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■関西・祈りをめぐる物語


[第十回]筑波大学名誉教授 分子生物学者 村上和雄さん

さまざまな分野の方への取材で繋いできた「関西・祈りをめぐる物語」。
第十回は遺伝子工学の世界的権威、筑波大学名誉教授の村上和雄先生に「祈りの未来」をテーマにお話を伺いました。

遺伝子の研究を進めるうちに“人の思いが遺伝子の働きを変える”ことを確信するようになったという村上先生。現在、最先端の遺伝子工学により「心の持ち方」や「祈り」によって良い遺伝子が働くことを科学的に研究されています。

一方で、「どれだけ科学が発展しても、自然界には人間の力では不可能だと思うことのほうがはるかに多い。遺伝子暗号を解読するほどに、生命の不思議さ、人知を超えた大自然の偉大な力を感じます」と、見えるものだけでなく、目に見えないものを信じることの大切さを独自の理論で説かれています。

科学者の視点で語られる「祈り」は、命、魂、さらに地球、宇宙へと広がり、壮大なスケールの「命の物語」をお聞かせいただきました。

まずは、「心と遺伝子研究会」についてお教えください。

今、生命科学の研究は驚異的なスピードで進んでいます。遺伝子の世界も大きく進歩し、21世紀のはじめにはヒトの全遺伝暗号が解読されました。人間は自分の身体の設計図を解読できるようになったのです。

ただ、すべての遺伝子情報は読めましたが、意味がわからない。本当に働きがわかっているのは、全遺伝子情報の2%で、残りの98%の遺伝子は何をしているのかわからないのです。しかし最近、この98%の部分に、遺伝子のスイッチのオンとオフの仕組みがあることがわかってきました。

遺伝子のスイッチは、環境や外から刺激によって変わります。たとえば物理的な刺激、運動は健康にいいと言われていますし、ビタミンを摂ると身体にいいと言われています。運動や食べ物によって、良い遺伝子のスイッチがオンになるのですね。

私はそれ以外に精神的なもの、心の持ち方が遺伝子のスイッチに関係しているという仮説を立てました。心は身体に大きな影響を与えますが、実際に心がどのような状態になったときに、どの遺伝子がオンになるのか。その仕組みを科学的に解明しようと、定年後に「心と遺伝子研究会」を発足しました。

私たちの身体の中では多くの遺伝子が眠っていて、さまざまな刺激で目を覚まします。そして、心の持ち方によって、良い遺伝子を目覚めさせることができます。実際に、いくつかの実験によって、心と遺伝子のオンとオフの関係が科学的にわかってきました。
(撮影:大平晋也)

どのような心の持ち方で、良い遺伝子が目覚めるのでしょうか。

一般に、ストレスが加わると健康を害することはよく知られています。これは、ネガティブなストレスです。反対に、ポジティブなストレスを加えると、良い遺伝子が働いて健康になるのではないかと考えました。ポジティブなストレスというのは、楽しいこと、わくわくすること、感謝すること、感動することなどです。

そこで、吉本興業の協力を得て、「笑い」が遺伝子にどのような影響を及ぼすかという研究を行いました。その結果、糖尿病患者さんを対象にした実験により、「笑い」が食後の血糖値の上昇を抑えることがわかったのです。どの遺伝子のスイッチがオンになっているかを調べたところ、免疫活性を高めたり、新陳代謝を促す遺伝子がオンになっていました。

ネズミを笑わせるという実験も行いました。子ネズミはじゃれあって成長しますから、一匹ずつケージに入れると淋しがって胃潰瘍になってしまうんですね。ケージに人が手を入れると、最初は逃げますが、慣れてくると手の上に乗ってくるようになります。そこで、ネズミをコチョコチョとくすぐってやる。すると、ネズミが笑うんです。「気持ちいい」とネズミ語で喋る(笑)。50キロヘルツの超音波を出すのです。この50キロヘルツというのは、ヒトの笑い声の原型ではないかと言われています。

こうして、ポジティブなストレスに注目して、遺伝子のオンとオフと心の持ち方を研究してきました。楽しいこと、わくわくすること、人の「思い」や心の持ち方は身体に大きな影響を与えます。そしてその影響は、想像以上に大きいのですね。さらに私は、「祈り」も遺伝子のスイッチをオンにするのではないかと考えました。

「祈り」と遺伝子の関係、とても興味深いです。

人間は祈る動物と言われていますが、「祈り」は人間にしかできないことです。現在、高野山大学との共同研究により、日常的に祈りを実践している真言宗僧侶を対象に、祈りや宗教性が遺伝子にどう関係しているかという研究をしています。

僧侶と一般人を対象に、祈りとしての護摩行(ごまぎょう)の前後で、どの遺伝子のスイッチがオンなるかを調べました。その結果、僧侶では免疫に関係のあるインターフェロン関連の遺伝子がオンになっていました。研究はまだ継続中ですが、「僧侶型遺伝子」があるのではないかと考えています。祈りによってどの遺伝子のスイッチがオンになるのか、さらに解析しているところです。

現在、アメリカでも西洋医学を補うものとして、東洋医学をはじめ鍼灸、薬草、瞑想、祈りまでもが医療の現場に取り入れられようとしています。実際にハーバード大学、コロンビア大学などで、祈りの治療効果についての研究が行われています。まだまだ賛否両論で、データも不足していますが、21世紀には科学的に祈りが解明されるのではないかと思っています。

私はダライ・ラマ法王と何度か対談していますが、彼は「21世紀は科学や技術の力がますます必要になるが、それだけではなく宗教的な感性、叡智が必要。そして、21世紀は日本人の出番ですよ」とおっしゃっています。なぜ日本なのでしょうか。日本は戦争によって大きな打撃を受け、当分は立ち上がれないと思われていたが、西洋の技術を取り入れて経済大国になり、教育も医療もすばらしい。でもそれだけではなく、日本人は精神的な伝統として大自然を敬い、自然の恵みに感謝し、まわりの人々と助け合いながら生きてきた。そういう心の持ち方、両方を兼ね備えているのは日本人だけ、と言われるのです。

(designed by Kjpargeter -Freepik.com)

日本人の精神的な伝統や心の持ち方。この連載でも、繰り返し出てきた言葉です。
大自然を敬い、目に見えないものを信じるという意味で、村上先生の提唱されている「サムシング・グレート」という言葉がありますね。

これまで数多くの遺伝子暗号を解読してきましたが、あるとき、私は気づいたんですね。科学は進歩し、解読する技術も凄いけれど、もっともっと凄いことがある。それは、読む前に書きこんであったということです。書いてあったから、読めるわけでしょう。そして偉いのは、読んだ人より書いた人です。身体の設計図ですから、でたらめに書けるわけがありません。

この遺伝子暗号を誰が書きこんだのか。人間ではありませんよね。人間でないとしたら、自然しかない。目には見えないけれど、何か偉大な大自然の力が働いている。凄い世界があるんです。私はそれを、サムシング・グレート(偉大なる何ものか)という言葉で表現しています。

生命科学の進歩によって、微生物や昆虫、植物、人間など、地球上の生物はすべて同じ遺伝子暗号を使っていることが判明しています。つまり、すべての命の根源は、間違いなく一つなんですね。サムシング・グレートは神や仏よりもっと根源的なもの、すべての生命の親のようなものだと考えています。

現代人は目に見えないもの、科学的に証明できないものは信じない傾向にあります。でも、命は見えない、心も見えない、この大自然を動かしている不思議な力も見えない。本当に大切なものは目に見えません。「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ」という金子みすゞさんの詩を思い出します。

これだけ科学が進んでも、私たちは細胞一つ、ゼロから作ることができません。それは、細胞の根本的な仕組みがわかっていないからです。わかっていないのに、人間が作られている。不思議で有難いことだと思いませんか。私たちは生きているのではなく、命をいただいて、生かされているんですね。

(白鳥 哲監督 映画『祈り~サムシンググレートとの対話~』より)

命をいただいて、生かされている。
この世界に生まれてくること、そして、命の不思議を思います。

命を生み出す女性に、ぜひ知っていただきたいことがあります。子どもは決して自分のものではない、ということです。赤ちゃんはサムシング・グレート、大自然からの素晴らしいギフト、授かりものなのです。

子どもは両親から遺伝子を受け継いで生まれてきますが、一組の両親から生まれる子どもには70兆通りの遺伝子の組み合わせがあります。つまり、70兆分の一の確率で、一人の人間が生まれてくる。すごい数字だと思いませんか。そもそも細胞一個が偶然に生まれるのは、1億円の宝くじに連続100万回当選するのと同じくらいの確率と言われています。「あなた」や「私」がこの世に生まれてきたことは、奇跡的な出来事なのです。

人間の身体には約37兆個*の細胞があると言われていますが、その37兆の細胞同士がそれぞれの臓器の働きをして、見事に助け合って調和しながらこの命を動かしています。これも奇跡的なことなんですね。生きていることは当たり前ではなく、有難いことなのです。

皆さん、自分の身体は自分のものだと思っているでしょう。でも、違うんですよ。私たちの身体は、酸素、炭素、水素といった元素から成り立っていますが、これらはすべて、自然界の食べ物から摂取しています。植物や動物は元素で出来ていますから、私たちの身体は地球の元素で出来ている、地球からのレンタルなのです。レンタルですから、いずれ返さなくてはなりません。だから、人は死ぬんですね。

一定期間、身体を使わせていただいたら、元素になって地球、宇宙へ戻っていく。そして、新たに生まれ変わるとき、また地球から身体をレンタルする。宇宙からきて、宇宙へ帰るサイクルです。ですから、死は最後ではなくて出直しなのです。今世では幕が下りたけれど、来世でまた新しい人生の幕が上がるという。

*以前は60兆個と言われていたが、近年、ヒトの細胞は37兆2千億個という論文が発表された。

宇宙からきて、宇宙へ帰る──。
お話を聞きながら、まさに「魂」という言葉が浮かびました。

現代人は「死」というものを避ける傾向がありますし、教育の中でもあまり取り上げません。誰もが死にたくないし、死のことは考えたくない。でも、死は必ず訪れます。死の問題を真剣に考えなければ、人は幸せになれないと思っています。これは、「人間とは何か?」と考えることです。生の反対が死ではなく、「命」のなかに誕生と死がある。誕生と死はペアなんです。

私たちの身体はレンタルで、貸主は地球、宇宙、さらにいえば命の根源のサムシング・グレートです。では、この身体を借りているのは誰か。それは「私」ですね。「私」とは何かを考えると、当然ですが「身体」ではないし、「心」でもないと思っています。女心と秋の空って言うでしょう(笑)。心はしょっちゅう変わりますから、そんな不安定なものには貸してくれません。心の奥のもっと根源的なところ、私の「魂」がサムシング・グレートから身体を借りているのではないかと考えています。

生と死を考えると、魂の問題を考えざるをえないのですね。科学者が魂なんて言うと、「こいつは、終わった。おかしくなった」などと言われそうですが・・・。私は科学的な思考だけでなく、科学を超える世界もあると考えています。それは非合理ではなく超合理、非合理を超えているんですね。現代の常識や科学の力で解明されていないものが、この世界にはまだまだあるということです。科学と人間を結び付けるものは、魂ではないだろうか。科学的に証明するのは非常に難しいと思いますが、私は最終的に「魂と遺伝子」の研究をしたいと思っています。

最後に、村上先生にとっての「祈り」とは?
また、「祈り」の心を未来に繋げるためにはどうすればいいでしょうか。

何に対して祈るのか、が大事です。
たとえば、「合格しますように」「病気が治りますように」という個人的な祈りもありますが、まずは命をいただいていること、生かされていることへの感謝の祈りです。

そして、自分たちを超える大いなる存在、サムシング・グレートを意識すること。地球上のすべての生き物、大自然の恵み、「世界」という大きなものを意識して祈ることです。なぜ感謝するのか、自然にすべて貸してもらっているからです。レンタル料は払っていないのに、ですよ。

自分だけ、自分の国のことだけを考えていると、「祈り」は広がりません。自分たちの幸せを祈るだけではなく、個人の祈りを超えた世界の平和を願う祈り、地球への祈りができれば、それは確実に未来へと繋がっていきます。もちろん、すぐに「世界」というのは難しいかもしれません。まずは身近なところからはじめて、自分の周りの誰かのために祈る。そして、少しずつ広くて大きな祈りを意識していけばいいと思います。

私も、毎朝の祈りを習慣にしています。
昨日一日、元気で過ごさせていただいたことへの感謝。81年間、身体を使わせていただいていることへの感謝。サムシング・グレートへの感謝。そして、「私の身体をサムシング・グレートのメッセンジャーとしてお使いください」と祈っています。
遺伝子からはじまり、命、魂、さらに死生観や宇宙観まで──。
“科学と哲学は繋がっている”ことを実感した今回の取材。命について、宇宙の真理について、あらためて深く考えさせられました。

私たち一人ひとりが奇跡的な確率でこの世に生を受けたのだとすれば、きっとそれぞれに「人生の使命」があるはず。何かを成し得るために生まれてきたはずです。生かされている時間の中で、誰のために何ができるのか。自分の使命に意識を向けることで、人生はより豊かになるように思います。

取材のなかで、村上先生は「私の使命は、サムシング・グレートのメッセンジャーになることだと思っています。生きることはこんなに不思議で、こんなにも素晴らしいと、多くの人に伝えたい」とおっしゃっていました。

サムシング・グレート(偉大なる何ものか)。
目に見えないものを信じる心、すべてに感謝する心を持つことができれば、世界を見つめるまなざしは、今よりずっと優しさと思いやりに満ちたものになるでしょう。

──私を生んでくれた命への感謝
──私のまわりの人たちへの感謝
──私が生かされている地球への感謝

奇跡的に生まれてきた私たちは、奇跡的に生まれてきた人たちとともに、今この瞬間を生きています。宗教や国を超えた“地球人”として、生かされていることへの感謝、地球への感謝の祈りを、この先の未来へ繋げていきたいものです。
村上和雄さん(筑波大学名誉教授 / 分子生物学者)
1936年、奈良県生まれ。京都大学大学院博士課程修了(農芸化学)。米国オレゴン医科大学研究員、米国バンダビルト大学医学部助教授を経て、1978年に筑波大学応用生物化学系教授に就任、遺伝子の研究に取り組む。1983年、高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子の解読に成功、世界的な業績として注目を集める。イネの全遺伝子暗号解読のリーダーとしても活躍。1996年、日本学士院賞受賞。2011年、瑞宝中綬章受章。現在、国際科学振興財団バイオ研究所所長、「心と遺伝子研究会」代表。著書に『生命の暗号』『サムシング・グレート』(サンマーク出版)、『そうだ!絶対うまくいく!』(PHP文庫)、『人を幸せにする「魂と遺伝子」の法則』(致知出版社)、『今こそ日本人の出番だ』(講談社)、『幸せになる遺伝子の使い方』(海竜社)など多数。研究内容やその人物像が『祈り~サムシンググレートとの対話』、『村上和雄ドキュメント「SWITCH」遺伝子が目覚める瞬間』の映画2作品にもなっている。
心と遺伝子研究会 HP:http://mind-gene.com/
Facebook:https://www.facebook.com/mindgene.murakami/

2017年8月6日、関西にて映画『祈り~サムシンググレートとの対話』上映会と村上先生の講演会が開催されます。詳細はこちらよりご確認ください。  
映画『祈り』公式ページ:http://inori2012.com/
(取材:2017年5月)
取材:中島 未月
五行歌人/詩人
心をテーマにした詩やエッセイ、メッセージブックなどを執筆。 著書は『心が晴れる はれ、ことば』(ゴマブックス)、『だいじょうぶ。の本』『だから優しく、と空が言う』『笑顔のおくりもの』(以上、PHP研究所)など多数。現在、「古代」「祈り」をテーマに、新たなフィールドの物語執筆に向けて準備中。
公式HP:http://nakajimamizuki.com/

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(文・中島未月 写真・HABU / PHPエディターズ・グループ)
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