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■関西ウーマンインタビュー(社会事業家編)


伊藤 寿佳子さん(アトリエSUYO)

楽しい「事」と「人」に出会って、気づいたら今がある

伊藤 寿佳子さん
「アトリエSUYO」主宰 
JR玉造駅から徒歩3分ほどのところにある「アトリエSUYO(スヨ)」。木のぬくもりを感じさせる佇まい、アトリエ内には織機や色とりどりの糸が並んでいます。ある時は、マイクや音響機材が並ぶ音楽スタジオに変わるそうです。

ここを主宰する伊藤寿佳子さんは、手織り作家であり、「大阪チャチャチャバンド」のリーダーでもあります。

「楽しい『事』と『人』に出会って、気づいたら今がある」と振り返る伊藤さん。「ムツゴロウ動物王国」で働くことが中学時代からの長年の夢だったと言いますが、どのようにして「手織り」と「音楽」と出会い、ご自身にとって欠かせない2本の柱とされてきたのでしょうか。
そのままの自分を認められる「さをり織り」と出会って
以前は繊維会社で企画営業をされていたそうですが、織物に興味を持つきっかけは何だったんですか?
中学時代からの夢に挫折して、たまたまご縁があって就職したのが播州織物の会社だったんです。これが織物との出会いになります。

余談ですが、その中学時代からの夢というのは「ムツゴロウ動物王国」で働くこと。私は生まれも育ちも大阪で、父が病気がちだったので旅行にも連れて行ってもらえず、教科書でムツゴロウさんの自叙伝を読んだ時、北海道、大自然、冒険と「日本にこんなところがあるんだ!」と感激したんです。

短大時代には「ムツゴロウ動物王国」のある北海道に何度も通い、働けるかもしれないチャンスにも恵まれたんですが、目前で叶いませんでした。

大阪に戻り、就職先を探していたら、とんとん拍子に就職先が決まったんです。
今につながる原点は「夢の挫折」と「たまたま」だったんですね。
たまたま就職したのですが、働いてみると、企画営業の仕事が楽しかったんです。

さらには会社に頼み込んで、イタリアに半年間留学したところ、グラフィックでのテキスタイルデザインを学ぶ目的だったのに、手織り作家のグラツエラ・グイドッティさんに師事したのをきっかけに、手織りの楽しさにめざめてしまいました。

会社で取り組んできた制約の多い工業デザインとは違い、手織りは自由。肩の荷を下ろし、自分自身の意思で自由に織れるから、これは「楽しい!!」と。手織りを仕事にできたらいいなあと思いながらも仕事にするのは難しいだろうと、帰国後は趣味として続けることにしました。

糸を探してお店を巡る中で、「さをり織り」創始者である城みさをさんと出会ったんです。

さをり織りは「自分が本来持っている感性の赴くままに織ることを楽しもう」「作品を織るのではなく、自分を織る。その人にしかできないものが出来上がるので、素晴らしい」「失敗もミスもそれがデザイン」という城さんの発想や想いから生まれた手織りの手法です。すっかり心魅かれて、会社帰りに教室に通うようになりました。

結婚を機に播州織物の会社を退社すると、さをり織りの会社に転職したんです。
「さをり織り」の魅力とは?
さをり織りを通して自分を表現でき、それを認めてもらえたことで、「そのままの自分でいいんだ」と自分自身も認めてもらえた気がしました。「そのままの自分を出してもいい場所が見つかった」と嬉しくもあったんです。

それからは、取り組めば取り組むほどに手織りの奥深さを感じています。せっかく手織りしたものを使い捨てるようなことはしたくないから、何年経っても着続けられるものをつくりたいと模索する中で、繊維の耐久性が強くなるベンガラ染めをするように。

最近では、自然素材から繊維を取り出し、糸をつむいで織り上げる日本古来の自然布づくりに取り組んでいます。たとえば、大麻でつくる自然布は時間を重ね、使い込むほどにまるでシルクのような質感になり、100年先も愛していけるものだと知ったからです。
演奏を通して、心と心が出会う
手織りと、もう1つの柱「大阪チャチャチャバンド」。バンドを立ち上げるきっかけは何ですか?
さをり織りの会社が立ち上げたNPO法人では、就労継続支援B型施設を運営していて、障害のある人たちがさをり織りで布や作品をつくって販売するという仕事の場になっていました。

私はその事業所で手織りを教えていて、作業の合間のレクリエーションとして音楽活動を取り入れることにしたんです。

個人的に、南米の笛「ケーナ」と出会ったことをきっかけに、ペルーのミュージシャンに笛を習ったり、南米のボリビアに渡って現地で暮らす友人家族と1カ月間旅したりしたこともありました。その友人が日本に移住してきたタイミングで、バンド活動をするようになり、その延長線上で事業所内でも障害のある人たちと一緒に音楽活動を始めたんです。

クリスマス会で演奏したところ、本人たちも家族も大喜び。数カ月後に世界中のアーティストが集まる「アートパラリンピック長野」があるということで、そこでも演奏しようと、知人のプロミュージシャンも誘って、「キンキ雑楽団」というバンドを結成しました。

良かれと思って、お声がけがあれば、日本各地はもちろん、アメリカやイギリス、スペインなど海外にも出向いて音楽活動をしていたのですが、だんだんと事業所に居づらくなってきたんです。
「事業所に居づらくなった」とは?
もともとは手織り作業の合間のレクリエーションだったのに、音楽活動の割合が大きくなりすぎてしまっていました。さをり織りがメインのNPO法人内での活動ですから、手織りの作業と音楽活動のバランスを考えて動かないといけなかったんだと今は思います。

事業所内で練習しづらい雰囲気になり、私がやってきたことは間違っていたのかと反省して落ち込んで、心も体も動かなくなってしまいました。

そんな私を支えてくれたのが、知的障害のあるメンバーです。「音楽活動は楽しいから続けたい。そのためにはどうしたらいいのか?」と言ってくれました。「伊藤さんがかわいそう」という同情ではなく、「楽しいから続けたい、大事にしたい」という想いにハッとして、悲しんでいる場合じゃないと思ったんです。

みんなと相談した結果、音楽活動に積極的なメンバーとともに独立することにしました。

実はNPO法人を含めてさをり織りの会社でお世話になった25年間、離婚していったん退職していた時期がありました。再びお世話になることになった時に、半分「組織人」、半分「フリー」という感じで、会社やNPO法人の仕事をしながらも、自宅を改装して「アトリエSUYO」を開設し、アトリエで教室をしたり、障害のある人たちの事業所を訪問して講師をしたりしていたんです。

私の生徒さんの1人が「あまのたね」というNPO法人にいたので、ありがたいことに「アトリエSUYO」をそのNPO法人の分室として就労継続支援B型施設にし、バンドを継続できる体制を整えることができました。その時に「大阪チャチャチャバンド」と改名したんです。

現在、手織りの活動だけは9人、音楽の活動だけは5人、両方は7人の方が利用してくださっています。手織りなら作品の売上を、音楽なら演奏の報酬やグッズ販売の売上を給料として支給する仕組みになっているんです。
組織から離れてまでバンドを継続。伊藤さんにとって、「大阪チャチャチャバンド」で音楽をする楽しさとは何ですか?
「一糸乱れぬように」「練習通り」ではなく、違いを楽しみながら演奏できることです。音楽も、織物と同じで、縦糸は決まっていますが、横糸は自由なところが楽しい。

ボーカルのポエちゃんが歌う主旋律が縦糸で、ほかのメンバーのパートは横糸になるので、「私はこう入ろう」「お!そう入るなら、私はこう」と、人それぞれ、その時々で自由に演奏しているんです。

「うぃーーーっ」とホイッスルを吹く、知的障害のあるeriちゃんは、吹くタイミングがちょっとずれているんですけど、彼女の気持ちとしてはリズムに合わせているのがわかるし、そのずれているリズムが私たちにとっても心地がいい。曲の最後に「ぺっ、ぺっ、ちゃん!」というリズムで終わる時は、eriちゃんも「ぴっ」とちゃんと終わって、eriちゃんにとってそれが楽しいことが伝わってきます。

私も含めてメンバーそれぞれ、自分が入るところで入り忘れたり、途中から入ったり、テンポがおかしくなったりすることもありますが、それは「失敗」ではなくて「違い」と考えています。

「そうくるなら、こう」「じゃあ、ああしてみよう」とその時々の、それぞれの違いを楽しみながら、自分の音楽を奏でて、そんな一人ひとりの音楽が重なり合っていく瞬間がすごく楽しい。演奏しながら、心と心が出会っていく感じがするからです。

聴いてくれた人たちも喜んだり楽しんだりしてくれているから、それはちゃんと伝わっているのかなあと思っています。
「楽しむ力」を大切にしたい
手織りと音楽、どちらかではなく、どちらも柱にしているからこそのよさはありますか?
手織りは30年以上、「大阪チャチャチャバンド」は20年。ここまで継続できているのは、そのどちらもあるからだと思うんです。

織物は自分一人でもくもくと織り、出来上がったものは物体として形に残ります。音楽はみんなと交流しながら演奏して、その場限りの音としてしか残りません。違うエネルギーがあって、エネルギーの出し方も違うから、どちらもあるのがいいのかなあと思っています。

また、楽しく音楽活動できているのは、「そのままの自分でいい」「自分の感性を自由に出してもいい」「失敗しても大丈夫」という考え方のさをり織りを通して出会った仲間だから、アットホームで安心できる関係性ができているんです。

さをり織りから「大阪チャチャチャバンド」につながって、さらには「大阪チャチャチャバンド」の音楽活動を通して地域とのつながりができました。私の人生に「地域活動」も加わって、ますます大変だけど、楽しいことが増えています。
伊藤さんがお仕事をされる中でいつも心にある「想い」は何ですか?
それぞれの楽しむ力、「楽力(らくりょく)」を大切にしたいということ。障害のある人たちと一緒に手織りをしたり、音楽活動をしたりする中で気づいたのは、楽しむことの大切さです。

彼らは楽しかったら、機嫌よく参加してくれます。反対に厳しい練習をしたり、「頑張れ!」と言い過ぎたりするとだめですし、「お金になるから」「偉い人が褒めてくれるから」ということにも、練習か本番かということにも、興味がありません。

その瞬間瞬間が楽しいか、楽しめるかどうかが大事で、楽しむ力が素晴らしいんです。

私自身のこれまでを振り返っても、楽しい「事」と「人」に出会って、気づいたら今があります。自分がまず楽しむことが大事だと思うんです。
近い未来、お仕事で実現したいことは?
みんな違って、みんな良い。競争ではなく、できることをお互いに出し合い、学び合えることで世の中が成り立っている実感を、さをり織りや音楽活動を通していただくことができました。その大切さ、楽しさを伝えていきたいと思っています。

まずは年内に、「アトリエSUYO」の利用者とスタッフの織染作品発表と、「大阪チャチャチャバンド」のライブを合体したイベントを開催したいですね。
profile
伊藤 寿佳子さん
夙川学院短期大学美術学科デザインコース卒業後、大阪の播州織物の会社で企画営業を5年勤める。在職中の1989年に、イタリア・フィレンツェのアートスクール(Academia Italiana Moda)に半年間留学し、手織り作家グラツエラ・グイドッティ氏に師事した。帰国後、結婚して前職を退職し、さをり織り会社のスタッフになる。途中、離婚により、一度退職。その後、さをり織り会社や関連NPO法人の仕事をしながら、フリーランスとしても仕事を始める。1995年に織体験工房「アトリエSUYO」をオープン。1998年に「大阪チャチャチャバンド」の前身となる「キンキ雑楽団」を立ち上げた。2013年に「アトリエSUYO」を就労継続支援B型施設とし、バンド名を「大阪チャチャチャバンド」に改名した。以降は手織りと音楽の2本柱で展開。地域活動にも取り組み、「みんなの学校 第1回 全国大会」を立ち上げたり、「ひがしなり街道玉手箱」で実行委員長を務めたりなどしている。「ひがしなり街道玉手箱」は、東成区で7年続いており、今年から一新、なんか凄いことになって変わる事にワクワクしている。
アトリエSUYO
大阪市東成区東小橋1-2-16
TEL:06-6972-5855
HP: http://www.suyo.info/
FB: suyo.cha.cha.cha
(取材:2018年4月)
editor's note
楽しむ力、「楽力」。伊藤さんにうかがったお話を一つひとつ思い出しながら、その言葉につながっていきました。

まずは自分が楽しむこと。自分が「楽しい」と心のゆとりにつながり、誰かの「楽しいこと」も大切にできるのではないでしょうか。自分が「楽しくない」と心のゆとりがなくなってしまうため、楽しそうにしている人を妬んだり、相手が楽しんでいることを素直に喜べなかったりするように思います。

「楽しい」と思えることばかりではないですが、その中でもどう楽しめるか、楽しもうとするか。「中学時代からの夢に挫折」「夢の挫折からの、たまたま決まった就職先」という、場合によっては気持ちが腐ってしまう状況でありながら、それら一つひとつが今につながっているのは、伊藤さんの楽力によるものだと思います。

「決まっているもの=縦糸」はありながらも、「自由にできるもの=横糸」がある。「ここはちょっとしんどいけど、ああしたら、どうだろう」「ここは苦手だけど、こうしてみたら」など、横糸の部分で楽しむ工夫をしていきたいなあと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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