ある方のお勧めで、
浅井まかてさんの『恋歌(れんか)』を読みました。
主人公は歌人 中島歌子。
明治時代に私塾「萩の舎」を主宰して、
上流・中流階級の子女に和歌と書を教えており、
門下生には樋口一葉がいます。
小説は、門下生の一人である三宅花圃が、
入院・死去した師匠宅を整理していて
師の書き置きを見つけるところから展開していきます。
師は自分の半生を書き残していました。
***
江戸小石川にある宿屋「池田屋」の娘 登世(のちの歌子)は、
厳しい母に躾けられながらも、
のびのびと育っていた。
池田屋は水戸藩士が多く利用しており、
登世はその中の一人と運命の恋に落ちる。
結婚は親が決める、そんな時代にもかかわらず
登世は想う人の妻になることができた。
江戸から水戸に嫁いでみると、
習慣や生きる規範など、
あらゆることが江戸とは違い、
戸惑うことも多い登世だった。
黒船来航、大老井伊直弼の暗殺、
第十四代将軍の死去と、
風雲急を告げている。
これからどうすればいいのか、
政治の舵をどう取ればいいのか、
水戸藩の中でも大きく意見が対立している。
登世の知らぬところで、
夫もその波に飲まれていくのだった…
***
師・中島歌子が書き残したものを
読まずにはいられない花圃。
それを読んでいる読者は、
ほとんど花圃と同じ視点になっています。
ページをめくるのは自分の手なのだけど、
それは花圃でもあるわけで、
そこがまず面白いです。
次に、時代背景。
幕末を舞台に描いた小説はいろいろあります。
例えば司馬遼太郎さんで言えば
『世に棲む日日』『燃えよ剣』『竜馬がゆく』で、
それぞれ長州、会津(新撰組)、土佐がメインです。
どれも本当に面白かった。
私は司馬遼太郎さんが大好きだったし、
新撰組が好きだったので、
幕末といえば、薩長土肥、会津、あとは徳川家で、
水戸藩のことはほとんど知らなかったのです。
そういえば、歴史の教科書で見た
「天狗党の乱」がこれなのね?
水戸藩の内紛と、巻き込まれていく女性たち、
そして明治の世になってすら続く因縁のすさまじいこと。
明治の人は強い、とはよく言われたことだけど、
そりゃ強くもなるわねぇ、と思わずに入られませんでした。
一見甘やかなタイトル『恋歌』。
その奥に潜んだ、中島歌子の壮絶な想いに引きずられて、
最後まで一気に読みました。
第150回直木賞受賞、むべなるかな。
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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