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■「私のお店」オーナーインタビュー


花田 睦子さん(『えほん館』店主)

花田 睦子さん(『えほん館』店主)
高校を卒業後、証券会社を経て不動産会社へ転職。1987年に会社勤めをしながら、『えほん館』を無店舗で立ち上げる。1991年に京都市伏見区で実店舗をオープン、1999年には京都市西京区に移転。店舗営業のほかに、絵本の素晴らしさや大切さを伝えるための講演会や展示販売会を開催。2012年9月からは嵯峨芸術大学において非常勤講師を務めている。

えほん館
京都市西京区上桂北ノ口町183  TEL:075-383-4811
営業時間:10:00~18:00/定休日:月・火・木・土
HP:http://www.ehonkan-kyoto.com/ FB:https://www.facebook.com/ehonkan1987
お仕事内容を教えてください。
絵本・児童書の専門店『えほん館』を営んでいます。店舗での絵本販売のほかに、外部での展示販売や講演活動、京都嵯峨芸術大学では非常勤講師として「絵本論」の授業を担当しています。
このお仕事に就くきっかけは?
21歳の時に『ペツェッティーノ じぶんをみつけたぶぶんひんのはなし』(レオ・レオニ作・好学社)という1冊の絵本と出会ったことがきっかけで、人生がコロッと変わってしまいました。

当時私は社会人3年目。このまま働いて、いずれは結婚して、妊娠・出産して、子育てをして、死ぬという人生しか思い浮かばず、他に何かないだろうかと探していたんです。そんな時、会社帰りに立ち寄った本屋さんで、たまたま手にしたのが『ペツェッティーノ』でした。

主人公のペツェッティーノは小さな四角の物体で、自分は何かの部品だと思い、本体を探す旅に出ます。「僕はあなたの部分品ですか?」と聞いてまわるも「違う」と言われ、賢い物体に教えてもらった「こなごなじま」へ行きます。島を登ったり下りたりするうち、転がり落ちてバラバラに。その時はじめて「自分もいろんな部分品からできている完成品だったんだ」と気づくんです。

私はまさにペツェッティーノと同じでした。高卒で、才能や特技がない自分には何もできない。才能や特技のある人を探して、その人をサポートすることでよい人生を送れるかもしれないと思っていたんです。でも、私は私でいい!このままの私でも何かできることがあるかもしれない、と勇気を持てました。何百ページにも及ぶ哲学書と同じくらいの内容が詰まっている絵本ってすごいなあと、絵本に関わる仕事をしたいと思うようになったんです。
その想いを実現するために、何から行動したんですか?
当時、通っていた話し方教室のスピーチで「死ぬまでにいつか、絵本のお店ができたらいいなと思っています」と話すと、知り合いの受講者から「この本を買ってきてほしい」と頼まれたので、本屋で買って渡したところ、「これであんたは本屋や!」「本を渡して、お金をもらった。今後は販売代金よりも安価で仕入れる工夫をすればいいだけや」と言われて、びっくりしました。「死ぬまでにいつか」と思っていたことが急に現実味を帯びたんです。

そこで、お店を開く夢を実現しようと、以前お世話になった会社の社長に「お店をやりたいので、1億円を貸してください」とお願いに行きました。20歳そこそこの元従業員にそんなことを言われても「はっ?何を言っているんだ」「1億円って!」と思うでしょう。それなのに、真剣に話を聞いてくださった上で「事業として成り立つかどうかが見えてこない。まずは事業計画が必要だ」と教えてくださいました。

今度は話し方教室の主催者が会計事務所で、一緒に事業計画を考えてくださることになったんです。いきなりお店は難しいから無店舗でスタートして、実績ができてから銀行に融資を頼みに行こうと段階を追った計画を立てることができました。
その後、無店舗で『えほん館』をスタートされたんですね。
店舗を持つタイミングは何だったのですか?
会社勤めをしながら、24歳の時に無店舗で『えほん館』をスタート。当時勤めていた会社の社長は私の想いや行動をわかってくださっていたので、「そんなに好きで一所懸命やりたいのなら、事業の一つとしてやっていいよ」とまで言ってくださり、不動産会社だったのに絵本部門をつくってくれたんです。

無店舗ながらも、日常的に絵本に携われるようになり、毎月絵本を届けるブッククラブや、百貨店等での展示即売を中心に活動していました。その後結婚して、会社を退職。相手がフリーで仕事をしていたので、事務所兼店舗という形で、念願のお店を持つことができたんです。
どんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
離婚後、生活が苦しくなり、お店も明日までに必要な金額を用意しなければ閉店、というところまで追い込まれたんです。アルバイトをしたり、いろんなところからお金を工面したりしましたが、どうしても足りない。でもこれまで一緒にやってきてくれた絵本のためにも、最後の最後まで諦められません。すぐにどうにかなるわけではないですが、ショッピングセンターに「絵本の販売会をさせてください」と営業にまわりました。

今の自分にやれることをやってお店に戻り、一人でぽつんと座って「ついに終わってしまうのかなあ」と思った時、電話がかかってきたんです。ある幼稚園からの絵本の注文で、その金額が明日の支払いに必要な金額と同じ!お金を返すめどがついたので、知人から借りて、無事に危機を乗り越えられました。
ごはんを食べられないくらい生活も大変な時期だったそうですが、
「お店を辞める」という選択肢はなかったのですか?
絵本は一生の仕事と思っているので、「どうすれば続けられるか」しか考えていませんでした。以前、大切な友人を病で亡くし、私が今生きている時間は、その友人の生き残した時間かもしれない。ならば、悔い無く生き抜きたいと考えていたのかもしれません。

私自身も子宮頸がんを宣告されたことがあります。その時はお店もしばらく休業しましたが、お客さんとして絵本店に通い、たくさん絵本を読んで、「私ってこんなにも物語が好きだったんだ」と再確認したんです。

思えばそれまでは、「利益を上げる」「成功する」ことに必死でした。もしお店を再開できたら、まずは自分が楽しめるようなお店づくりをしよう、自分が『えほん館』の一番客であることを忘れないようにしよう。他人から見て「成功している」「羨ましい」ではなく、自分が幸せだと思える人生を送ろうと思ったんです。
花田さんにとって絵本の魅力とは何ですか?
物語の力です。How to本は「こうしなさい」「こうしたら、こうなれる」「ここを頑張りなさい」と書いていますが、物語にはそれが一切なく、ストーリーとして展開しているだけです。

読み手は、主人公や脇役に同化したり、全体を俯瞰したり、自由に自分を置いて楽しめます。物語を楽しんで「おしまい」となって現実に戻ってきた時に、価値観の物差しがちょっと変わっていることがあるんです。

自分の生き方、他人やものを見る目、言葉づかいまでが変わることがあって、その力に気づいた時に魅了されました。

閉店危機の時も、お金がないからどこにも行けなくて、本ばかり読んでいました。現実がつらくて、考えるのも嫌だったのが、本を読んでいる間は何も考えずに済むから。今だからこそ思うのは、自分では物語の世界に逃げていたつもりでしたが、実は救われていたんです。

登場人物たちの生き方や言葉によって、傷ついたココロを修復してもらったり、「頑張ろう!」「失敗してもいいやん」「こんなんでもいいやん」と前向きに考える勇気をもらったり。物語の世界へ逃げていなければ、負のスパイラルに陥っていたかもしれません。物語の世界で出会った登場人物たちはもう他人とは思えないくらい!
『ペツェッティーノ』のほかに、今の生き方に大きな影響を受けた児童書があるそうですね。
閉店危機を乗り越えた後に読んだ児童書『王への手紙』(トンケ・ドラフト作・岩波書店)です。主人公の見習い騎士ティウリが、隣国の王様に秘密の手紙を届けるという物語ですが、途中にさまざまな苦難が待ち受けています。ティウリがやったのは、今目の前にあることに100%の力を注ぐこと。その繰り返しで苦難を乗り越え、無事に大きな役目を果たせたんです。

私は夢や目標を実現することばかり考えていたのですが、目の前にある仕事に100%向き合うことも大事だと思いました。後回しにしていた雑用や、目の前のやるべきことを順番にやっていくと、何ヶ月先のやるべきことまですべて終えられる。すると不思議なことに、「絵本の話をしてもらえますか?」「本を売りに来てもらえますか?」「こんなことをやっていますか?」といった問合せが入るようになりました。

講演の仕事も一期一会。目の前にいる人たちとは二度と会えないかもしれない。なので、次に呼ばれても話すことが無くなるくらい、自分の持っているものをすべて出しきりました。二度と無いかもしれないという想いで全力を尽すせば、二度も三度もある。でも次に繋げようと話題や力を残してしまうとダメなんです。私はそれを自分で「目の前教」と呼んでいるんですけど(笑)
近い将来、実現したいことを教えてください。
もともとは「絵本は子どもだけのものじゃない。大人にも読んでほしい」という気持ちからスタートしましたが、絵本を深めれば深めるほど「子どもと絵本」の大切さを感じるようになりました。おならの絵本でも、ダジャレの絵本でも、親の愛が自然に伝わり、何歳になっても愛されて育った記憶が残り続けます。

それを強く実感したのは、大学で非常勤講師をしてから。誰かに絵本を読んでもらって、どう感じたかを書いてもらう課題を出しました。すると、「子どもの頃、毎晩、母に絵本を読んでもらったこと。その懐かしい感覚を思い出した」「自分が親に愛されていたことを思い出しました」「自分も親を愛していることを思い出しました」という感想が多かったんです。

絵本は親の愛を伝え、「愛されている」という実感を育み、豊かな心を育てるためのツールだと思います。なぜ心が豊かでないといけないのか。私が出した答えは、自分が幸せに生きていくために必要だから。心が豊かでいられたら、ちょっとしたことで傷ついたり、落ち込んだりしない。何度人に裏切られても、自分から愛そうと思えたり、ものごとをもっと多様に捉えられることができる。そんな絵本の力をもっと伝えていきたいと思っています。
ありがとうございました。
(取材:2016年5月) 
花田さんは、これまでにやったことがない仕事依頼がきても「はい、喜んで」とお受けしてきたそうです。現在、大学で非常勤講師をされていますが、依頼がなければ、大学の先生になろうともなれるとも思わなかった、と。

自分で目標や今後の可能性を考えると、「自分で想像できる範囲」という狭い枠組み内での広がりしかありません。他人が任せてくれることによって、その枠組みを超えて、自分では思いもしなかった可能性が拓けることがあっておもしろいとお話されていたことが印象に残っています。

「やったことがないからできない」「自分の能力では無理」と思うことも、他人が自分に「できるだろう」と任せてくれていることだから、その流れに委ねてチャレンジしてみる!勇気と覚悟がいることですが、できてもできなくても、自分を知る一つのきっかけになりますね。
取材:小森利絵
ライター/HP:『えんを描く』
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。


 

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