大学時代、ゼミが一緒で付き合い始めた二人が、
就職後、なんとなく別れてしまう。
喧嘩など大きな出来事があったわけではないけれど、
そうなってしまった、
よくある話です。
そんな二人が、数年後、また付き合い始め、
今度は結婚に至る。
これもよくある話かもしれません。
生活ペースが安定したり、
仕事でいろいろな経験したことで、
お互いを見る目も変わり、
うまくいくのかも。
小野寺史宣さんの『近いはずの人』は、
そんなカップルが主人公です。
結婚して四年、夫婦とも33歳。
しかしもう妻が歳をとることはありません。
交通事故で亡くなってしまったから。
これはよくある話、では済まされません。
***
カップ麺で有名な食品メーカーに勤務する
北野俊英 33歳。
同じ歳だった妻絵美を事故で亡くしてから、
心身ともに前を向けない状態でいる。
晩御飯は自社製のカップ麺のみ。
第三のビールを何本も空けながら、
亡き妻の携帯電話のロックを解除しようとするのが、
毎晩の習慣になってしまった。
妻が乗車していたタクシーが崖下に転落。
運転手共々亡くなる事故だったが、
旅行鞄の中にあった携帯電話は無傷で残っているのだ。
携帯電話の暗証番号は4桁。
0000~9999まで根気よく入力すれば、
いつかは解除されるはず。
そしてある日、ロックは解除された。
残されたメールから、
妻の秘密を知ってしまった俊英。
結婚して四年。
一番「近いはずの人」だった妻のことを
自分は何も知らなかったのか…
俊英は、妻の秘密を追いかけ始めるのだった。
***
若くして妻を喪うだけでも相当なダメージなのに、
その上に、秘密を知ってしまうなんて、
想像しただけでやり切れません。
酒量も増えていくなか、
なんとか仕事もこなしていく主人公に、
深い同情の念を抱いてしまいます。
謎が解き明かされるにつれ、夫婦というものは、
どちらかが一方的に悪者で、片方が被害者、
という図式が当てはまらないものかもしれないと思いました。
小説ではあるのですが、
俊英さんの今後が明るいものになりますようにと
祈らずにいられませんでした。
私は小野寺史宣さんの小説を読むのはこれが初めて。
とても読みやすく、感情移入しやすかったです。
他の作品も読みたくなりました。
|
|
池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ |
|
著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
『私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。』⇒購入サイトはこちら/Amazonでも購入できます |
|