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逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

「いじめ」がなぜいけないのか、答えがここに

逆ソクラテス
伊坂幸太郎(著)
『逆ソクラテス』には、おもに小学生が主人公の短編5つが収められています。

古代ギリシャの哲学者ソクラテス。学生時代に授業で「無知の知」という言葉と共に教わった記憶があります。

「無知の知」とは「自分がいかに知らないかを知っている」こと。

つまり、全てをわかった気になってはいけない、自分がいかにわかっていないか、無知であるかを自覚せよという意味です。

この小説のタイトル『逆ソクラテス』は文字通りソクラテスの逆。

「自分がいかに知らないかを知らない」人、「何もかもわかっている気になっている」人のことです。

5つの短編の最初が『逆ソクラテス』。
大人になった「僕」が、今も鮮やかに思い出せるのが小学校6年生の頃の思い出だ。

担任の久留米は生徒に対して先入観を持って接している。特にひどいのは「僕」の友だちである草壁への態度だ。

草壁のやることなすことに対して、「やっぱり草壁はダメだなぁ」「やっぱりお前か」と、せせら笑うように言うのだ。

そのせいだろうか、クラスのみんなも草壁のことを軽く見ている気がする。

そんなある日、転校生の安斎が発案した。友だちで協力しあって、久留米の態度を変えさせようではないか、と。

安斎が最初に考えたのは「草壁にテストで100点を取らせる」作戦だった……
(伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』の出だしを私なりにまとめました)
自分は正しい、自分はなんでもわかっていると思い込んでいるから、生徒とじっくり向き合いもせず、その子の全てを決めつけてしまう。

できの悪い(と判断した)生徒を小馬鹿にする久留米先生、彼こそが逆ソクラテスというわけです。

そして先生のそのような態度が生徒に与える影響は大きく、クラスメートも先生の尻馬に乗って、同級生をバカにしてしまうのです。

そしてバカにされ続けることで、当の本人までもが自分は能力が低いのかもしれないと萎縮してしまう。

転校生の安斎くんは、いろいろなことを知っていて、このような現象を「教師期待効果」というのだと「僕」に教えてくれます。

教師が「この子はできる」と思った子に、「よし、いいぞ」「よくできたね」と褒めると、褒められた子どもはメキメキ伸びていく。

逆に「いつもお前はダメだな」「やっぱりお前のしわざか」などとネガティブな言葉ばかり浴びせられる子どもは自分でもそう思い込み、沈んでいく。それが「教師期待効果」だと。

そして教師の態度を見ていて、他の生徒たちまでもが相手を軽んじていいと思ってしまうのも悪い影響だと安斎くんは説明します。

現実問題として、教師のこんな態度でいじめの対象が決まってしまうことがあるかもしれません。

安斎くんは、もし誰かにそんな態度を示された場合、そこから抜け出る「呪文」を教えてくれます。それはとてもシンプルな言葉。

「僕はそうは思わない」

自分自身やあるいは自分にとって大切な人や物について、よくわかりもしないで「ダメなやつだな」「最低だな」と決めつけられた時にはっきりと「僕は そうは 思わない」と言いなさいと。口に出して言えないのであれば、心の中で呟くだけでもいいから、と。

こんなことを同級生に教えてあげられる安斎くんは、なんと深い小学6年生でしょうか。

安斎くん考案の逆ソクラテス打破作戦がうまくいくかどうか、ヒヤヒヤワクワクしながら読みました。

その間、私自身も小学6年生に戻って、一緒に作戦に参加している気分でしたよ。

そして最後まで読むと、冒頭の約2ページの場面の意味がわかる仕組みになっていて、思わず最初に戻って読み返し、ニヤッとしてしまいます。

ちなみに、安斎くんがこんなにも思慮深くなった理由についても最後にそっと触れてあります。

切ない。

『逆ソクラテス』に収録されている短編のタイトルをご紹介しておきます。
「逆ソクラテス」
「スロウではない」
「非オプティマス」
「アンスポーツマンライク」
「逆ワシントン」
(伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』目次から引用)
いずれの短編も広い意味での「いじめ」がテーマになっています。

伊坂さんは「おともだちをいじめてはいけませんよ」「いじめはダメなことですよ」なんて表面を撫でるようなことはおっしゃいません。

いじめはいつか自分に返ってくるかもよ、いじめるってリスクが伴っているよ、そうおっしゃるのです。

子ども時代の人間関係(力関係)が、一生続くと思ったら大間違いで、将来は誰にもわからない。

人は見かけによらないもので、弱いと思っていじめていた相手が、本当は弱くない場合だってある。そして「評判」は自分を助けもすれば窮地に追いやりもする。

今はいじめていて楽しいかもしれないけれど、周囲の友だちは「あの子は人の迷惑になることばかりしてたよね」「弱い子をいじめて喜んでいたよね」とずっと覚えているものだから。

結局いじめは あなた自身のためにならないよ、ということです。

そもそも相手によって態度を変えることはとても恰好悪いことだ、と伊坂さんは小説の中で言い切っておられます。

一方で、ではいじめっ子は許してはいけないのか、という問題が出てくるのですが、それに関しても非常に現実的な納得のいく言葉が書かれていて、腑に落ちました。

全ての流れをたどって行き着くのが最後に登場する家電量販店の店員さん。

誰、とは具体的に書かれていませんが、店員さんの正体を思うと、じわっと心が温かくなるのでした。

大人にも、子どもにもお勧めしたい作品です。
逆ソクラテス
伊坂幸太郎(著)
集英社
逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録 出典:楽天
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池田 千波留
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