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■関西ウーマンインタビュー(会社経営)


白石 紗苗さん(白石海運株式会社 取締役/内航海運業)

白石 紗苗さん 白石海運株式会社 取締役/内航海運業
大学卒業後、輸出商社に就職主に中国向けの輸出業務担当する。平成22年、海運業を学ぶため、徳島県の株式会社旗山マリンに転職、乗組員の派遣業務に携わる。平成24年、祖父の創設した白石海運株式会社入社、取締役に就任。三代目の後継者として勤務中
内航海運業とは、どんなお仕事ですか?
私の祖父の代から営む内航海運業で、所有する船の安全管理や船員管理を行っています。内航海運業とは、国内の海を航海する船を扱う仕事で、弊社の場合、石油基地から工場に重油を運ぶ船と、外国の貨物船や客船に海の上で給油する船の2種類があります。危険物を運んでいるので安全管理が厳しく、陸上で安全管理マニュアル等の書類管理や、船で作業を行う乗組員の指導、配乗業務の仕事が主になります。海技士免許を取得していますので、月に数日は乗組員として乗船しています。
白石さんは三代目を継がれるそうですが、いつから継ごうと思われたのですか?
子供の頃から船が好きで、高校時代、大学進学よりも自衛隊、特に海上自衛隊に入ろうかなと思っていたくらいです。でも「女の子だから、大学に行きなさい」と言われ進学しました。うちは私と姉の二人姉妹なので、父は自分の代で廃業することも考えていたようですが、祖父が設立した会社を1日でも長く続けたいと思い、大学卒業のとき、「私が会社を継ごうかな」と思いました。

父にその事を伝えると、「一度は外の企業で働いておいで。」と言われ、某エアコンメーカーの部品を中国に輸出する会社に就職しました。小さな会社だったので、部品の見積もりから梱包、船のブッキングまでの一連の業務を自分たちでやりましたから、それがすごく楽しかったです。
その後OLを辞めて、船の仕事をする勉強に行かれたそうですね。
ある日、父に「本当に会社を継ぐ気があるか?」と聞かれ「うん」と答えると徳島県の船員派遣業をしている会社でベテラン70歳の運航部長の下で今の内に勉強してくるか。という話になって、徳島で2年ほど修行させていただきました。

そこは乗組員の派遣業なので、どの船にどの船員を乗せるか、どこで乗り換えさせるかを段取りする仕事をしていました。乗り換えの前日に船員を現地に移動させるので、ホテルの予約を取ったり、新幹線や飛行機のチケットの手配をしたり。中には飛行機が嫌いだからバスで行きたいという希望もありますし、悪天候で船が動かないとなると、その次の場所に先に移動してもらうなど、まるで旅行会社のようでした。

当時その会社ではパソコンをあまり使わなかったので、私がインターネットを使って、この港に近いホテルはここがいいとか、航空券はどこが安いかとか調べて、エクセルでデータを作り、経費をいかに削減するかを考えるのはすごく楽しかったですね。

その70歳の師匠は、「仕事は見て覚えろ」というタイプの方でしたので、最初はどうして良いか分からなくて、とりあえずばらばらの資料をデータ化したり、事務所の書類を整理したり。自分にできる仕事はないかと探しながら仕事を理解していきました。今思うと、そのほうが深く分かることができて良かったですね。㈱旗山マリンとその師匠からはたくさんの事を学ばせていただきました。
2年後、いよいよお父さんの会社に取締役として入社されます。
帰ってくると、自社の船を動かす仕事と船員を派遣する仕事とは、また別の事業なので戸惑うこともありました。この数年、船の安全管理がとても厳しくなって、大手石油会社の検船を受験するための書類作成や安全の管理が欠かせなくなっています。どんどん新しい法律が増えておりますので、事務仕事が必要になってきています。昔のやり方と違ってきたこともあって、父からはそうした業務を任されています。
「女性が継ぐ」ということに対する周りの反応は?
ほとんど男性の業界ですから、「わあ、女の子や」ってチヤホヤされることもありますが、中には心無いことを言う人もいました。「君に話しても仕方ない」とか、「女なんかに分かるわけない」と言われたり、「バカヤロー」って怒鳴られたこともあります。

最初は腹が立って腹が立って、悔しくて逆に涙も出ませんでした。でもそれが当たり前の社会の中に自分から飛び込んだわけですから、ぐーっと我慢して、「クソーっ!いつか私でもできるんやというところを認めさせたい!」と思っていましたね。逆に火をつけてくれてありがとう、という感じです(笑)。

でも可愛がってくれる人たちもたくさんいて、休暇から戻ってきたら島根県の船長に、「縁結びのおまんじゅうあげるわ」って結婚の心配までしてくれたり(笑)
家業を続けたいという気持ちもあったと思いますが、船員さんたちの仕事の場を無くしたくないという気持ちもあったのでは?
本当にそうです。私がこの仕事に入ったばかりで、まだ右も左も分からない頃、60代の船員さんが、(私が)「一人前になるまで、杖をついてでも船に乗ってあげる」と言ってくれたこともあります。

そういう、人の想い尽くしの気持ちは絶対に無駄にできないし大事にしたい。乗組員は、船で何日も一緒に過ごしますから、働く場は生活の場そのもの、家族みたいなものです。まずは安全第一。乗組員が無事に家族のもとに帰ることを常に考えています。
これまでにどんな「壁」を経験されましたか?
船の構造や機械部品など、最初は全く分からなくて父に頼っていましたが、その父が体調を崩して、しばらく入院することがあったんです。そんな時に船のエンジントラブルが発生してしまい、対応するにも入手困難な部品があったのですが、大丈夫か?と言われ、「うん、うん」って適当に応えてしまったんです。

軽く見過ごしていたけれど実際はとても大きなことで、船長に、「甘すぎる!ニコニコしてるだけじゃ意味が無い!トラブルの時こそ、飛んで来んかい!」と言われ、その時はガーンと頭打たれました。最初だから知らなくて当たり前なのに、船会社の娘だから知らないと言えない、というくだらないプライドがあったんでしょうね。

やっぱり経営者たるもの、必死に勉強して、分からないことは教えてくださいと素直に聞くこと。そういう姿勢でいないといけないことを学びました。
将来の夢は?
児童養護施設で育った子どもたちに、海員学校への進学を支援し、内航海運業に就職できるような支援機構を立ち上げたいと思っています。

ある日新聞に、国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の日本代表をされている弁護士の土井香苗さんの記事があって、養護施設の子ども達は18歳になると施設を離れなければならず、援助金も打ち切られて、施設を出ても働き口が無く、自立が難しいという内容が載っていたんです。

それを見て、私たちも船員不足で悩んでいるので、施設で育った子ども達なら、グループ生活に慣れていますし、船では衣食住の心配はなく、船内はアットホームだから、その子達に船員の資格を取らせてあげて、働き口を支援したいと考えました。

そこで土井香苗さんにメールを送ってみたんです。早速お会いすることができて私の希望を伝えると、この業界にとても感心を持ってくださいました。今後は私たち船主が協力し合って、「海で働きたい」と思ってくれる施設の子ども達への自立支援ができればいいなと思っています。

今船員は60代70代の方が多く、船員不足は深刻です。船は必要定員数に満たなければ動かしてはいけないので、いつか船が止まってしまう「Xデー」が来るんじゃないかと皆危機を感じていて、今は徳島県の青年部会で、工業学校等を回り内航海運をPRする活動もしています。ここまで船員が減ってくると、同業者同士ライバルじゃなくて、業界全体で我々が生き残るために皆で協力しあえればいいなと思っています。
女性で船員は難しいですか?
女性の船員さんもいらっしゃいます。女性の船員さんをたくさん雇用している会社もあると聞きます。一方で、息子がいないから廃業されるところもありますが、娘の女性オーナーでも続けていけますし、それこそ女性が乗れる船があればもっと業界のイメージも変わるかもしれません。

今度、船のリプレイスといって、船を作り変えるのですが、女性が乗れる船を作りたいなと思ってます。トイレやお風呂などを女性が使いやすくするなど、女性だからこその細やかな気遣いが活かせるので、将来は女性船員さんも雇用できる、イキイキとした魅力ある会社にしたいですね。
ありがとうございました。
(取材:2015年3月 関西ウーマン編集部) 
 

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