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■関西ウーマンインタビュー(クリエイター)


入江 優子さん(にんぎょう作家)

その人の人生と結びつく、奥深いにんぎょうをつくりたい

入江 優子さん
(にんぎょう作家)
一目見ると、なんか気になってしまう。どこかで出会ったことがあるような、落ち込んでいたら「実は私も以前・・・」と話しかけてくれそうな。そんな独特な雰囲気のあるにんぎょうをつくる入江優子さん。

つくる過程において「何よりも対話が大切」と言います。にんぎょうと対話するとは? 「対話が大切」という理由は何なのでしょうか。
絵や布からイメージを広げて
どうして、にんぎょう作家になろうと思ったのですか?
はじまりは「絵や布で作品をつくって発表したい。生涯に渡ってできる仕事になれば」という衝動からでした。

当時、テキスタイルデザイナーとして働いていましたが、具体的に何をしようかは決めぬまま、28歳の時に退職して模索し始めたんです。

手芸関係のワークショップに参加したり、独学で洋服やぬいぐるみをつくったり。

「一人でつくって発信できるもの」にこだわっていたところ、描いた絵を立体に起こすのはどうか、子どもの頃につくったように布を組み合わせて綿を詰めればできるのではないかとひらめきます。

絵を描いて発想を膨らませてから、布を組み合わせてにんぎょうをつくる。カタチは単純なものでも、顔をつくると、おもしろくなりました。

「こう描いたら、こう仕上がる」「イメージに近づけるためには、絵をこんなふうに描くといい」と、絵とにんぎょう、にんぎょうと絵を行ったり来たりしながら、自分の表現方法を探っていったんです。

その後、手づくり市やアート系イベントでの出展を経て、個展や企画展、委託販売、ワークショップと、作家としての仕事を広げていき、現在に至ります。
どんな絵を描いて、にんぎょうにしていたのですか?
動物を擬人化した絵を描いていました。インスピレーションの源は実家にいた愛犬です。

とても表情が豊かで、家族が留守にすると、ハンバーグを食べてしまうなど盗み食いをよくする(笑)。私たちが見ていないところで二足歩行しているのではないかと疑ってしまうほど、人間のような振る舞いをするんです。

「動物を擬人化したらおもしいのでは?」から始まって、そのうち「友だちのあの子を動物に例えたら」と人間を動物化するようにもなりました。そのまなざしは今でも変わっていないと思います。

インスピレーションは、絵からもあれば、素材から始まることもあります。たとえば、このキツネは、ケバケバした黄金色の生地を見つけた時、「キツネだな」とひらめきました。

服は黄色に染めた生地と緑色のシルク生地にしてはどうだろうかと、色や形、質感の組み合わせからイメージをどんどん広げていったんです。
自身の作品を「にんぎょう」「ひとたち」と呼んでいらっしゃるのもユニークですね。
人形は「人の形」と書きますが、私は「動物を人間に」「人間を動物に」するので、「人の形」ばかりではありません。

でも、ぬいぐるみとも違う。そこで、漢字で書いてしまうと、イメージが固まってしまうので、ひらがなで「にんぎょう」として、つくったにんぎょうのことを「ひとたち」と呼ぶようにしました。
にんぎょうを通してコミュニケーションを
作家として活動を始めて17年。これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
壁と聞かれて思い浮かぶのは、言葉の壁です。

雑貨店から声をかけていただいてパリの展覧会に出展した時のこと。現地で通訳してくださる方はいたのですが、つくった経緯やこだわりについて自分で伝えたいと。大まかなことはジェスチャーを交えながら伝えられたのですが、相手と向き合えていないもどかしさを感じました。

そうもどかしく感じたのは、「日本で作品展を開催した時のように海外のお客様とも交流できたら」という思いがあったからこそ。その時、「ああ、私はにんぎょうを通して、人とコミュニケーションしたいと思っているんだ」と気づいたんです。

子どもの頃から内向的な性格で、人とコミュニケーションするのが苦手でした。だから、創作や表現に向かっていたんだと思うのですが、にんぎょうを通して、人とコミュニケーションできていたんです。
にんぎょうを通して、コミュニケーションとは?
私にとってにんぎょうは、お客様との間に入ってくれる存在です。

自分から作品の説明をするほうではないのですが、「どんな気持ちでつくったんですか?」とたずねられたり、「昔、飼っていた犬に雰囲気が似ているんです」「あの人の面影が見えます」と興味を持った方が声をかけてくれたりすることで、やりとりが生まれて会話をします。

すると、お客様の人となりが見えてきますし、自分自身を伝えることもあって、仲良くなれることも。

私はこんなふうに思ったけれど、その人にとってはそんなふうに見えるという発見もあり、コミュニケーションのおもしろさを、にんぎょうから教わった気がしています。
入江さんと、にんぎょうと、お客様とが会話しているようですね。にんぎょうにはそれぞれ、設定やストーリーがあるのですか?
想像と創造が赴くままにつくっているので、設定はありません。ただ、つくりながら、にんぎょうと対話するので、そこから見えてくることがあります。

お客様にも「もしかしたら、こんなひとかなと思いながらつくりました」「つくっているうちに、目がきつくなってきたけれど、好みだったのでそのままつくっていたら、よくなってきました」と感想のような、つくりながら心にうずまいていたことを話します。

このサックス奏者のキリンだったら、毛糸の服を洗濯してしまって縮んでしまい、おなかが見えてしまっているんです・・・というくらいの内容。詳しい設定や深いストーリーがあるわけではないんです。
人生を背負った相棒として
にんぎょうとの対話は、どんなふうにしているのですか?
ある程度のところまではバアァっとつくっていくのですが、顔や仕上げに取りかかる時は、にんぎょうとしっかり向き合います。

魂を宿すといいますか、人格をつくりたいからです。 「このひとはどんなひとなのかな?」「このひとは何をみているんだろう?」「どうしてほしいと言っているかな?」とじっくり見て感じながらつくります。

それが私にとって、にんぎょうとの対話。もちろん、返事はしてくれませんが、「今、楽しそうに見える」「こんなことに興味がありそう」「こんな服を着てそう」「内緒話をしてくれそう」と浮かび上がってくるものを掴み取っていくんです。
自分でつくっているものだから、ある程度イメージはありますが、実はわかっていないことのほうが多い。

下書きなしのフリーハンドで進めていくので、手が勝手に動いて、最初にイメージしていたものから変わってきます。

イメージ通りにつくりたいとは思っていなくて、意外性を楽しんだり、出来上がったものを見つめて、「このひとはこんな感じだから、もうちょっとこうしたい」となれば、加えたり減らしたり、時にはもう1度やり直すことも。「このひとはこうだ」と思えるまで、それを繰り返しているんです。
この対話こそが、にんぎょうに魂を宿すのですね。
私とにんぎょうの間で対話がちゃんとできていると、お客様とにんぎょうの間でも対話を深められるのではないかと思っています。

それだけ、奥深いにんぎょうであれば、その人の中に眠るものが引き出され、人生と結びついて関係性が深まると思うから、長くつき合ってもらえる存在になるだろうと。

「過去に何かあったんだろうなあ」と思わせるような、憂いのある表情や雰囲気になればいいなあと思っています。

私自身が子どもの頃から、人生経験のある大人が見せる憂いのある表情に興味があるからでしょう。頑張って生きているけど、うまくいかないことがあったり、好きな人はいるけど、その人とはあまりうまくいかなかったり。

そんなさまざまなものを抱えている表情に惹かれるんです。 根底には、中学3年生の時に父を亡くした経験があるのかもしれません。

人はいつか死ぬこと、どうしょうもなくかなしい気持ち・・・人生には楽しいことや嬉しいことがあっても、かなしさやさみしさもつきまとうものと知ったから。

さまざまな感情や歴史、人生を背負っているような、奥に何かを秘めたものを感じさせるにんぎょうをつくりたいんです。
入江 優子さん
大阪芸術大学工芸学科卒業後、カーテンやテーブルクロスなどインテリア関連商品を扱う会社で、テキスタイルデザイナーとして5年間勤務。退職後、2000年からにんぎょう作家『IRIIRI』としての活動をスタート。手づくり市やアート系イベントでの出展を経て、雑貨店等での委託販売、個展開催、グループ展参加、ワークショップ実施、メーカーとのコラボなど仕事の幅を広げ、全国的に活躍する。
IRIIRI
http://iriiri.petit.cc
(取材:2017年5月)
「にんぎょうは、お客様との間に入ってくれる存在」「にんぎょうを通して、人とコミュニケーション」というお話が印象に残っています。

もともとは「好きなことを生涯の仕事にできたら」という想いからのはじまり。にんぎょうづくりにたどり着いたのも、「最初から決めていたこと」ではなくて、絵や布という好きなことにつながることで、愛犬からインスピレーションを受けたからがきっかけでした。

それが今では「人とつながるためにつくっているのかな」と思うことがあるくらい、自分を表現する一つの方法であり、コミュニケーションの相棒にもなっています。

好きなことを仕事にする=ライクワークから、人生をも豊かにする=ライフワークに。

仕事だから大変なことはありつつ、自分自身もつくりながらワクワクして、“生きる”ということにも丁寧に向き合ってこられたからこそだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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