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■関西・祈りをめぐる物語


[第三回]奈良県御所市 葛木御歳神社 宮司 東川優子さん

「とても素敵な女性宮司さんがおられますよ。お会いになりますか?」
第一回で取材させていただいた『古事記のものがたり』の著者・宮崎みどりさんに、奈良県御所市の葛木御歳(かつらぎみとし)神社をご紹介いただきました。

宮司の東川優子(うのかわ ゆうこ)さんは、大学では環境生物学を専攻、その後、塾講師や個人塾経営を経て、現在の宮司職に就かれたという異色の経歴をお持ちです。また、2015年には、神社の横にサロン&カフェ「みとしの森」をオープン。宮司職のかたわら、一人でカフェを切り盛りし、カフェは夜になると塾にもなるそうです。

取材前に神社のブログを拝見したのですが、さまざまな苦労を乗り越えて、さびれた神社を再生された過程が綴られており、時間を忘れて読み入ってしまいました。

どうすれば、自分の人生を信じて、強くまっすぐ歩いて行けるのだろう?
きっと、今を生きる女性にたくさんの気づきやヒントをいただけるはず。私自身も、とても興味を覚えて、葛木御歳神社を訪れました。

「過疎高齢化が進む地域で、二千年の歴史を持つ神社を千年先まで残したい。そのために、地域と地域外の人が一緒に盛り立てていく神社を夢見ています」という東川宮司に、神社の修復からサロン&カフェをオープンするまでの道のり、そして神社に対する思いをお伺いしました。

40歳を過ぎて、神職の資格を取られたとお聞きしました。
どのような経緯で、葛木御歳(かつらぎみとし)神社にお仕えすることになったのでしょうか。

ここ葛城は、非常に過疎高齢化が進んだ地域です。村の氏子さんたちは高齢化していますし、若い人もほとんどいません。御歳(みとし)神社は歴史も古く由緒正しい神社ですが、跡継ぎもなく、すっかり荒れ果てた状態でした。前宮司と血縁はありませんでしたが、たぶん、なにかしらのご神縁があったのでしょう。縁あってこの神社を継ぐことになりました。

「神社の家に生まれたわけでもないのに、どうして?」とよく訊ねられますが、とても一言では説明できないのです。その頃、拝殿には苔や土が積もって、とても靴を脱いで上がれる状態ではありませんでした。由緒ある偉大な神さまを、こんな状態にしておくのは絶対によくない。神さまが悲しまれていると思い、降って湧いたように「私が神社を継ごう」と思い立ちました。

2004年と2005年に皇學館大學の神職講習を受けて、神職の資格を取りました。
ただ、資格を取って神社を継いだものの、張り切って神社だよりを出してお祭りへの参列を呼びかけても反応はなく、大祭ですら参拝者が2、3人。そんな状態が1年ほど続きました。

どうして村の人は来てくださらないのだろう?
悩みながら、落ち込みながら、試行錯誤の日々でした。そして、地元の人が来てくださらないなら、まずは外から人を集めようと思い、Webで情報発信を始めました。

ネット社会ならではの発想の転換ですね。

HPを作って神社の詳しい由緒を説明したり、神社に対する私の思いをブログに綴りました。 「こんなに由緒ある神社が、こんなにさびれているんです」「手伝ってください」とSNSなどを通して発信し続けました(笑)。そのうち共感してくださる方が出てきたり、色々な反応が戻ってくるようになりました。

あるとき、「具体的に、何をして欲しいですか?」という書き込みがありました。当時、神社には手水さえなかったので、「手水を流したいです」と返信したところ、神戸から5人くらいで来てくださり、山から竹を切って小川から水を引いて、手水が完成しました。ネットを通してのご縁、本当に有難かったです。その後も、「お祭りがあります」「山整備のお手伝いにきてください」などと呼びかけて、少しずつ外からの方が参拝に来てくださるようになり、山整備のボランティアの会などもできました。

ただ、神社が少しずつ復興しても、地域外から神社を応援してくださる方々と地元の氏子さんたちが、車の両輪になっていかなくては意味がありません。課題を一つひとつ調整しながら、地域の方がお祭りの準備に来てくださるようになり、地域外の方々との連携がスムーズになるまで5年、神社がきれいに整うまで10年かかりました。

あきらめない強さ、そして行動力が素晴らしいと思います。
ご自身の中での信条、なにか秘訣のようなものがあるのでしょうか。

人は誰でも、どうしてこうなったのか、何が悪かったのか、いくら問いかけても答えの出ない時期があると思います。人間には光と影の部分があるので、マイナスな状態でじっとしていると、影の部分に押しつぶされてしまうのですね。それを防ぐには、自分の中にある光の部分を思い出して、動くしかありません。

この世界はすべて「理(ことわり)」、自然の摂理に従って動いています。
ですから、うまくいかないときは、理にかなっているか自分に問いかけてみることです。絶望的なときほど、自然の摂理として自分の中にある光、エネルギーの存在を思い出すことが大事だと考えています。それは神道でいうところの、自分の中にある神さまの分け御霊(わけみたま)です。

自分の中にある神さまの分け御霊(わけみたま)、初めて聞きました。

人は生まれる時に、神さまの分け御霊をいただいて生まれてくる、というのが神道の考え方です。私たちは皆、本来、神さまからいただいたエネルギーを心の中心に持っているのですね。

人の心は二重構造になっています。まずは自然の摂理として心の中心に“神さまの分け御霊”、そして、その周囲に“個としての自分”があります。分け御霊は自然の摂理ですから、不変の真理です。その時々の出来事に悩んだり、苦しんでいるのはある意味“個としての自分”です。

たとえば、個としてのエゴで間違った方向へ進もうとしているとき、分け御霊は正しい方向へ導こうとしますから、バランスがとれなくなり、物事は停滞してしまいます。逆に、個の自分と分け御霊が一致すると、エネルギーが湧いて物事の流れがスムーズになります。

迷ったときは、それが個としてのエゴか自然の摂理に従った正しいものか、自分の中で確認すればいいのですね。そうすれば、おのずと正しい道がわかります。また、分け御霊の存在を信じることができれば、自分を信じることもできます。この神道の考え方は、私自身の大きな行動基準になっています。

分け御霊を信じて行動する、とても説得力のある言葉です。
神社の隣で、宮司自らカフェを経営するという試みも画期的ですが、サロン&カフェ 「みとしの森」をオープンする経緯、カフェでの取り組みについてお聞かせくださ い。

それまで、隣町で個人塾の仕事をしながら、神社に通っていました。ただ、参拝者の方が増えるにつれ、宮司が常駐していないため、ご朱印やお守りを求めてこられる方に対応できないという問題が生じてきました。

当時、この場所は物置のような状態で建物だけがありました。ここに移り住もうと思い立ったものの、過疎地なので塾だけでは生活できません。そのとき思いついたのがカフェだったのです。今は地域のコミュニケーションの場も少なくなっていますから、古事記や古代史の勉強会、コンサートなどができる「サロン」としても、皆さまが集える交流の場を作りたいと思いました。

今年6月にオープン1周年を迎えましたが、「みとしの神さまはご縁を結ぶ神さまですね」とよく色々な方におっしゃっていただきます。イベントに参加した方が、別の方を紹介して下さって新しいイベントに繋がったり、集まってこられた方々で新しいご縁が繋がったり・・・・・・。

いつも思うことですが、ご縁は神さまのお導きなのですね。
私自身、ご縁あってたくさんの方々に助けていただいて、神社を整備することができました。神さまは楽しいこと、賑やかに人が集まることを喜ばれますので、コンサートや講座などのイベントを通して、「みとしの森」でたくさんのご縁を繋いでいただきたいと考えています。

最後に、東川宮司にとって「祈り」とはどのようなものでしょう。
また、こうして守ってこられた葛木御歳神社への思いをお聞かせください。

私は、神さまも「理(ことわり)」だと思っています。
自分一人のだけの思い込みで祈っても、それは神さまに通じません。一人の願いが大勢の人と共通の願いになったとき、物事は動くと信じています。願いが叶うのは奇跡ではなく、理にかなったときなのですね。

願ったことが叶わないときは、祈りが通じていないのではなく、うまくいかないことが神さまにとっての正しいこと。神さまは右ではなく左に行きなさいと導いてくださっている、と考えます。 ですから、私にとっての「祈り」は、お導きくださいという決意表明。自然の摂理に従って正しく進めますように、自分の選択に間違いがありませんように、と祈っています。

神社は英語で「sanctuary:サンクチュアリ」、聖域と訳されます。
つまり、神社をよくするためには、本殿だけではなくご神体山はもちろん、その周囲の環境すべてを聖域として大事に整えていかなくてはなりません。環境を整えるという意味では、長いビジョンが必要です。自分の代だけでどうにかするのではなく、二千年の歴史を持つ神社を千年先まで残すために何をすればいいのか。そう考えると、おのずとやるべきことが見えてきます。

私の好きな言葉の一つに、「連綿と続いてきたものを、連綿と続ける」という言葉があります。 私自身のできることは、連綿と続いてきた、この御歳神社の神職の方々の歴史のひとこまでしかありません。自分ができることは限られています。これだけやって、あとは次の人にお願いするという気持ちでいれば、その思いは伝わるし、繋がっていくと思っています。
正しい道を選ぶのは、難しい。
心に迷いが生じたとき、さまざまな局面でいつも思うことです。

だからでしょうか。
迷いながら、悩みながらも常に前を向いて、いくつもの困難を乗り越えてきた東川宮司の言葉は、同世代の女性としての、きれいごとではない等身大の説得力がありました。

「願ったことが叶わないときは、うまくいかないことが神さまにとっての正しいこと」
確かにそう考えることができれば、思いわずらうことなく、現実をありのまま受け止め、前を向くことができます。

また、お話の中に何度も出てきた「分け御霊(わけみたま)」という言葉が、とりわけ深く心に残りました。生まれるとき、神さまからいただいた分け御霊。心の中に存在する、何にも左右されない清らかなエネルギーを信じることができれば、人はどんなときも美しく、まっすぐ進めるのかもしれません。目に見えるものだけでなく、見えないものを信じることの大切さを、今回もあらためて思いました。

サロン&カフェ「みとしの森」では、宮司による講座「神道~かんながらのみちのお話」をはじめ、毎月さまざまな講座やイベントが開かれています。興味を持たれた方は、ぜひ葛木御歳神社へ、そして東川宮司に会いに行っていただきたいと思います。
葛木御歳神社 宮司 / 東川優子(うのかわ ゆうこ)さん
1962年、大阪府生まれ。奈良女子大学理学部生物学科卒。環境生物学を専攻。2004年、2005年に皇學館大學の神職講習会で資格を取得。2009年、禰宜から宮司に就任。2016年より、神道の講座を主催したり、クラブツーリズム「全国一の宮めぐり」の講師としても活動の幅を広げている。
葛木御歳(かつらぎみとし)神社
葛城・金剛山の東、代々鴨族が祭りごとを行ってきた神社の一つ。地元では、御所市にある高鴨神社(上鴨さん)、鴨都波神社(下鴨さん)とともに中鴨さんとして親しまれている。御歳神は稲の神、穀物を司る五穀豊穣の神。本社背後の御歳山は、神体山として古くは弥生の頃より田の神を祀っていた。現在の本殿は、春日大社の本殿第一殿を移築したもの。

〒639-2262 奈良県御所市東持田269
HP:http://www.mitoshijinja.jp/
ブログ「鎮守の森から」:http://blog.goo.ne.jp/mitoshi7
近鉄御所駅からタクシー10分、小殿バス停下車徒歩10分。
南阪奈「葛城インター」から20分。
京奈和「御所南インター」から10分。
駐車場(25台)あり。

サロン&カフェ みとしの森
HP:http://mitoshinomori.com/
Facebook:https://www.facebook.com/mitoshi3/
*ランチのご予約は 0745-66-1708 mail@mitoshinomori.comへ。

(取材:2016年9月)
取材:中島 未月
五行歌人/詩人
心をテーマにした詩やエッセイ、メッセージブックなどを執筆。 著書は『心が晴れる はれ、ことば』(ゴマブックス)、『だいじょうぶ。の本』『だから優しく、と空が言う』『笑顔のおくりもの』(以上、PHP研究所)など多数。現在、「古代」「祈り」をテーマに、新たなフィールドの物語執筆に向けて準備中。
公式HP:http://nakajimamizuki.com/

最新刊『あなたに、会えてよかった』
(文・中島未月 写真・HABU / PHPエディターズ・グループ)
美しく生きよう。
優しい時間を生きよう。
つながっている、この空の下で。

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