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■関西ウーマンインタビュー(お店オーナー)


谷口 朋美さん(『Yakigashiya Lucca』店主/パティシエ)

遠回りをしても、やり続ければカタチになる

谷口 朋美さん
『Yakigashiya Lucca』店主/パティシエ
キッシュやタルト、マフィン、クッキー、サブレなどフランス菓子をベースにした“おやつ”を販売する『Yakigashiya Lucca』。子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い世代の人たちに親しまれるお菓子づくりをされています。

子どもの頃からパティシエになるのが夢だったという谷口朋美さん。夢を叶え、憧れのお店で修行し、独立して、ついには自分のお店をオープン。

順風満帆かと思いきや、実は思い描いていた道ではなかったと話します。現在に至るまでに、どんな転機があり、どんな壁や悩みを乗り越えてきたのでしょうか?
子どもの頃からの夢を叶えて
パティシエになろうと思ったきっかけは?
アイスクリームと桃のコンポートを組み合わせたフランスの伝統的デザート『ピーチ・メルバ』。飴細工のカゴとともに盛り付けられたお皿を見た瞬間、「わあぁ」と感動した記憶が残っています。小学生の時、両親の結婚記念日で訪れたフランス料理店での思い出です。

私もこんなデザートをつくれるようになりたい。中学生になると、『パティシエ』という職業名を知り、「パティシエになろう」「フランスに行くんだ!」と決めました。
子どもの頃からの夢を叶えたんですね。
製菓の専門学校に入学し、フランスに留学を。レストランで実地研修もしました。

帰国後はホテルやレストラン、パティスリーを転々としながら修行を積み、ついには憧れのお店の系列店にオープニングスタッフとなるチャンスを掴みました。

このレストランでキャリアを重ねていこう・・・そう考えていた矢先、妊娠したんです。

飲食業界は産休・育休が取りにくく、夜の営業もありますから子育てとの両立は難しい印象がありました。
谷口さんはどんな選択をされたのですか?
憧れのお店で、立ち上げから関わっていて思い入れが強かったので、このまま働き続けたいと、支配人を説得したんです。

産休・育休を取得させてもらい、復帰後はランチ営業から午後5時までの勤務を続けました。

しかし、レストランとして昼も夜もフルタイムで働ける人材がほしいと契約更新をしてもらえなかったんです。

私も悩んでいました。独身時代のように働けなくなり、自分のペース配分や限られた中でやりたいことを続ける難しさ、このままでは中途半端ではないかと思いました。

「細々でも続けたらいいのでは?」とアドバイスをくれる方もいましたが、「0か100か」の性格・・・パティシエの仕事が好きだからこそ、自分が納得できないことはしたくない。諦めよう、そう心に決めたんです。
この時点でパティシエとして10年のキャリアがあります。独立は考えなかったのですか?
ホテルやレストランだからこそできることがあって、ケーキやチョコレート、ムース、アイスクリームなど多種多様なデザートをつくれたり、お皿に美しく盛りつけて提供できたり・・・

好きで、やりたいことをできていたから、その中でキャリアアップすることをずっと思い描いてきたんです。一度も独立を考えたことがなかったので、自分でお店を開こうとは思いませんでした。

ほかの好きなことを仕事にしようと、コーヒーショップに転職したんです。
「やっぱりあきらめられない」気持ち
いったん、離れたパティシエのお仕事。再開し、お店をオープンするまでに至ったいきさつは?
つくることがやっぱり好き。子供の喜ぶ顔が見たくて、家でお菓子を作っていましたが、少し物足りなさを感じるように。

自分がつくったものを食べてもらって、誰かが喜んでくれると嬉しい。そんな喜びを求めて、2012年に『ルッカ』を立ち上げて、イベントに出店するようになっていました。

そうするうち、夜にバルを営業するオーナーから「昼にお店をしませんか?」とシェアショップの話を持ちかけられたので、「やってみようかな」と。設備の都合上、焼き菓子に特化したお店を始めたんです。
好きだった「デザート」ではなくて「焼き菓子」のお店、当初は考えていなかった自分のお店をオープン。どのように自分の気持ちと折り合いをつけていったのですか?
ホテルやレストランで働きたい、多種多様なデザートをつくりたい、フランスに行きたい・・・正直「本当はこうしたいのに!」という気持ちをずっと抱えていました。

ホテルやレストランでのお仕事に声をかけてもらうこともあって、私を必要としてくれるのなら戻ることもいいのではないかと心が揺れたことも。

でも、復帰したところで以前と同じになってしまうかもしれない・・・何より、リピートしてくださるお客様がいたので、そんな方々を大事にしたいという気持ちがありました。

少しずつでも積み重ねてきたものがあるから、0にするのは悲しいと思ったんです。

思い描いていた方向性とは違ってきましたが、こちらの道に進んだからこそ、見出せたやりがいがあります。

現在の場所でお店をやろうと決めてから、「今の状況をもっと楽しもう」と迷いを捨てて飛び込みました。
『ルッカ』として見つけたやりがいとは?
レストランでは、お客様の特別な日に寄り添うデザートをつくってきましたが、今は日常に寄り添っている感じがします。

お菓子はハッピーな時間、空間にあるものです。自分のご褒美や疲れた時の癒しとしてはもちろん、家族のだんらんや友だちとのおしゃべりタイムに、私がつくったお菓子が人と人との橋渡しになっているのかなあと想像します。

お客様が相手のことを思い浮かべながら選んだお菓子が、渡した先で喜んでもらえていたら嬉しい。しあわせな気持ちになってもらえる優しいお菓子をつくりたいなあと思っています。
思い描いていた方向性とは違うけれど、新たな方向性を見出されたんですね。
1度離れてみたからこそ、「やっぱりこの仕事しかない」「パティシエがやりたいんだ!」と改めて感じることができたので、今の自分にできることを、できる範囲の中で頑張ろうと思えました。

自分の置かれた状況や環境はどんどん変化していくので、ずっと今のままではありません。いろいろ遠回りをしてもあきらめなければ、やり続ければカタチにしていけることを学びました。
想いを伝えるお菓子づくりを
お菓子をつくる上で大切にされていることは何ですか?
『きちんと』つくることです。お菓子はなんとなくでも形になります。そうではなくて、「このお菓子にはこの小麦粉を使う」「ここで乳化させる」「ここまで混ぜる」「この温度で焼く」など、小さな一つひとつをきちんと積み重ねることで、そのすべてが意味を持ち、想いがこもる、伝わるお菓子になると信じています。

仕事柄、いろんなお店のお菓子を食べて勉強するのですが、「すごくこだわってつくっているんだなあ」というお菓子はわかるんです。

『きちんと』作られたものを食べたお客様には、作り手がこだわる些細な事まではわからなくても、「なんかおいしい」「なんか違う」という事は伝わると思います。
谷口さんならではのお菓子での表現とは?
さまざまなデザートをつくってきた経験を活かして、組み合わせによって、自分の個性を出すことができたらいいなあと考えています。

たとえば、やわらかい生地のお菓子には何か食感のあるものを組み合わせたり、フルーツとスパイスやハーブを合わせてみたり。

私のりんごのタルトは、千切りにした皮付きのりんごをふんわりと乗せて焼き込みます。すると、全体に空気を取り入れることができ、ふわっと軽い食感が出ますし、リンゴの上部だけがよく焼けてかりっとした食感も。

切り方を変えるだけで、味わいも食感も見た目も変わるので、さまざまな表現ができるんです。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで幅広く親しんでいただけるように、身近なものである“おやつ”的な焼き菓子を大切にしながら、まだあまり馴染みのないフランスの伝統菓子もつくっていこうと考えています。

イートインスペースをつくりたいし、子ども向けのお菓子教室もやりたい。やってみたいことはいっぱいあるのですが、まずは続けること。知人から「繁盛店より継続店だよ」とアドバイスをもらって、「そうだな」と。

移転オープンしてまだ半年ほどなので、今後も『きちんと』したものをつくって、継続していけるお店にしたいですね。
谷口 朋美さん
辻製菓専門学校卒業後、フランス・リヨンの辻調グループのフランス校に留学し、現地のレストランで実地研修(スタージュ)も行なう。帰国後はホテルやレストラン、パティスリーなど有名店で修行を積み、デザートづくりの第一線で活躍してきた。2012年に『Lucca』を立ち上げ、自宅からスタート。2013年に豊中・蛍池のシェアショップに店舗をオープンし、2016年に独立して現在の場所に移転した。
Yakigashiya Lucca
豊中市本町1-2-46 営業時間:10:00~18:00/定休日:日曜・月曜
FB: yakigashiyalucca
(取材:2017年3月)
「自分の置かれた状況や環境はどんどん変化していくので、ずっと今のままではありません。いろいろ遠回りをしてもあきらめなければ、やり続ければカタチにしていける」という谷口さんの言葉がとても印象に残っています。

今、見える日常、その延長線上がすべてと錯覚してしまいますが、自分も、周囲も、社会も、刻々と変わっています。時には劇的に変化することがあって、“今、自分がいる場所”を突然、見失ってしまうことも。

谷口さんの場合は、「大切にしたい」ものを一度手放してみたことで、「やっぱり大切にしたい」と再認識し、自分の中にすでにあった“芯”を太く強くされました。だからこそ、あきらめず、やり続けることができ、カタチは変わりましたが、“芯”は変わらない新たな可能性につながっています。

自分の“芯”というものがあれば、乗り越え、新たな一歩につながる軸になるので、それを見つけて育てていくことができたらいいなあと、谷口さんのお話を思い出しながら考えました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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