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■関西の舞台芸術を彩る女性たち


森 以鶴美さん(ミュージカル俳優/大阪芸術大学客員教授)

 
 
森 以鶴美さん(ミュージカル俳優/大阪芸術大学客員教授)
兵庫県出身。日本女子体育短期大学 体育科 舞踊専攻 専門コース卒業後、宝田芸術学園の一期生に編入し、ミュージカル俳優としての基礎を習得。得意のダンスを活かし、多くのミュージカルやTVに出演する傍ら、ブロードウェイアカデミーや東京モデル学院などにて、振付や後進の育成にも力を注ぐ。その後、音楽座カンパニーを経て、1995年から17年間、劇団四季に在籍する。『美女と野獣』で劇団四季の初舞台を踏んで以来、『クレイジー・フォー・ユー』『コーラスライン』『ライオンキング』『マンマ・ミーア!』『ウイッキッド』など、数々のステージで活躍し、特にダンスシーンではファンを魅了。現在はミュージカル俳優として舞台に立つだけではなく、大阪芸術大学(舞台芸術学科・ミュージカルコース)にて、客員教授として後進の育成を行う。
取材協力:大阪芸術大学 http://www.osaka-geidai.ac.jp/geidai
森さんの現在のお仕事の内容を教えてください。
現役プレイヤーとして舞台に立つ一方、2016年4月より、大阪芸術大学の舞台芸術学科、ミュージカルコースにて、客員教授として学生たちに指導を行っています。中学生の時から、バレエ教室で小学生に教えていた体験があり、人に教えることは好きでした。ですので、劇団四季を病気で退団し、しばらく療養した後に教授のお話をいただいたときには、求められている所へ行き、自分の受け継いできたものを後輩たちに伝えたいと着任を決心しました。

自分がプレイヤーとして出ていた方がよっぽど気が楽なんですよ(笑)。だけど、大阪芸術大学の先生方はみなさんプレイヤーとしても現役。そういった実践で活躍する先生方から授業を受けられるということが大きな魅力の大学ですので、私もお役に立てればと思い、日々授業に取り組んでいます。
教授というお仕事の中で、どんなことに力を入れていますか?
基本をしっかり身体に叩き込み、体幹、技術、感性を磨く事や、各自の能力を引き出す事に力を注いでいます。又、俳優である私も、自分に向けて同様に力を注いでいます。

時間が空くと、レッスンに行ったり、いろいろな舞台や展覧会、映画などを観に行ったりして、常に技術や感性を磨いておくことは、表現者として最も重要なことだと感じています。

表現力の向上は、心のひだを増やしていくことが大事です。「いろいろなものを見聞きすることで増やした引き出しは、いずれ自分の糧になる」ということを授業でもしょっちゅう伝えていますね。引き出しを増やしておくことで、たとえば演出家から何か求められたときに、すぐさま反応や動きに出すことができます。

例えば、私が『マンマ・ミーア!』のターニャ役を頂いた時も、その役柄に合った設定での仕草や小道具など、あれこれとアイデアを出したところ、英国の演出家にすごく気に入っていただけ、採用されたことが幾度となくありました。引き出しが多いと、舞台セットに入ってからも、プラスアルファの演技が出てくるんですよね。なので、いろいろなものを見たり聞いたりする機会を多く持つことが大事だと、学生にも常に伝えています。
この仕事の醍醐味はなんでしょう?
教える立場では、教え子から世界に通用するダンサーやシンガー、プレイヤーが育つ事です。役者としては、日本だけでなく、世界の演出家やプレイヤーと出会う事ができることでしょうね。出会いが大事な世界です。止まっていては出会えないし、さらに多くの方々に会い、刺激をもらい、プレイヤーとして“叩いて”欲しい。今までも世界の一流の方々にたくさんご縁を頂いてきましたが、さらに向上したいという気持は常にあります。そういう出会いがあるのも、舞台の世界の醍醐味でしょうね。
舞台に興味を持つきっかけは?
幼い頃、病弱だった私に、母がバレエを習わせたのが、踊りと出合うきっかけでした。音楽とともに体を動かすことが、自分の性格に合ったのだと思います。踊る事が生活の一部でしたね。

両親が、映画や音楽が好きで、周りには宝塚歌劇団や吉本新喜劇などもあり、テレビでも「赤い靴」というバレエ・ドラマが流行していた時期で、そんな環境の中で育ったせいもあると思います。

何より、素晴らしい先生方に出会えた事が大きいですね。通う先々ですばらしい先生方に出会い、モダンバレエの権威であられた故石井晶子先生(石井晶子モダンバレエ団研究所 主宰)に推薦状をいただいて、日本女子体育短期大学へ入学しました。

偉大な指導者から受け継いだ技術や表現力などを後世に残していきたいという気持があるので、指導者という現在の仕事を引き受けました。
森さんに影響を与えたものの中に、吉本新喜劇があるのは意外でした。
吉本新喜劇は、芝居の間を身につけるのには最高の教科書ですよ。すべて計算し尽くされた笑いだと聞きます。そういう点でも、「呼吸」「間」がすべての舞台では大変重要だと感じています。「呼吸」「間」は、舞台には欠かせません。芝居だけではなく、歌、踊り、全てに通じます。
現在のポジションへの「ターニングポイント=転機」を教えてください。
ターニングポイントはいくつかあります。病気をして、大好きな舞台から一旦身を引かなければならなくなりました。長年住み慣れた東京から帰阪し、養生をしていたところ、再三教授としてのお話しを頂き、今年度より、大阪芸術大学の舞台芸術学科 ミュージカルコースにて、“演る側”から“教える側”にも目を向けさせて頂いた事は大きな転機でした。病気という壁は本当に高く辛いものでしたが、 同時にもう一度、本当に大切なものは何かを教えてくれました。
「自分の時間」をどのように作っていますか?
自分の時間は、結局、仕事に繋がることになってしまいます。レッスンや、自分の身体をメンテナンスするためにマッサージに行ったり、映画やDVD鑑賞、観劇や絵画鑑賞をしたり…。ウインドショッピングも、舞台に使える物を自然と考えてしまいます。常に頭から舞台のことを切り離せない、職業病のようなものですね(笑)。

神社や、スピリチャルな場所、自然な場所に行くのも好きですね。今は、ありがたい事に日々忙しくしておりますので、なかなかそういった場所へ行く時間が取れませんが、寝る前の時間は一人でゆったりする事を心掛けています。
同じ業界を目指したいと考える読者女性へメッセージをお願いします。
まず、大阪芸術大学を受験しようかと悩んでいる貴方。そこで足踏みしていないで、どんどんチャレンジして下さい。この大学には素晴らしい先生方が沢山おられますので、貴方さえその気になれば、有意義な4年間を過ごす事ができると思います。

次に、この舞台芸術の世界を目指している貴方。この世界は『観る天国、演る地獄』と、いわれています。決して甘い道のりではありません。しかし、自分の好きな事を演って、皆様に喜んで頂けるという、本当にありがたい仕事だと思います。芸の道には到達点はありませんので、一生をかけて取り組んでいく世界です。そういう意味でも、覚悟を持って、自分の大きな夢に向かって、チャレンジして欲しいと思います。

人生は一度きり。リスクは安定にも不安定にもあります。一度決めたなら、勇気を持って進んで欲しい。『コーラスライン』の歌にもあるように、「♪悔やまない。選んだ道がどんなに辛く~生きた日々に悔いはない。」と言えるようにね。
ありがとうございました。
取材:2016年7月
第一線を走る方のインタビューには、いつも根底にある志の強さを感じます。森以鶴美さんも、そのスレンダーな身体から、抜きんでたオーラの輝きを感じる人でした。後輩からは“姐さん”と呼び慕われる姉御肌の森さん。一番奥底にある強いパワーと、触れれば壊れそうな繊細な感性、そしてそれを体現したような身体表現(歌・ダンス・芝居)は、“森以鶴美”という舞台の世界の“ジャンヌ・ダルク”が、ミュージカルを総合芸術へと引っ張り続けているように感じました。
取材:なかむらのり子
Splus+hスプラッシュ 代表
フリーコーディネーター/コピーライター/プランナー

舞台芸術に関わる取材コーディネートも多く、観劇数は年々増え続けている。自らも市民演劇に参加するなど、舞台の表と裏からの視点を持つ。インタビューする方の人生にスポットを当てる取材を心がけ、教育、医療、地域活性に関する取材など、そのフィールドは広い。

 

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