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■関西の企業で働く「キャリア女性インタビュー」


横谷 泰美さん(株式会社ナリス化粧品 経営企画室マーケティンググループ部長)

横谷 泰美さん
株式会社ナリス化粧品 経営企画室マーケティンググループ部長
大阪芸術大学卒。大学卒業後、ナリス化粧品入社。広告宣伝部に配属。その後、デザイン部にてパッケージ・プロダクトデザインを担当した後、マーケティング部にて、新ブランドの立ち上げ、新製品企画を担当。現在は経営企画室にて、化粧品、健康食品(美容食品)、美容機器や、エステティックに関わる新製品・新サービス・新ブランドの企画や、ブランド育成を担当。また、広報業務にも従事している。グッドデザイン賞選定、日本パッケージデザイン大賞入選、JPC入賞。

株式会社ナリス化粧品 www.naris.co.jp
横谷さんは大阪芸大でデザインを勉強されていたそうですが、なぜ化粧品会社に?
大学時代は、タイポグラフィーといって文字を扱うデザインを学んでいました。情報や伝えたい気持ちが直接伝えられる「文字」が好きで、自分の好きな絵を描くということより、どちらかというと商業デザインに興味があったと思います。

大学卒業時は氷河期と言われた就職難時代。新卒でインハウスのデザイナー採用は珍しかったのですが、ナリス化粧品ではパッケージデザイナーの募集があり、運よく採用されました。でも入社後に配属されたのは、パッケージデザインではなく、広告や販促を扱う部署。ポップを作ったり、雑誌広告を作ったり、広報も兼ねた部署だったので、プレスリリースを書いたりすることもありました。その後、今の社長になって組織が大きく変わったことを機に、デザイン部に配属されました。
これまの仕事の中で、「壁」を感じたことはありますか?
20年ほど前、当時はまだ、「デザイナーは絵をかく人。自分の感性で仕事していて、ちょっと変わった人」という認識が強かった時代。デザインの部署に異動してきてすぐに、担当した仕事でグッドデザイン賞を取ったこともあって、「デザイン部って1日中絵を描いてるの?」と言われることもありました。

デザイン案をいくつか提案しても、自分たちの好き嫌いの意見になってしまうこともあり、しまいには「横谷さんはどれが好きなの?」と聞かれることもありました。

当時のデザイナーの中には、「こんなものを作りたい。あんなものを作りたい」と考えている人もいましたが、私は私の好きなものを作っているんじゃない。ターゲットのお客様にとってどんなデザインが良いかなので、ターゲットじゃない人の好き嫌いは違うんじゃないかと、違和感を感じていたんです。
自分と社内の感覚に「違い」があったんですね。
今でも、デザイナーや企画をする人は、「自分のセンスとカンで勝負している」とか、「感性で仕事している」みたいな感覚ってあると思います。でも、「感性」というのは感じる力。デザインにしてもマーケティングにしても、感じ受ける力=感受性と、そこからどうするかを考えるほうが大事なんじゃないかとずっと思っていました。

私の中で、デザインでできることの素晴らしさに敬意を払った上で、デザインはマーケティングのひとつでしかない。使ってくれる人、買ってくれる人、見てくれる人の気持ちをくみ取ることで、自分たちの「好き嫌い」ではないと考えていた私でしたが、20年も前には、当時の弊社では、そういう考え方は異端だったのかもしれません。
その「壁」にどう向き合いましたか?
当時は、マーケターが作った企画書を元にデザインだけをしていましたが、デザインだけでは解決しないこと、それを解決するには企画にまで立ち入らないとできないことがたくさんありました。

例えば口紅だと、容器のデザインがかっこいいかどうか、といったセンスの問題ではなくて、中身そのものの設計からを始めるんですね。

唇の肌当たりや容量の規格、その形状を作成するには、中身の特性や、それに伴う工場の生産ラインのことも把握していなければいけません。また、コスト感覚や全体のスケジュール感も必要になります。

でもデザイナーの中にはそうしたことが苦手な人もいましたし、企画側もそこまで把握している人は少なかったと思います。

こんなこともあんなこともと、やりたいことを10個くらい持ってくる。競合他社の同じような商品は1000円で売っているけれど、うちはそれよりずっと良いものをプラスして800円で売りたい。しかもずっと少ないロットで。そんなことは、何らかの工夫がなければ、できるわけない夢物語なんですね。

そこで、800円が大事なのか、スペックが大事なのか。どこを解決したら理想の形に近づくのかが、私にはイメージできたので、「希望通りのスペックで作ればこうなりますが、これだと予算に合いません。予算に合わせたらこうなりますが、それだと不本意だと思うので、こういう打ち出し方をすれば解決できるんじゃないでしょうか」という提案をしました。

デザインを好き嫌いで語られるのがイヤだったこともあって、もっと正々堂々と課題を解決する提案をしたい。そう考えると自分にできることが見えてきました。
そのことが現在のキャリアに結び付いたんですね。
従来の手法にとらわれず、デザインや販促といった業務の領域を超えて、提案を行っていったことを経営側は受け入れてくれました。その後マーケティング部に10年、5年前から経営企画室になり、経営側からは、「横谷の眼で見て、会社にとってプラスになると思うことは、何でもやれ」と言われました。

また社内全体で、デザイナーに対する見方も変わってきたと思います。デザインにはもちろん感覚的に表現するところもありますが、コスト感覚も取り入れるようになってきたと思います。
横谷さんの部下には、出産を理由に辞めた人はひとりもいないそうですが、キャリアと育児(または介護)を両立できるよう、どういう点に注力してマネジメントしていますか?
弊社では、育児休暇からの復職率はこの10年100%です。私が管理職になって18年、その間で出産を理由に辞めた女性の部下はひとりもいないことは自慢ですね。時短制度だけでなく、復職支援金といって、条件を満たした社員は、就学前まで保育料の手当てを月2万円まで支給されます。もちろん女性社員だけでなく男性社員もです。

弊社は特に出産した女性にのみ環境を整備しているわけではなく、個々の社員に応じて、活躍できる環境を整備したいと考えています。単に女性にとってやさしい会社だというだけでなく、その環境をいかに有意義に使い、パフォーマンスとして会社に還元するか。活用する社員にも、そうした視点を持つことが大切だと考えています。
横谷さんの考える、リーダーとしての在り方とは?
「こうして下さい」という言葉だけで、相手が変わってくれることは難しいですし、「分かって欲しい」と言えば言うほど、分かってもらえないんじゃないかと思っているんです。なので、あまり言わないようにしています。

日々うまくいくことばかりじゃないですし、自分自身のやり方も、後で考えると、間違っていたのかなと思うこともあります。その時その時は一生懸命で、常に新しい提案をし、今までにない手法で課題に対する答えにたどりついたつもりです。

でもこれ一つ作りましたといって、次も同じものを作っても意味がありません。こんどはコストを下げるとか、もっと短い時間で作るにはどうしたら良いかとか、なんらかの工夫をしないと新しく作る意味が無いんです。それには、自分自身が変わっていかなければいけない。「自分は正しい」と信じてしまったら最後だと思うんです。

仕事ってやればやるほど、自分にできることが増えるほど、できないことに気付いてきます。もっとやらなければいけないことも、また違うやり方でやってみたいことも見えてくる。やっぱり人は自分で気づかないと、行動を変えることはできないと思うので、私は自分がずっと、新しい仕事を楽しくしている姿を見せるしかないと考えています。
自分らしく働くためには、どんなことが必要だと思いますか?
マーケティングで例えば、「子育て中の女性」と若い女性を一絡げに調査して、平均はこんな感じと決めてしまう仕事のやりかたをするよりも、目の前の人に向き合うことが一番大事だと思います。向き合っているのは一人かもしれないけど、その人の後ろには何万人もいて、そこに共感する人は必ずついてくる。その人に刺さりもしないことが、他の人に刺さるとは思えません。

自分の向き合うものが、「人」なのか「モノ」なのか「事象」なのかというのもありますが、自分が向き合っているのは何なのか、自分自身の自戒も含め、それをちゃんと意識しながら仕事をすることが大事かと思います。

また、「女性だから何ができる」という考え方よりも、「自分は何ができるか」という考え方のほうが私は好きです。サラリーマンだから、代わりの誰かはいるかもしれないけど、どんな仕事でも、キャリアの短い長いがあっても、その人じゃないとできない仕事というのがあると思います。自分がやるべきことは自分で見つける。他人が与えてくれたものの中で、自分のやりたいことをみつけるのって難しいですから。

女性だから損をすることもあるかもしれませんが、得をすることもあると思います。でも仕事って損得でするものではないと思うので、肩ひじ張らず、女性であることを受け入れながらも、やはり、「〇○さんだから」という仕事を目指すことがいいのではないかなと思います。
ありがとうございました。

(取材:2016年6月/所属・役職名等は取材時のものです)
 

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