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■関西ウーマンインタビュー(女性経営者編)


南 靖子さん (桃山温泉 月見館 女将)

笑顔の裏側に、自分への厳しさと緊張感を

南 靖子さん
『桃山温泉 月見館』(株式会社月見館)女将
京都・伏見の宇治川のほとりに建つ『桃山温泉 月見館』。1938(昭和13)年に創業し、2017年で79年を迎えた歴史ある料亭旅館です。創業時の姿を残す趣のある木造三階建ての建造物は、2011年に登録有形文化財に登録されました。

3代目女将の南靖子さんは、家業を継いだパートナーと結婚したことを機に、この世界に飛び込みます。それから、もう32年。

代々受け継がれてきた料亭旅館で生きて働くとは? ご縁があって就いたお仕事で、南さんが見出したやりがいや生きがいとは一体どんなことでしょうか。
結婚を機に、若女将に
料亭旅館を家業とするパートナーと結婚して若女将になられたとのこと。相当の覚悟が必要だったのではないですか?
結婚前のことを少し話しますと、大学を卒業してまもなく、実父が単身赴任する群馬県前橋市に家族全員で引っ越して、実父が経営する会社で事務職をしておりました。

まったく知らない土地でしたが、前橋青年会議所に唯一の女性会員として在籍するなど、私なりに活躍していたつもりです。

でも、心の中には「ここは私が一生住みたい土地ではない。脱出しなければ!」という気持ちが常にありました。生まれ育った京都・伏見が大好きだからです。

夫は実兄の学生時代の後輩で細い糸でつながっていて、引っ越してから3年後、結婚して「嫁ぐ」という形で再び京都・伏見に戻ることができました。

同時に今のお仕事に就くことにもなるのですが、これもご縁ですね。この業界のことを何もわからなかったからこそ、飛び込めたのだと思います。もし実家がこのお商売をしていたら、躊躇していたかもしれません。
これまで、どんな壁や悩みを経験されましたか?
生まれ育った家庭環境とまったく異なりますから、最初は戸惑いがありました。でも、誰かに相談しても解消できることではないので、慣れるしかありません。

生活リズムに慣れるところから始め、頭ばかりで考ないで笑顔を絶やさず接客するように心がけました。

仕事については、義母が手とり足とり教えてくれましたし、その時々でいいアドバイスをくださる方も。

何より、歳月を重ねれば重ねるほどに、この仕事にやりがいや生きがいを見出すようになっていったんです。
たとえば、どんなやりがいや生きがいを見出されたのですか?
料亭旅館の仕事は多岐に渡る分、自分の得意な分野を重点的に伸ばしていけるので、自分自身を表現しやすい仕事だと気づきました。

お越しになられてからお帰りになられるまでの長い時間、お客さまにさまざまなことを提供しますから、自分が好きなことや得意なことを取り入れれば、旅館の特徴の1つになることがあるんです。

義母が女将の時代には、義母は描くことが好きだったので、お料理に彩りを添える絵を描いていました。お客さまに喜んでいただいていましたし、私も描くことは嫌いではないので、受け継いでいます。

加えて、私は料理が好きだから、シフォンケーキを焼くことにしました。宿泊されるすべてのお客さまにお茶菓子として提供するようになったのは、あるご夫婦との出会いがきっかけです。

自分が生業とする旅館業というものの重みを感じた瞬間でもあります。
「あるご夫婦との出会い」とは?
年配のご夫婦で、奥さまがチェックイン後に「主人は胃を手術したばかりで食事をほとんど残してしまうと思いますが、よろしくお願いします」とお話に来てくださいました。

夕食はおかゆをご用意しよう。他に何かできることはないだろうか。添加物など余分なものを一切使わない、やわらかいシフォンケーキだったら、召し上がっていただけるかもしれないと、夜食として提供したんです。

すると、翌朝、奥さまが「ケーキを半分食べることができました。主人は末期の胃がんで、生涯最後の旅であなたの旅館を選んでよかったです」とおっしゃってくださいました。

あのお客さまにとって、私の作ったシフォンケーキが生涯最後の食事になるかもしれない・・・そう想像すると、お越しになるお客様を笑顔でお迎えしますが、自分の笑顔の裏側には必ず自分への厳しさと緊張感が存在しないといけないと強く感じました。

宿泊のお仕事は、お客さまの滞在時間が長いから、ごまかしや嘘は通用しません。私たちの行為すべてにどんな気持ちが込められているのかということを、お客さまは敏感にお感じになられます。

だからこそ、本当に喜んでもらえた時の達成感は何物にも代えがたいんです。
お客さまに喜んでいただけることを考え続けて
先々代から先代へ、先代から南さんご夫妻へ。伝統を受け継いでいくプレッシャーはありましたか?
自分自身が月見館ブランドの一つとなっていくように精進も努力もしなければなりませんし、次の世代に継ぐためには「こうしていくんだ」と確信を持って仕事をしていきたいとの想いがあります。

そのほかはありがたいことに、「これを受け継いでほしい」「これが伝統だから」と抑えつけられることはありません。もしかしたら、私がそう感じなかっただけかもしれませんが(笑)。

やりたいことをやらせていただいています。
南さんが「やりたいこと」とは、どのようなことですか?
月見館としての軸足を持った上で、お客さまに喜んでいただけることで、自分も「やりたい!」「自分1人でも実行する」と思えることです。

10年前からインターネット予約を始めたり、ごはんを食べにくい方のためにおかゆを提供したり、ベッドに慣れている方のためにベッドのお部屋を用意したり、椅子での宴会をご希望の方に椅子席宴会場を用意したりしてきました。

椅子席宴会場は最初、夫から「料理旅館だから和式を貫くのが本筋だ」と反対されたんです。でも、お客さまに必要だと思ったから、実行に移しました。

「やってみて、お客さまの反応を見て、再検討するものはする、いいものは取り入れる」の繰り返し。

月見館は2017年で創業して79年が経ち、夫は3代目です。時代によってお客さんに喜んでもらえることは変わってきていますが、どの世代においても「どうしたらお客さまに喜んでいただけるだろう」と絶えず考え、取り組んできたからこそ、今日まで続いています。

伝統を「守る」だけではなくて、「守り継ぐ」ためには攻める、つまりは変革も大事なんです。
伝統を受け継ぎ、次の世代に継ぐ
変革を続けても、「月見館としての軸足」という変わらないものをお持ちだから、伝統は受け継がれていっているのだと感じました。「月見館としての軸足」とは、具体的にどのようなことですか?
義祖父と義父の考え方、そしてお客さまをはじめ、業者や従業員など月見館に関わる人たちとの信頼関係です。

義父は私が嫁いでから5年ほどして亡くなってしまったのですが、毎晩のように食後に珈琲を飲みながら、月見館の歴史や創業者である義祖父の言葉、自分の想いなど、さまざまなことを話してくれました。

何度も何度も話を聞くうち、自分の中に落とし込まれているのだと感じます。

悩んだ時は夫にも相談しますが、「もし義父だったら、どう考えるかな」と考えて、「今はまだ違うかなあ」「よっし!これでいこう」とキャッチしています。
お義父さまのどんな話や言葉、行動が心に残っていますか?
義祖父と義父の月見館に対する深い思いを感じずにはいられない話があります。

月見館は、義祖父が昭和13年に創業しました。その後、まもなく戦争に突入して、GHQに強制的に建物を取り上げられ、住むことさえも許されず出ていかなければならない時期があったそうです。

その時どんなに悔しかっただろうかと、会ったこともない義祖父の気持ちが、自分に降ってくるような感じがして胸が詰まります。

昭和28年にようやく返してもらえて大修理をして、昭和29年に再開します。でも、昭和30年代後半には、宇治川の増水による川の氾濫が頻発。昭和40年代に堤防をつくることになるのですが、月見館は河原続きの高さの場所に建っておりましたので、取り壊して鉄筋の建物に建て替えるという計画もありました。

義祖父が建てたままの姿を残そうと思案した義父は、月見館の土地を堤防の高さまでかさ上げして、また建物を戻すという「曳き戻し工法」という大工事を決断します。

義父は「親父が物のない時分に、床板はもちろんの事、柱一本、瓦一枚に至るまで自分の足で現地まで買い付けに行き、一生懸命に立てた建物やったから、どうしても残してやりたかった」と当時を振り返ります。今でもこの言葉は、義父の声とともに鮮明に蘇るんです。

幾多の試練に耐え、先々代、先代がこだわり抜いたからこそ、今日の月見館の姿があります。私にはもう、『月見館』という1人の人として見えるくらい、愛しています。
創業してから約80年の伝統を背負って、今日があるんですね。
義母が引退して、2010年に私が女将となりました。月見館に嫁いで32年。この仕事に人生を捧げています。

この先、次の世代に継ぐ時が、一番喜ばしい瞬間になるかなあと思っています。
南 靖子さん
1983年に大学を卒業後、実父が経営する会社で事務職を経験。1985年に『桃山温泉 月見館』3代目であるパートナーと結婚し、若女将となった。2010年に義母が引退後、女将となる。
桃山温泉 月見館
京都市伏見区桃山町泰長老160番地の4 TEL:075-611-0284
HP: http://www.tsukimikan.jp/
HP: KyotoTsukimi
(取材:2017年9月)
旅館のお仕事、女将のお仕事というと、「伝統を守って」「伝統に従って」という勝手な印象を持っていたので、「自分自身を表現しやすい仕事」という南さんの言葉にハッとしました。

南さんは月見館としての軸足を持ちながら、時代や目の前のお客さまに応じて、「今、喜んでいただけること」を常に考えて、かつ自分が「やってみたい!」ということも組み合わせて実現されています。それが仕事のやりがい、さらには生きがいにもつながっていました。

自分の好きなことを仕事にしなくても、自分が進んで選んだ仕事ではなくても、その中で「自分を表現=自分にしかできないこと」を追求していけば、その人らしい、その人にしかできない仕事にしていけるのだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

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