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サラバ!(西加奈子)

サラバ! 
西 加奈子 (著)
出版社:小学館 (2014)【内容情報】(「BOOK」データベースより)1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。(出典:amazon
最近私は、小説のタイトルについてよく考えます。
題名は小説世界を一言で表す大事な表札。
長いものもあれば、簡潔なものもあり、
十人十色、面白いものです。

それにしても『サラバ!』とは何?
おととし、この小説が第152回直木賞受賞したあと、
どの本屋さんにも平積みで置いてあるのを見ては思いました。
不思議なタイトルだなぁ、いったいどんな話なんだろう、と。

読み終わった今
「タイトルはこれしかないわなぁ」と納得しています。

***
主人公 圷歩(あくつ あゆむ)はイラン生まれ。
父親の海外赴任先で生まれた。
両親と姉と歩の4人家族で、
性格は男女ではっきり分かれていた。
勝気すぎる母。
大勢の中の一人なんていや、常に少数派で居たい姉。
どちらも個性が強すぎて、よくぶつかっている。
それを見ている父親と歩は、
できるだけ中庸を守りたい、波風をたてたくない、
そんなふうに振舞っていた。

そんな男性陣の努力も虚しく、
家庭の中ではいつも嵐が巻き起こっていた。
その原因になるのは常に姉だった。
自分の思いを貫きたい気持ちが強すぎて、
母親とも対立してしまう姉は、
小学校や中学校に通っても、
学校生活や友達と馴染むことができなかった。
そして「問題行動」ばかり起こしていた。
一方の歩は姉の正反対で、
人に嫌われないように、目立たないように、
自分の振る舞いに気をつけるようにしていた。

美男美女の両親の遺伝子を受け継いだ歩と、
そうでない姉。
二人は成長するにつれ、ますます違う道を歩むようになる。

イラン、大阪、エジプト、東京と、舞台を移しながら、
歩の目から見た家族それぞれの姿と
歩自身の人生が描かれた長編小説。
***

上下巻共に非常に厚みのある小説ですが、
先が気になって、早く読めました。
特に下巻は一晩で読み終えてしまったくらいです。

まずは登場人物それぞれが魅力的なのが良いんです。
私が一番好きなのは、歩の親友 須玖くん。
文中に出てくる「知識が人を輝かせる」という表現が
ぴったりの人物です。

歩も須玖くんと同じくらい輝かしい人だったのに、
後半から どんどんおかしな感じになってきます。
その変容は読んでいて辛いくらい。

その反対に、トラブルメーカーだった姉が、
さなぎから蝶になるように変身するのが鮮やか。
なぜ姉が変身できたかというと、
自分の芯を見つけることができたから。

歩は自分の芯(信じるもの)を見つけられるのか?
「サラバ!」を言い交した相手はどこの誰だったのか。
そのあたりはぜひ実際にお読みくださいね。

加速して読めた理由の二つ目は、時代背景。
同時多発テロや阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、
そして東日本大震災など、
自分自身が体験し、見聞きした出来事が
盛り込まれているので、物語世界を近しく感じることができます。

また、村上春樹じゃないけれど、
いろいろな音楽や小説、映画の話が出てくるのも、
面白く読めた理由の一つでした。

特に象徴的に出てくる音楽「Feeling Good」。
私が知っている「Feeling Good」は
マイケル・ブーブレの歌だったんですが、
それはカバーで、元はニーナ・シモンという人が歌っていたんですね。
思わず元歌をチェック。
それを聞きながら最後を読むと、
なにやらぐっとくるものがありました。

主人公・歩だけではなく、
いろいろな人の生き様が描かれた『サラバ!』。
直木賞受賞はダテじゃないです。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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