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■関西の舞台芸術を彩る女性たち


芳賀 有紀子さん(劇団四季ディズニーミュージカル『美女と野獣』京都公演 ヘア・メイク担当チーフ)

 
 
芳賀 有紀子さん
劇団四季ディズニーミュージカル『美女と野獣』京都公演 ヘア・メイク担当チーフ
2013年入団。『美女と野獣』には、2014年名古屋公演から携わる。これまでにも、『ライオンキング』や『オペラ座の怪人』のヘア・メイク担当を経験。
劇団四季 https://www.shiki.jp
大阪市北区梅田2-2-22 ハービスPLAZA ENT 7階   関西オフィス:06-4796-6600
舞台のヘア・メイクは、どういうお仕事ですか。
担当演目の公演が行われているときは本番付きのヘア・メイクをしています。かつらの状態を日々チェックしてメンテナンスを行うことが仕事のひとつです。具体的には、公演前は、本番でいい状態で出せるための前準備として、かつらの地肌部分にあたるチュールがほつれていないかなどをチェックして、乱れていたら作り直す作業などを行います。終演後には次の日の本番に向けてのメンテナンスを行います。

本番中は決められた動線があり、それぞれ担当している香盤(こうばん)通り動いて、舞台袖にはけてきた俳優のヘア・メイクのチェックや早替えの手伝いをしています。特に『美女と野獣』では、ベルやビーストの早替えシーンが多いのが特徴です。

『美女と野獣』のかつらは全部で約200枚あり、その内実際に本番で使用する枚数も80枚を超えます。本番付きのヘア・メイクは4名。他の演目では1~3名で担当することが多い中、最多人数で本番業務にあたっています。 公演がないときは、普段できない「かつらを崩して土台から作り直す」といった大きな作業や、毛を植える作業などを行っています。
公演が始まると、演目と共に全国各地に出向くのですね。
そうですね。全国各地に行きました。『美女と野獣』だけでも、名古屋、広島、静岡、仙台、福岡、そして今回の京都。『オペラ座の怪人』では札幌に1年くらい滞在しました。
他にどんなお仕事があるのですか。
劇団四季ではメイクは俳優が自分で行います。私たちの仕事は主にかつらがメインですが、照明が当たった状態で舞台前から見て、「もうちょっとここをくっきりさせた方が怖そうに見えるな」「もう少し目が大きく見える方がいいな」などのアドバイスをしています。

ただ、『美女と野獣』のビーストや『オペラ座の怪人』の怪人のような特殊メイクは、ヘア・メイクが行います。ビーストは、メイクとかつらとは別担当者で、二人がかりでメンテナンスを行っています。
俳優によって頭の大きさも違うと思うのですが、どう作るのでしょうか。
メインキャストの場合は何枚かのサイズが用意されており、役が決まった俳優にフィッティングを行います。一番合うサイズのかつらを選び、さらにその人に合うように調整していきます。たとえば、頭のサイズはぴったりなのに、生え際やもみあげの位置などが後ろ過ぎたり、前過ぎたりする場合もあり、その調整のために毛を抜いたり、逆に植えたりする作業も行います。

ⒸDisney 撮影:荒井健
お仕事の中で、どんなことに力を入れていますか。
個人的にはかつらの“似合わせ”に力を入れています。『美女と野獣』では全てかつらの形(スタイル)が決まっています。それを着用する俳優の顔立ちや輪郭、頭の形など、その人に似合う様に作る事を心がけています。全体のバランスも見るようにしていて、背の高さや衣裳を着ているときの状態を見て、かつらのボリュ―ム感などにも気を配ってセットします。
お仕事のベースとなる“想い”はありますか。
「妥協しない」と決めています。自分が作ったかつらは自分の作品です。それが世に出るわけですよね。「これを私が作ったの?」と思うようなものを出したくないですし、ひとつひとつが自分の作品だという想いで仕事をしています。
ヘア・メイクという仕事の醍醐味はなんでしょうか。
同じ役でも俳優それぞれ輪郭も違えば、頭の形も違うので、「この人にはここにボリュームを持たせた方が頭の形がきれいに見えるだろうな…」など、下地を作るときから考えて作業を行っています。そして、自分の作ったかつらを俳優に被せた時に、気に入ったと褒めてくれるのは嬉しいですね。

舞台に立ってお客様から拍手をいただくのは俳優なので、私たちは直にお客様の反応を感じることは少ないですが、俳優が気持ちよく演じることができればより良い舞台につながると思うので、そのお手伝いが出来たのかなと嬉しくなります。

あとは、何より生の舞台を感じられるところですね。舞台はライブなので常に緊張感があることも、仕事の醍醐味ひとつです。トラブルはないに越したことはないけれど、起こったときに対処するアドリブ力、機転力、対応力が求められる仕事でもあります。衣裳にかつらがひっかかって…など、一瞬で判断が必要になる場面に遭遇することもあります。

「ビー アワ ゲスト」のナンバーなど、大勢が舞台上に出ているようなシーンでは、裏でも慌ただしくしていて、決まった動線を守らず少しでも違った動きをするとぶつかったりしてしまうこともあります。そういった緊張感は、裏も表も一緒ですし、カンパニー全員で一つの舞台を創り上げている一体感があります。幕が下りたときは、達成感と共に心底フ〜ッと脱力する瞬間ですね(笑)。毎日が初日という緊張感を持つことも大事な仕事です。

ⒸDisney 撮影:荒井健
なぜ今のお仕事を選ばれたのですか。
子どもの頃から美容師になると言っていました。友達の髪をいじるのが好きで、髪を結ってあげたりして遊んでいる子どもでした。入団前は、美容師やへアセットやメイクの仕事に携わってきました。

劇団四季に入る前は、ブライダルやスチールなど、色々な現場でお仕事させて頂きましたが、舞台関係は全くやった事がなく、どのようなものなのか興味を持っていたところヘア・メイク募集を知り、入団しました。
撮影メイクと舞台メイクの違いにとまどいませんでしたか。
人の髪をセットするのと、かつらのセットでは違う事が多く、入団したときは驚きました。扱い方も違うし、特殊なセットも多いんです。これまでの経験はあまり役に立たないと感じ、最初はとても難しく感じました。

舞台メイクも同じく最初はとまどいました。遠くから見て良いようにみせるのが舞台メイクですが、入団したときは、何が良いのかの判断が難しかったですね。「近くで見たら、あんなに濃かったのに、舞台で見るとあれくらいにしか見えないんだな」とか、現場で学び先輩からアドバイスをうけることもありました。ヘア・メイクとしての仕事のやり方や技術は、実践の中で学んできました。
舞台の裏方を目指したいと考える読者女性へメッセージをお願いします。
この業界はとにかく体調管理が一番大事です。俳優もそうですが、裏方も一人欠けるだけで本番に支障が出て、周りに迷惑がかかってしまいます。ヘア・メイクは俳優とのコンビネーションで進める仕事でもあるので、風邪を引いて俳優にうつしてしまうわけにはいきませんし、スタッフ間でも同じです。

美容の技術や知識はあるに越した事はないですが、仕事を始めてからでもいろいろな事が学べます。最初は難しいことも多いかも知れませんが、やりがいがあります。特殊な舞台の世界だからこそ、誰もができることをやっているわけではないと感じます。ここでしかできないことを経験させていただきとても有難いです。
ありがとうございました。
取材:2016年10月 / 撮影協力:朝倉美恵さん(舞台写真を除く)
美容師としても7年のキャリアを持ち、その後ヘア・メイクとしても活躍された芳賀さんですが、舞台の世界に飛び込み、全く違う技術が求められる世界に入団当初はとまどったといいます。何事も新しいチェレンジには壁もあるはず。その中で身につけた技術と対応力は、プロとしての舞台を力強く支えています。「手を抜かない」プロの集団が創り出す夢の世界、ディズニーミュージカル『美女と野獣』の裏側には、魔法でも何でもない強い“想い”がありました。
取材:なかむらのり子
Splus+hスプラッシュ 代表
フリーコーディネーター/コピーライター/プランナー

舞台芸術に関わる取材コーディネートも多く、観劇数は年々増え続けている。自らも市民演劇に参加するなど、舞台の表と裏からの視点を持つ。インタビューする方の人生にスポットを当てる取材を心がけ、教育、医療、地域活性に関する取材など、そのフィールドは広い。

 

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