HOME ■関西ウーマンインタビュー(アカデミック) 善野 八千子さん(奈良学園大学 人間教育学部 教授) 前のページへ戻る

■関西ウーマンインタビュー(アカデミック)


善野 八千子さん(奈良学園大学 人間教育学部 教授)

教育は、人づくり、町づくり、そして私は若作り

善野 八千子さん
奈良学園大学 人間教育学部 教授
41歳という若さで教頭試験に合格された善野八千子さん。異例の速さと最年少の女性管理職として現場に着任されるも、年上や経験年数の多い方の中で、さまざまなご苦労もさることながら、常に教育の熱意と自分らしさを軸にキャリアを積んでこられました。

『汗かく、字を書く、恥をかく』という人生の理念のもと、最善を尽くし継続すれば大抵の壁は乗り越えられる。そう仰る先生も、『出る杭は打たれる、出すぎた杭は打ちにくい、潜ったままの杭は腐る』という思いに至ることもあったそうです。

現在は大学で教員養成に携われ、学生たちに慕われるだけでなく、全国の講演会にも大人気の善野先生。今回は、現在の幼児教育と小学校教育について、そして実際の年齢には全く見えない先生の若さと美しさの秘訣についてもお伺いしました。
ミニスカートの教頭先生
先生は41歳という若さで教頭試験に合格されましたが、1年で現場着任も異例の速さだったそうですね。
平成8年に41歳で教頭試験を受けまして、1回で合格させていただきました。その後、堺市の教育センターに配属されたのですが、「私は教頭試験を受けたのは、学校を変えるためであって、ここに勤めるために教頭試験を受けたんじゃありません」と、教育長に言ったんです(笑)。

まあ生意気だと思われたと思いますが、おかげさまで1年で現場に出させていただきました。これは後から聞いた話ですが、かなり珍しいことだったようです。

創立100年を超える堺市の小学校で、初めての女性管理職として着任しました。朝礼台に立って、「こんど来られた新しい教頭先生です」と紹介されると、子どもたちは「うそー?」。

それまでの教頭先生のイメージというと、グレーのスーツに眼鏡をかけて頭頂部に特徴があると・・・(笑)。そこにミニスカートをはいた教頭先生が立っているんですから(笑)

当時は先生方の中で、年齢も下から3~4人目。ほとんど年上の方ばかりでした。外部の方が来られても、「教頭先生はどこにいらっしゃいますか?」って私に尋ねるんです。

「私です」というと、「はあ?」とか言われて(笑)。でもギャップがある分、信頼が高まりますよねと、逆にお得というか(笑)。
平成9年から12年まで4年間、2校で教頭をさせていただきましたが、地域の方々や保護者の皆さんにいろいろ助けていただき、のびのびとやりたいことをさせていただいたと思います。

地域のお祭りがあるといえば、ハッピにハーフパンツを着て、町中の方たちと一緒に御神輿を引っ張ったり、盆踊りといえば、浴衣を着て8か所すべて周り、子どもたちに「あんたたち、盆踊りって見てるもんじゃないのよ!」と一緒に踊ったり。まあ、お祭り好きというのもあるんですけど(笑)

校長先生は、「〇〇小学校校長」と書かれた“たすき”があるんですけど、私には無かったんです。すると連合町会長や皆さんが、こんど来た教頭先生に“たすき”くらい作ってあげたらどうか、と言ってくださったんですけど、「あの人は一回来たら、教頭先生ってわかります」って言ってくださったり。

平成13年になって府の教育センターに転任することになるのですが、保護者の方たちが、「教頭先生を転勤させないでください」と署名運動をしてくださったそうで、「これ皆の気持ちです」って署名された紙の束を持ってきていただいたときはもうびっくりして。宝物をいただいたと本当に嬉しかったですね。
教育現場と教育行政を経験したからこその使命
その後、大学へと活躍の場を変えられますが、それはどのような思いがあったのですか?
教頭職の後に赴任したのは、大阪府教育センターの主任指導主事として、現職の先生方を指導する教育行政の仕事でした。

管理職として教員を育てることもやりがいのある重要な仕事でしたし、現場に戻ったら次は校長か、というポジションでしたが、やっぱり私は、もっとその手前の、教師を目指す人にかかわるところに立ちたいと思ったんです。

教育現場、教育行政、そして研究という、3つの立ち位置を還元できる業務にあたりたいと考え、大学での教育に携わることとしました。

今子供たちの教育が時代と共にどんどん変わってきています。ですが教師というのは、やはり目の前の子どもたちに一生懸命になってしまいます。

時代が変わっても不易なものをきちんと持ちながら、目の前の子どもに対応し、世の中が求めていることや、保護者のニーズに応えていかなければいけない。

そこに必要なことを、教育現場と教育行政を直接経験した人間が伝えるということは、一つの使命だと思ったんです。

平成17年から奈良文化女子短期大学の幼児教育学科長になり、もともと小学校の教師ですから、幼児教育と小学校をつなぐ、その役割を果たしたいとスタートいたしました。
先生が大学の先生になられた後、働くお母さんたちがぐんと増えた時代ですね。幼稚園より保育園に入れるお母さんたちが多く、家庭教育や就学前教育も変わってきた時代だったと思います。

その現状やニーズに対応するにも、従来の教員養成のやり方が世の中に追いついていなかったというのもあるのでしょうか。
仰るように、現在も家庭教育と学校教育がどんどん近くなってきています。

これまで別個のものとしてとらえられてきましたが、幼児教育と小学校は切り離すことができない、ということを理解しなければ学校教育はスタートできません。

『幼小接続教育』といって、私はよく『のりしろ』と呼んでいますが、紙と紙を突き合わせても『のりしろ』がなければくっつきませんね。

その『のりしろ』がどの程度の重なりが必要であるのか。また、“のり”も多すぎるとくっつかない。 その“あんばい”や“ころあい”を活かしながら、子どもの発達や育ちに学びを繋げていく。

それができるのは、小学校の先生だけでも、幼児教育だけでもない。この人たち双方が理解して、家庭教育からも繋げていくことができるのがプロであり、スペシャリストだろうと思うわけです。
その『のりしろ』という概念は今まで無かったんですね。
無かったんです。幼児教育の先生方は、年長さんはもうこんなにお兄さんお姉さんだからなんでもできるね、と卒園した途端、小学校の先生はゼロからのスタートであるかのように赤ちゃん扱いしてしまう。

6年生がお手つだいしてくれて、じっと待っていたら給食準備もやってくれるよ、というようなスタートになってしまうんです。これは小学校の教師が幼児教育を知ろうとしなかったからなんです。
幼児教育にも、保育園や幼稚園、それぞれの違いもあるかと。
考え方の違いみたいなものが今でもありますね。それぞれの幼児教育が何に重点を置いて育てていくのか、というのは特色としてあるのは良いと思うんです。

でも幼稚園から来ようと、保育園・こども園、どこから来ようと、皆さん小学校に来ますよね。これは間違いないでしょう?。

その時に、子どもたちを皆同じところからスタートさせようとするのではなくて、それぞれ違う素敵な体験や育ちがありますよね。

「僕はこんなことしたことがあるで」という子に、「そんなことできるん?すてきやね」「どうやってするん?教えてあげて」って自尊感情を育てる。そうした“個の力”をつけるのが小学校なんです。

経験がたくさんあれは、それは困る、というんじゃなくて、集団として活かしていきながら一緒に確かめる。

5歳まで育ったことを6歳に繋げればいいところを、「今はそれしなくていいの」とゼロに戻そう考えるから、今の子は大変だとか、ネガティブにとらえてしまうんです。

「ならし」ではなく、そのデコボコの良さを引き上げ、幼稚園の時はできなかったけど、小学校に入ったらできた!という喜びや達成感が大切なんです。
幼小接続教室/左は幼児教育・右は小学校の教室
現場を知る・自分を知る
今の学生たちは以前の教育を受けていますが、その考え方を変えるのはどのようにされているのですか?
彼らが20歳とすると、10年前に彼らが受けた教育と今は全く違うこともあります。

本学では、実践力を重視していて、学生たちは1年生の時から現場を見ることをいっぱいさせているんです。2年生になると毎週木曜日は1日中大学に来ないで小学校に行っています。

まずは知るということ。それから自分の課題を見つけるということです。まず実践。教育現場から学ぶ。そして、やはり不易のもの、変わらないものもありますから、文献から学ぶ。

そして先輩から学ぶこと。いつも学生たちには、「助けを求める力を持ちなさい」と言っているんです。

“分かる”ということは“分ける”ということで、分かることと分からないことを分けることが“分かる”ということです。

私はここまで分かる。でもここからが分からない。だからここから教えてくださいと言える人になりなさいと。

人は、「ではここから助けてあげましょう」と助けてくれるのに、「無理。できません。」と丸投げするのはダメ(笑)

どの仕事であっても、初めて働く場所に行けば、コピー機の使い方ひとつ違っていますよね。どの人に聞いたら教えてくれるかな、という嗅覚も含めて、この人に教えてもらおうという声かけも“力”なんです。

そうして教えていただいたら、こんどは他の方にも教えてあげる。これは何歳になっても生涯使う“力”ですから。
「分からないことは恥ずかしい」、「教えてもらうのも悪い」という感覚もありますね
恥ずかしいというより、聞かない恥ずかしさというのもあると思います。助けてもらったり、教えてもらったら、必ずこんどは教えてあげられる人になりなさいというんです。

そこに、私の人生の三角、「汗かく、字を書く、恥をかく」。その恥をかきっぱなしで終わるんじゃなくて、最終的にはそれを戻して「汗かく」にする。つまり、人に対する労をいとわないということです。

そして、「字を書く」というのは、フィードバックするということ。何の形でもいいから書き留める。やっぱり文字に残すというのは、大切なことですね
仕事と生活マネジメント
先生は子育ての時期、どのように過ごしておられたのでしょう
子どもを保育園に送り迎えをしている頃は、出かける前に全て片付け、食事は和洋中とバランスよく予め献立を考え、子どもたちが寝たあとは学級通信を書いていました。

さらに、保護者の方たちとの交換日記や学校新聞の記事も書いていましたね。特に学級通信は年に166号も出していました。

初めての給食でおかわりしたのは誰?とか、お誕生日の子どもたちの、良いところはこんなところとか、今日はこんなことを発見しましたとか。こんなこと頑張ってましたよとか。

とにかく子どもたちのことを伝えたい一心ですね。それも家庭教育と繋がる大切なことですから。

仕事から帰宅してから慌てたり、時間の余裕がなくなったりするのは、自分の生活に影響しますから、仕事と生活の調和をとるために、キッチンに洗い物が残っていることは、今もありません。

いつもちゃんとしているのに、たまたま時間の余裕がなくて、お布団を跳ねあげたままだったりすると、もしこのまま私が死んで誰かが部屋を見て、いつもこんな人なんだと思うかもしれない。

「昨日までそんなことなかったのに!」と思いながら死にたくない(笑)。後悔しても死んでいるんですけどね(笑)。
良かった体験は忘れない
先生のその元気パワーはどこから生まれているのですか?
よく同じ質問をいただいて嬉しいんですけど、やって良かったと思う『良かった体験』は忘れないことです。ほめていただくと、それは嬉しいから『良かった体験』。

学生たちは、ほめると「そんなことありません」とよく言うんですけど、「そんなことありません、というのは、評価した私を否定することになるのよ。そうではなくて、ありがとうございますと言うほうが、ほめたほうは気持ちいいし嬉しいのよ」って言うんです。

謙遜したのかもしれないけど、“たいしたことないことをあなたは褒めています。それを評価したあなたはそんな程度です”という意味にも置き換えることができるんですから。

これからは誰かにほめていただいたら、素直に「ありがとうございます」と言って一緒に喜びなさいって言うんです。

だから私、「そんなの社交辞令でしょう?なんか違うことを思いながら、おだてているんじゃないの?」なんて気持ちは微塵も思わないんです(笑)

ほめていただいたら本当に嬉しいし、それを『良かった体験』として、全部心の引き出しにしまうんです。
『良かった体験』というのはもちろん、そうなるように準備もし、全力を尽くして最善を尽くすけれど、一方で人間関係や、想定外に発生する事象などに、もう悔しいことやどうしようもないことってありますよね。

でもそこで、“どうしよう”とは思わないんです。“こうしよう”と思うんです。それでよくなければ、また次に、“こうしょう”と思うだけ。その繰り返しです。

こんなことが起こるかもしれないと、あるかどうか分からないことを考える時間があったら、うまくいくためにエネルギーを使いたいんです。

学生たちにもいろんな悩みがあります。特に試験の合否も彼らにとっては辛い体験です。私もこれまで、なんだかうまくやってきたように思われますが、45歳の時、校長試験を一度受けて落ちているんです。

面接時に、「そんな若さで校長になって不安はありませんか?」って言われて、「何の不安もありません」って生意気を言ったんですよ。危機管理意識のなさということでしょう。私の残念体験(笑)。

でも、あの時、校長試験に落ちなければ、大学の先生になっていない。その時は“コケた”と思ったかもしれないですけど、そこから違う歩き方をすればいいんです。

あのときコケたからこそ、また立ち上がって違う方向に歩けたと思う時が来るから。なんでもかんでも、試験の合格でうまくいくとは限らない、ということは確かだと思います。
『良かった体験』を増やせば、残念体験も残念で無くなるということですね
後悔するより反省する自分でありたい。こちらのほうが改善だったかなと。改善というより更新。

感想やご批判をいただきながら、少しでも前に進めるためのヒントをいただけるので、やっぱり『良かった体験』だと考えるんです。

『良かった体験』は保湿剤ですね。心の潤い、お肌の潤い(笑)。私は「教育は、人づくり、町づくり、そして私は若作り」これをモットーに仕事を続けてきました。

若作りというのは、いつも感性のアンテナを錆び付かせずにいるためのものです。こんなに自分の力を試され、発揮できる仕事はないと思います。
善野 八千子(ぜんの やちこ)さん
奈良学園大学 人間教育学部 教授
大阪教育大学大学院 修士課程修了。堺市立小学校教頭、大阪府教育センター主任指導主事、国立教育政策研究所客員研究員、奈良文化女子短期大学 学科長教授を経て、現職。モンゴル教員再訓練計画(JICA・大阪大学連携事業)講師、文部科学省委嘱事業学校評価委員、生活科検定教科書編集委員等を歴任。現在、大阪府教育行政評価審議会副会長、大阪府子ども施策会議副会長、和歌山県家庭支援事業協議会座長、大和高田市創生総合会議会長、他。全国の現職教員、PTA、社会福祉関係者等を対象に講演活動も多数。2016年度の高校生対象の模擬授業では、250講座の内「もう一度聴きたい講座ベスト1」に選ばれる
HP: http://yzen.jp/
奈良学園大学
〒636-8503奈良県生駒郡三郷町立野北3丁12-1
http://www.naragakuen-u.jp/
(取材:2017年10月)

■関西ウーマンインタビュー(アカデミック) 記事一覧




@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME