つぼみ(宮下奈都)
ほのかに明るい未来が良い つぼみ
宮下奈都(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、宮下奈都さんの『つぼみ』。『つぼみ』は6つの短編小説集です。 ”手を挙げて
あのひとの娘 まだまだ、 晴れた日に生まれたこども なつかしいひと ヒロミの旦那のやさおとこ” (宮下奈都さん『つぼみ』 目次より引用) 6篇のなかで私が一番好きなのは『なつかしいひと』。
”中学生の「僕」は両親と小学生の妹の四人で東京に住んでいた。しかし母が亡くなったことで、東京を離れ、母の郷里である九州の小さな町に引っ越すことになった。
家族全員が母(あるいは妻)の死から立ち直れないでいる。「僕」は大好きだった読書もする気になれない。母も本が大好きだったのだ。 転入した中学校では、クラスに馴染めず一人浮いている気がする。そんなとき、久し振りに町の本屋さんに立ち寄った「僕」は、一人の少女を見かける。そしてその少女と本を通じて話をするようになるのだが……” (宮下奈都さん『つぼみ』内『なつかしいひと』の冒頭部分を私なりに紹介しました) このお話は一種のメルヘンです。
そしておそらく、多くのひとはこの話を「そんな馬鹿なことがあるわけない」と一蹴したりせず、本当にこういうことが おこれば良いのに、とお感じになるのではないかと思います。 そしてなんとも言えない温かい気持ちになるでしょう。 『つぼみ』に納められた6つの作品は全て、普通の人の日常が描かれたものです。 大どんでん返しや、突拍子もない出来事は起こりません。(『なつかしいひと』だけは、ある意味突拍子もないかも知れないです) もしかしたら、主人公が私であっても あなたであってもおかしくないようなお話ばかり。 ではそれがつまらないかといえば、そうではありません。彼ら、彼女らの日常がこの後どうなるのか、どんどん先を読みたくなるのです。 そして、それぞれの人生の先に、ほのかではあっても明るいものが見えて、ほっとするのです。 『手を挙げて』『あのひとの娘』『まだまだ、』はそれぞれ独立した作品として読めるものの、登場人物たちに関連性があります。 いずれも花(華道)に向き合う人たちのお話で、私は読んでいないのですが、同じく宮下奈都さんの作品『スコーレNo.4』のスピンオフ作品なんですって。 元の作品を読んでいなくても楽しめますが、先に『スコーレNo.4』を読んでいれば、より一層おもしろかったのかも知れません。 どちらも読んでいらっしゃらないかたは、ぜひ順番に読んでみてくださいね。 最後に、私がこの作品のなかで印象深かったフレーズをご紹介します。主人公のお祖母さんの言葉です。 ”「型があるから自由になれるんだ」
「型があんたを助けてくれるんだよ」” (宮下奈都『つぼみ』内 『まだまだ、』より部分引用) なんの型かというと、華道の、お花の活け方の型です。まだ若い主人公は自分らしい活け方、自分の花を模索しています。
それなのに華道の先生は型しか教えてくれない、それだったら誰が活けても同じ花になってしまうではないか、自分は自分らしい花を活けたいんだ、という孫娘に対してお祖母さんは基礎が大切なことを説くわけです。 この言葉は華道に限ったことではないでしょう。ピアノでも、バレエでも、絵画でも、まずは基礎を極めるよう教わるはず。 習い事だけではありません。毎日の何気ない習慣もを大切にするのも同じこと。 型が身についた先に個性が生まれてくるという、深い言葉だと思いました。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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