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■関西ウーマンインタビュー(起業家編)


藤井 薫さん(株式会社オフィスダンケ 代表取締役)

手のひらにのる「ドイツ」を届けたい

藤井 薫さん
株式会社オフィスダンケ 代表取締役
愛らしいサンタクロースや天使、いかめしい表情のくるみ割り人形、口からぷかぷか煙を吐く煙出し人形など「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」を取り扱うネットショップ「ショップダンケ」。運営しているのは、株式会社オフィスダンケの代表取締役・藤井薫さんです。

藤井さんはドイツで10年ほど暮らした後、ビジネスの基本は「売り買い」という発想から「ショップダンケ」を開設。最初は「ドイツの雑貨であれば何でも」と文房具やアクセサリーなどさまざまな商品を取り扱っておられたそうですが、「ドイツ・クリスマスマーケット大阪」に出店するにあたり、条件であった「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」に絞って現在に至ったと振り返ります。

ネットショップ開設も、「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」に絞ったのも、綿密な計画があって実行したものではなくて、何かきっかけがあって「やってみよう」という気持ちからのはじまりです。

どのようにして「私は『もの』ではなく、手のひらにのる『ドイツ』を提供している」というほどの強い想いに変わっていったのでしょうか。
ドイツで暮らした経験を活かして
以前はドイツに10年ほど暮らしていらっしゃったそうですね。何がきっかけだったのですか?
大学4年生の夏休みに参加した研修旅行で、添乗員さんの働きぶりを見て憧れて、旅行会社に就職しました。ドイツには最初、ツアーの添乗員として行くようになったんです。

ツアーでは基本、観光ガイドさんが観光案内してくれるのですが、ドイツのロマンチック街道など一部エリアでは添乗員の私が案内することも。先輩から教わったり本で調べたりして得た知識から話していたものの、他人の受け売りを話しているだけで、もっと自分の実感を持って語れるようになりたいとの想いが募っていきました。

20代後半に差しかかり、まわりが結婚していく中、私も「結婚したい」という気持ちが高まっていましたから、当時付き合っていた彼はハイデルベルグで日本人観光客向けの免税店を運営する日本人・・・彼と結婚すればドイツで暮せると実行に移したんです(笑)。

ドイツでは10年ほど暮らし、ドイツ語を学ぶために大学に入学したり、ハイデルベルグ市公認の観光ガイドとして業務に従事したり。

自分自身や家族が体調を崩したことを機に、夫も私も日本人ですから今後のことを考えて、1994年に帰国しました。
帰国後は専門学校で講師を務めておられたそうですが、「オフィスダンケ」を立ち上げたきっかけは?
新聞広告でたまたま見つけた観光系の専門学校で10年ほど講師を務めていたのですが、時代の流れもあって、学生が集まりにくくなり、2006年に講師全員が解雇されてしまったんです。

当時46歳でしたから年齢的に新たに職を探すのは難しい。もう「自分は自分で雇うしかない」と。

そう決断できたのは、専門学校に勤める傍ら、個人事業主として「オフィスダンケ」を立ち上げ、ドイツ語を教えたり翻訳したり、ドイツ旅行案内サイトをつくって情報発信したり、ネットショップを運営したりしていたからです。

2006年にはサッカーのワールドカップがドイツで開催され、日本各地でドイツ関係のイベントが多数ありましたから、イベント出店に声をかけられることも多く、「ショップダンケ」をメイン事業として本業にしました。
歴史と伝統、物語を感じる木工芸品に魅了され
ドイツ雑貨の中でも、藤井さんが取り扱っている商品は「ドイツのクリスマス雑貨」のイメージが強いです。そこに特化された理由は?
そもそもネットショップを開設したのは「ビジネスといえば、売り買いが基本」という単純な発想からで、最初は「ドイツ製」であれば何でもいいと文房具やアクセサリーなどさまざまな商品を仕入れていました。

ターニングポイントになったのは、2007年以来出店している「ドイツ・クリスマスマーケット大阪」です。

本場ドイツのクリスマスマーケットを再現しているイベントで、出店するには「ドイツ・エルツ地方の木工芸品に絞ってほしい」という条件がありましたから、この時に「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」「クリスマス雑貨」をメインに取り扱うようになったんです。
最初のきっかけは「ドイツ・クリスマスマーケット大阪」とのことですが、以降10年以上に渡って、「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」メインで展開されています。藤井さんご自身としては、どこに魅力を感じたのですか?
知れば知るほどに、バックグラウンドが深いと興味が湧いたんです。

エルツ地方はチェコとの国境すぐ近く、ドイツ東部のザクセン州の山岳地帯にあります。ドイツ語で「エルツ=鉱山」という意味がある通り、15世紀半ばから鉱業で栄えていたと言われていますが、海外から安い鉱石が輸入され始めると、衰退の一途をたどり、人々の生活は困窮しました。

そんな中、身近な森林資源を利用した木工芸品づくりに活路を見出します。

20世紀になると、第2次世界大戦で敗戦国となったドイツは東西に分裂。西ドイツは資本主義国として豊かな国となるのですが、エルツが位置する東ドイツは貧しく、大きな経済格差ができてしまいました。

厳しい社会状況下にありながらも、エルツ地方の人々は、ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統一されるまでの40年間、おもちゃづくりの伝統を守り続けてきたんです。

そういった歴史や伝統を背負うエルツ地方の人々の手によって生み出される木工芸品には、郷土の誇りが表れていると感じます。
一見すると、愛らしい木工芸品。藤井さんはどんなところに歴史や伝統が表れていると感じるのですか?
「シュビップボーゲン」というアーチ型のキャンドルスタンドは、坑道の入口のアーチに由来しています。「天使」と「鉱夫」の人形がペアになっていることが多く、光が頼りだった鉱夫は天使が見守ってくれるという信心深さがあったことを物語っているんです。

「ザイフェンの教会と聖歌隊」というペアも多く、ザイフェン村にある教会の特徴が再現されています。聖歌隊は貧しい神学生たちで、家々をまわり、クリスマスソングを歌ってお駄賃をもらったという伝統に由来しています。

日本ではバレエで有名な「くるみ割り人形」は権力者への風刺を込めてつくられたものです。税金の取り立てに嫌気がさした民衆が、王様や官僚の口に自分たちが普段食べている固い殻付きのくるみを押し込んで、痛い思いをさせてやろうとしたもので、いかめしい表情をしているのはそのため。

そういうふうに1点1点に歴史や伝統、そこから広がる物語があるので、私は「もの」ではなく、手のひらにのる「ドイツ」を提供していると思っています。
価値をわかってくれる人に届けるために
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
現代はネットショップも、百貨店のような大規模店舗も入り乱れて、ネットでもリアルな店舗でもものを売るのが難しい時代と言われています。

特に、ネットショップを運営していると、値下げ競争の波に巻き込まれます。

クリスマスマーケットで出店していても、店先で写真を撮影している人を見かけるのですが、記念写真ではなく、安く購入できるショップを探すために商品を撮影している場合も。型番商品であると、お客さんは1円でも安いほうに流れてしまうんです。

そんな中、私は決して安くない価格を付けています。

「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」は「おもちゃ職人養成専門学校」で認定された職人さんの手仕事で生まれるものです。商品として売れて流通することを念頭に置いていますから、大勢の職人による分業で出来上がっていますが、機械でつくる大量生産品とは一線を画し、「民芸品」としての品格があります。

安売り競争に加担すると、彼らの価値を下げてしまいますし、自分の首を絞めてしまうことにもなり兼ねません。利益は上げていきたいですが、小さくてもまっとうにやっていきたいと思っているんです。
ネットショップを開設されて15年。「安売り競争に加担しない」という想いを貫けたのはなぜですか?
「もっと安く手に入るところはないか」と探し回る人は、「私のお客さんじゃなくてもいい」と考えるようにしました。

逆に言うと、「誰にでも買ってほしい」というならば、100円均一ショップみたいに、誰にでも愛される商品を、誰にでも買ってもらえる価格で売るべきだと思うんです。私が取り扱っている商品はそうじゃない。むしろ、商品のほうが人を選ぶんじゃないかなあとも。

クリスマスマーケット出店中に、子どもさんがお小遣いを握りしめて買いに来てくれることがあります。ミニチュアの世界が内側に広がるマッチ箱を選んでくれたんですが、人によっては「何、これ?ただのマッチ箱やん」で終わる人もいるでしょう。

でも、その子はマッチ箱が持っている世界観に共鳴してくれたんだと思うんです。

お客さん一人ひとりが、ドイツや職人の手仕事、おもちゃが持つ世界観、物語などに、その人なりの価値を見出してくれる・・・そういう人のもとに手渡せることが、私も何より嬉しい。

そのものが持つ世界観を感じてもらえたらと、ネットショップでは工房や制作の様子、木工芸品の由来などについて取材してコラムに書いています。工房と直接やりとりしたり、ドイツ語を翻訳できたり、ドイツで暮らした経験があったりする私だからこそ、伝えられることがあると思うんです。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
クリスマスツリーがないからオーナメントは飾らない、飾れないという声をお客さんから聞きますが、「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」はオーナメントでも立たせて飾れるタイプも多いですし、フォトフレームに入れたり、ボードにピンで留めたりなど、インテリア雑貨としてさまざまな楽しみ方ができます。

クリスマスはもちろん、日常でも楽しんでもらえたらいいなあと、飾り方の提案を発信していきたいと思っています。

気づけば、もう50代後半。自分がその年齢である自覚はないのですが、体力は衰え、昔のように無理はできなくなりました。事業を大きくするより、これまで通り「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」に特化して、自分のペースでできる範囲で、地道にやっていきたいと思っています。
profile
藤井 薫さん
神戸女学院大学文学部総合文化学科卒業後、株式会社海外交流サービスを経て、株式会社旅行綜研に入社。添乗員としてヨーロッパとアジア方面のツアーを担当する。1984年に退職し、ドイツへ。ドイツ滞在中は、ハイデルベルク大学に入学するほか、市公認の観光ガイドとしてガイド業務に従事。1994年に約10年のドイツ生活を引き上げ、帰国。以降は大阪外語専門学校で「国際ホテル・トラベル科」の講師を務めながら、個人事業主として1998年「オフィスダンケ」を立ち上げた。2001年にはドイツ旅行情報サイト「カッチイのドイツ旅行案内」、2003年にはドイツ雑貨のネットショップ「ショップダンケ」を開設。2006年に専門学校を退職し、「オフィスダンケ」を本業とし、2009年に法人化して「株式会社オフィスダンケ」を設立。現在は、ネットショップと「ドイツ・クリスマスマーケット大阪」を中心としたイベント出店を両軸に「ショップダンケ」を展開している。
ショップダンケ
HP: http://www.office-danke.com/shop/
FB: ShoppuDanke
Instagram: shop.danke
(取材:2018年8月)
editor's note
藤井さんは最初からドイツの職人がつくる木工芸品をメインに取り扱っておられたのではなく、ビジネスの基本は「売り買い」という発想から「ドイツ雑貨」のネットショップを始め、「ドイツ・クリスマスマーケット大阪」との出会いから「ドイツの職人がつくる木工芸品」というテーマをお持ちになられました。

何かきっかけを受けて「やってみよう」という気持ちからのはじまりですが、ご自身のドイツ暮らしの経験や思い出、現地で聞いた話などが重なり、木工芸品という「もの」ではなく、ドイツの歴史や伝統、人々の暮らし、想いなどが宿った「ドイツそのもの」を提供しているという感覚になられたのだと思います。

「ドイツ・エルツ地方の木工芸品」は、「ショップダンケ」以外でも取り扱いがあります。でも、「ショップダンケ」では藤井さんだからこその価値が付加され、「もの」は同じでも、藤井さんと接する中で、またはコラムを通して、受け取れるもの、広げられる物語はきっと違います。

「自分らしい価値をどこに見出すのか」「その価値を『自分らしい方法』でどう伝えるのか」、その部分を持つことの強さを、藤井さんのお話をうかがいながら感じました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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