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■関西ウーマンインタビュー(女性士業編)


船木 絵里子さん(一級建築士/「暮らしの設計ツキノオト」代表)

「気持ちよく暮らす」をつくりたい

船木 絵里子さん
一級建築士/「暮らしの設計ツキノオト」代表
「家」という建物ではなく、「気持ちよく暮らす」というところをつくりたいとの想いから、事務所名に「暮らしの設計」と掲げている一級建築士の船木絵里子さん。

「住まい手とじっくりと話し合って家をつくりたい」「見た目だけではなく、匂いや温もり、触り心地といった五感に気持ちのよい家にしたい」「自然環境や山にも配慮したい」「周辺の地域やご近所にも配慮したい」といった譲れない想いや信念があると言います。

その想いの根底には、船木さんが住まいづくりに関わり始めて25年間の、さまざまな経験や気づき、芽生えた想いや希望があります。「自分の中で深まって定まっていくものがあった」という船木さん。今のお仕事の姿勢を、どのように築き、貫いてこられたのでしょうか。
量産住宅の世界から、木と自然素材の家づくりへ
住まいづくりに興味を持ったのは、いつ、何がきっかけだったのですか?
子どもの頃、3DKのマンションに、家族6人で暮らしていて、「このドアがこっち開きだったら、もっと使いやすかったのにな」など、「こんなふうなおうちだったら、よかったのにな」みたいなことをよく思っていたことが、根っこにあります。

小学生の時から夢の間取り図を描いたり、レゴブロックで立体的な間取りをつくったり。北欧家具のパンフレットを見るのが好きでした。

料理も好きで、住まいや生活にまつわることに興味があったので、大学では工学部の建築学科ではなく、生活科学部の住居学科に進学し、住宅に関わる仕事をするようになりました。
ハウスメーカーやまちづくりに関わる公的法人で経験を積む中で、さまざまなことを感じ、思い、考えられたことが、今につながっているそうですね。
大学卒業後はただただ住宅系の仕事ができたらと、ハウスメーカーに就職して2年間、規格型住宅の設計と見積りを担当していました。

規格型住宅というのは、メーカーのルールに従って住まい手に住宅の間取りや設備などをいくつかのパターンから選んでもらう住宅です。

決まった規格や材料でつくる量産住宅ですので、個々に応じた自由な設計はできませんでしたし、営業担当者がいたので住まい手と直接会うこともほとんどありませんでした。分業化された中で、流れ作業のように多くの仕事をこなす状態だったと思います。

その後、当時の住都公団(現在のUR都市機構)で、業務委託契約のスタッフとして図面や現場のチェックなどの仕事に携わりました。

震災復興や駅前再開発といった大規模な事業に関われて勉強になりましたが、こちらも住まい手と直接会える仕事ではありませんでした。

緑豊かな低層の古い団地を壊して、たくさんの高層マンションに建て替える事業に携わった時には、その事業規模の大きさに戸惑いがありました。

私自身は大きな仕事ではなく、一人ひとりの住まい手と身近な関係性を持てる小さな仕事をしたいという想いが募っていったんです。

また、ハウスメーカーの住宅やマンションでは、ビニールクロスや木目調のシートといった化学製品を多用していたので、素材への違和感が強くありました。
多くの家ではそういった化学製品が多用される中、船木さんが違和感を抱いたのはなぜですか? それが、船木さんが今、自然素材を多く使った家づくりの原点にあるのではないでしょうか。
子どもの頃に、まちなかに引っ越したら、アトピーやぜんそくといった症状が出たので、公害や大気汚染に対して嫌だなと感じていましたし、家族で山登りをすることも多かったので、「自然は大切にしないと」との想いもありました。

趣味で古民家をよく巡っていて、木でつくった家は心地よく、手触りもよいと感じていました。木目調のビニールシートは一見、木に見えますが、触ったらペタっとしていて、フェイクの素材であることがわかります。

これからの子どもたちがフェイクの素材の中だけで育っていくことも嫌だなと思ったんです。

時代的にも、その当時2000年頃というのは、住宅戸数が十分に足りてきており、住宅は「質より量」ではなく、「量より質」に転換していくべきではないかと考えていたので、工業化住宅の量産ではなく、一軒一軒を丁寧につくりたいという想いが強くなっていました。

そういった20代での社会経験を経て、「住まい手にとって暮らしやすく心地のよい家をつくりたい」「住まい手とじっくりとお話をしたい」「自然環境にも配慮したい」など、自分の中で深まって定まっていくものがあったんです。
建物というハードをつくるだけが仕事ではない
これまでの経験や気づきによって、船木さん自身の中にもともとあったものや想い、希望が引き出されていったのだと思いました。その想いや希望を現実にすべく、行動に移せたのはなぜだったのですか?
一歩を踏み出す転機になった出来事があります。家づくりに対する気持ちが高まっていた20代後半、友人のおうちを設計させてもらえることになりました。

施工者は友人がもともとお付き合いのある大工さんで、昔ながらの民家が建ち並ぶまちなみに合う和風モダンな家をつくるということで、木を使った家づくりに挑戦できることに。平日は勤めていましたので、土日に友人の家を設計していました。

最終的に、経験豊かな大工さんが気持ちのよい家に仕上げてくださったんですが、私の勉強不足な面が多々あり、建設途中に図面の不備や不足が明らかになったり、友人が住み始めたら寒暖差が激しくて大変だったりと、本当に住みやすい家にはならなかったんです。

材料や構造、断熱など木造住宅に対する基礎知識や技術がまったく足りないまま、携わってしまったことを申し訳なく思った一方、住まい手と話し合いながら設計して、材木屋さんとつながって山にある木を使い、建設現場では大工さんとやりとりしながら家をつくっていく喜びがありました。

私がしたいのはこういう家づくりなんだと思い至ったんです。

つくり手側の論理優先の型どおりの住宅ではなく、家で暮らす人の目線に立って一緒に協力して心地のよい家をつくりたい。そのためには一から木造建築について勉強しなければならないと思いました。

本などで知識を深める中で、荒れた日本の山を手入れして、持続可能な材料である木材を適切に使い、循環型社会を実現するためにも、近くの山の木で家をつくりたいと考えるようにもなったんです。

30歳で一念発起して仕事を辞めて、岐阜県立森林文化アカデミーという専修学校に入学。学生として2年間、木造建築をはじめ、林業・里山利用・木工・環境教育など、日本の山や木にまつわるさまざまなことを学びました。

卒業後、設計事務所などで木造住宅設計の修業をさせてもらい、2010年に独立したんです。
「設計事務所」ではなく、「暮らしの設計」。そう掲げたのには、どんな想いがあるのですか?
子どもの頃から住まいや料理などが好きで、生活全般に関わる仕事をしたいとの想いがあったので、私がやりたいことは設計事務所ではないなと思ったんです。建物をつくりたいわけではなく、「気持ちよく暮らす」というところをつくりたいんだと思いました。

建築家の仕事というと、雑誌などで紹介される「生活感がない、物も置かれていない、スタイリッシュでかっこいい建築物」のイメージを持たれることが多いと思いますが、本来の住宅は生活の場そのものです。

たとえば、ホテルや美術館などは非日常の空間ですが、住宅は日常の生活空間。建築家が「これがかっこいい」「こう見せたい」と自分の芸術作品としてつくるものではなく、住まい手にとって心地よく住みやすいことが優先されるべきと考えています。

また、建物だけが住み心地をつくり出すわけではありません。そこに住む人がどんなふうに暮らすのか、どんなふうにその建物を使いこなすのかなどにも影響されるので、建物というハードだけをつくるのでは、全然足りないお仕事だと思っています。

快適に暮らせる住まい方についても、お話ししながら進めるようにしています。
関係性がよりよい家づくりには欠かせない
建物だけではない、「暮らし」も含めて設計するということなんですね。設計する上で、どんなことを大切にされていますか?
住まい手には事前に「住まいメモ」という、どんなふうに暮らしているのか、今後どんなふうに暮らしていきたいのか、そのためにどんな家にしたいのかなどについて書いてもらうアンケートのようなものをお渡し、その「住まいメモ」をもとに、じっくりと話し合います。

ご家族のことをはじめ、何時頃に出かけて、何時頃に帰ってきて、どんなふうに食事の準備をして、どんなふうに食事をするのか、買い物に行く時はどんな手段で行くのか、休日はどんなふうに過ごすのかなど、暮らしの細やかなことをうかがい、想像を膨らませていきます。

「今」だけではなく、これからのこともうかがいます。家族の人生設計などによって、家族構成が変わっても融通の効くような間取りを考えたり、お子さんが独立された後のリフォームを見据えたりするなど、今と将来かける予算も考えておく必要があるからです。

他人にはなかなか話さないようなプライバシーに立ち入ることもうかがいますから、「船木さんになら話せる」と、まるで親戚のような関係性を築くことが大切だと思っているんです。
「関係性」が大切なんですね。
家が完成して終わりではなく、完成してからが始まりだからです。

打ち合わせをし尽くして納得しながらつくった家と、消化不良なものを残したままできた家とでは、同じ家だとしても、感じ方が違ってくると思います。

住まい手が満足して、家に愛着を持って暮らしていただくことが大切なので、思っていることをどんどん言っていただきたいですし、私も言われたことを何でも聞く御用聞きではなく、要望を上回る提案を出したり、率直な進言をしたりします。

もちろん、意見が異なって長い議論になることもあります。それは悪いことではなくて、お互いによい家をつくりたいと思っているからこそ、起きることなんです。

たとえば、AとBという2つの案があって、いったんはA案に決まっても、住まい手に迷いがあれば、その時々で話し合いを重ねます。「やっぱり、A案がいいね」となることもあれば、「B案でいってみましょうか」となることもあって、それは健全なやりとりなんです。

また、いろいろと要望や夢が広がって、予算内に収まらなくなることもあります。優先順位や取捨選択も話し合いますし、住まい手と私とで一部DIYで作業するなどでコストを落として、実現可能な道を模索することができるかもしれません。

お互いに納得のいくまで話し合う。それは、住まい手とだけではなく、工務店さんや大工さんともそうです。

もし、予算やスケジュール、内容に不満があるまま現場が進んでいたら、そういった気持ちが現場の雰囲気にもあらわれると思います。職人さんや監督さんとツーカーで何でも話し合えて、よりよい家づくりを一緒にめざせる雰囲気をつくりたいと思っています。

住まい手と工務店の関係も良好で、職人さんたちも愛着が持てる家になると嬉しいですね。

住まい手、設計者、施工者の三者がチームとして協力し合い、しっかりとコミュニケーションを図ることが、よりよい家づくりには欠かせません。
想いや価値観などを共有できる関係性を
本音で話せる関係性を築くことは難しいと思います。船木さんは、どのように関係性を築いておられるのでしょうか?
「住まい」はあくまでも住む人が主役です。

住まい手の「こんな家に暮らしたい」という想いを優先させたいと思っていますが、私にも「見た目だけではなく、匂いや温もり、触り心地といった五感に気持ちのよい家にしたい」「国産材や自然素材を適切に使いたい」「家事のしやすい家にしたい」「耐震や断熱や防災といった性能はしっかりした建物にしたい」「周辺の地域やご近所にも配慮したい」といった多くの譲れない想いや信念があります。

お互いの想いや価値観などに共感・共鳴できる住まい手や工務店さん、大工さんと楽しく、よい家をつくっていきたいと思っています。

結婚のお見合いみたいな感じです。想いや価値観、めざす方向性が違うのに、無理に合わせようとしないほうがいいと思っていて、実際にお会いして「価値観が合うな」「話が合うな」と思う方々と一緒にお仕事をさせていただいています。

たとえば、「真っ白の新建材で、つるっとした、メンテナンスフリーの家がいい」というご希望なら、私よりも適した人を紹介することもあります。

家が完成した時、住まい手から「いいチームができましたよね」「建設現場で毎週会っていたのに、来週から会えないのはすごくさみしい」と言っていただけると嬉しくて、その後もメンテナンスなどを通して、住まい手と親戚づきあいのように良好な関係性を続けられたら、それが一番の喜びです。
最後に、近い未来、お仕事で実現したいことを教えてください。
喫緊の課題は、ウェブサイトやブログなどでの広報に取り組むことです。

「自分のしたい仕事をするためにはどうしたらいいのか=価値観の合う住まい手に自分のことを知ってもらうにはどうすればいいか」というのは、独立してからずっと課題としてありました。

これまでは幸い、知り合いや紹介がほとんどで、住まい手にも工務店さん、大工さんにも本当に恵まれて、価値観を共有できる方々とお仕事をさせていただくことができていました。

中には、「こんな家を設計してくれる人を探していたんだけど、なかなかフィットする人と出会えなかった」という声も聞きましたので、探している人がいるのに見つけてもらえないのは、ダメですよね。

世の中にたくさんいる設計士やメーカーなどの中から、砂粒みたいに小さな自分を見つけてもらえるように、知ってもらう努力をしなければと思っているところです。

そして、ゆくゆくしていきたいことがあります。

「暮らしの設計」とうたっているように、衣食住全般に渡って「暮らし」にまつわることをいろいろ提案できるようになりたいと、独立した時から思っています。

暮らしにまつわるコラムを書いたり、住まい手向けの勉強会を開催したりするほか、生活雑貨を扱うショップや食事も提供するカフェと設計事務所が一緒に協業し、生活者に役に立つ相談所のようなスペースも設けることが夢です。
profile
船木 絵里子さん
1995年に大阪市立大学生活科学部生活環境学科住生活学コースを卒業。同年にハウスメーカーに就職。1998年から都市基盤整備公団(現:UR都市機構)で業務委託契約スタッフとして勤務。2003年、岐阜県立森林文化アカデミーに入学。2005年に卒業した後、Ms建築設計事務所等での修業を経て、2010年に「暮らしの設計ツキノオト」を設立した。
一級建築士事務所 暮らしの設計ツキノオト
HP: http://tuki-note.com/
FB: TukiNote.LifeDesign
(取材:2020年4月)
editor's note
船木さんのお話をうかがって、本音で話し合える関係性を築くには、相手はもちろん、自分の想いや価値観、信念も大切にできることが必要なのだと思いました。そうすることで、自分自身にも矛盾なく、相手と関わることができるからです。

船木さんがそうできているのは、さまざまな経験の中で、感じたり思ったり考えたりしたことを大切にし、その中から芽生えてきた想いや希望を見逃さず、見ないふりもせず、実現できるように行動を起こしてこられたからだとも思います。

自分の想いや価値観、信念を知ることと、それに矛盾なくいられる場をつくること、その両方が大切なのだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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