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■関西ウーマンインタビュー(女性経営者編)


角井 美穂さん(角井食品株式会社 代表取締役社長)

私が行動を起こすことで少しでもよくなるなら、私がする

角井 美穂さん
角井食品株式会社 代表取締役社長
市内のベーカリーショップ向けのサンドイッチ製造から始め、現在ではコンビニエンスストアや駅、学校の売店、コーヒーショップなどのサンドイッチやおにぎり、弁当、惣菜を1日2万食ほど製造する角井食品株式会社。

現社長の角井美穂さんは、創業者のお父さまから2016年に事業を承継した2代目です。当初は「父の会社で」という想いはなく、前職を辞めた後、次のことを何も決めていなかったので、「親孝行を少ししてみようかな」という軽い気持ちで入社されたと振り返ります。

それから今年で17年。現在では「年々、仕事に対する熱量が増えていく」と話す角井さん。既存事業とともに、サラダとおかず、ごはんを層にして重ねて瓶詰めした「デリボトル」の開発、添加物不使用で日持ちする食品製造について大学と共同研究、企業内学童保育の開設など、新しいことにも取り組んでいます。

事業承継の意思がないところから現在に至るまでに、どんな想いの変化があったのでしょうか。自分の仕事として続けていく覚悟を決めた理由とは?
少しの「親孝行」のつもりが、17年
大学卒業後、大手食品メーカーでの営業職を4年経験した後、お父さまの会社に転職されています。いずれは「お父さまの会社で」とお考えだったのですか?
まったくなかったんです。

同じ食品業界に就職していたのは、大学生の時には「こんな仕事をしたい」という希望を持っておらず、そもそも働いてみないと向き不向きなんてわからないという考えもありましたから、父からすすめてもらった大手食品メーカーに就職してみることにしました。

入社前に父と「最低3年間は勤務する」「給料の3倍の価値がある仕事をする」「飲みの誘いは断らない」と約束していたので、それを全うして26歳で退社。

まだ若かったからでしょうね。「飽きた」というような自分勝手な理由で辞めて、次のことも考えていなかったから、この機会に親孝行でも少ししようかな、と。

高校時代の3年間と大学時代の10カ月ほど、海外留学させてもらうなど好き勝手させてもらってきたので、働くことで多少なりとも役に立てればいいかなという軽い気持ちで入社したんです。
最初は軽い気持ちだったそうですが、それから今年で17年。いつから「この会社で」という覚悟が決まったのですか?
入社してみたら、とにかく忙しくて、続けるとか辞めるとか考える暇がありませんでした。

コンビニエンスストアや駅、学校の売店、コーヒーショップなどのサンドイッチやおにぎり、弁当、惣菜を製造しているので、工場は24時間365日体制で稼働しています。従業員120人のうち、正社員は16人ほどと少数気鋭ですから、次から次へとやるべきことが。

さらには、売上の8割を占めていた大手コンビニチェーンとの取引がなくなるといった大変な事態にも直面しましたから、目の前の仕事に対してずっと「やらなあかん」「ここの家の子に生まれたんやから、私がやらなあかん」という感じで、日々仕事をこなしていたら、できることも任されることも増え、今に至っています。

大変さや忙しさに流されるままに「仕事をこなす」だけだったのが、「経営を意識する」ようになったのは33歳の時です。

30歳で常務取締役工場長になり、社長である父に付いて打ち合わせや会合に同席したり、父の代わりに経営者の勉強会に参加したりするようになりました。

父の経営に対する考え方や姿勢に触れたり、経営者の勉強会で京セラ創業者の稲盛和夫さんの考えや教えを学んだり、ほかの経営者のお話を聞いたりする中で、自分の意識や視点が変わってきたんです。
意識や視点が、どう変わったのですか?
「大企業から中小企業への転職組あるある」でもあると思うのですが、入社当初は規模も売上も大きい大企業のほうが社会への影響や貢献度合いも大きいと思っていましたし、中小企業は日々の業務に追われるばかりで社会の役に立っているのかが疑問でした。

でも、それは大きな間違い。

企業規模に関係なく、しっかりと経営して、いい会社にすれば、社会の役に立てます。大企業だからできることもあれば、中小企業にしかできないこともたくさんあります。

たとえば、弊社では世の中で「ダイバーシティ経営」が叫ばれる以前から実践しています。

30年前から知的障がいのある人を雇用し、現在は精神障がいのある人も含めて9人が働いているほか、海外からの正社員雇用や外国人実習生の受け入れ、65歳以上になっても働きたい人の継続雇用なども行ってきました。

また、従業員一人ひとりの人生が豊かになることを願い、ささやかながら、全従業員のお誕生日にはバースディカードを手書きして渡すようにもなりました。

大人になるとお誕生日を祝ってもらえる機会が減りますから、一緒に喜び合えたらいいなあと、6年前から始めました。従業員から「6枚、ちゃんと保管しています」と言ってもらえた時は嬉しかったですね。

中小企業だからできることがあって、その可能性を知れば知るほどに、弊社にしかできないことを見つけて研ぎ澄ましていこうと思うようになりました。
本質を守りながらも、新しい発想や方法を取り入れて
2016年に社長に就任されました。いつから事業承継を意識されていたのですか?
社長就任の1年前です。役職に興味がなく、弟もいますから、「継ぎたい」とは思っていませんでした。

ただ、父が70代に突入すると、現場に出たり、社員とコミュニケーションを取ったりすることが以前のように活発に行えなくなってきているのを感じるようになったんです。

常務取締役の私が社長のフォローなども担っていたので、社長を交代して、創業者である父には会長として並走してもらうといいのではないか、と。

そうすれば、大事なことを会長に相談できるので、会社にとってもいいと判断し、父が72歳、私が40歳の時に、社長を交代しました。
これまでに、どんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
一番大変だったのは、常務取締役工場長時代に経験した「売上の8割を占めていた大手コンビニチェーン1社との取引がなくなったこと」でしょうか。

退職者もたくさん出ましたが、残ってくれた人たちと一緒に新しい仕事を開拓したり、一社依存の体制から脱却したり、工場内のルールや生産体制の改善点を洗い出して取り組んだりしたことで、新たなことにトライでき、会社として成長する機会にできました。

そのほか、日々いろいろなことがありますから、挙げると切りがありません。ただ、0から立ち上げた創業者の父に比べると、2代目の私は100倍楽だと思っています。
2代目だからこそ、創業者の意思を引き継ぐ難しさなどがあるのではないでしょうか。
やっぱり父娘だからでしょうか。どこかで「私もしっかりしないといけない」という気持ちがあったからか、30歳前後から「父であれば、どう考えて判断するのか」と考える習慣があったので、その難しさはありませんでした。

意見が異なった時は、父の意見を受けて、自分でもう1度考え直して判断するということを繰り返してきたので、今は意識しなくても自然にそうできるようになっています。

そもそも、父の経営に対する考えや姿勢の根本には、私自身も学んでいる京セラ創業者の稲盛和夫さんからの教えがあり、「食文化の創造を通じて、社会に貢献し、全従業員の幸せを実現する」という経営理念がありますから、それらに基づいて社会全体のことを考えれば、あまり悩むことはありません。

無理なく、そう思えたのは、私の中に「既存を壊して新しいことをしたい」という想いがないからかもしれません。

長年続いてきたということは、それだけ「いいもの」「必要とされているもの」だから、その本質を大事にしたい上で、新しい発想や方法を取り入れていきたいという考えを持っています。
昨年よりも今。年々、仕事への熱量が増えていく
最初は軽い気持ちからのスタートだったのが、強い想いに変わっておられますね。
今では、この仕事は尊い仕事だと思っています。

私たちがつくる食品は、人々が口にするものであり、人々の命を育むものでもあります。一歩間違えれば、人々の健康を害したり殺したりしてしまう可能性もあるので、常にその意識を持って仕事をしなければならないと思っています。

より強く意識したきっかけは、私自身が大きな病気をして1カ月入院した時のこと。

手術後1年ほどは以前のように食べることができなくなって痩せてしまい、人間の身体は食べ物でできていることを改めて痛感。「便利でおいしい」だけではなく、健康にも貢献できる食品をつくっていきたいとの想いが強くなりました。

そういうふうに年々、仕事に対する熱量が増えていっているんです。今の私から見ると、1年前の自分も、2年前の自分も、熱量が全然足りないと思ってしまいます。
年々、仕事に対する熱量が増えている理由は?
誰も取り組んでいないことに取り組めているという実感があるからでしょうか。

たとえば、自分たちがいいと思う自社商品をつくろうと、数種類のコンフレークを瓶詰めした海外商品からアイデアを得て、サラダとおかず、ごはんを層にして重ねて瓶詰めした「デリボトル」を開発したり、食品廃棄や健康問題に対応すべく添加物不使用でも日持ちする食品製造方法を確立したいと大学と共同研究したり。

働く環境づくりにおいても、たとえば近年、「企業内保育所」を設置するところが増えていますが、弊社では社内に学童保育ルームを設けています。

パート勤務の従業員がお子さんの小学校進学にあたり、市の学童保育を利用したくても、半日勤務のパートでは優先度合いが低いため、待機児童になってしまうため、本人はこれまで通り働きたくても、午前中の数時間しか働けなくなってしまったからです。

学童保育の場合、放課後に子どもが自力で会社まで来なければならないという課題がありましたが、地元タクシーと契約して小学校からの送迎システムをつくって解決。

最初は1人のためから始めた学童保育でしたが、長期休暇時に利用する従業員がいたり、学童保育があるということで新たに勤務希望者からの応募があったりしています。

そんなふうに、必要性はあるけれど、コストや手間がかかって誰も取り組んでいないことに対して、アイデアを考えて実現することにより、誰かや社会の役に立っているという実感が、仕事に対する熱量につながっているように思います。
さまざまなことにトライされる原動力は何ですか?
ただ「やってみたい」「儲けたい」だけですることはありません。

仕事に取り組む中で見えてきた課題に対して、私が行動を起こすことで誰かや社会に少しでもいい影響があるのなら、私がしてみようとの想いでいます。「できるか、できないか」は別として、トライできる状況にあるのなら、トライしなかったらもったいない。

もちろん、失敗することはたくさんありますし、諦めたほうが楽なこともたくさんあります。

でも、諦めずに「これを実現するためにはどうしたらいいか」「もっといい方法はないか」と考え続けていれば、失敗もいずれは成功につながっていくのではないかな、と。これは自分にも言い聞かせていることです(笑)。

企業の経営者は責任が重く、しんどいこともたくさんあります。でも、自分が経営する会社を通して人々を幸せにできる可能性があるというのは素晴らしいこと。これからも弊社にしか取り組めない方法で、誰かや社会の役に立つことをしていきたいですね。
profile
角井 美穂さん
高校時代の3年間と大学時代の10カ月ほど海外留学を経験。大学卒業後、1998年に大手食品メーカーに就職し、営業職として4年間勤務。2002年に父の会社である角井食品株式会社に入社。営業と品質管理を担当した後、2005年から常務取締役工場長となる。2006年には関西学院大学大学院商学研究科に2年間、夜間通学してMBAを取得。2016年7月に事業を承継し、代表取締役社長に就任した。
角井食品株式会社
HP: http://www.kakui-food.com
(取材:2019年5月)
editor's note
「私が行動を起こすことで誰かや社会に少しでもいい影響があるのなら、私がしよう」という角井さん。

シンプルなことのようで、実は難しいことなのではないでしょうか。必要性を感じながらも、自分の都合を優先したり、他人に任せたり、「現実はこういうもの」「仕方がない」と諦めたり、行動を起こす前にさまざまなものが壁として立ち現われてくると思うからです。

角井さんが巡り合った一つひとつの仕事や出来事に対して「必要ならやってみよう」という気持ちで向き合えたのは、もしかしたら「大学生の時には『こんな仕事をしたい』という希望を持っておらず、そもそも働いてみないと向き不向きなんてわからないという考えもありました」(角井さん)と、どんな可能性も否定せず、ウェルカムな状態だったからかもしれません。

「『できるか、できないか』は別として、トライできる状況にあるのなら、トライしなかったらもったいない」という角井さんのメッセージともつながっていると思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

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