とにかくうちに帰ります(津村記久子)
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![]() 働く女子の気持ちがよくわかる とにかくうちに帰ります
津村記久子(著) この本には『職場の作法』、『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』、表題作『とにかくうちに帰ります』の三作品が収められています。
そのうち『職場の作法』は4つの連作短編から成り立っています。 目次をご覧いただくとわかりやすいかも。 『職場の作法』
・ブラックボックス ・ハラスメント、ネグレクト ・ブラックホール ・小規模なパンデミック 『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』 『とにかくうちに帰ります』 (津村記久子さん『とにかくうちに帰ります』の目次を転記) 内容はそれぞれですが全て、働く女子から見た職場の話です。
ああ、いたいた、こんな人と思いながら読みましたよ。 例えば、女性の部下に作業を頼むときに、まるで放り投げるように依頼する男性社員。 体調不良で出社してきた男性社員。実はインフルエンザみたい。 ちゃんと病院で検査してもらって自宅療養すればいいものを、「こんなにもしんどいのに出社して頑張る俺」に酔いしれているのか、無自覚なだけなのか、周囲に病気を広めてしまう。 また、他人の持ち物を勝手に拝借し、返すのを忘れたり、別の場所に置いてきたりする人。 OL時代に職場にいた、あの人やこの人の顔が浮かぶほど、登場人物すべてにリアリティがありました。 それもそのはず。津村さんは作家デビューした後も、10年近く仕事と作家を兼業しておられ、実際にあったことを題材に書いておられたようです。(今は作家で一本立ちしておられます) 私は『職場の作法』の主人公「私」にものすごく親しみを覚えました。 というのも、文房具にこだわりがありそうだから。 この会社に転職して、最初の給料でペリカーノジュニアの青軸を買った。
(津村記久子さん『とにかくうちに帰ります』P31『職場の作法』 第2話「ハラスメント、ネグレクト」より転記) この一文だけで「私」のことが他人とは思えなくなったのです。
ペリーカーノジュニアとは、ドイツのペリカン社が子ども向けに作っている万年筆の名前です。 子ども向けと侮るなかれ。色やデザインがポップで可愛いし、持ちやすくて書きやすい。何より安価なのが良い。 私は大学生の時に持っていました。軸の色は「私」と違って赤だったけど。 「私」がペリカーノジュニアに詰めているインクカートリッジが黒ではなくてロイヤルブルーだというのも嬉しい。 私も万年筆には黒のインクは使いたくないの。 そして「私」はシャープペンシルはロットリングを使っていたようです。 やっぱり文房具が好きなんだわ、この人! そうなると、まるで「私」が自分自身のような気がして、いっそう小説の中の職場にのめり込んで読むことになりました。 ああ、面白かった! ところで『職場の作法』第1話「ブラックボックス」に出てくる職場の先輩田上さんの、仕事への心構えはとても立派です。 仕事だけではなく、人生全般に通じる気がします。 田上さんがどんな心構えで仕事をしているのか? それはぜひご自分で読んでみてください。 働いている女子、あるいは働いたことがある女子なら、おそらく大いに共感しながら読めることでしょうし、これから働く女子には良い予習になるかもしれません。 とにかくうちに帰ります
津村記久子(著) 新潮社 うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたいー。職場のおじさんに文房具を返してもらえない時。微妙な成績のフィギュアスケート選手を応援する時。そして、豪雨で交通手段を失った日、長い長い橋をわたって家に向かう時。それぞれの瞬間がはらむ悲哀と矜持、小さなぶつかり合いと結びつきを丹念に綴って、働き・悩み・歩き続ける人の共感を呼びさます六篇。 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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