞くことで
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
お店を好きでいてくれるお客さんほど、お店を想って「こうしたらいいのでは?」とさまざまなことをおっしゃってくださいます。

たとえば、自分の時間を過ごしてもらえるように、おひとりさまでもテーブル席にはお一人で座っていただいています。どんなに混んでいてもそうしているので、「相席にしても、いいんじゃない?」と。

お客さんの言う通り、週末は待ってもらうことになり、わざわざここまで来てくださったのに「時間がない」と帰られる方もいます。

相席にすれば、そういったお客さんが入れるようになりますから、今でもすごく悩むことです。 お店を始めてから2年ほどは、そんな一言一言にグラグラっと揺れて、「自分の軸が何なのか」がわからなくなったことがありました。
どのように「壁」または「悩み」を乗り越え、どんなことを学ばれましたか?
ひとりで悶々と考えられないタイプなので、お客さんから意見やアドバイスをもらったら、他の人に相談していました。

「こんなことを言われたけど、どう思う?」とたずねると、新しい意見が出てきます。1つの意見に揺れるのではなくて、たくさんの意見を聞いて、その上で自分に「どんな店にいたいのか」「どんなお店にしていきたいのか」を問い、答えを見つけるようにしたんです。

先ほどの相席の話でいうと、私がお客さんだったら相席をお願いされた場合、「いいですよ」と答えるでしょう。でも、本当は「一人がよかった」と思うんです。そう予測できるから、相席はやめて、代わりに週末は2時間制にしています。

自分の想いをちゃんと聞いて、「私はこっちが好き」「これは嫌かも」と一つひとつ丁寧に選んでいけば、自然と私が好きなもの、いいなあと思うもので成り立ち、自分らしいお店になっていくのではないでしょうか。

そうした選択の積み重ねやそれを「よし」としてくださるお客さんがいてくれたことが、自信となり、揺るがない軸にしてくれたように思います。
変わらないけど、変わる
「変わらないけど、変わる」、清水さんがお店のブログで書き綴っているこの言葉が印象に残っています。どういう想いからですか?
「自分の軸」という変わらないものがありますが、その軸をもとに「ん?これでいいのかな」「こうしたらどうだろう」と思うことがあれば、変えていきます。

お店を始めて11年、営業日も営業時間もメニューも、お客さんに迷惑をかけているんだろうなあと思いながらも、ころころ変えてきているんです。

オープン当初は、平日も土日も休めるように、定休日を「0」と「5」がつく日としていました。お客さんからは「わかりにくい」という声があったんですが、土日が忙しくなってきたので、今は月曜日と不定休にしています。

時には、旅に出るために長期間休むことも。旅先でおいしいものを買ってきて、日々のメニューでお客さんに返す。そうするうち、「今度はどこへ?」「帰ってきたら、何を食べられるのかなあ」とお客さんにも楽しみにしてもらえています。
オープンから5年目には「近所にパン屋さんがあるといいなあ」と、『カフェとパン屋 Hito-iki』を開きました。

お店は順調で5年ほど続けていたのですが、「いつかは民宿を」と考えていたので身軽でありたいと、ちょうど難波にお店を出したいと考えていた友人に託すことに。

お店のスタッフは『マナビ舎カフェ 一心茶房』に関わってくれることになり、1階で『蒸しぱんとおやつ 一點』をスタートさせたんです。

バリエーション豊富な蒸しぱんは、赤ちゃんから大人、年配の方まで親しんでもらえるメニューになっています。

最近でいうと、昨年から朝7時30分にお店を開けて、朝ごはんを提供し始めました。

台湾に行ったら、朝に活気があって、みんな元気で朝ごはんがおいしい。年齢を重ねる中で、夜型より朝型にしたほうがいいだろうなあという思いもあり、朝営業・朝ごはんをいっぺんやってみることにしたんです。

飲食店をしている友人には「飲食業界は休みにくいもの」「経営面を考えると、『いっぺんやってみる!』なんてできない」と言われます。
「やってみたいことをやってみる」身軽さ、強さ。「自分に正直に」という想い、軸があるからですね。
仲間の存在も大きいです。一緒にお店をやっている仲間は、従業員ではなく、それぞれが自立している関係性。

『一心茶房』というお店で、それぞれが自分の作品やメニューをつくり、その売り上げがその人のものになるというふうにしているからです。

仲間にお店でやってみたいことを相談すると、対等な立場で、私とは異なる視点で意見を言ってくれます。だからこそ、素直な自分でいられる。

みんなが同じタイプだったら、もしオーナーと従業員という関係性だったら、「本当にいいの?」「これでいいのかな」と不安になって、逆にできていなかったかもしれません。

あと最近気づいたのは、長くつきあっている人たちが多いということ。今もなお、小学生時代の友人と週1ペースで会っています。

昔から知っている人たちが、私をずっと見てくれているからこそ、「これでいいんだなあ」と安心感につながっているように思います。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
お客さんから「料理教室をやってほしい」と言われていたのですが、私は「大さじ1」などきっちりしておらず、「ふぁんふぁん」とリズムでつくってしまうタイプ。

そんな私に教えられるのかと不安があって実現できずにいたのですが、みんなで一緒に料理をつくる機会をつくるといいのかなあと思っています。

「私のイチオシ」を1品ずつ教え合って、タッパに入れて持ち帰るというのはどうかなあと。年配のお客さんから「年々料理をするのが億劫になってきた」「これまで家族のためにつくってきたが、自分ひとり分をつくるのは大変」「ついつい多くつくりすぎて、腐らせてしまう」という声を聞きます。

その方々の刺激になればいいし、ひとりで食事していても「今頃、あの人もこのメニューを」と思いを馳せられるのも楽しいのではないでしょうか。

「いつかは民宿を」という想いはもちろんあります。でも、迷いもあって、毎日来てくださるお客さんがいるから、ここを離れて民宿を開くのはどうなのかなあとも。いろんなタイミングがあると思うので、その時が来ればと思っています。
清水 すがたさん
専門学校を卒業後、美容師となる。その後、ヘアメイクのアシスタントに声をかけられ、アシスタントをしながら、ヘアメイクアーティストとしても活動する。1996年より美容学校の講師となり、10年ほどの勤務を経て退職。2006年に『マナビ舎カフェ 一心茶房』を、2009年に『カフェとパン屋 Hito-iki(ひといき)』をオープン。2014年には『Hito-iki』を閉店し、『一心茶房』1階で『蒸しぱんとおやつ 一點』をスタートさせる。1階はお茶や蒸しぱん、焼き菓子、雑貨等を販売し、2階はカフェスペースにしている。
マナビ舎カフェ 一心茶房
大阪市浪速区元町1-2-22 明星荘1号室
TEL:080-6118-1138
BLOG: http://tyabou.exblog.jp/
(取材:2017年6月)
「自分らしさ」「自分の軸」とは何なのか。

清水さんは「『私はこっちが好き』『これは嫌かも』など自分の想いをちゃんと聞く」「その想いをもとに一つひとつ丁寧に選択していくことで、自然と自分らしさが出てくる」「『自分で選んだという積み重ね』と『それをよしとしてくれる人の存在』が自信になる」というプロセスを経て、「自分らしさ」「自分の軸」を確かなものにされました。

「変わらないけど、変わる」という清水さんの言葉。「自分らしさ」「自分の軸」は「これだ!」と固定されたものではなくて、経験や年齢などによって変わっていくもの、変わっていけるもの。でも、そこには必ず「自分」がいるから、変わらないものでもあります。だからこそ、「自分らしさはこうだから、こうじゃなきゃ」と捉われることなく、その時々の「自分らしさ」を表現できるのだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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