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■関西ウーマンインタビュー(士業)


水島 幸子さん(弁護士/水島綜合法律事務所)

 
水島 幸子さん 弁護士/水島綜合法律事務所
平成14年10月に 弁護士登録(大阪弁護士会)。専門分野は医療紛争(民事・刑事)。独立行政法人 国立病院機構(近畿グループ)を始めとして、全国の公私立の病院、医院を幅広く依頼者とし、医療現場が直面している様々な課題に対し、患者の方々のために医療現場がどうあるべきかを常に念頭におき、医療機関側の代理人として、医療事故直後の対応や紛争解決に日々尽力するとともに、全国各地で、医療従事者向けの講演を行っている。
水島綜合法律事務所 〒530-0047 大阪市北区西天満4-10-4 新光西天満法曹ビル601
http://www.mizushima-law.jp
弁護士を目指されたきっかけは何ですか?
もともと検察官志望だったのですが、司法試験の合格後にお世話になった弁護修習先で、弁護士の仕事に魅力を感じました。その弁護修習先は、当時、大阪で四大事務所と言われていた内の2番目に大きな法律事務所だったので、幅広くいろんな案件を手がけていたこともあり、弁護士の仕事に非常にやりがいを感じました。

結局、その法律事務所で5年間、勤務弁護士として働きました。ありとあらゆる分野のいろんな事案が山のように入ってきていたので、毎週金土日どこかで徹夜するのは当たり前。弁護士登録をしてちょうど1年目に、初めて民事再生の事案を一手に任され、直属の上司が朝6時頃にメールチェックするのに間に合うよう、朝3時、4時まで仕事して、一旦、帰宅し、9時には出勤するという毎日。あまりに仕事しすぎて、ストレスからか、首全体に湿疹が出てしまいました。痒くもないし帯状疱疹でもないのですが、皮膚科に行けば行くほどひどくなる。そんな極度のストレスにさらされた状態で仕事をしていました。

弁護士登録して2年目、これまた直属の上司の指示で医療分野を集中的に取り扱うことになり、たまたま私が実働部隊に選ばれました。その事務所は、それまでその分野に特化していなかったので全部ゼロから。当然、仕事のやり方を指導してくれる先輩もいないので、ドクターとの打ち合わせから全て私1人。医療紛争の事件を全部私が1人でやることになったんです。
その後独立され、医療紛争を専門分野にされています。
医療紛争といっても、患者側ではなく100%医療機関からの依頼で、その中でも医療紛争案件の処理がメインです。医療の分野は専門性が高く、専門性が高ければ高いほど、難しいことを分かりやすく説明することが非常に重要で、実はすごく難しいんです。

専門家というものは、素人は何が理解できないか分からないからです。医療裁判となると、裁判官は医療に関して素人ですから、ドクターが間違った治療をしていないことを如何に素人である裁判官にわかりやすく説明することができるかが、裁判の勝敗を決めると言っても過言ではありません。

例えば「マスク」という言葉を聞くと、一般の方は紙のマスクを想定するかと思いますが、マスクにもいろいろあって、酸素投与のリザーバーマスクのことかもしれません。医療に関して素人の方が文章を読んで何を想定するか、誤解の無いように読んでもらえるためには、素人目線でものごとを考えていかないといけないのです。この分野を多く取り扱っていると、こちらも分かったつもりになってしまいがちですが、そうならないよう、「まず、素人である私を説得してください」と依頼者に伝えています。

依頼される医療関係者の中には、私が医療紛争をメインに取り扱っているということで、すごく過度な期待を持っている方もおられます。そういう場合はよけいに、「それって何ですか?それってどういうことですか?」と聞きまくります。説明しなくても分かってくれるだろうという甘い期待は、最初の5分で打ち砕いてしまうわけですが、裁判になるとこういう作業を求められるんだと、その大変さを分かっていただかないといけません。医療者側の代理人として、いわば「トランスレーター」に徹することを心がけています。
ご主人も弁護士でいらっしゃいますが、同じ案件を扱うことはありますか?
夫は32年間裁判官をしていましたが、3年前に退官後、弁護士登録をして私の事務所に入りましたので、今は私の部下です。もちろん同じ案件を扱いますから、方針が違うとバトルになります(笑)。夫は裁判官経験が長いのでどうしても裁判官の目線になりますが、それは良い面もあってそうでない場合もある。夫婦だから遠慮が無いので、他人よりも厳しく言ってしまうのかもしれませんね。

依頼者の前でも容赦なく議論しますが、「これは夫婦喧嘩じゃないですよ。議論ですから」と言っています(笑)。テレビで「行列のできる法律相談所」という番組がありますが、その番組の内容はともかく、弁護士4人がそれぞれ違う回答を出していますね。一般の方からすると答えはひとつだと思いがちですが、法律の世界では答えはひとつじゃない。弁護士が違えば、何に重点を置くか、何をどう評価するかで見解が違うということを、一般の方が知ることは良いことだと思います。

でももしこれが、例えば同期の弁護士だとしたら、とっくに分裂しているでしょうね(笑)。夫とは公私ともにパートナーなので24時間365日一緒ですから、意識的にプライベートと仕事を切り替えています。仕事は徹夜になっても事務所で仕上げ、自宅に一切仕事を持って帰らない。それを徹底するため、我が家では、自宅で仕事の話をすると「罰金」が科される制度を導入しています(笑)。
今弁護士になる方は増えていますが、やはり「専門性」は必要だと思われますか?
よくどのようにして専門性を身につけたのですかと聞かれますが、私自身これを目指していたわけではなく、たまたまなのです。初めて医療紛争の刑事事件を担当した時、非常に難しい事件でしたが、手探りながらも、結局、不起訴処分という、もっともいい結果を得ることができたんですね。

その事件処理を一緒に担当したその当時の病院の副院長(兼看護部長)が、たまたま発言力のある方だったこともあり、全国いろんなところでその事件のことをお話されたんです。

すると一気に全国から私のところに講演の依頼が来るようになりました。講演を聴講した方から「うちでも講演して欲しい」と呼んでいただいたり、事件の依頼も来たりと、どんどん仕事が仕事を呼びました。どんなに難しい事件でも、ひるまず、全力で立ち向かう。その積み重ねが信頼に繋がっていくのだと思います。

専門分野をやりたければ、そういう事務所に入ることが手っ取り早いと考える人もいますが、ショートカットしようと思うのは甘い。初めから特定の専門分野に限ってしまうと、視野が偏ってしまって逆に危険です。私自身、ありとあらゆる事件を扱う環境にいたことで、それまでの経験がこの分野で活きています。まずはジェネラリストになること。ジェネラリストというと、「何でもできます=何もできない」というイメージがあるようですが、弁護士である以上、何でもできて当たり前。その上で専門性は後からついてくるものだと思います。

弁護士過剰時代ではありますが、周りに振り回されることなく、目の前の一つ一つの案件に全力で誠実に取り組んでいれば、自ずと道は拓けます。それが、結果的に一流の仕事につながる。単なる精神論ではなく、現に私は今までそう信じてやってきたし、今もこれからも同じスタンスです。
女性弁護士の現状についてどう見ておられますか?
この仕事は悩んでいる人に寄り添い、解決をしていかないといけません。「これは負けるからおしまい」と割り切れない部分もあります。依頼者と共感するという部分は必要なので、女性の感性を活かせると思います。特に、女性のほうが細かいところまできっちりしますし、むしろ女性には向く仕事だと思いますね。

女性は弱者だとか、差別を受けたとか、就職が不利だとか、今いろんな話を聞きます。私自身も、弁護士登録をする前後の時期に、女性であることで不利益な扱いを受けたことが2回あります。詳しいことは差支えがありますので、ここでは述べられませんが、まだ駆け出しの身であったにもかかわらず、その2回とも、私自身、我慢できなかったし、おかしいものはおかしいと言わないといけない、今戦わないと絶対に後悔すると思ったので、自分自身で戦って、自分の身を守りました。

弁護士は社会的に人を守らなければいけない立場なのに、自分の身も守れない弁護士に誰も依頼しませんよ。女性だからということで不利益を受けたなら、自分自身で戦わないといけないと思うんです。「こんなこと言うと、もっと自分が不利益な扱いされるかもしれない」と思う人もいますが、覚悟をもって戦うことが必要だと思います。

こういう話をすると、「あなたは強いからだ」とよく言われますが、私は決して強くはありません。むしろ、弱いことを認め、その上で、覚悟を決めて、やるべきことをやる。弱いままじゃ「泣き寝入り」ですから。

幸い、それ以降、女性だから不利だと感じたことは1度もありません。むしろ、相談内容によっては女性じゃないとだめということもあります。例えば離婚問題だと、女性の依頼者は女性弁護士を希望されることが多いですし、男性の依頼者も、相手が妻なので、女性側の気持ちが分かる女性弁護士を望む方もいます。逆に男性弁護士じゃないとだめというのはほとんど無いと思います。

我々の仕事は専門職ですから、仕事の質が求められます。要は、一流の仕事ができるかであって、性別は関係ないと思います。求められているものに100出して当たり前。70や80なら誰でもできますし、誰でも良いのなら弁護士なんて山ほどいますから。依頼された一つ一つの案件に真摯に向き合い、一切の妥協を許さない仕事をすること。それが結果的に「一流」の仕事につながると確信しています。
ありがとうございました。
(取材:2015年4月 関西ウーマン編集部) 

 

 

 


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