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■関西ウーマンインタビュー(クリエイター)


甲斐 直佳さん(洋服デザイナー・作家/osampo)

好きでいるために。私が「着てみたい」服をつくる

甲斐 直佳さん
洋服デザイナー・作家/osampo
2つの大きな折々リボンが目を引くカーディガン、フリフリが大人かわいいブラウス、左右で柄も長さも異なるアシンメトリーなスカート、イラストレーターさんの絵が印象的に挿入されたサロペットスカートなど。

見ているだけでもウキウキしちゃう「osampo」の甲斐直佳さんがつくる洋服。「こんなのがあったらいいなあ」と思い浮かんだ洋服を形にされているそうです。

子どもの頃からお母さまと一緒に手づくりを楽しんでいたという甲斐さんにとって、縫ったり編んだりしてものをつくることは仕事であり、日常の一部。テレビを観ながら自然と手が動いてしまうほど習慣化されている行為ですが、一度だけ嫌いになって、ミシンから離れてしまった時期があるそうです。

「好きなことを仕事にするって大変で、本当はすごく苦しいことなのかなって思います」と話す甲斐さん。その言葉の奥にある経験、想いとは?
「好き」という気持ちを大事に育てながら
手づくり作家として20年以上のキャリアがあるとのこと。作家活動を始めるきっかけは何ですか?
私が着る洋服や遊ぶおもちゃを手づくりしてくれていた母の影響もあって、子どもの頃から縫ったり編んだりしてものをつくることが好きでした。

高校卒業後はデザイナーになりたいと、かばんメーカーに就職。同時に、小さなぬいぐるみやポーチ、帽子、マフラーなど自分でつくった小物を古着と一緒にフリーマーケットで販売するようになったのが、作家活動の第一歩でしょうか。もう30年近く前の話になります。

そのうち、手づくり市に出店するようになり、作家活動一本でとの想いが膨らみましたが、それだけで生計を立てていくのは難しい。服屋さんやカフェ、パン屋さん、工場スタッフ、派遣社員などさまざまな仕事を転々としながら、週末は作家として活動する日々を送っていました。

「osampo」というブランド名を付けたのは1997年のことです。人脈が広がって百貨店催事に出店したり、雑貨屋さんで店長を任せてもらったり、そのお店に自分の作品を置かせてもらったりするなど作家としての仕事が増えてきたので、そろそろブランド名を掲げようと考えたからでした。

以降も「生計を立てるための仕事」と「osampoとしての仕事」に分けてバランスを取っていたところ、少しずつ作家活動の比率が増えていったんです。

その間に再婚もしたので子どものいる人生を考えることもありましたが、40歳を迎えた時、osampo一本で仕事してみようとアトリエ&ショップをオープンしました。
最初は布小物や編み物がメインだったんですね。洋服づくりはいつからですか?
洋服の販売を始めたのはこの10年ほどのことですが、小学生の頃には既存の服をリメイクして当時流行っていた大きな襟がついているフリフリのブラウスを自作するなど、自分が着る洋服をつくって楽しんでいました。

百貨店催事に自分でつくった洋服で接客していたところ、お客さんから「その洋服は売っていないの?」と声をかけてもらうように。最初は興味を持ってくれた人に個別に対応していたのですが、グループ展や個展、催事に洋服を出すようになりました。

手づくり市から百貨店催事のほうに出店する機会が増えていた時期ですから、試着スペースを確保することができ、タイミングもよかったんだと思います。

お客さんからの需要もあったので、だんだんと布小物より洋服をつくることのほうが多くなり、現在は洋服づくりに追われているという感じです。
「こんな服が着たい」というイメージを形に
甲斐さんがつくられる洋服は見ているだけでもウキウキします。柄の組み合わせや形など、甲斐さんらしい自由さを感じますが、デザインを発想する源は?
両親の影響が大きいように思います。

母は、私がクレヨンでお絵描きした私サイズの布に、不要な布を詰め込んで縫い合わせた等身大のぬいぐるみをつくってくれたり、ピアノの発表会の時には家にあったまくらカバーでドレスをつくってくれたりしたことも。

まくらカバーには見えない出来栄えで、友だちから「かわいい」と褒めてもらえたことが自慢でした。

父は、歩くのが好きな人だったから電車や飛行機、船などを見によく連れて行ってくれましたし、自分たちでゴールを決めた自作のスゴロクなど手づくりのゲームをつくってくれました。

そんな日々の中で既製品に捉われず、「こんなのがあったらいいなあ」と妄想し、それを自分でつくってみる楽しさを感じたんだと思います。

中にはリメイクした洋服を着ていたら、「何、アレ?」「変な洋服を着ている」と笑われたこともあります。心が折れそうになりましたが、誰かに何かを言われたからといって、自分の好みは変えられない。

昔も今も、自分がつくりたいもの、着たい服をつくっているんです。そこはずっとぶれていないのかなあと思います。
甲斐さんが「着たい服」とは?
ふとした瞬間に「こんな服を着たいなあ」というイメージが浮かんでくるんです。

たとえば、生地屋さんで生地を見て「この柄のワンピースを着てみたいなあ」、おさんぽをしながら風景を眺めて「このイメージで服をつくってみたいなあ」、旅も好きだから「あのまちに行くなら、こんな服」など。

服屋さんで洋服を見るのも買うのも好きだから「持っているあのTシャツと似合うスカートがあれば」、絵を観て「あの絵が裾にあったら」「襟にちょこっとあったらいいなあ」と思ってイラストレーターさんとコラボすることもあります。

まるで着せ替え人形みたいに頭の中で自分に着せて、「着たい!」とつくり始める感じ。私が着たい洋服だから、形や寸法は私サイズなんです。

おなかのぽっこり具合が気にならないようにブラウスは裾広がりの形にしたり、足が細く見えるようなスカート丈にしたり。スカートはタイトではなくてふわっとしたものが好きだし、シャツは上までかちっとボタンで止められるタイプが好き。

私の体型の悩みや好み、その時にはまっていることなどが、一つひとつに表れています。「私が着たい服」なんですけど、それがお客さんにも楽しんでもらえるものになっていたら嬉しい。
思い浮かんだイメージをどのように洋服にしているのですか?
デザイン画も描かないですし、パターンも引かないんです。

「重ね着みたいなスカート」「折々リボンのワンピース」「ぷっくり袖のプルオーバー」といった定番の形はありますが、「同じ形」「決まった形」ではなく、「つくり方が似ている」というだけ。

布を変えるだけで雰囲気が変わるので、その布に合わせて自由に長さを変えたり切り方を斜めにしたりするなど、その時の自分が「着たい」と思う洋服を、実際に手を動かしながら形にしていきます。

「このトンネルを越えたら何があるかわからないけど、行ってみる!」という冒険心みたいなものでしょうか。

そういえば、小学生の頃、家から生駒山が遠くに見ていて、今思えば「絶対に無理」ってわかるのですが、「ここをずっと行けば、山にたどり着くのではないか」と自転車で向かってみたことがありました。

当然ながら、行けども行けども山にはたどり着かず、迷った挙句、数時間かかって帰宅して、母にびっくりされたことを思い出します。

洋服づくりもそんな感じで、行き当たりばったりなんです。イメージ通りに出来上がることと、出来上がらないことが半々くらいの割合なんですが、つくらずにはいられない。
たとえば、今日着ている洋服はどんなイメージを形にされたのですか?
これは「折々リボンのシャツワンピース」と「折々リボンのヘアバンド」です。

リボンが好きで、高校時代に手芸店でアルバイトしていた時にはリボンをたくさん買い集めて、髪の毛に結んで楽しんでいました。今、リボンを身に付けたいと思っても、年齢的にちょっと恥ずかしい。

そう思っていたところ、洋服をパタパタ折ってミシンでザアァーと縫っていたら、布がだんだんと折々になっていったんです。その形がまるでリボンに見えて、「これ、かわいい」って。それがこのリボンで、「折々リボン」と名付けてモチーフの一つにしています。

今日は着ていないんですけど、大きな水玉と大きなストライプの「重ね着みたいなスカート」は生地との出会いがはじまり。大きな水玉は珍しいので、「めっちゃかわいい」となって、上着だったら着ないけど、スカートだったら履くなあと思い、スカートにしました。

「この生地、かわいい」となっても、一つの生地でまとめることはありません。誰かがデザインした生地だけで仕上げてしまうと、その生地があれば私じゃなくてもつくれると思うからです。私にしかできない布の組み合わせ方や入れ方にこだわっています。
「好き」が「嫌い」にならないために
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
縫ったり編んだりしてものをつくることは、私にとって仕事であり、日常の一部でもあるのですが、一度だけ嫌いになってしまい、ミシンから離れていた時期があります。18年ほど前の出来事です。

原因は「生活のために」と裾直しやオーダーメイドの洋服づくりといった自分の作品づくりとは関係のない仕事を何でも引き受けてしまったからでした。

当時の結婚相手がやきもち焼きで私が外で働くのを許さない上、仕事をしなかったので、生活のためには私が働かなければならないという状況でした。外で働けないとなると、自宅で自分ができる仕事を何でも引き受けるしかありません。

自分が心から「好き」「かわいい」「こんなものを持ちたい」「こんな洋服を着たい」と思えないものをつくることは辛くて仕方ありませんでした。わがままだと思うんですが、自分の気持ちは偽れない。こんな気持ちで洋服をつくるのは洋服にも申し訳なく思いました。

お客さんは喜んでくれたのですが、もっと違う方法で喜んでもらえることをしたいと心から思ったんです。
好きなことが嫌いになってしまう、その「壁」をどう乗り越えられたのですか?
その相手とは離婚でき、その後はミシンから離れて、「生計を立てるための仕事」としてのアルバイトに専念しました。

でも、自然とつくりたくなっちゃって、数カ月もしないうちに、テレビを観ながら編み物をするようになっていました。

まもなく、osampoとしてもう一度仕事をしてみようって。これまで裾直しやオーダーの洋服づくりなどをご依頼くださっていたお客さんに事情を説明して、自分の作品づくりを再開しました。

好きだったことが嫌いになったこの経験が、今も根本にあるんだと思います。

「こんなのをつくったら、売れると思うよ」などたくさんのアドバイスをいただくんですが、売れるからつくるんじゃない。私が着たい服をつくって、それを着たいと思ってくれる人と出会えたらいいなあと思っています。

「もし生きていくことに苦しくなったら、ほかの仕事をすればいい」「好きじゃなくなったら、やめてもいい」というふうに、「この仕事だけで生計を立てていこう」「何が何でもこの仕事で」と思い過ぎないようにしています。

好きなことを仕事にするって大変で、本当はすごく苦しいことなのかなって思います。楽しいことだけじゃないし、嫌なことを言われることもありますし、目には見えない苦労もたくさんあります。

そんな中でも、自分軸を持って強くいられるというのは、やっぱり「好き」だから。「好き」な気持ちを持ち続けられるように、自分にとって何が一番大事なのか、そこを見失わずにいきたいですね。
profile
甲斐 直佳さん
初芝高等学校デザイン科卒業後、かばんメーカーに就職。同時に布小物や編み物といった手づくり雑貨を製作し、フリーマーケットに出店するなど作家活動をスタート。次第に「百万遍さんの手づくり市」などの手づくり市に出店するようになる。1997年に「osampo(おさんぽ)」というブランド名を掲げる。百貨店催事に出店するようになり、2000年には初個展を開催。2008年頃から自身がデザイン・製作した洋服販売を始めた。2013年に大阪・空堀エリアにアトリエをオープン。自作品とともに、仲間のクリエイター作品を展示販売するショップも兼ねる。現在は洋服のデザイン・製作を手掛けるとともに、アトリエ&ショップの運営、百貨店催事出店、個展開催、グループ展参加などに取り組んでいる。
osampo
HP: https://osampo.jimdo.com/
FB: osampo.sampo
instagram: osamponao
(取材:2018年8月)
editor's note
甲斐さんのスカートをはいていると、「osampoさんのですか?」と声をかけられることがあります。

甲斐さんの洋服は、ご自身の「こんな洋服を着てみたい」という自由なイメージから生まれるものであり、形や布の組み合わせや入れ方など「自分だからこそ、つくれるもの」を意識してつくっておられるから、甲斐さんならではのものがちゃんと表れているのだと思いました。

その根本にある、揺るぎない「好き」という気持ち。「自分の好きなこと」を仕事にしてしまうと、純粋に「好き」でいられなくなることもあります。時にはニーズに合わせて「好き」の形を変化させないといけないこともあるでしょうし、周囲の声に揺れることもあるでしょう。

その時にどう向き合うのか、どう自分が納得できる選択ができるのかがポイントなのかと思います。

甲斐さんは覚悟を持って自分が「好き」という気持ちを貫けるよう、何を一番大事にしたいのかを考え、仕事のやり方や暮らし方を選択されていることが伝わってきました。「好き」が「嫌い」になってしまう経験をされた甲斐さんだからこそのメッセージです。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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