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宿題の絵日記帳(今井 信吾 )

日々が愛おしい。

宿題の絵日記帳
今井 信吾(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、今井信吾さんの『宿題の絵日記帳』。

タイトルを聞いた時点では、子どもの絵日記を連想しました。小学生の夏休みに、必ずのように出題された絵日記の宿題。

コツコツやれば良いものを、つい遊びすぎて眠くなり、「まあ、明日2日分まとめて描けば良いか」なんて一度サボってしまったら、もうだめ。

ずるずると描かない日が続き、8月31日に必死で空白ページを埋めることに。そんな経験をしたかたも多いのでは?

私はそんなことを思い返しながら、この本のことを子どもたちの絵日記集だと思ったのです。

ところが全然違いました。絵日記を描いていたのは、今井信吾さん。今井さんは多摩美大講師(のちに教授)。

1982年に生まれた次女の麗(うらら)ちゃんが生まれつき耳が不自由で、0歳から ろう話学校に入学することになりました。

絵日記はろう話学校から出された宿題です。授業で日々の出来事を子どもと先生が会話する補助に使うためだとか。

普通のお家では本人か、お母さんが描くのだけれど、今井さんのお宅では、自然と信吾さんが描くようになったそう。

でも考えてみてください。通常、お父さんというのは子どもと過ごす時間がそれほどありません。平日は、ご自分が帰宅してから寝るまでの間に描くしかないのです。

今井さんは仕事で絵を描く時には、構想を練ったり下絵を描いたりします。ですが、この宿題に関しては、ボールペンで荒く走り描きをし、余裕があれば色を塗るくらいしかできなかったとか。

絵にはまったく疎い私がこんなことを言うのは失礼ですが、その分、生々しい現実的な記録になっているように思いました。そして、走り描きと言いながら、さすがプロ、お上手なのです。

幼い麗さんの毎日は、泣いたり笑ったり喜んだり怒ったり。節分の豆まき、桜吹雪、七夕の笹飾り、プールや、渓谷でのバーベキューや花火。

丸のままのスイカを持ちきれず落として割ってしまったり、芋掘りでどっさりお芋をもらったり。

急に降ってきた雪の日はパパのコートの中に入れてもらって歩いたり、クリスマスツリーの飾り付けをしたり……

四季の中で、最初は幼児だった麗ちゃんが大きくなっていくのがわかります。

6歳になって、麗ちゃんのお姉さんが通っている普通の小学校に入学を許可された麗ちゃん。

入学前にお姉さんの父兄参観について行って見学し、先生の言っていることが何もわからなくて、不安になったらしく、お父さんに抱っこされながら今まで通りろう話学校に行きたいと、泣いている絵がありました。

抱っこしているお父さんも泣いていて、私まで思わず泣いてしまいました。麗ちゃんがどんなにか不安だったろうと思って。

ですが、ご安心を。 麗ちゃんはその後も普通学校に通い続け、美大を卒業。現在は新進画家となっておられます。

結婚もされてお子さんが三人。旦那様との五人家族だそうですよ。「今井麗」で検索すると、麗さんの絵を見ることができます。

会話もほとんど問題なくできるそうです。そうなった要因はお姉さん。幼い麗ちゃんがわかろうがわかるまいが、まったく容赦なく(?)喋りかけ続けたことが、結果的に良いトレーニングになっていたんですって。

それにしても、泣いたり笑ったりの日々は、麗ちゃんだけではなく誰にでもあるはず。もちろん私にもありました。(現在進行形ですね)

でも、強烈な出来事は覚えていても、なんでもなかった日々のことは、淡くも消えていくものです。

この本の最後には、積み重ねられた「宿題の日記帳」が写っています。その数20冊以上。

もし麗ちゃんが耳に障害を持っていなかったら、これらの日々は描き留められることなく、流れて行ったのではないかしら。

こんな素敵な宿題があるのですねぇ。
宿題の絵日記帳
今井 信吾(著)
リトルモア
子供と先生が会話の練習をする補助として、宿題に出された毎日の絵日記。画家の父はにぎやかな家族の日々を、みずみずしく写し取る。高度難聴のやんちゃな娘は、たくさんのおしゃべりとやさしさにつつまれて、少しずつゆっくりと、言葉と声を獲得していく。聾話学校に通う娘のために、父が描いた日々の記録。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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