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七十歳死亡法案、可決( 垣谷美雨)

意外にも明るい読後感

七十歳死亡法案、可決
垣谷美雨(著)
タイトルを二度見、三度見。

思わず手に取ってしまった垣谷美雨さんの『七十歳死亡法案、可決』。
2020年2月、日本で「七十歳死亡法案」が可決された。

「日本国籍を有するものは、七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならない」というもので、該当者はいくつか提案される安楽死から死に方を選ぶことになる。

2年後の4月に施行予定だ。

現代の姥捨山とも言えるこの法案は、少子高齢化に歯止めがかからず、年金制度は崩壊し、医療費がパンク、介護保険制度もうまくいかない日本にとって起死回生の解決方法とされている。

もちろん、人道的に許されるものではないこの法案には反対の者も多くいるし、海外からも非難されている。

とはいえ似たような悩みを抱える外国政府は、施行後の日本の様子を参考にしようと興味深く見守っていた。

専業主婦 宝田東洋子、55歳。

84歳になる姑の介護を13年間続けてきたが、それもあと2年。だが、介護から解放された時には東洋子は57歳になっている。

ということは、そのあと自分に残された時間は13年しかない。

58歳の夫は、法案が成立した途端、早期退職した。残りの人生が勿体無いというのだ。

やっと介護を手伝ってもらえると期待した東洋子だが、夫は世界旅行に行くと言い出した。

自分も連れて行ってもらえるのかも、と期待したが甘かった。

子育ても、介護も、近所付き合いも、家のことは全て東洋子任せだった夫は、当然妻は家を見るものと決めつけ、自分だけ旅行に出かけて行った。

介護の手伝いをしてくれていた長女は、今は実家を出て一人暮らし。

一流大学を出て、都市銀行に就職した自慢の長男は、人間関係につまづいて、早々に辞表を提出。

再就職できず、自分の部屋からほとんど出ようとしないし、自分の殻に閉じこもって、おばあちゃんの面倒をみるどころではない。

誰も頼ることができない東洋子は……。
(垣谷美雨さん『七十歳死亡法案、可決』の出だしを私なりにご紹介しました)
私の紹介では、小説の意図や良さが伝わらないと思います。

ここまで読んで、どんよりと気分が落ち込んでしまった方、申し訳ありません。

もし良かったらもう少しお読みください。

私自身、この小説のタイトルや設定から、深刻で救いのない話かと心配していたのですが、意外にも不愉快な思いをせずに読むことができたのです。

この小説の中には色々な立場の人が登場します。

一人で介護に奮闘する東洋子、介護される側の姑、このまま自分は再就職できないのだろうかと悩む息子、嫁の苦労も知らずに能天気に世界一周する夫……。

それぞれ、どこにでも居そうだし、それぞれの立場に立てば、その考えも行動も理解できる気がします。

みんなの生きざまがリアルで、小説なのに他人事とは思えません。

読み終わって一番感じたのは、「何事も一人で悩んではいけない」ということでした。

介護や引きこもりの問題を、家族や自分一人で抱え込んだ末の悲しい事件は、これまでいくつも報道されてきました。

そんなニュースを聞くたびに「どうして一人で抱え込んでしまったのだろう」と痛ましく感じます。

人に打ち明けたり、力を借りることは決して恥ずかしいことではないし、自分では思いもよらなかった解決策を提案してもらえるかもしれません。

周囲の人を大切にするのも大事だけど、自分を大切にするのも大事です。

もちろん現実と小説は違うだろうし、当事者にならなければわからないこともあるでしょう。

それでも、困った時には誰かに話を聞いてもらうだけでも何かが変わるんだと、この小説は訴えています。

ここから先はネタバレになります。

ちょっと想像しただけでも、とんでもないと思う”七十歳死亡法案”ですが、この小説の結末は暗いものではありません。

みんなが「七十歳」までの自分の残り時間を意識し、自分はどう生きたいのかを真剣に考えるようになり、行動を変えることで国も変わっていく、というお話なのです。

実際は、こんな法案の有無にかかわらず、人間一人ひとりに与えられた時間は有限です。

誰もが必ず死ぬのです。

七十歳どころか、幼いうちに亡くなる方もいらっしゃれば、働き盛りの壮年で世を去る人もいらっしゃる。

小説の中の人物たちは「七十歳死亡法案」の可決で、否応なく人生の終わりを意識するようになったけれど、本当はそんな法律がなくっても、自分の人生をもっと直視すべきなんだよ、と垣内美雨さんはおっしゃりたかったのではないかしら。

とはいえ、垣谷さんの文章はどこかユーモアがあり、全く説教臭さがありません。

とても面白く読めますよ。
七十歳死亡法案、可決
垣谷美雨(著)
幻冬舎
高齢者が国民の三割を超え、破綻寸前の日本政府は「七十歳死亡法案」を強行採決。施行まで二年、宝田東洋子は喜びを噛み締めていた。我侭放題の義母の介護に追われた十五年間。能天気な夫、引きこもりの息子、無関心な娘とみな勝手ばかり。やっとお義母さんが死んでくれる。東洋子の心に黒いさざ波が立ち始めて…。すぐそこに迫る現実を描く衝撃作! 出典:楽天
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池田 千波留
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