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■関西ウーマンインタビュー(美術・芸術)


田面 遙華さん(書道家)

守破離。既存の型に縛られず、独自の書を追求したい

田面 遙華さん
書道家
浪速書道会の常任理事であり、ご自身で「書道教室HARUKANA」を主宰し、伝統芸術としての「書道」の継承・魅力発信に取り組む田面遙華さん。

一方で、音楽やイラスト、ダンスなどさまざまなジャンルのアーティストやクリエイターとコラボレーションして作品をつくったりパフォーマンスライブを行ったりするほか、若手表現者を支援するアート団体で理事を務めるなど、現代アートの分野でも活躍されています。

伝統芸術と現代アートの両方の世界で「書道家」として生きることを選んだ田面さん。既存の型に縛られず、伝統と革新を融合させた新しい表現を追求する背景には、どんな想いがあるのでしょうか。
自分が好きなこと、武器にできることを「一生の仕事」に
小学1年生の時から「書道」を続けているのですね。始めるきっかけは何ですか?
両親が自営業だったので「習い事をしていたほうが安心」との理由から、両親に勧められるがままに近所の書道教室に通い始めました。これが「書道」との出会いです。

字を覚えたら弟と妹に字を教えたり読み聞かせたりするなど、「書くこと」に興味を持てたから続けることができたんだと思います。

イラストや漫画など絵を描くことも好きでしたが、さまざまな色を用いてカラフルに描く絵とは異なり、言葉と黒白で表現する書道のすごくシンプルで潔い感じに魅かれました。
習い事で始めた「書道」を仕事にしようと思ったのはいつですか?
社会人になって3年ほど経った頃のことです。

生涯に渡って会社勤めする姿を想像できなかったので、自分が好きなことや武器にできることを一生の仕事にしたいと考えるようになりました。字を書いたり人に教えたりすることが好きだから、師範免許を取って書道教室の先生になろうと思い立ったんです。

小学生の頃からお世話になっている浪速書道会で会長先生に師事し、2年かけて専門的な勉強や展覧会出展などをして、26歳の時に免許を取得。その後は師匠に付いて教える経験を積み、29歳の時には自分で教室を開いたほか、知人づてに筆文字のデザインやロゴ制作などの仕事も引き受けるようになりました。

この間も会社勤めを続けていて、家に帰って深夜2時、3時まで書の仕事をし、休日は書道教室を開く日々。その生活も年齢とともに身体的につらくなってきて、家族が大病したことも重なって、人生悔いがないようにしたいと、35歳の時にこの道一本でいくと師匠に宣言しました。
出会いを多様な表現のきっかけに
アーティストやクリエイターとコラボレーションした作品づくり、字を絵画的に表現した書、インスタレーションなど、書道でさまざまな表現を試みていらっしゃいますね。
師匠と出会って書道の自由さに触れたことが最初のきっかけで、自由に表現してみたいと強く思ったんです。

子どもの頃から長年、お手本を見て美しく書くことを喜びとしてきましたが、師匠は「書道はアート」という感覚をお持ちで、お手本なし、自分で自由に考えて書くという教え方でした。

たとえば、「花鳥風月」という言葉を書くとします。「花」という一字をとっても、「大輪の花」か「可憐なかすみ草みたいな花」か、自分が何をイメージし、何を伝えたいのかによって、表現方法が変わってきます。

イメージに合う書体を文献から選び、筆の運び、細太、強弱、濃淡など自分なりのアレンジも考え、白い半紙の中にどう構成するのか、草稿という設計図をつくります。どうしてこの構成にしたのかを自分で理解し、人に説明できて初めてその表現が成り立ちます。

書道というと、パッと字を書くから一瞬で出来上がると思われがちですが、書くまでの時間がとても長い。自分が表現したい墨の濃淡のためには湿度を見てすり方を変えるなど、練りに練っての一瞬であり、知識や経験に裏打ちされたものなんです。

師匠に師事した時にはすでに書道を始めて15年以上が経っていましたが、この時、これが書道なんだと実感しました。
アーティストやクリエイターとコラボレーションした作品づくりは何がきっかけですか?
初個展を開催したギャラリーが陶芸作家や雑貨作家、イラストレーターなどいろんなジャンルの人たちが集まる場所で、それまで書道の世界の人たちとしかつながっていなかったのが、一気に幅広いジャンルの人たちと出会うきっかけになりました。

初めてのコラボレーションはイラストレーターです。和風な艶のある作品をつくる方で、私の書に興味を持ってくれて、世界観に共通するものがあったので意気投合しました。その作品が出来上がると、「音楽をつけてみよう」「次はお芝居も」と話が膨み、ほかのジャンルの人たちとも一緒に作品をつくるようになったんです。

その後はバンドとDJ、ダンスと音楽、音楽と絵、写真と詩などと組み合わせて書のパフォーマンスライブを行うようにも。音楽の音色や間、踊りの動きと、自分が書く動きや速度が重なる瞬間があって、自分が頭の中に思い描いていたものとシンクロするという経験をしました。

そういった経験から、今度は書の中に人が入ったらおもしろいんじゃないかなとひらめいたんです。
「書の中に人が入る」とはおもしろい発想ですね。どのように表現したのですか?
書の中に入ってもらうためには自分の作品を半紙の中から出さないといけませんから、空間全体を作品とするインスタレーションという現代アートの手法を用いることにしました。

歌人とのコラボレーションで廃線を詠んだ短歌を表現した時は、短歌にある言葉を印刷し、字を「へん」「つくり」などパーツごとにバラバラにして、線路をイメージした空間に浮かせて設置。照明を使って壁に影を映して、一見するとバラバラに見える漢字が見る角度によって影では正しく見えるようにしました。

書道展といえば、壁に作品を並べて、それを順番に見てもらうのが一般的ですが、こんな見せ方もできるんだと可能性を見出せた出来事です。

それまで書道は1つだけで成立するものと思っていましたが、写真や絵、音楽などと同じで多様な表現ができるものですし、何かと組み合わせると新しいものが生まれるのだと思いました。
出会いによって、表現方法を多様にされていますね。現在はどんな表現を試みていますか?
今は自分が書くよりも、誰かに書いてもらう書道を中心に置いています。

師範免許を取得してから書道教室を開いていますが、生徒さんは「書道を習おう」という気持ちがある人たちがほとんどです。この数年はアート関係者から依頼を受けて、生きがいづくりやアートセラピー的な目的で、書道に興味のない人たちにも教えています。

その際は「夏」といった大きなテーマを設けて、「夏といえば、どんなことを思い出しますか?」という対話から始めます。テーマを入口として、どんなことを考えているのか、どんなことが好きなのか、若い頃のこと、生まれ故郷のことなど、いろんな話を引き出します。

対話の中から「ビアガーデン」という言葉を書きたいとなったら「キンキンに冷えているビールを思い出して」、枝豆であれば「思い出の中にあるコロッとまるみがあって、まめが出てきそうなイメージで」とご自身の内側から溢れてきたものを書として表現してもらうようにしています。

対話をきっかけに、過去を思い出したり、凝り固まったイメージをほぐしたり、人と人が出会うからこそ生まれる表現があるのだと思います。
伝統も革新も両立するからこその可能性
アートでさまざまな表現を追求しながらも、伝統芸術としての「書道」も大事にされています。どちらかではなく、両方を大事にされているのはなぜですか?
書道家の道として、展覧会で賞を取って地位を築いて王道の世界でのぼり詰めていくのか、自分の独自性を追求していくのか、大きくその2つがあると思っています。

基本の技術を持って新しいことをするほうが説得力がありますし、新しいことに挑戦できるのは基本の技術があってこそですから、私はどちらも追求していこうと決めたんです。

それぞれの分野で専門的にされている方もいるので、その中で独自性を出すのはなかなか難しいかもしれません。でも、それぞれの世界での経験を、それぞれの世界で活かしながら、自分の世界をつくっていけるのではないかなと思ったんです。
師匠や書道会のみなさんからはどんな反応がありましたか?
師匠はイベントにも足を運んでくださり、「どんな考えで書いているのかがわからない作品もあるけど、おもしろいんじゃない」と反対はなかったので、ありがたかったなあと思います。

会のトップが応援しているということで、会全体としても問題はなかったのですが、その師匠が8年前に亡くなり・・・現代アートの分野でも活動していることを、また1から説明して認めてもらう作業から始まりました。

口で説明するのはもちろん、どちらも追求している姿を見ていただくことが一番説得力があるだろうと、以前と変わらず活動を継続。

また、師匠の取り計らいで書道家になった時から会の事務局スタッフを務めてきましたから、アートの世界での経験を会の活動に取り入れてみることに。ワークショップをやってみようと、会員から企画を募って、みんなで一つのものをつくり上げるなど試みました。

数年経って、今では上の世代や同世代、さらには下の世代の中には、私のように活動してみたいと言ってくれる人も現れてきました。昨年末から会の常務理事となり、今後は下の世代を育てることにも尽力していきたいと思っています。
「守破離」を繰り返し、次の世代へ
書道家宣言をして11年。振り返って思い浮かぶ言葉はありますか?
「守破離(しゅはり)」です。

師匠の型を習い「守る」。その型を自分の中に取り入れる際、自分に合ったよりよい型を模索する中で、師匠の型を「破る」。師匠や流派から「離れ」、独自の新しいものを生み出し確立する。

それを表した言葉で、まさに自分の今までの生き方かなと思います。
最後に、近い将来、実現したいことは?
書道の持つ可能性を見出すとともに、書道界以外の人たちに書が持つ楽しさや奥深さ、化学反応の可能性を知ってもらう機会になればとの想いも持って活動してきました。

次の世代を見据えて「書道」を継承していけるように、アナログとデジタルを融合させたメディアアート的な作品をつくりたいと考えています。

たとえば、五感で書道。視覚的な映像、書を書いている音を使った「音だけで書道」、触れる書道があってもおもしろい。以前はアロマセラピストに書道に合うアロマを調合してもらって、アロマと墨と書道のパフォーマンスライブを行ったことがありました。

半紙からはみ出して、表現を追求していきたいですね。
profile
田面 遙華(たづら・ようか)さん
専門学校を卒業後、企業に就職。1996年から「浪速書道会」の師範免許取得に向けて取り組み、1998年に取得。師匠のアシスタント、個展開催などの経験を積み、15年ほど続けた会社勤めを辞めて、2007年に書道家宣言する。自身で「書道教室HARUKANA」を主宰するほか、「ひと花センター」(NPO法人釜ヶ崎支援機構)やデイケアなどで書道講座、高校の総合学習の一環として「ペン字講座」の授業、留学生など外国人向けに書道ワークショップを担当するなど、全国各地で教室やワーショップを展開。アーティストとして作品制作に取り組み、既存の書の枠を越え、伝統と新しさを融合させた表現で書の奥深さや表現の豊かさを伝えている。毎日書道会会員、浪速書道会常任理事、書道月刊雑誌「書の泉」編集者、一般社団法人ワオンプロジェクト理事。
instagram: youkatazura
(取材:2018年6月/撮影場所協力: はっち 田面さんが理事を務める一般社団法人ワオンプロジェクトが運営するはちみつとフリーペーパーのお店)
editor's note
田面さんが「近い将来、実現したいことは?」でお話くださった「書道を未来に継承したい」という想い。

書道を未来に継承することが、ご自身が生涯仕事を続けていく上ではもちろん、日本の伝統芸術の継承、誰かにとっての生きる拠りどころとなる表現方法の一つを守ることにつながるとお話くださいました。

古くからある伝統芸術とはいえ、決してなくならないものはないと思います。現に田面さんが子どもの頃は習い事といえば「そろばん」と「書道」が定番でしたが、現在はそうではありません。10年、20年と、めまぐるしく時代は変化しています。

自分が好きなことを「生涯の仕事」にするには、並大抵のことではないんだと思いました。

田面さんは伝統芸術としての書道を究めながらも、現代アートとして多様な表現や関わりを模索されてきたことで、独自性を追求されるとともに、守り・つなぐことを実現されてこられたんだと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP:『えんを描く』

■関西ウーマンインタビュー(美術・芸術) 記事一覧

  • 「自分の感受性は自治したい 」素材として光を用いて表現する照明デザイナーの魚森さん
  • 「掘り下げれば膨大な水脈が隠れている」自分の創りだしたものにどう責任を持つか、絶えず問い表現する城戸さん
  • 「自分のペースで生きていい」文学作品から着想を得て、善悪美醜入り交じる人間の情念を描く松澤さん
  • 「既存の型に縛られず、独自の書を追求したい」現代アートの世界で書道家として生きることを選んだ田面さん
  • 「自分の絵をこよなく愛し執着する」「マリブルー」と称される青を基調とした絵が印象的な青江鞠さん。
  • 「日常の視座と違う視点を持って生きたい」見る側にさまざまな想起を投げかける風景画を描き続けている安喜さん
  • 「自分の生きてきた証として書を残していきたい」技術を高める鍛錬が自分の自信になると話すみゆきさん



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