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■関西・祈りをめぐる物語


[第九回]舞踊家 那須シズノさん

ハワイ在住の舞踊家、那須シズノさん。
年2回のペースで来日され、日本各地で奉納舞、また北海道から九州まで全国7カ所で「祈りの舞」のワークショップをされています。

舞というと日本舞踊のようなものを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、「祈りの舞」はまったく違います。足の角度やステップを覚えるのではなく、感じて動く、心で表現する舞。それは自由で美しく、高い精神性に満ちています。

生徒さんへの指導もテクニックではなく、まずは心のあり方から。自分の内面に向き合うこと、瞬間を感じて動くこと、生きる喜びを表現すること。舞を通して、“自分らしく生きる”ことを伝えておられます。

「生きることは舞うこと。舞うことは祈ること」という那須シズノさん。
5月に伊勢神宮で奉納舞をされるとお聞きして、新緑の伊勢神宮を訪れました。さまざまなジャンルのダンスを経て「祈りの舞」に至るまでの人生の物語、また独自のメソッドで展開される「祈りの舞」のワークショップについて、お話を聞かせていただきました。
3歳からクラシックバレエを始められたとお聞きしました。
3歳のとき、右腕に大きな火傷をしました。当時の医療では手術も移植もできず、このままでは腕が動かせなくなると医師に言われたのです。踊ることが好きな子どもでしたので、リハビリのためにクラシックバレエを始めました。その後、ボリショイバレエ団の交換留学生に選んでいただいたり、ニューヨークでジャズダンスを学んだり、あらゆるジャンルのダンスを学んで19歳でプロのダンサーになりました。

25歳で独立して自分のスタジオをもち、ダンスの指導をしながら舞台の作品を作るようになりました。作品を作るとき、目の前にさまざまなものが映像として浮かんでくるのですね。それを舞台にすると、コンクールなどでどんどん賞をいただけるようになっていきました。あるとき、古代の神さまの物語が生まれたのですが、その作品をきっかけに、見るものや感じるものすべてが変化し始めました。

当時、100人以上の生徒さんを抱えて、朝の7時から夜の11時までレッスンが入っているような生活でした。あまりにも忙しすぎて、あるときふと、自分が踊っていないことに気づいたのですね。いったい、私は何をしているんだろうと。

私の踊りはどこに向かっているのか?
自分を見つめ直して考えに考えて出した結論が、スタジオを閉じることでした。35歳のときです。たまたま新潟でお仕事の話をいただいたこともあり、それを機に新潟の山奥の廃村で暮らすことに決めました。すべてを整理して、自分をゼロにしてみようと。
一人で山奥へ、思いきった選択だと思います。不安はありませんでしたか?
これまで築いてきたものをすべてゼロにするわけですから、それはもう、人生の中でいちばん怖かったです。実際に住んでみると、見るものは雪しかなくて。寒いし、暗いし、辛いし、名誉も名声もお金もすべて失くして、大失敗したと思いました。

でも、そこで体感した雪の中の一瞬が、私の人生を大きく変えることになりました。ある吹雪の夜、「ゴーーー」という雪の音だけが聞こえる稽古場で、何もかもが虚しいと思いながら踊っていたとき、ネズミの鳴き声がしたのです。それまで、お米を食べにくるネズミの声が大嫌いだったのに、その夜はなぜかネズミの鳴き声が可愛く聞こえました。「ああ、お前も生きているんだな、私もネズミも生きている・・・・・・」とすべてが愛おしくなって、泣きながら踊りました。

その翌朝、あんなに嫌いだった雪がきらきら輝いて美しく見えたのです。雪も私もネズミも地球の一部で、みな同じように生きている。意識が変われば、世界は違って見えるのですね。状況は何も変わっていないのですよ。寒いし、暗いし、淋しい。それなのに、私の内側のどこかが変わったのでしょう。そのとき、“人は生まれ変わることができる”と確信しました。

そして雪はまっすぐ落ちるのではなく、ひらひら舞っていることに気づきました。角度やステップという型がなくなり、降りしきる雪のように自然の一部として、ただひたすら舞い踊る。私の踊りが、「ダンス」から「舞」に変わった瞬間です。人生の大きなターニングポイントになりました。
(伊勢神宮 勾玉池奉納舞台にて)
極限のような状況で、ダンスが舞に変わったのですね。
その後、「祈りの舞」はどのようにして生まれたのでしょうか。
山奥の廃村での体験を経て、その後、フランスのパリでお仕事の話をいただき、山を下りることになりました。ご縁というか、人生には流れがあって運ばれていくのでしょうね。

パリで踊っていたとき、日本文化を紹介するプログラムの踊り手を探していた日本大使館からオーデションを受けないかというお誘いがあり、大使館の仕事をするようになりました。またそのご縁から、国際ユネスコホールでさまざまな宗教家が集う「祈りのフォーラム」のオープニングで踊ることになったのです。

祈りの専門家の前で踊るわけですし、映像も音楽も一流の方が担当されています。オープニングのステージは巨大なスクリーンがあって、まず宇宙、それから地球、地球上の花や森や鳥や生きとし生けるものが映ります。それだけの壮大な映像に見合うものを踊らなくてはなりません。「祈りの舞」について深く考えたとき、浮かんだのが回転(スパイラル)でした。

地球は回っている、命も回っている。心の中で地球が生まれる瞬間をイメージしながら、太古からの祈りとは何か、神聖に祈りをこめてゆっくりと回り続けました。ここから、本格的に「祈りの舞」がスタートしました。
●現在、全国で「祈りの舞」のワークショップをされていますが、どのようなことを伝えられているのでしょうか。
ワークショップでは、まず“自然をよく見ること”をお伝えしています。自然を見るとよくわかりますが、花びらや木の葉はまっすぐ落ちるのでなく、風とともに舞い降りています。鳥も蝶も舞っていますし、森羅万象、地球上の生きとし生けるものはすべて舞を舞っているのですね。私たち人間も地球の一部ですから、自然体に戻るだけで舞うことができます。まずは自然を感じて、自由に踊る楽しさや喜びを味わっていただきたいと考えています。

たとえば太古の昔、自然の中で暮らしていた頃、私たちは常に踊っていたはずです。夜、火を囲めば、その周りで踊りたくなるでしょう。それが日常だったんですね。すべての人は踊りの記憶を持っていて、DNAに刻まれています。太古からの響き、私たちが忘れていることを思い起こしていただきたいという思いです。

「あなたらしく生きる」という言葉がありますが、私は本を読んだりセミナーに行くよりも、舞うほうが、はるかにダイレクトで気づきが早いと考えています。DNAはちゃんと記憶していますから、細胞レベルでDNAを揺らして、本来の自分を目覚めさせることができるのですね。

また、“火と水と風と地”自然の4つのエレメントをイメージして、「感じて、動く」ダンスメソッドにより、表現と創造の楽しさをお伝えしています。川が流れるように、風に吹かれるように身体を揺らしてみる。自分の内側にある風や火を感じて動く。それがもう、舞なんですね。心で何をどう感じるか、そして、すみずみまで心を込めることを体感していただいています。
「感じて、動く」お稽古でよくかけられる言葉ですね。
ダンス経験のない初心者でも、一日で舞えるようになるのがいつも不思議でした。
私のワークショップは1dayも宿泊型も、すべて1回完結。教室制度にもしていませんし、好きなときに誰でも参加していただけます。ワークショップは一つとして同じ内容のものはなく、決まったプログラムもテキストもありません。集まった生徒さんと場の空気、今ここに何が必要かを瞬時にキャッチして、その日、もっともお役に立てることをお伝えしています。

基本、多くの言葉を使って指導はしません。生徒さん個々の受け止め方が違いますから、言葉で説明すると理解できない方も出てきます。そうなると私にはわからない、自分は踊れないと判断してしまいます。そうではなく、言葉より体感なんですね。頭で考えるとダメです。

自然の中で裸足で踊るワークもよく取り入れますが、私の声がけは「気持ちいいでしょ」だけです。大地とつながる感覚を足の裏で感じて、自然や地球のリズムと響き合うことでそれぞれの舞が生まれますから、すべてが即興ダンス。感じて動くだけなんです。人と比べたり美しく踊ろうと思わず、感じたままを表現することで、その人らしい舞が生まれます。

ワークショップでは、まったくの初心者もダンス経験者も同じように受け入れていますが、ひとりの落ちこぼれもなくみんな美しいんですね。そして、ほとんどが初対面のメンバーにも関わらず、最後には素晴らしい一体感と調和が生まれます。参加者の皆さんが美しく共振共鳴して、毎回マジック、奇跡が起こります。
(2016年11月 天河大辨財天・奉納舞ワークショップにて 生徒さんの奉納舞)
シズノさんにとっての祈り、また舞を通して伝えたいことは何でしょうか。
舞踊家として60年間見つめ続けてきた私のさまざまな舞の瞬間の重なりは、いま確信へと近づいています。舞は肉体と精神、魂の癒しとなり、個を目覚めさせます。また、その喜びは感動を与え、天と地と人を結ぶ美しくパワフルな力となり、地球さらに宇宙へと響きわたります。舞は人を甦らせ、幸せの道へとつなげることができます。

「あるがままに」「100%の純粋性をもって」「今、この瞬間を生きる」
これは、私が生徒さんによくかける言葉です。舞っている瞬間は、何かをしようなんて誰も考えません。無になって、ひたすら舞い踊るだけ。風になっている私、花になっている私・・・・・・。地球上のすべて、そして自らの存在に深い愛と感謝をもって“今、ここ”を舞うことで、意識が変わる瞬間を感じていただきたいと思っています。

ワークショップを終えると、皆さん「自分の中の何かが変わった」とおっしゃいます。それは、その方に最大、最高のギフトが与えられるから。喜びに満ちた美しい舞には、美しい波動が集まってきます。喜びが喜びを引き寄せるのですね。

舞はヒーリングになりますし、祈りを込めた舞は未来をつくることができます。昔のシャーマンたちはそれを知っていたと思いますよ。だから、太古の昔から巫女舞というものがあるのでしょう。舞はご神事、舞そのものが祈りだと思っています。

私は、太古から受け継がれてきた祈りを現代で皆さんと再現しているような気がしています。祈りの舞をひとことで表現すると、“感謝にあふれ、愛に満ちる”なのですね。祈ることで、泉のごとく感謝があふれてきます。そして私一人だけでなく大勢の方とともに祈ることで、祈りは確実に届くと信じています。地球の未来、世界の平和のためにぜひ皆さんご一緒いたしましょう。
(写真提供:Shizuno Nasu ハワイ島 ボルケーノにて)
“感謝にあふれ、愛に満ちる”祈りの舞。
私も何度かワークショップに参加していますが、一日のお稽古を終える頃はいつも、あたたかな感謝にあふれて胸がいっぱいになります。

私たちが生かされている自然への感謝。今、この瞬間を生きていることへの感謝。集まった方々との出会いやご縁への感謝。普段の生活の中でとりたてて意識しないことですが、祈りの心を込めて舞うことで、あらためて大切なことに気づかされます。

シズノさんを慕う生徒さんの輪は全国でゆるやかに広がり、伊勢神宮の奉納舞にも北海道、東京と、遠方からも大勢の方が集まりました。外宮・勾玉池の水面に浮かぶ奉納舞台は緑に囲まれ、ちょうど花菖蒲が満開の季節。心地よい風の吹くなか、風のごとく、花のごとく、まさに自然と一体化した優美で神々しい奉納舞を拝見させていただきました。

言葉を使う仕事をしていながら、言葉だけでは表現しきれない世界があることをたびたび思います。祈りの舞もまさにその一つです。「自然体に戻るだけで、誰でも舞うことができます」という那須シズノさんのワークショップ、機会があればぜひ体感していただきたいと思います。
(取材:2017年5月)
那須シズノさん
(舞踊家)
大阪生まれ、ハワイ島在住。3歳でクラシックバレエを始め、僅か7歳でボリショイバレエの交換留学生に選ばれる。19歳でプロダンサーとしてデビュー。世界各国でそのパフォーマンスを称賛される。「踊りの原点とは何か」と問い、古代から伝わる日本の“舞”の研究に入る。長年にわたり、“舞の巡礼”として日本全国を踊り渡り、舞踊の技を極め、舞いにおける深い精神性を学び、那須シズノ舞「SPIRAL VISION~スパイラルビジョン~」を醸成する。2010年ハワイボルケーノにシズノダンススタジオを設立。現在、日本とハワイを結び、ダンスワークショップを通じて心の解放と意識の変容を伝え、ともに魂の成長を見つめながら、「舞」平和へのメッセージを世界に発信している。
HP:http://dance-shizuno.chu.jp
Facebook:Shizuno.Nasu.Japan
関西の主催者 井上理映子さんのブログ:http://ameblo.jp/patriciamoon/
関西でのワークショップのスケジュールは、こちらよりご確認ください。
中島 未月
五行歌人/詩人

心をテーマにした詩やエッセイ、メッセージブックなどを執筆。 著書は『心が晴れる はれ、ことば』(ゴマブックス)、『だいじょうぶ。の本』『だから優しく、と空が言う』『笑顔のおくりもの』(以上、PHP研究所)など多数。現在、「古代」「祈り」をテーマに、新たなフィールドの物語執筆に向けて準備中。
公式HP:http://nakajimamizuki.com/
『あなたに、会えてよかった』
文・中島未月/写真・HABU/PHPエディターズ・グループ
美しく生きよう。 優しい時間を生きよう。 つながっている、この空の下で。 人生の中で出会った、大切な人に贈りたい写真詩集。 Amazonでのご購入はこちらから

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