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■関西ウーマンインタビュー(士業)


奥田智恵子さん(一級建築士/一級建築士事務所 わびすき 代表)

自ら環境をつくっていけば、楽しく仕事ができる

奥田智恵子さん
一級建築士/一級建築士事務所 わびすき 代表
戸建て住宅をはじめ、店舗や医院、幼稚園、保育園などの建築物を手掛ける一級建築士の奥田智恵子さん。

今でこそ「ママ建築家」ということを前面に出しておられますが、3年ほど前までは「家庭の匂いを出さないようにしよう」と、事務所スタッフからも「子ども嫌いなのかな?」と思われるくらい、仕事最優先の働き方をされてきたそうです。

設立当初からスタッフを抱える経営者としてのプレッシャーがあったとともに、「男性と同じような働き方をしないと成り立たないという思い込みがあった」と当時を振り返る奥田さん。その思い込みを手離し、働き方を変えるきっかけになった出来事とは?
「理想の自分の家」を描き続けていた子ども時代
小学生の頃から理想の家の間取り図を描いておられたそうですね。
自分が住んでいる家が狭すぎて嫌だったんです。

1階に祖父母が暮らし、2階の6畳3室を家族4人で暮らしていたので、1室はキッチンやトイレなど、もう1室はリビング、最後の1室は寝室だから、常に4人一緒。

小学4年生くらいになると、自分の部屋がほしくなって、住宅のチラシを見ては「ここは私の部屋」「ここは妹、ここがお父さんとお母さんの部屋」と妄想するようになっていたんです。

それだけでは飽き足らなくて、理想の間取り図を1日1枚描くようになり、パースまでつくるようになって、どれだけ家が嫌やったんやろうって(笑)。それを見かねたからでしょうか。ついには、父が家を購入してくれたんです。

でも、熱は冷めず。引越先は新興住宅地で新しい家が次々と建っていくものですから、週末にオープンハウス見学に行くのが日課になり、「あの間取りがいい」「あ、こっちもいい」とほかの家を見て喜ぶという子ども時代でした。
その熱量が今につながっていると思うのですが、「建築士」という職業を意識したのはいつですか?
高校生になって文理選択を迫られた時でしょうか。

中学時代から演劇の劇団に所属していたので、将来は女優になるものと思っていたのですが、高校時代に「自分には華がないから、演劇は趣味でいい」と方向転換。

間取り図を描き、パースをつくっていたほどですから、絵を描くことも好きで、芸術関係の仕事もいいなあと、舞台美術に進むことも考えたのですが、自分は芸術家肌ではない。

そこでつながったのが建築です。法や予算など規制がある中でアートの要素も少しあるので、自分の中でいい着地点だった気がします。
目標を実現して建築士に。独立するきっかけは?
もともと、人に雇われるのが苦手です。

大学卒業後もすぐには就職せず、建築家ジェフリー・バワの建築を見るためにスリランカに渡り、現地の設計事務所で設計補助のアルバイトをしながら6カ月ほど過ごして帰国。その後、一級建築士事務所に就職するも、2年半後には、また海外逃亡。

それから前の職場となる工務店に就職しました。居心地がよい職場で、長男を妊娠したこともあって、「ここでずっと勤めるのかなあ」と思っていた矢先、産育休中に会社が倒産したんです。

この業界は、夜遅くまで、土日も関係ないので、生まれたばかりの子どもを抱え、新しい職場で働けるとは思えず。もう自分でやるしかないと事務所を立ち上げました。
「こうしなきゃ、あかん」というたがを外して
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
独立当時、建築士として超若手の31歳であり、女性であり、さらには子どもがいるというので、まわりから「片手間で仕事をしている」と思われるのではないかと不安でした。

建築の仕事は法律に関わるものですし、金額もめちゃめちゃ高額なので、しっかりとした人に頼みたいもの。だから、血液型がO型というだけでも「おおざっぱに見られないか」と気にしていたくらいで(笑)。

「片手間と思われたらいかん!」「家庭の匂いを出さないようにしよう」と決め、1歳になったばかりの子どもを遅くまで保育園に預けて、「打ち合わせは夜でも土日でも大丈夫です」と独身時代と変わらぬ働き方ができるように努めました。

独立から3年後には2人目を妊娠。つわりがひどくて、仕事の移動中に車を運転しながら吐く、打ち合わせの合間に吐く、帰って家族のご飯を吐きながらつくるというはた迷惑な生活を4カ月ほど続け、出産当日も4時間前まで普通に仕事。入院中も電話で仕事をこなし、退院した翌日から事務所で仕事をしていました。

今考えれば、なんて異常な働き方をしていたんだろうと思うのですが、建築の仕事は依頼を受けてから完成まで半年から数年かかるので、「つわりがひどいから」「産後でしんどいから」と仕事を断ってしまうと、前後しばらくの間、仕事がなくなってしまいます。

自分だけならまだしも、スタッフが2人いるので、給料が支払えないのは大問題です。「経営者には産育休制度がないの?」とハローワークに駆け込んだりもしながら仕事を続け、独立から7年目には3人目を妊娠。

年齢的なこともあってか、今までで一番つわりがひどく、体が言うことをききません。点滴を打ちながら打ち合わせに行く日もあり、止められぬ仕事と育児にさめざめと泣きました。
その状況をどのように乗り越えたのですか?
テレビであるタレントさんが「女性活躍と言われる時代の中で、がむしゃらに頑張って働いている女性がいるけれど、あの人たち、男よね。男性と同じように働いているだけで、女性が女性らしく働いている人なんていないわよね」と言っていて、「せやな」と思ったんです。

私も、男性と同じような働き方をしないと成り立たないと思い込んできました。でも、もう疲れた。ほかの人には、こんな働き方はすすめられません。

働く女性である私が、女性としての働き方を否定して、男性のように働いていたらいかん! このままやったら、いつまで経っても、女性が働きにくいやんか!

「働くなら、こうしなきゃ、あかん」と思い込んできたことがいろいろあるけれど、それって「自分が思うほどじゃないかもよ?」と試してみることにしたんです。

たとえば、夫がいない日の夜遅い仕事は事情を話して変更してもらう、子どもが熱を出した時はスタッフに代わりに行ってもらう。少しずつたがを外してみると、それで問題がありませんでした。

設立当初から働いてくれているスタッフが2人目を出産することになった時には、午前9時から午後6時までの定時勤務じゃなくてもいいんじゃない? 事務所に出勤しなくても、自宅勤務でいいんじゃない? などなど、いろんなたがを外していきました。

まわりを見渡せば、家庭の事情で働き方が制限されている女性がたくさんいます。助け合いながら仕事をしたら、もっとたくさんの仕事と出会え、もっとたくさんの人に喜んでもらえるのではないかと思い、ママ建築士のネットワークもつくりました。

自ら環境をつくっていけば、楽しく仕事ができるんだって思ったんです。
今の状況で、自分ができることから
世の中に対して不平不満をもらしながらも「仕方がない」と諦めてしまいますが、奥田さんはどうして「なければ、自ら環境をつくろう」と思え、実行にも移せたのですか?
過去の経験上、文句を言っていても何も変わらないし、事態は好転しないと思っているからです。

前の職場で、良かれと思って「ここはダメ」「あそこもダメ」と会社の改善点を社長に伝えていましたが、その会社をどうするのかを決めるのは私ではなく、社長ですし、たとえ意見が採用されて会社の環境が変わったところで自分も率先して動かないと、状況は変わらないと痛感する出来事が何度もありました。

もちろん、不平不満、文句は言ってしまう(笑)。言うけれども、環境のせいにして嘆いていてもキリがありません。何でもやりやすい世の中なんてありませんし、「いつか」を待っていたら、私も年を取ってしまう。

今、この状況の中で、何ができるのかを考えてやっていくしか仕方がないと思っているから。そこで、私はデメリットではなく、メリットに目を向けるように意識してきました。
「デメリットではなく、メリットに目を向けて」とは?
たとえば、私が独立当時に壁と感じた「女性」「子どもがいる」という部分は強みでもあります。

建築業界は男性の人数が圧倒的に多いのは確かです。事務所1カ所につき、管理建築士という役職が1人いて、2年に1度講習を受けるのですが、出席者は見事に年配の男性が9割、0.5割が若手の男性、残り0.5割が女性です。

女性はそれだけ少数派で働きにくいんですが、逆をいえば、それだけ貴重な存在でもあります。

ウェブサイトをリニューアルするにあたって、お客さまにどうしてご依頼くださったのかをアンケート調査したら、圧倒的に「女性だから」「主婦だから」という意見が多く、「主婦目線でアドバイスをしてもらえるんじゃないか」「同じ主婦同士、話がしやすそう」みたいな期待がありました。

実際に、照明の明るさや棚の高さ、各所の部品といった細かなところまで、女性であり、子育てをしている私だからこそ提案できることがあり、お客さまにも喜んでいただいているので、「ちょっとぶりっ子かな」と思いながらも、今は「ママ建築家」を打ち出しています(笑)。

もともと、すごくマイナス思考ですし、めちゃめちゃ思い悩むタイプなので、後ろを振り向いたら不安しかありません。自分を鼓舞させるためにも「プラスに、プラスに」「メリットを、メリットを」と意識して、今があります。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
2019年秋に自宅兼事務所を建て直します。これまで「わびすき」で家を建ててくださった人、これからお客さまになるかもしれない人が集える場としても開いていきたいと考えているんです。

「『わびすき』で家を建ててよかった」から先も、「いろんな子育ての話も聞けた」「イベントに参加したらおもしろかった」など、衣食住に関する情報を発信したり、イベントを開催したりして、「『わびすき』と出会って、暮らしがちょっと豊かになって楽しい」と思ってもらえたら嬉しいなあって。

それが集客にもつながるのではないかなと考えています。

お客さまからのクレームもなく、10年も続けてくることができました。これまでのお客さまとは今も良好な関係が続いているので、そのつながりから仕事が広がっていくのが、広告や宣伝するよりも、1番いいのではないかなあと思っています。

それは経営者として実現したいことで、個人的には、旅を通して異様に好きになったバリでヴィラを建てて暮らしたい。

「大自然の中で、自然に対して謙虚な、もう自然に浸食されているような建物にしたいなあ」「日本の子どもたちを受け入れて、自然の中で暮らすことや異文化と触れ合うことを体験してもらう場にしてもいいなあ」など妄想は膨らむばかりです。
profile
奥田智恵子さん
2000年に京都府立大学生活科学部住居学科を卒業後、建築家ジェフリー・バワの建築を見るため、スリランカへ。現地では6カ月間滞在し、設計事務所で設計補助のアルバイトをしながら、建築巡りをする。2001年に帰国後、一級建築士事務所に入所し、草屋根の住宅や医療施設の設計に携わる。2004年に退職し、ヨーロッパやアジアの国々を巡る旅に出る。2005年に工務店に入社し、住宅や店舗の設計に携わる。2008年に会社倒産および長男出産を機に独立を決意し、自宅兼事務所の建築を始める。2009年に「一級建築士事務所 わびすき」設立した。
一級建築士事務所 わびすき
HP: http://www.wabisuki-arc.jp/
BLOG: http://wabisuki-arc.jp/event/category/wabisukiblog/
FB: wabisukiark
(取材:2019年3月)
editor's note
「住んでいる家が狭すぎて嫌だ」という気持ちから、住宅のチラシを見て妄想するところから始め、次第に自分で理想の家の間取り図を描くようになり、パースまでつくるようになったという奥田さんの子ども時代。「なければ、自ら環境をつくる」という原点が、そこにあるように思いました。

世の中として「これはこういうものだ」とされているものがあります。その中で生きていると、自分も「これはこういうものだ」と思い、いつしか「こうしなければならない」と、世の中にではなく、自分で自分自身を縛りつけていることはないでしょうか。

でも、本当にそうなのか?

世の中の流れとしてそうかもしれないけれど、ほかにできるのではないか。できないかもしれないけれど、その「できない」の中にも、さまざまな側面や方法が残されているのではないか。

視点や発想を転換することで切り拓いていけるものがあるのだと、奥田さんのお話をうかがって思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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