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■関西ウーマンインタビュー(アーティスト)
六嶋 由美子さん(古典語り部)
六嶋 由美子さん(古典語り部)
島根県大田市生まれ。20年前から活動をはじめ、「ひとりものがたり」と名付けて、十二単姿で古典を物語る。関西を中心に全国の神社、仏閣、ホールなどで公演する。語りの経験を生かし、社会人講師として京都府内の小学校で古典の授業をするほか、宇治市文化センターの小・中・高校生による「源氏物語」朗読劇講座の講師を務め、青少年の古典啓発にも関わっている。宇治市文化センター理事・宇治市生涯学習審議会委員。宇治市在住。 ひとりものがたり http://homepage3.nifty.com/rokushima |
もともと友禅の絵師でいらしたんですね |
島根県の生まれですが、京都の友禅を学びたくて京都に来ました。子どもの頃から絵が好きで、絵を描いてお金をいただける仕事ができたらいいなと思っていました。きれいな着物は憧れでしたから、その絵を描く仕事をやりたいと思い、大学卒業後、宇治の工房で手描き友禅の絵師として働きました。23歳で結婚しましたが、大学卒業した22歳からずっと宇治に住んでいます。 |
最初は人形劇のサークルから始まったそうですね。 |
息子が幼稚園入園と同時に、お母さんたちの人形劇サークルに入ったんです。好きな絵を活かせると思って入ったのですが、人形劇をすることで演じる楽しさに目覚めました。息子が卒園すると辞めるはずでしたが、演じる楽しさが無くなってしまうのは寂しいし、これは絶対続けたいと思ったんです。 一緒に卒園したお母さんたちとサークルを作って、町内で人形劇を続けていました。最初は4~5人でやっていましたが、私自身、何をさしおいても人形劇をやろう!というタイプだったので、だんだん皆との一生懸命の度合いが合わなくなってきたんです。結局、まあいいかとなって、一人で人形劇を続けていました。 |
その後「語り部」として活動を始められたのですね |
人形劇は人形も重いし荷物も多くなります。その頃、腰痛がひどくなったことから、人形無しで自分の身体一つ、口を動かすだけなら腰もラクだろうと思い、語り部を始めました。最初は今昔物語集だったんです。今昔物語集は仏さまの有難いお話を広げるための説話集ですが、短編で登場人物も少ないので分かりやすいんです。 田辺聖子さんの「田辺聖子の今昔物語」が一人称の語りで書いてあるのですが、それがすごくおもしろくて全部覚えました。話していると気持ちよくて情景がそのまま浮かぶんです。私があなた(お客様)に物語るのだから、読むんじゃなくてお話する感じでないと伝わらない。それには全部覚えて自分の中で消化しないとだめだと思ったんです。 |
源氏物語をするきっかけは? |
宇治川の中洲、塔の島では、毎年秋に「宇治田楽まつり」があるんです。田楽は平安時代に栄えた芸能ですから、お祭りの中に、平安時代にタイムスリップするようなしかけを作りたいということで、私を呼んでくださったんです。 平安時代の宇治といえば、源氏物語。その中の宇治十帖のヒロイン「浮舟」の話をしました。それが源氏物語の語り活動を始めるきっかけになりました。 2008年、源氏物語が世に出て千年を記念した「源氏物語千年紀」がありまして、東北や四国や九州など、全国あちこちに行かせていただくようになりました。源氏物語そのものというより、まずこういう世界に興味を持っていただきたいので、装束やカツラなどの衣装から、小物などいろんなものを持っていきます。最初、荷物を持たず身一つでと思っていたのですが、今ではすごい荷物です(笑)イベントは一人での語りはもちろん、琵琶、琴、笛などの楽器奏者の方たちと共演することもあります。 |
朗読じゃなく「語り部」にこだわっておられるのは? |
表現することの楽しさでしょうか。それはお客様の反応があってのことですから、やっぱりお客様との一体感ですね。今この瞬間、このお客様たちとこの場所でできるというのは、同じ話でも二度と無い。この時間と空間を一緒に作りましょうというスタイルが好きなんです。 以前は私自身がお姫様になって語っていましたが、今は姫のことを語る乳母として語っています。乳母という第三者だけど、姫の一番身近にいる私は何でも知っている。その私があなたに姫の話を物語ることで、源氏物語の中のお姫様がそこにいるようなライブ感を感じていただきたいと思っています。 源氏物語はすごく奥が深いので、全く知らない人もいれば、すごく深めている人もいます。源氏物語そのものを勉強したい方は、大学の先生の講座を聞きにいかれると思います。 源氏物語を知らない人も、お姫様の生き方や暮らしを通して、この世界に興味を持って楽しんでいただきたいし、知っている人も「こういう捉え方もあるんだ」と聞いてもらえるような語りを目指しています。 |
源氏物語のおもしろさとは |
いろんなお姫様が登場しますが、皆すごく個性豊か。それが紫式部の筆の力です。当時平安時代は、「女性とはこういうものだ」というものが頑としてあった時代。その中でも紫式部は、「私はこう思う」ということを登場人物に言わせているんです。 女性が自分の感情をあらわにすることは「はしたない」こと。光源氏はスーパーセレブの貴族ですから、女性がたくさんいるのは分かっているけれど、嫉妬を表に出すことは恥ずかしいことでした。それを押さえて押さえて、すごく苦しい想いをしている。 それを表に出せない辛さから、あらぬ方向に行ってしまうお姫様もいますが、そういうお姫様のモヤモヤや悶々とした気持ちを、紫式部はちゃんと描いているんです。そんなお話はそれまで無かったでしょうから、それが宮廷の女性たちの共感を呼び、ものすごく広がって今も長く読まれていると思います。 |
今後はどのような活動を考えておられますか? |
次世代を育てることですね。今、源氏物語の朗読劇を子ども達に指導していて、今年で4年目になります。 子ども達がお姫様や貴公子の衣装を着て、セリフを読みながら朗読劇をするのですが、その台本も作っています。 「源氏物語」は古典のひとつですから、古典そのものに興味を持ってもらいたい。また、そういう子ども達を育てたいと考えています。 |
「古典に興味を持つこと」とは? |
「古典の魅力は何ですか」や「源氏物語の良さは何ですか」と随分聞かれますが、分からないのです。 本当に良いものというのは、「何故だか分からないけど良い」と、そういうものだと思うんです。便利な家電のように、こういう機能があると説明できるものじゃないので、何の得にもならないんですよ。 源氏物語を知っていたって実生活に役立つものでは無い。でも心は確実に豊かになります。またそういうものを知っている私が好きなんです。 同じ月を眺めるにしても、あそこにロケットが飛んだんだなと思う人もいれば、うさぎがいると思う人もいます。でも、千年も昔の人も同じ月を見たんだなと思うとすごくロマンじゃないですか。 |
ありがとうございました。
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(取材:2015年5月 関西ウーマン編集部) |
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