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■関西ウーマンインタビュー(起業家)


四方 有紀さん (『同時代の茶室 ラ・ネージュ』亭主)

「今、ここ、自分にできる精一杯」のことをすれば、無敵

四方 有紀さん
『同時代の茶室 ラ・ネージュ』亭主
コミュニケーション・クリエイター
クラシック音楽、邦楽、能楽、落語、朗読、現代美術、書道、陶芸といったさまざまな分野、コンサート、展覧会、講演会、ワークショップといったさまざまな形態の、イベントを開催している『同時代の茶室 ラ・ネージュ』。

亭主の四方有紀さんはこの場を、美術館でも、画廊でも、コンサートホールでも、ライブハウスでも、講演会場でも、貸しスペースでもなく、「茶室」と表現し、「同時代」という言葉を体現するアーティストによるイベントを約25年に渡って企画・開催し続けてきました。

地元・伏見桃山の歴史から着想を受けたという「茶室」とは? 四方さんが言う「同時代」には、どんな想いや願いが込められているのでしょうか。
はじまりは「自分ならどうするか」を考えたこと
以前は一般企業で広報をされていたそうですが、今のお仕事を選んだきっかけは何だったのですか?
大学卒業後、オムロン株式会社大阪事業所の宣伝部宣伝課に所属していました。会社がモータースポーツのスポンサーをしていたのでレースクイーンのオーディションに関わったり、リクルート用のツールを作成したりなど、広告全般に携わっていたんです。当時はバブル期だったこともあって多忙で、1年半思いっ切り勤めた後、体調を崩して辞めてしまいました。

そんな時、知人のアーティストからアートプロジェクトに声をかけられて、参画することになったんです。取り壊しの決まった大阪のレトロビルを期間限定で美術館にするもので、最終的には安全面の問題でとん挫してしまったのですが、「私ならどんな美術館をつくりたいのか」を考える機会を与えてもらったことで、本当に実現できないかなと考えるようになりました。

というのも、大きな美術館に行くと作品を引いて見たくても人がたくさんいてできない、画廊は「買わない人はお断り」というところもあって行きにくい、貸画廊は作家とその仲間が憩っていて入りにくい・・・居心地よく絵を見ることができたら、音楽を聴いた後にアーティストとお話ができたらと常々思っていたので、ないのなら自分でつくろうと思い立ったんです。
画廊でも、ギャラリーでも、コンサートホールでもなく、「同時代の茶室」。 なぜ、「茶室」なんでしょうか?
生まれ育った伏見桃山でオープンすることを決めた時、まちの歴史から着想を受けて「この時代に茶室をつくるとしたら」をコンセプトにしました。

伏見桃山はかつて伏見城の城下町で、その時代の茶室といえば、おそらく最先端のアートの発表の場であり、先進的な情報交換の場であったのだと思います。

何より素晴らしいと思ったのは、入口は「にじり口」といって、どんな人も必ず屈んで入らなければならない造りで、中に入ると世俗の身分の高い・低いを超えて誰もが平等になれるんです。展覧会やコンサートがはじめての人、小学生や中学生、高校生など、どなたでもお越しいただける場にしたいと考えました。

「同時代」としたのは、常にアップデートされていく場にしたいからです。今、この時代に生を受けているからには、「その時にしかできないこと」「その時だからできること」をまっとうするといいのではないか。

未来の誰かがこの時代を振り返った時に「この人たちはその時にできる最高のことをやっていたんだな」と思うような・・・今、ここ、自分にできる精一杯のことをしていきたいと考えたんです。
固定概念を打ち砕く体験で、心を真っ白に
「同時代の茶室」のコンセプトに合う、展覧会やコンサートを実現するために、アーティストをどのように発掘・選出されているのですか?
「今だからできること」に積極的に取り組んでいてクオリティーも高く、想いを共有できるアーティストにお願いしています。「美味しいもの」に出会わないと、「好き」にはならないと思うから。

もともとの知り合いではなくて、アンテナをはる中で見つけたり、友人からの紹介だったり、ここで交流する中で意気投合したり、出会いはさまざま。依頼する前には必ず、そのアーティストと話す、作品を見るなどして、自分の直感で確かめます。

たとえば、直近に展覧会を開催してくれたJINMOさんとは20年前からのつながりです。はじめは、友人から「すごいギタリストがいるから見に行こう」と誘われたのがきっかけ。

ライブを見て、少しお話をして、その時は「いつかやりましょう」で終わったのですが、数年後に『ラ・ネージュ』でのライブが実現。超絶技巧のギタリストでありながら、書などの作品づくりもされているので、4年前には展覧会を開催しました。

今年はパソコンで極微細な点を連ねて描く「dataPainting」シリーズの展覧会を。15年前からこのシリーズの作品をおつくりになっていたのですが、JINMOさんが納得のいくプリントアウト方法がなく、モニター内部に留めることしかできなかったんです。

それが歳月を経て、プリンターやインクが見つかり、職人との出会いで印刷するのにふさわしい和紙にもたどり着いて、ついに実現。

まさに、過去にはできなかったけれど、現在だからこそできること。「同時代」を体現してくださった例です。
展覧会やコンサート、教室など多様に開催されています。それらを通して、四方さんが伝えたいこととは? 何を実現したいと思っているのですか?
「世界が平和になったらいい」という願いがあります。

知らないから偏見を持ってしまうこともあるので、ここでのイベントを通してさまざまなことを知るきっかけになったらいいし、作品や演奏を通して自分にはない世界や視点を体験することで、固定概念が打ち砕かれて真っ白な心で見つめ直してもらえたらいいなあとも。

「誰かに言われたこと」「世間で言われていること」ではなく、自らの感覚を取り戻してほしいと思うんです。

そのための仕掛けとして、「予想を裏切る」ことを大切にしています。たとえば、最近開催したものでは、コントラバスと尺八のユニット演奏。洋と和の楽器のコラボレーション、どんなふうなのか、演奏を聴くまで想像がつきません。

そんなふうに、「『クラシックは難しそう』と思っていたけど、楽しかった」「邦楽なんて古臭いと思っていたら、新しかった」と固定概念が打ち砕かれるような体験をしてほしい。

ここでの体験だけが日常にも影響を与え、「今まではこうしていたけど、今度はこうしてみよう」「こんなコンサートにも行ってみよう」と、その人のその後の生き方にも関わってくるのではないかな、と。そうした一人ひとりの変化は、周囲にも伝播していくんだと思うんです。
自分が「やりたい!」と思ったらやる
2018年に25周年を迎えられるとのこと。これまでにどんな「壁」や「悩み」を経験されましたか?
アーティストに知り合いがいたから、このスペースを立ち上げた時はその人たちの作品も展示できたらと考えていたのですが、実現したのはおひとりくらい。

「どうして、このスペースに興味を持ってもらえないのだろう?」と考えると、アーティストが展覧会を開催したい画廊というのは、作家や作品を世の中に売り出す力を持っているからではないかと、後から思いました。

また、世の中として「稼げていない人は偉くない」「稼ぐからこそ価値がある」みたいな風潮があって、立ち上げた時はまだ20代後半でしたから、「稼げていない自分はダメなんじゃないか」と思った時期もあります。

場所を持て余す時期もあって「テナント貸ししたら?」など言われることもあって、なんとなくそうしなかったのですが、今ではそれでよかったと思っています。
どうして、その「壁」や「悩み」を乗り越えられたと思いますか?
世間からどう思われても、現実がどうであっても、在り方を変えなかったのは、いつも「欲しいものがないから創ろうと思った」という原点に立ち返ったからです。

美術館や画廊、コンサートホール、ライブハウス、講演会場などは、ほかにもたくさんありますが、「私の同時代の茶室」はここにしかないのです。

一般的に「一人の人間ができることは小さい」「人間は組織の歯車にすぎない」「代わりはたくさんいる」など言われますが、私は一人の人間にできることは大きいと思っています。

『ラ・ネージュ』が『ラ・ネージュ』であるのも私が亭主であるからこそ。もし、娘に引き継いだとしたら、また全然違う場所になると思うんです。それくらい、一人の人間の存在は大きくて、その人がいるだけで一貫性が保たれるところがあるように思います。

同じ仕事、同じジャンルのことでも、人が違えば、本当に「同じ」なんてありえないんです。真似をしようとするから競合してしまう。「これは自分にしかできないんだ」と信念を持って、自分にできることを精一杯すれば、その人にしか出せない持ち味が出て、誰にも真似できなくなるから無敵なのだと思います。それは、すべての人に言えることだと。
四方さんの根本には「今、ここ、自分にできる精一杯のこと」という軸があるように思います。その軸を持つきっかけは? どんな想いからですか?
起点は、小学生の時に11カ国の11歳の子どもたちが集まる国際キャンプに参加したこと。さまざまな子たちと過ごした経験から、今という瞬間を生きているのと同時に、それぞれの場所で生まれ落ちている・・・

「今、ここ」に生まれているということは、そこでできること、そこでしかできないことをやったらいいのではないかなと、それが自分の強みにもなると気づかされたんです。

「~ではないからできない」「~がないからできない」と行動を起こす前から諦めている人が多いのではないでしょうか。「できない」ではなくて、自分ができることをするといいんだと思います。

そして、まわりから何も反応がなくても、期待外れの反応でも、傷つかない。他人の反応や出来事は、自分の範疇を超えるものだから。私としてはただ自分のできることを精一杯するだけなんです。

つまりは、自分が「やりたい!」と思ったらやる。

『ラ・ネージュ』を建設中に、国際キャンプで出会った子たちに15年ぶりに再会したいと、全員に手紙を送って返事があった人たちのもとを巡ることにしました。日本から一緒にキャンプに参加した友人は「そんなことができるの?」と懐疑的だったのですが、再会の旅は実現できました。 返事が来るかは誰にも判らない。けど、手紙を出すことは、誰にでもできると思いませんか?

『ラ・ネージュ』の立ち上げの時も、当初は独身でバリバリ展開していくつもりだったのが、旅の後に突如として結婚&出産することに。その時も「仕事のために結婚を先延ばしにする」「結婚&出産のために仕事を白紙に戻す」など考えず、どちらも諦めませんでした。

その時々に起きる、いろんなことを受け止めながら、自分にできる精一杯のことをする・・・私は、たとえ何もない小部屋に閉じ込められたとしても、「もしこうだったら」「~ではないから無理」ではなく、その時にそこでできることを精一杯するんだろうなあと思います。
四方 有紀さん
1966年生まれ。1989年に同志社大学文学部英文学科を卒業後、オムロン株式会社に入社し、宣伝部宣伝課に配属される。1年半勤務した後、ハードワークから体調を崩し、退職。1993年に「ヒト・コト・モノの出会いの場」としての『同時代の茶室 ラ・ネージュ』を立ち上げた。自らの名が「雪月花」の「雪」が由来であること、雪は色がないこと、「雪ぐ」こともできることから「雪」の仏語『La Neige(ラ・ネージュ)』を屋号に1993年10月に会社も設立、活動を開始した。同年、長女出産を皮切りに、4女の母でもある。宝酒造株式会社とオムロン株式会社の創業家系の両親を持つことで養われた審美眼で厳選されたアーティストによるコンサート、展覧会、ワークショップなどを展開。人々が「自らの感覚」を取り戻すための仕掛けを繰り返している。
同時代の茶室 ラ・ネージュ
京都市伏見区桃山町立売58
HP: http://www.yuki-laneige.com/laneige/jp.html
FB: laneigeyuki
(取材:2017年10月)
「今、ここ、自分にできる精一杯のことを」「それを追求することで誰にも真似ができないから無敵」「その時々に起きる、いろんなことを受け止めながら、常にアップデート」と四方さん。

「やりたい!」と思っても、「私には無理」と諦めたり、「忙しくなくなったら」と先延ばしにしたり、「もしこうだったらなあ」と仮定の話に逃げたりしてしまうことがありますが、どんな状況、どんな環境であれ、その時々で自分のできる精一杯のことをする。

「精一杯=全力」とは限らず、一人ひとり、それぞれの状況に合わせて、「全力」「ちょうどよい」「控えめ」など調整しながら、常にアップデートしながら進んでいったらいいのだ、とも。

また、「やりたい!」と思ったことをそのまま実現できなくても、そこに向かって、今の自分には何ができるかを考え、できることから始めればいいんだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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