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■関西ウーマンインタビュー(女性士業編)


中谷 めぐみさん(一級建築士/株式会社けんちくの種)

自分で考えて行動して得た「体験の引き出し」を増やす

中谷 めぐみさん
一級建築士/株式会社けんちくの種
夫婦で建築設計事務所を経営し、ホテルや商業施設など建築全般の企画・設計・監理を手掛ける中谷めぐみさん。

一方で設立当初から事務所を開放して、世界の手仕事布をめぐる旅展やガラス作品展、工作展など、中谷さんが企画した「衣食住+アート」に関わる作品展を年5回ほど開催しています。

さまざまな手仕事を紹介すること、あわせて手を使うワークショップを開催することは、中谷さんにとって大切な意味があることでした。どんな意味や想いが込められているのでしょうか。
「違い」におもしろさを感じて
建築に興味を持ったきっかけは?
子どもの頃、木登りが好きでザクロの木に登って実を食べたり先生を探したり、キャンプにもよく行っていて、ヨットのロープワークをおもしろがって取り組んでいました。

そんな活発な子どもだったからでしょうか。冒険ものが大好き。

『トム・ソーヤーの冒険』に登場するハックルベリー・フィンとロビンソン・クルーソーの木の上の家づくりに憧れて、拾ってきた枝とロープを使って木の上に床らしきものをつくったり、横穴を掘って洞窟らしきものをつくったりして、遊んでいました。

今思えば、建築に興味を持った最初のきっかけは、この秘密基地づくりだったのかもしれません。でも、この時にはまだ「建築」とは結びつかず、高校2年生までは大学で外国語を学ぼうと考えていました。

国立民族学博物館の展示を見るのも大好きで、いろんな国の人たちや暮らしに興味を持っていて、「同じ地球に住んでいるのに、どうして話す言葉に違いがあるのだろう?」と不思議に思っていたからです。

それが高校3年生の時に建築を学びたいと、いきなりの方向転換をします。
「言葉」への興味から外国語を学ぶつもりだったのが、どうして「建築」の道に?
前を通りかかったお店のウインドーディスプレーが、そこだけ日常とかけ離れて、まるで異国か異次元のような空間になっていて、「私もこんな世界観を持つ空間をつくってみたい」と思ったのが始まりです。

それからというもの、「空間」というものが気になって、梅田や難波に遊びに出かけても、空間の中に自分がポツンと立っていて、そのまわりをたくさんの人たちが行き交い、私はその様子を遠くから見ているという不思議な感覚を持つようになりました。

そんなふうに空間を俯瞰して捉え、様子を観察して「ここにいる人たちはどんな人だろう?」「この空間はどんな場になっているのだろう?」と想像して楽しむようになり、ますます空間づくりに興味を持ちました。

人々、暮らし、違い、空間づくりといったさまざまな興味が「建築」と結びつき、大学で建築を学ぶことに決めたんです。

一方で言葉やいろんな国に対する興味も強かったので、在学中も海外旅行やホームステイを経験するも、建築設計事務所に入所当初に「3年働いたら、私は世界一周旅に出ます」と生意気ながら宣言し、実際に会社を辞めてふらふらバックパッカー旅に出ます。

「いろんな国の人たちに会いたい」という気持ちから旅に出たのですが、「こんな建築をめざしたい」というものを見つける体験にもなったんです。
旅を通して見つけた建築に対する想いとは?
主に中南米やギリシャ、トルコ、エジプトなどを巡りました。生き物同様、建築もその地域ごとにさまざまでおもしろいなあと感じたんです。

特に印象に残ったのは、日本では「家は買える時代」になっていますが、世界を見ると自分たちでつくっている地域もまだまだ多いということ。村の人たちが協力して家をつくっている現場にも立ち会えました。

日本でも白川郷合掌造り集落では今もなお、かやぶき屋根のふき替えは村の人たちで協力して行っています。

建築を通して人と人がつながって、コミュニティが成り立っているのだなあと思い、建築にはその地域の土や風、光、水といった風土はもちろん、そこで暮らす人たちの歴史や関係性までもが表れているのだと実感しました。

「人と人とのつながり、コミュニティをつくる建築」を意識したのは、この旅が出発点だったように思います。
「私が体験しているこの時間」を独自のスキルとして
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
30代というさまざまな仕事を任されて飛躍していく時期に、仕事を辞めて出産しました。

そのため、まわりの同年代がどんどんスキルアップしていく中、自分だけが置いてけぼりにされているような気持ちになって、常に焦りがあったんです。

子どもはとても愛おしい存在で、子育てはおもしろいと思う半面、私が20代だった1990年代は今よりもずっと建築業界が「男社会」だったから、余計に焦りが強かったのかもしれません。

大学進学や就職活動時から男女格差を感じる場面があり、勤めた事務所には恵まれてさまざまなプロジェクトに関わらせてもらえたものの、現場では「女性」ということで厳しい反応を受けることがあって、「どうして男性ならいいけれど、女性だったらだめなのだろう」と思う場面もしばしば。

もやもやする気持ちがいつしか「男性に負けてたまるか!」という気持ちに変わっていたから、出産を機に仕事をいったん辞めた時、「私がこうしている今も」と仕事に対する焦りが強くて、「子育てをしている今」を純粋に楽しめなかったんです。

この状況を変えたいと、子どもが3歳になった時に仕事復帰をめざして保育所を探したのですが、どこも入所待ち。「入所前から働いていないと入所できない」と言われるけれども、子どもを預けることができないと仕事先も探せないというジレンマで、さらにもやもやとする日々。

結局、仕事復帰できたのは、子どもが小学3年生になってからです。
仕事復帰を望んでから、6年後に仕事復帰。スキルアップが止まる焦りを、その間も抱えたままだったのですか?
全身の五感を使う子どもと過ごす時間は、私にとって失ったものを取り戻す時間だと気がついた時、仕事への焦りが消えました。

稲穂の上で風がダンスするように輝く美しさ、蟻が巣まできれいに一列に歩いていく様子、木々の井戸端会議、暗闇の美しさ、耳を澄ますと聴こえる音色、昼と夜の空の色など、私が遠い昔に忘れてしまっていたことを次々と思い出させてくれました。

「私が体験しているこの時間」を「私ならではのスキル」に変えて、活かして仕事をしていけばいいと吹っ切ったんです。

幼稚園との出会いも大きかったのかもしれません。「子どもは身体全体を使って感じるから、五感で感じること」を大切にしていて、「偽物ではなくて本物に触れよう」と手づくりのものを中心とした暮らしを提案していました。

その考えに共感し、私も勉強しようと本を読んだり講習会に参加したりして、「手間をおしまず、五感を研ぎ澄ませ、丁寧に暮らすこと」の大切さを実感し、実践してきました。

人と暮らしに密着しているのが建築だからこそ、私が体験していることは「心地よい空間をつくること」につながるのだとも思えたんです。
建築と、コミュニティ、体験の場を組み合わせる
「中谷さんならではのスキル」を、仕事にどう活かせていますか?
夫と一緒に建築設計事務所を立ち上げた時、事務所内で「衣食住+アート」に関わる展示やワークショップを開催できるようにしました。

建築が人と人をつなげ、コミュニティをつくる、1つの形を提案したいと考えたからです。

これまでに、ガラスや木工、アクセサリーなどの作家さんによる作品展示、「世界の手仕事布をめぐる旅展」として西アフリカやルーマニア、中部ジャワ、ブータンの手仕事布を紹介する展示などを開催してきました。

私が「この人自身も、この人がつくり出すものも好き」「想いや考え方に共感できる」という方々にお願いしています。だから、作品だけではなく、つくり手や過程なども紹介したいと、作家によるトーク&スライドショーを開催することもあります。

また、子どもと暮らす日々の中で「手を使う」大切さを感じたから、手を使う体験をできたらとも考え、刺繍や楽器、作品づくりのワークショップを開催しています。
どうして「手を使う」というところに注目したのですか?
日本では、食べ物でも、洋服でも、おもちゃでも、何でも必要な物は、自分でつくらなくても何でも買える世の中になっています。

とても便利でありがたいことですが、出来上がったものがぽんと目の前にあると、出来上がるまでの過程やつくり手の存在が見えてこないのではないでしょうか。

子どもと向き合う日々の中で、暮らしの中に当たり前にあるものが、誰によってどんなふうにつくられているのかという過程とつくり手に対する想像力を養い、感謝できる心を育みたいと思ってきました。

話を聞いたり本で読んだりするより、自分で行動して体験するほうが何よりもいいと、私自身が海外を旅して感じたので、「これはこうだよ」と説明するのではなく、まるで空気を吸うみたいに「これはこうなんだな」と自分自身で感じてもらえたらいいなあと、だしをとる、わらびもちをつくるなど、日常の中で手を使って体験することを大事にしてきたんです。

そんな体験の場を、ここでも提供できたら、と。「こんなことをしたよね」という自分で考えて行動して得た「体験の引き出し」を増やしてもらえたらいいなあと考えました。

私は、その人が引き出しを増やすきっかけをつくり、その中に「何かが育つ種」をまくことしかできないけれど、そこから先はその人が自由に育て、その人の何かおもしろいこと、楽しいことにつながっていけばいいなあと願っています。

「体験の引き出し」が増えれば、それだけ体験を重ねているということでもあり、自分から一歩を踏み出す勇気や「なんとかなるさ」としなやかに強く生きる心持ちにもつながっていくのではないかなあとも思っているんです。

作品やその周辺のことを知らなければ企画も空間もつくることができないので、私自身が展示やワークショップを企画・開催することで、毎回引き出しを増やし、種をまいています。まだまだ知らないことだらけで、世界はおもしろいですね。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
自分の手を動かしてつくったものは、自然に愛着が湧いて、ぽんと与えられたもの以上に大事にする気持ちが芽生えるのではないかなと思っています。

今はホテルや商業施設を中心に手掛けていますが、住宅づくりにおいては、住まい手が家全体をつくるのは無理でも、どこか一部分でもつくることに関われるといいのではないかな、そんな仕掛けができないかなと考えています。

まずは、子どもたちに向けて日本の伝統的な手法で小屋をつくるワークショップを開催したいと考えているところなんです。
profile
中谷 めぐみさん
大学卒業後、アトリエ系建築設計事務所にて修行し、一級建築士資格を取得。1998年にバックパッカー世界一周旅に出て、主に中南米、ギリシャ、トルコ、エジプトを巡り、さまざまな民族や暮らし、自然と出会う。所持金がなくなったため、1年弱で帰国。帰国後、1999年にアトリエ系建築設計事務所に入所、2000年に結婚と出産を機に退職。2009年に内装工事会社のパート勤務を機に仕事復帰し、2010年に夫とともに「けんちくの種」を創業。2015年に法人格を取得し、「株式会社けんちくの種」を設立した。ホテルや商業施設などの建築物を手掛けるほか、「衣食住+アート」に関わる展示やワークショップを企画・開催している。
株式会社けんちくの種
HP: http://www.tane-design.jp/
BLOG: http://tane-design.seesaa.net/
(取材:2019年6月)
editor's note
「『百聞は一見に如かず』っていい言葉だなと思います。世界一周旅に出た時、資料や博物館で事前に調べて行ったものの、現地に立っているだけで、空気感や体温、人々が放つエネルギーなど言葉や写真からは伝わらないものを感じ、私もここに暮らす人の感覚を追体験しているような、そんな感覚になりました」ともおっしゃっていた中谷さん。

ご自身の子ども時代の体験や、世界一周旅で「その地で生きる人たちが、その地に合う住まいを手づくりしている」など見聞きした体験が引き出しとしてできていたからこそ、子育て中にさまざまなメッセージとして呼び起されたのかなあと思いました。

中谷さんが言う「自分で考えて行動して得た『体験の引き出し』」、「種」。

ただ引き出しを増やすだけではなく、その中にはどんな形にも育つ可能性のある種がまかれていて、それぞれで芽を出していって、花を咲かせたり実をつけたりしているものたちが、単体で存在したり、結びついたりしながら、豊かで楽しい風景を生み出しているイメージが、中谷さんのお話をうかがいながら広がりました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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