HOME ■関西ウーマンインタビュー(起業家) 林 康恵さん(有限会社セクレタリアット) 前のページへ戻る
■関西ウーマンインタビュー(起業家)
林 康恵さん(有限会社セクレタリアット)
林 康恵さん 有限会社セクレタリアット 同志社大学文学部卒。京都工芸繊維大学教授秘書及び学術団体(学会)事務局員を経て1999年独立。2001年に京都リサーチパーク内に学会コンベンションサポート会社セクレタリアットを設立。2004年有限会社化。学術会議・国際会議のコーディネートおよび運営、事務局業務の請負、入力、翻訳、ホームページや印刷物の制作などを行っている。 有限会社セクレタリアット 京都市下京区中堂寺粟田町93番地 京都リサーチパーク 6号館3階 HP:http://www.secretari.jp |
お仕事の内容を教えて下さい。 |
学会や研究会といった、分野的に研究内容が近しい人が集まってグループを作っている学術団体が、日本には大小合わせて何万とあると言われています。弊社は主にそうした学会の事務局業務を請け負う仕事をしています。会費を集めたり会員管理をしたり、資料の編纂など事務作業や、シンポジウムや学会イベントの運営といったコーディネーター業務も請け負います。 会員数が万を越える大きな学会となると、ほぼ自分ところで事務局持っておられますが、1000人から3000人くらいの中規模の学会が、もう研究室の先生だけでは面倒見きれない、ということで委託されるケースが多いです。たまに100人規模の小さな学会もありますが、会員管理だけならネットのツールで簡単にできても、実際に動くコーディネーターが不足しているところが多いんです。 |
もともと大学教授のお手伝いからこの仕事を始められたそうですね。 |
大学4回生のとき、就職活動をしなかったんです。就職に興味が無かったわけではないのですが、文学部の美術及び芸術学だったので、就職があるとしても学校の先生か学芸員。それもなかなか狭き門でした。ちょうど就職氷河期に入った頃で、なんだかちょっと冷めてしまっていて、まあいいかと結構プラプラしていました。 当時マクドナルドでアルバイトしていたんですが、親には「あんたどうするつもりや」と怒られ、近所の大学の事務とかも受けに行っても、全然チャラけているのでどこも決まらない。もう家事手伝いとフリーターを決め込んでいたんです。 すると、マクドナルドで一緒に働いていた京都工芸繊維大学の大学院生が、「僕の先生が秘書を探してるけど、就職決まってないんやったら行く?」と言われて、大学って面白そうだし家からも近いし、「行く、行く」ってその先生とこにアルバイトに行ったのが最初です。 最初は何するのかも分からないし、秘書と聞いていたのでお茶汲みとか電話番かと思っていたら、情報系の学会の事務局という仕事だったんです。それまで飲食店のアルバイトしか経験がなく、中学高校と女子校、大学も女子が7割だったので、男性しかいない大学の研究室というものは、まず「文化」が分からず、かなりカルチャーショックでした。 「会員が350人くらいいるんだけど、まず年会費を集めてね」とか、「こんな本出しているから、原稿集めてね」とか、言われるままにやっていました。情報系の教室だったので学生さんにパソコンを教わりながら仕事したり、「東京へ行ってイベントの打ち合わせをして来て」と言われ、会員に入っている大企業の担当者に会いに行かされたり。その先生が定年退官されるまで7年間、そこでアルバイトしていました。 |
独立されたきっかけは? |
先生が定年退官されるにあたり、学会の仕事をどうするかという問題は、当時大学の組織改革も入っていたこともあって、なかなか決まりませんでした。大学が「国立大学法人」という法人格を持つことになり独立採算制になる。つまりお金を大学に納入した上で学会の面倒を見るか、もしくは大学から出すかということになったんです。 当時会員も1000人を超えていたので、なかなか引き受け手が見つからず、1部分を京大に持って入らせてもらったり、知人の会社の一室を借りたりして数箇所に分散しながら、2年ほどスタッフ3人で事務局を続けていました。 たまたまシンポジウムの会議でこの京都リサーチパークに来たのですが、最初見たときはもう衝撃。「こんな場所で仕事をするのが夢やなあ」とスタッフを話していたんです。するとここの開発に携わった人から、「新しい建物が建つから、学会に家賃出してもらって入れば?」と教えてくれたんです。なるほど!と思って、学会に「私やりますから、部屋を借りてください」と言ったのがきっかけです。 |
京都リサーチパークに入られてから世界が変わりましたね。 |
それまでお給料という形で貰っていましたが、学会の先生からは、ここを借りてもらう条件として、「業務委託という形で仕事を出すから、その中で自分たちでやりくりしなさい。その代わり同じような仕事を他から受けても良いよ」と言われ、最初、年間500万くらいで引き受けたんです。 何も考えず「はい」って引き受けたものの、よく考えたら500万では、「私ら3人ご飯食べていけないんちゃう?」という話ですが、なんせ主婦とパラサイトの3人なので、給料10万でもあまり真剣に考えていなかったんでしょうね。最初は全然仕事が無くて、ヒマな時は外でバトミントンして遊んでいました(笑)リサーチパークに入居している他の会社の社長さんから、「あんたら会社ナメてたらアカンで」と言われることもありました(笑) 京都リサーチパークには交流会や勉強会もあるのですが、名刺交換のやりかたも分からないし、請求書や見積もりの書き方も分からない。女性社長も何人かおられましたし、いろんな方の話を聞いていくうちに刺激を受け、このリサーチパークで働いている人たちが皆すごくかっこよく見えたんです。ああ、やっぱりこれではあかんなと勉強しはじめました。 |
御社の強みは? |
京都は国際会議が多いので、「学会屋」と呼ばれる会社はたくさんあります。翻訳会社や印刷関係が携わっていることもありますし、学会の参加費と旅行費用をパックにされる大手の旅行会社さんの系列もあります。大手さんとうちが一緒に入り、当日の受付や資料の印刷など、細かいところを分担して請け負うこともあります。 弊社は女性スタッフばかりなので、女性ならではのきめ細やかな気持ちを大事にすること。そこが勝負のしどころだと思っています。機械化の時代ですから、エントリーをするだけであればネットで済みますが、それだけではカバーし切れないこともあり、どうしても人の手や気持ちが必要になるところがあります。どんなことにお困りですか?といった、かゆい所に手が届くコミュニケーション。私たちは学会の「おかん」的な存在でありたいと思っています。 |
これからの展望は? |
独立してもうすぐ15年。だたひたすら仕事中心に走ってきましたが、やはり人を雇うようになると、会社として求められることが多くなってきています。私自身も41歳で出産し、現在2歳の娘を保育園に預けて働いていますが、スタッフも結婚・出産ラッシュに入り、ようやくライフワークバランスについても考えるようになりました。 女性ばかりの会社ですので、子供を育てながら働くスタッフ、家族を支えながら働くスタッフ、その女性スタッフ達を支えるスタッフ、いろいろな立場で働く女性がいます。いろいろなスタンスのメンバーみんなが気持ちよく働ける体制づくりをしていきたいと思っています。 |
今「京おんな塾」のコーディネートをされています。 ⇒「京おんな塾」京都市の地域プラットフォーム事業の一環として公益財団法人京都高度技術研究所が主催する、起業を目指す女性を支援する女性起業家セミナー |
「京おんな塾」今年(2015年)で19期目を開催しますが、2006年から私がコーディネーターとして携わってから8期になります。定員20人ですが、毎回満席になるほど好評を得ています。 「京おんな塾」の初日に、いつもお伝えすることなのですが、とにかく“継続は力なり”。やっぱり継続することによって、人も自分も会社も育っていくと思います。 最初「やりたい!」という想いばかりが強すぎて、店舗などの形になるともう完全燃焼してしまい、数年で結果が出ないともう、気力が持たないか、お金が持たないか、人が持たないかで終わってしまうケースが多いんです。 3年・5年・7年・10年、いろんなことが起きますから、辞めようと思うポイントは何回もやって来る。でも、理由はどんなことにせよ、そこで辞めたらそこで全部止まってしまいます。 ひとつづつ乗越えていくことで、「お金が足りなければ借りればいいんだ」とか、「自分が成長できない時は、人に成長させてもらおう」とか、自分なりのクリアの仕方を覚えることができる。すると、年月が経って同じケースの山が来たら、「自分はクリアできる術(すべ)を持っている」という自信がつくと思います。まずは10年。10年やるとなんとかなるもんです(笑)。 |
ありがとうございました。 |
(取材:2015年4月 関西ウーマン編集部)
|
■関西ウーマンインタビュー(起業家) 記事一覧
-
「たくさんの失敗の上に失敗しないレシピが生まれる」味付けアドバイザーとしておいしい家庭料理を広げる魚森さん
-
「幸せになれない仕組みがあるなら変えたらいい」地域貢献や福祉計画など多様な分野に関わるなかたにさん
-
「私が歩いた道が、道になる」思い立ったら即行動。地域社会のためにさまざまなプロジェクトを展開する下田さん。
-
「切り花から始まって行き着く先は森」ひらめきからスタートして30年。植物と共に歩む八田さん
-
「ヌード撮影は女性が生まれ変わるきっかけ」200人以上の女性の人生の転機にヌード撮影をしてきた中田さん
-
「手のひらにのる「ドイツ」を届けたい」ドイツの木工芸品やクリスマス雑貨の魅力を伝える藤井さん
-
「おせっかいが出発点だった」オフィス街のビルの屋上に作った「空庭」から六次産業サポートする山内さん
-
「かかりつけの写心屋さんでありたい」柳田さんと多賀さんのお二人で始めた家族写真専門のスタジオ
-
「やりたいことをやらないことが一番もったいない」子どもたちの真のやる気と情熱を育てる古賀さん
-
「今ここ、自分にできる精一杯のことをすれば無敵」さまざまなジャンルのイベントで出会いをつなぐ四方さん
-
「自分の想いの量が、仕事になっていく」10年のキャリアを持つ看護師から、「産後ケア」で起業された間宮さん
-
「素晴らしい庭には、人生をも変える力がある」独自の視点で日本庭園の魅力を伝える烏賀陽さん
-
「子どもは大人が焦らなくとも自らグングン伸びる」お受験講師から転身。幼児教室を営む上杉さん
-
「シェアハウスは暮らし方の提案を含めた事業」オリジナルでユニークなシェアハウスを運営する井上さん
-
「自己実現だけでなく、応援される人になってほしい」キャリアモチベーターとして女性起業家を支援する山田さん
-
「アートを体験が人々の視点を変えていく」地域密着型のアートプロジェクトを手掛ける柳本さん。
-
「とりあえずやってみろ精神。それが何よりも近道」韓国のデザイン雑貨に魅かれて起業した松田さん
-
「ひとつづつ乗越えていく。10年やるとなんとかなる」アルバイトから会社設立。学会の事務局業務を請け負う林さん
-
「こだわりのぶどうを作る主人の想いを伝えたい」農家に嫁ぎ、ご主人と共にぶどう畑とワイン作りに励む仲村さん
-
「外国人の目線で話す会話から今までにない発想が生まれる」アメリカ人のご主人と「カフェ英会話」を運営する瑞穂さん
-
「英語はチャンスを掴むツール。大事な時間を英語に取られるのはもったいない」こども塾を運営する岡田さん
-
「京都にほっこり癒されて欲しい」京都を舞台に1人1人に合った癒しの旅を案内する眞由美さん
-
関西出身で大学から東京で23年。お子さんが産まれて関西へ帰ることを機にコーチとして独立された小川さん
-
「茶葉を引き出すことはコーチングと同じ」京都造形芸術大学のラーニングカフェで学生たちに「紅茶の教室」をされている原野さん