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■関西ウーマンインタビュー(起業家編)


山内 美陽子さん(「谷町空庭」代表/6次産業化プランナー)

「おせっかい」や失敗が積み重なって、今の仕事につながった

山内 美陽子さん
「谷町空庭」代表
6次産業化プランナー
大阪市中央区のオフィス街にある、築50年ほどの6階建てビル。一見すると、何の変哲もないビルですが、屋上には木々や緑、草花、野菜が育つ畑があって、「谷町空庭」という場の名前が表す通り、都会の空に庭が広がっています。

この「空庭」をつくったのは、山内美陽子さん。農家が加工や流通・販売までを行うサポートをしたり、農マルシェやイベントを企画・開催したりするなど、「人・緑・農・食」をつなぐことをめざした多様な仕事や活動に取り組んでいます。

「こうなろうと意図して、今の仕事をしているわけではなく、おせっかいが出発点だった」と振り返る山内さん。「おせっかい」とは? どのようにして、自分らしい仕事をつくってこられたのでしょうか。
直感が「自分のやりたいこと」につながった
学生時代は東京農業大学で学ばれていたそうですね。そもそも「農」に興味を持つきっかけは何ですか?
都会育ちで、木の名前すら知らず、農とも接点がありませんでした。そんな私が東京農業大学に進学するきっかけは、大学案内のビデオをたまたま見る機会があり、雰囲気がよさそうだし、農学部もこれまで自分の身近にないものだからおもしろそうと思ったのが始まりです。

今につながる転機は3年生の時、「農あるくらし」を提唱する進士五十八(しんじ・いそや)先生の研究室に入ったことでした。

先生のお話を聞いて、農は昔から根づいてきた人間の営みで、都会に暮らす人たちにとっても必要なものだから、守り、活かし、都会にいる自分たちもいかに楽しむかが重要ということが響いてきたんです。

教わったことを実践しようと、市民農園の一画を借りて、ゆるい感じで菜園づくりを始めたところ、すごく楽しい。土を耕して、種を植えて、芽が出て野菜が育ていく過程を見ていると、土や微生物、水、空気、太陽など自然が育ててくれていることを感じ、自分は一人じゃない、自分も生かされているなあと気づいたんです。

こんなに豊かな体験をしないのはもったいない。都会で緑や農のある暮らしを提案することが、私のテーマになりました。
「都会で」をテーマに掲げたのは、どういった想いや考えからですか?
自然や農のある場所に行けば、私は何もわからない素人ですが、長年暮らしてきた都会であれば、状況も、暮らす人たちの求めていることもわかります。都会にいることも私の価値の一つとして、活かそうと思いました。

たとえば、自然や農を外部から都会に持ち込んでくる時、草が茫々な場所で虫とも戯れてくださいと言ったところで、興味を持ってもらえなかったり、活用できなかったりします。

「バーベキューと一緒に楽しむ」「ガーデニングとして暮らしに取り入れる」「子どもの食育につなげる」というふうに何かと組み合わせるなど、都会暮らしの感覚がある私ならば、都会で楽しみながら魅力に気づいてもらえる提案ができるのではないかと考えたんです。

大学卒業後は、都市計画やまちづくりのコンサルタントを行う会社で働いて、休日は棚田オーナーになったり、里山保全の活動に行ったり。

そんな日々の中で、さまざまな経験をするうち、「庭をつくったら終わり」「予算の関係で緑は省かれる」「屋上緑化ブームは植物を物扱いしている」といった違和感が募り、「自分が考えている緑との暮らしとはなんか違うなあ」という感覚から、だんだんと自分がやりたいことが見えてきました。

都会のちょっとした空間でも、緑がないより、あったほうがいいから、創意工夫で緑と親しめる手伝いがしたい。まずは自分がやってみようと、祖父が建てたビルの屋上で、庭づくりを始めることにしたんです。
試みと失敗を繰り返して、より深く追求する
大阪市内のビルの屋上に、こんな場所が広がっているなんて、びっくりします。
私が小学生の頃まで、祖母がこの屋上で畑をやっていたのですが、15年ほどはほったらかしだったので、友人に手伝ってもらって、数カ月かけて庭づくりをしました。その時、ベランダや屋上、アスファルトの上などでもできる都会の庭という意味で、「空庭」と名付けたんです。

「空庭」があるなら、「空畑」があってもいいやんと畑づくりも始めました。

ベランダ菜園も、1人で始めると挫折してしまうから、畑に興味がある人たちで集まって、勉強会をしたり、協力し合ったりしてやってみようと。でも、結局「水やりを忘れて枯れてしまった」「日当たりが悪かった」「虫に食われた」など予期しないことが多く、挫折してしまう人が多くて。

都会ではなかなか難しい面があるから、そんなに遠くない畑で何かしたいとなって、枚方市の農園「杉・五兵衛」の、のじまさんにご協力いただいて、教えてもらいながら、畑づくりを始めました。参加者が50人ほど集まり、私はコーディネートの立ち位置で関わったんです。

草が生い茂る季節はこまめに草刈りに行かなければならないのですが、みんなは仕事の関係で行きたいけど行けないという状況が続き、ほんとに少人数で出向いていました。この経験によって、私がそれまで思っていた「都会で農のあるくらし」はへなちょこやったんやなあと気づいたんです。
「へなちょこやった」とは?
私がやろうとしていたのは、趣味レベルのことだったんです。農家さんと出会い、その生業をそばで見たことによって、「これがほんまの農業なんやなあ」と、自分の甘さを痛感しました。

「杉・五兵衛」ののじまさんは代々、農業をされていて、蓄積されているものがすごい。天候を読んだり、「この時にこれをやらなあかん」と瞬時に作物が何を求めているのかを察知したり。

そういったことがわかっているのとわかっていないのとでは全然違います。収穫量も変わってきますし、私が屋上で育てている緑を見ると、もしかしたら緑をいじめているレベルではないかなあと思うようにも。

土から生命を生み出し、育むものが「農」で、それを生業としているのが「農業」であり「農家」さん。ベランダ菜園でも「野菜を育てたらいい」ではなく、農家をめざさなくても農をする上では、向き合い方や考え方を知ることが大事だと、農業に興味を持ちました。
自分自身の正直な実感や想いが「おせっかい」
既存の職種や仕事の在り方に捉われず、「空庭」「空畑」といった取り組みを通して、山内さんらしいお仕事をつくってこられたのですね。
「空庭」を立ち上げてから14年、いろんなおせっかいや失敗の積み重ねで今があります。

「空庭」を立ち上げたばかりの頃も、屋上の庭に親しんでもらおうとカフェとして開いたり、その1階下もリノベーションしてカフェとして使えるようにしたり、スペースを貸し出したり。屋上の庭がモデルガーデンともなり、企業や個人からの庭づくりの仕事を引き受けるようにもなりました。

農業に興味を持ってからは、農家さんによってもキャラクターや求めているものが異なりますから、「この人だったらこんなことを」「あの人だったらあんなことを」とするうち、野菜を買い取って八百屋みたいなことをしたり、家庭菜園講座や農を知ってもらうイベントを開いたり、販路拡大やパッケージデザイン、加工品開発に関わったり、農家さんにレストランなどを紹介したりと、多種多様になったんです。

農家、加工者、販売者、購入者が出会うコミュニティをつくりたいと「大阪ぐりぐりマルシェ」を立ち上げてからは、他のところからも「手伝ってほしい」「ここでもやってほしい」とお声掛けをいただくようになり、場が増えることは農家さんにとって販路拡大になるとお受けしていたら、イベンターと思われていたこともありました。

そういった日々の積み重ねで、ノウハウが蓄積されていって、この5~6年ほどで、自分が取り組んできたことは、農家さんが加工や流通・販売までを行うサポートをする「6次産業化プランナー」という仕事になるんだと知りました。現在は公的機関にプランナー登録していて、いろんな農家さんのお手伝いをしています。
「おせっかいや失敗の積み重ねで今が」とのことですが、「おせっかい」とは何ですか?
私のおせっかいは、自分が得意なことで、誰に依頼されたわけでもなく、生み出さなくても過ぎていく部分に、光を当てて、価値をつくり、いいものをつくっていくこと。

先ほど挙げた取り組みは、ボランティアで行っていることも多いんです。特に農家さんに対してはお金をもらうのは申し訳ないと思っていましたから。6次産業化プランナーは国の予算で派遣される事業だから、農家さんに負担をかけません。

相変わらず、金銭が発生しなくても、いいと思ったことはやっていて、いつか花が咲いて私にも帰ってきたらいいなという程度のことも多いんです。

そう思って取り組んでいたことが、思わぬ自分の専門性につながり、役立っていることがあります。

NPOに所属していた頃に、大阪府内で八百屋を開いたことがあり、加工品開発にトライしていました。米を米粉にしてマフィンをつくり、開発したオリジナル米粉を単体でも販売したら、お客さんにとっては、どう料理に使えばいいのかわからないから売れない。

そこで「空庭」で料理教室を開くようになると、「子どもが小麦アレルギーだから重宝する」「家が農家だから関心がある」と米粉に対して想いのある人たちが集まってきて、大阪で普及活動を進める「米粉LOVERS」を立ち上げることになり、米粉LOVERSレシピ本として発行してくれる方もでてきました。

メディアで取り上げられることも多く、私は米粉の専門家として各地から呼ばれるようになりました。6次産業化プランナーとしての専門性の一つになっているんです。
自分自身も「つながり」の1人として
山内さん発信でさまざまなことに取り組んできたことが、総合的に今につながっているんですね。
こうなろうと意図して、今の仕事をしているわけではなくて、いろいろな流れや気付き、自分の得手不得手を考えた時に今の立ち位置になりました。

都会で緑や農のある暮らしを提案するという軸を持った上で、「私は農家にはなれないけれど、コーディネートは得意だから応援することはできる」など、一つひとつ実感や経験を積み重ねながら、自分の特性を知り、得意なことや立ち位置がわかってきたという感じです。

苦手なことにチャレンジしていた時期もありますし、他の人たちができることをなぜ自分はできないのかと悩んだこともありますが、「できないものはできないんだ」と諦められたというか、世の中にはいろんな人がいるし、いていいんだと思えたから。

苦手なところは、それが得意な人に頼んでいけばいいから、自分は得意なところを伸ばしていこうと考えるようになりました。
最後に、お仕事をされる中でいつも心にある「想い」を教えてください。
2014年に立ち上げた「大阪ぐりぐりマルシェ」の「ぐりぐり」には、「Green Good Link(緑のよいつながり)」と、いろいろな人や出来事がつながっていかないといいものが生まれないという意味を込めました。

私はその「輪」を途切れさせないように、「つなぐ人」「次の展開やゴールを見据えてアイデアを出す人」「新しい価値を創ること」「すそ野を広げること」を日々意識して活動しています。

根底には、土に触れて感じた生命の営みの素晴らしさ、こんな豊かな体験をしないのはもったいないから多くの人たちにも体験してほしいという想いと、その生命に日々向き合っている農家さんを応援したいという想いがあります。

都会で緑や農のある暮らしを伝えいくことは、仕事以上のライフワークになっているんです。
山内 美陽子さん
東京農業大学卒業後、都市計画・まちづくりコンサルタント「株式会社COM計画研究所」に入社。2004年に「谷町空庭」を立ち上げる。ビル屋上とその1階下にて「空庭カフェ」をオープンするほか、都会で小さな庭づくりを請負い、造園設計施工を生業とする。都会で「農のある暮らし」を広めるため「空畑クラブ」活動などを展開。郊外の農家との出会いにより、「都市×農地(農業)」を交流させる取組や事業を行う。2014年に「大阪ぐりぐりマルシェ」を立ち上げ、毎月第2土曜に難波神社で開催している。同時期に「6次産業化プランナー」に登録し、農家と食べ手をつなぐコーディネート制度を活用し始めた。ライフワークとしても、マルシェ展開や商品開発のお手伝いなどを行っている。
HP: http://soraniwa.net/
FB: tanimachisoraniwa
(取材:2018年4月)
「金銭が発生しなくても、いいと思ったことはやっていて、いつか花が咲いて私にも帰ってきたらいいなという程度のことも多いんです」、さらには「小さなつながりや気づきが、やがて大きなものになります」と山内さん。

「こうなろう」「こうなりたい」と意図しなくても、「都会で緑や農のある暮らしを伝えたい」という種があり、それを育てるのに自分が必要だと思うことに挑戦し、成功も失敗もすべてを栄養にしながら育てて、その1つの花が「6次産業化プランナー」だったり、「米粉の専門家」だったり、仕事以外でもさまざまな花を咲かせていらっしゃるのだと思いました。

「農」という、自然や人、時間などさまざまな存在によって生命を育むものと向かい合っておられるからこそ、おおらかさな気持ちで、気長に待てるのではないかなあと。

世間では短期的な成果を求められる場面が多く、気持ちばかりが焦ったり、すぐに結果が出ないと落ち込んだりしてしまうことがありますが、自分が「やりたい」「大切」と思えることは、おおらかに、気長に。失敗しても、成功しても、どんな結果が出ても、一つひとつ積み重ねていき、トライし続けることそのものを大事にしようと、山内さんのお話をうかがって思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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