第153回芥川賞受賞作品『火花』。
本離れが危惧される中、120万部突破ですって。
今更読むのが恥ずかしくなるくらいの売れっぷりです。
お笑い芸人 ピースの又吉さんが書いたから売れているのか、
作品そのものの力で売れているのか。
確かめるべく手に取りました。
読み始めてすぐに思ったのは、
芥川賞っぽい文体だなということ。
端整というか、丁寧というか、ちょっと理屈っぽいというか、
ともかく最近の小説には珍しいような「純文学」だと思いました。
又吉さんが読書家ということは以前から聞いているけれど、
確かに、よく本を読んでおられるのだろうとわかります。
一つ一つの言葉が吟味されているのです。
***
この小説の主人公「僕」は漫才師。
スパークスというコンビ名で活動している。
ある花火会場での「営業」から物語が始まる。
客に全く興味を示されず、持ち時間をなんとかやり過ごしたスパークス。
そのあと、よりいっそうステージなどに興味を持っていない客に向かって、
とんでもない舞台を勤めたお笑いコンビ「あほんだら」の神谷さんと
運命の出会いとなった。
「僕」は神谷さんを師と思い定め、深く関わることになるのだった…。
***
天才肌のお笑い芸人神谷さんと「僕」の会話が、
面白くて、ちょっと怖くて、そして深いのです。
お笑いの人は皆こんなに哲学的なのかしら?
こんなにも、深く突き詰めて考えているの?
白鳥が、水面下で必死で足を動かしているのを
感じさせない優雅さをたたえているのとおなじで、
お笑い界の人は、多くの迷いや悩みを隠して、
アホになって笑われているのかしら?
しかし、一番怖いのはどれほどアホになったとしても、
お客さまが笑ってくれるとは限らない。
信念をもって、面白いことをしても、喋っても、
誰ひとり笑わないかもしれない、その恐ろしさ。
自覚のない天才の出現の残酷さ。
さまざまな、お笑いの深淵を覗き見るような小説です。
芥川賞を受賞したのは、その深さゆえではないかと思いました。
小説の構成としては、
「あほんだら」(神谷さん)がステージで、ある言葉を連呼する冒頭シーンと、
ラスト近くに「スパークス」(僕)がステージで、
ある言葉を連呼するシーンが呼応していたのが、
特に印象深かったです。
それ以外にも、おしゃれについてや、
ネットでのバッシングについて語られている部分も面白く読めました。
それにしても…
特に大きな事件が起こるわけでもなく、
比較的淡々と語られる物語の、
最後にビックリする展開が待ち受けていました。
あの人はその後、どうなっちゃうんだろうなぁ。
気になるなぁ。
え?何が気になるのかが気になりますか?
それならぜひ、ご自身でお読み下さい。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
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