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■関西ウーマンインタビュー(アーティスト)
川村 旭芳さん(筑前琵琶奏者)
川村 旭芳さん(筑前琵琶奏者)
八歳より母の勧めで、筑前琵琶日本旭会 総師範 二代柴田旭堂に師事。独奏の弾き語りを活動の中心に据えつつ、他分野との共演にも力を注ぐ。また新しい琵琶曲の創作にも取り組み、母 川村素子の作詞による作品も発表。箏・尺八・胡弓などの四人の演奏家で結成された、和楽器ユニット「おとぎ」代表。門人会「筑前琵琶 川村旭芳会」を主宰。NHK-FM「邦楽のひととき」出演。 HP:http://www.kyokuho-biwagaku.jp/ |
琵琶に出会われたのはいつですか? |
小学校三年の頃、柴田旭堂氏(琵琶奏者・上原まりさんのお母様)のファンだった母に薦められて、2歳上の姉と一緒に習い始めました。琵琶に興味があったというより、お稽古に行くといつも頂くお菓子が楽しみだったり、姉弟子さんたちに可愛がっていただいたことを覚えています。 子どもの頃は、さるかに合戦やかぐや姫といった子供向けの演目を教わっていましたが、平家物語など大人向けの演目になると、ほとんど意味も分からないままの「おうむ返し」。小学生の頃は演奏会に友達にも来てもらっていましたが、中学高校になると、琵琶歌の発声や節回しが恥ずかしくて、友達にはほとんど隠していました。 ピアノや水泳など、他のお稽古ごとや部活動もしていたので、何度も辞めたいと思いましたが、母に言うといつも丸め込まれてしまって(笑)受験にかこつけて休んだり、大人になってからは演奏会前に慌てて稽古するという具合で、辞めない程度になんとなく続けていました。琵琶のおもしろさが分かるようになったのは、20歳を過ぎてからだったと思います。 |
プロになろうと思ったきっかけは? |
この道に進む気は全くなくて、短大卒業後はOLをしていました。時折、師匠の代理出演や、個人的な依頼で演奏する機会もありましたが、プロになろうとは思っていませんでした。平成10年に、師匠のご息女である上原まりさんから推薦していただき、ある大きな舞台に出演することになったんです。その頃の私は、プライベートで辛い出来事が重なり、なんとその大舞台に、ほとんど「心ここにあらず」の状態で臨んでしまいました。 周りはプロの方ばかり。どんな言い訳も許されません。観客はもとより主催者や他の出演者も、当然のようにプロとして接して下さるのに、自分自身にはその自覚も責任感も無い。舞台に立って初めて我に返ったというか、目からウロコが落ちたというか、自分の不甲斐無さに対する歯がゆさと悔しさでいっぱいでした。 以前からことあるごとに、琵琶を逃げ道にしたり言い訳にしたり、そのくせ、さほど本気で取り組んでいない。そんな自分が嫌いだったのですが、まさにそれを痛感させられた経験でした。と同時に、琵琶が心の拠り所になっていることにも気付き、やはり自分にはこれしか無いと思い、琵琶奏者として生きるべく、本気で向き合ってみることにしました。 琵琶を生業にしようと決めてから、演奏活動の傍らアルバイトで生計を立てていましたが、平成17年に大河ドラマ「義経」が放映された頃から、琵琶奏者はテンテコマイ (笑)。特に京都や神戸は平家物語の舞台ですから、義経ブームが去った後も、お陰さまでご縁が広がり、個人の活動に加え、ユニット活動やコラボレーションの機会も多くなり、完全に琵琶一本になりました。 |
これまで、どんな悩みや壁がありましたか? |
活動が順調になってきてからも長らく、琵琶奏者として生きることへの迷いが吹っ切れなかったことです。それを乗り越えられた一番のきっかけは、偶然と思えないような不思議な因縁を感じる出来ごとでした。 明治33年に遭難した韓国船を福井県小浜市の村人が救護したというお話があるのですが、これを琵琶曲にして語り継いでほしいという依頼を受けたんです。後に、その救護を指揮した村長が、偶然にも私の父方の遠縁にあたることが分かりました。それを知り、この話を琵琶曲として語り継ぐ使命のようなものを感じました。 ずっとどこかに迷いを抱えながら歩んできましたが、人は皆、なんらかの使命を持ってこの世に生をうけている。自分は琵琶奏者として生きることが運命なんだ思いました。琵琶はすでに自分の人格の一部。好き嫌い、続ける辞める、などという次元のものではない。それに気付いたことで迷いは完全に吹っ切れていました。 |
琵琶の魅力とは? |
筑前琵琶は、音域もせいぜい2オクターブくらいで、様々なメロディを奏でるのに向いている楽器ではありません。その分、一音の響きに相当の説得力があって、情景や心情の描写に適していると思います。 琵琶の曲は、節を付けて歌うようにストーリーを語るので、かなり削ぎ落とした文章で書かれていて、言葉で表現されていない部分は口調で補い、琵琶に語らせなければいけません。 例えば、お馴染みの『耳なし芳一』の冒頭は、「赤間が関の夏の宵 蒸し暑き夜(よ)を寝もやらず 留守居の芳一ただ一人」たったこれだけで、その次はもう亡霊が芳一を呼ぶセリフになります。この一行で聴衆を惹き込むためには、音を出す前から雰囲気を作る必要があるんです。 語りと琵琶が一つになって物語の世界を描き出す、それが難しさであり、おもしろさであると思います。また、男性と女性では、同じ琵琶でも趣の異なる響きになりますし、節回しは口伝で、流派によっては自由度もあり、かなり個性が出るところも魅力の一つですね。 |
これからの夢は? |
ライフワークにしたいと思っているのは、琵琶の弾き語りと朗読や演劇を組み合わせて、効果音やテーマ曲などの合奏を取り入れた、「音楽劇」の創作上演です。独奏の弾き語りで数十分の演目を聴くのは辛いという人にも、音楽劇の形式なら、集中を切らさずに楽しんでもらえますし、琵琶語りの言葉も分かりやすさを心がけて作っています。 数百年を経ても上演され続けるような名作、とまではいかずとも、ロングラン公演は夢ですね。また、全国各地に保存されている芝居小屋での巡業公演も夢の一つです。 |
琵琶を通して伝えていきたいこととは? |
琵琶には、日本語の美しさや奥深さに気付かされる名曲がたくさんあります。言葉は時代と共に変遷していきますから、語り芸である琵琶曲の言葉も変わって良いと思いますが、日本語の美しさを大切にしながら、「まごころ」を込めて作品を語り伝えていきたいと思います。 |
ありがとうございました。 |
(取材:2015年9月 関西ウーマン編集部) |
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