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近いはずの人(小野寺史宣)

近いはずの人
小野寺史宜(著)
大学時代、ゼミが一緒で付き合い始めた二人が、就職後、なんとなく別れてしまう。

喧嘩など大きな出来事があったわけではないけれど、そうなってしまった、

よくある話です。

そんな二人が、数年後、また付き合い始め、今度は結婚に至る。

これもよくある話かもしれません。

生活ペースが安定したり、仕事でいろいろな経験したことで、お互いを見る目も変わり、うまくいくのかも。

小野寺史宣さんの『近いはずの人』は、そんなカップルが主人公です。

結婚して四年、夫婦とも33歳。

しかしもう妻が歳をとることはありません。

交通事故で亡くなってしまったから。

これはよくある話、では済まされません。
カップ麺で有名な食品メーカーに勤務する北野俊英 33歳。同じ歳だった妻絵美を事故で亡くしてから、心身ともに前を向けない状態でいる。

晩御飯は自社製のカップ麺のみ。第三のビールを何本も空けながら、亡き妻の携帯電話のロックを解除しようとするのが、毎晩の習慣になってしまった。

妻が乗車していたタクシーが崖下に転落。運転手共々亡くなる事故だったが、旅行鞄の中にあった携帯電話は無傷で残っているのだ。

携帯電話の暗証番号は4桁。0000~9999まで根気よく入力すれば、いつかは解除されるはず。そしてある日、ロックは解除された。残されたメールから、妻の秘密を知ってしまった俊英。

結婚して四年。一番「近いはずの人」だった妻のことを自分は何も知らなかったのか…俊英は、妻の秘密を追いかけ始めるのだった。
若くして妻を喪うだけでも相当なダメージなのに、その上に、秘密を知ってしまうなんて、想像しただけでやり切れません。

酒量も増えていくなか、なんとか仕事もこなしていく主人公に、深い同情の念を抱いてしまいます。

謎が解き明かされるにつれ、夫婦というものは、どちらかが一方的に悪者で、片方が被害者、という図式が当てはまらないものかもしれないと思いました。

小説ではあるのですが、俊英さんの今後が明るいものになりますようにと祈らずにいられませんでした。

私は小野寺史宣さんの小説を読むのはこれが初めて。

とても読みやすく、感情移入しやすかったです。

他の作品も読みたくなりました。
近いはずの人
小野寺史宜(著)
講談社(2016年)
同い年の妻が事故で死んだ。それから3ヵ月、心が動かない。北野は亡き妻の鍵のかかった携帯電話に、4ケタの数字を順番に打ち込むだけの毎日を過ごしていた。ついにロックの解けた携帯には、妻の秘密が残されていた。4年間を一緒に過ごした女性のことを、僕は何も知らなかったのかもしれないー北野俊英、33歳。喪ってから始まる、妻の姿を追いかける旅。 出典:(出典:楽天)
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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