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80代で見つけた生きる幸せ(G3sewing)

幸せな老後の参考にしたい

あちこちガタが来てるけど 心は元気!
80代で見つけた 生きる幸せ
G3sewing(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。

その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

2024月9月4日放送の番組では、G3sewing(じーさんソーイング)の『80代で見つけた生きる幸せ』をご紹介しました。


まず、著者名について。G3sewingはユニット名です。

本が出版された時点で84歳の父(G3=じーさん)、80歳の母(B3=ばーさん)、そして二人の三女(=kiki)のトリオでやっているソーイングチーム。ソーイング、つまりお裁縫のチームで、縫っているのはG3なのです。お住まいは三重県四日市市ですって。

次に思ったのは、80代のご両親を「おじいさんおばあさん」でもなければ「じいさんばあさん」でもなく、G3B3と表記するのがとても良い。記号にするとなんだか可愛いではありませんか。

最初は「バカにされとる」とおっしゃっていたG3ですが、周囲の人に褒めてもらって、今ではこの名前が気に入っているそうです。


元々は、電気工事士だったG3は現役時代、主にテレビやラジオなどの電化製品の修理の仕事をしていました。腕が確かな職人さんでしたが、頑固で短気、人付き合いが苦手という、絵に描いたような職人気質の人だったのです。喧嘩っ早くて仕事が続かず、ご家庭は裕福ではありませんでした。

しかも68歳以降、大きな病気を何度も経験し、生活習慣病にもなり、とうとう鬱病にもなってしまいました。家出や自殺未遂をするかと思うと、プロ野球でご贔屓チームが負けただけで激昂し、家族に当たり散らしたり……と、とんでもなく不安定なご老人になってしまっていたのです。四人のお子さんたちも、そんなG3を持て余していました。

2019年のある日、三女のkikiさんはいつ見てもベッドで寝ているG3に、壊れたミシンの修理をお願いしました。本当に修理が必要なものだったのですが、それ以上に、kikiさんはミシンの修理をすることで、G3が職人魂を取り戻してくれるのではないか、元気になってくれるのではないかと思っていたのです。


その狙いは見事的中。

G3はあっという間にミシンを修理してくれました。

G3はそれまで、ミシンを触ったことはありませんでした。ちゃんと修理ができたか確かめるために、kikiさんに上糸と下糸の掛け方から教えてもらい、テストとして布を縫ってみたところ、機械としてのミシンに関心を寄せることになりました。そしてすぐに「何か縫いたいなぁ」と。

初めてG3が縫ったのは聖書のカバー。ノリに乗って一気に18枚も聖書カバーを作ってしまいました。


ミシンを触っているG3は、うつの状態にもならないし、怒りの感情も湧いてこない、本人にとっても家族にとっても良い状況になってきました。

そしてG3は直線縫いの清書カバーでは飽き足らず、ポーチや財布、そしてバッグまで作るようになったのでした。作り方を誰かに教えてもらうのではありません。既製品をほどいて、どういう仕組みになっているか観察、そこから自分で図面を引けるのですから、昔取った杵柄というやつですね。


ただ、ここで問題が起こります。お金の問題です。

何かを作るには材料が必要。布もファスナーもボタンも、タダではないのです。

G3の年金は3万円。B3と合わせても知れています。

これまでは4人の子どもたちが生活費を援助してきました。それぞれ自分の家庭を持ちながら親を援助しているのですから、ゆとりがあるわけではありません。

せっかくG3が元気になって、やる気も出てきたのは嬉しいけれど"趣味”にまで援助できない、と思ったのは無理もありません。


さて、どうしたものかと思った時に、kikiさんの息子さん、つまりG3から見ると孫がSNS開設を提案してくれました。そのお孫さんは18歳。80代でミシンを始めてこんなにも上手に作れるのはすごい、SNSを使って広く世間に知ってもらうべきだと言い、尻込みする3人に変わって、さっさとX(旧Twitter)のアカウントを作ってくれたのでした。この時考えたアカウント名がG3sewingです。

そしてG3が、自分で作ったバッグを持った写真をツイートしたところ、それがバズって、おまけに「どこで買えますか?」と問い合わせが殺到。800件もの注文を受けることになりました。こうしてG3sewingは販売を開始することになったのでした。


すごいですね。

一度は家族ですら持て余していたG3が、みるみる元気になり、現役気分に戻っていくのを見ていると、人間は生きがいがあるとこうも変わるのかと感じ入りました。

90歳からちぎり絵を始めた木村セツさんの例もあります。

私も後期高齢者と呼ばれる年代になったとき、何か没頭できるものを持っているかしら。

今から何か見つけておかないといけません。


さて、話は戻りますが、SNSを開設し、多くの注文をもらっても、最初の「タネ銭」が必要ですよね。

余り布で作ったものは、やはりヨレッとしていて売り物にならないと、G3sewingも思ったそうです。

売れ始めれば、利益を材料費に回せるようになるけれど、さぁ、最初の材料費はどう工面するか?

どうしたと思いますか?


時期はちょうどコロナ禍。新型コロナウィルスの特別定額給付金10万円が支給された時です。

kikiさんたち兄弟が、ご自分の給付金の半分をカンパし、スタート資金に宛てたのですって。

私が今まで聞いたことがある中で、最もすばらしい定額給付金の使い道かもしれません。


支援に関して「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるのが真の支援」という言葉があります。

これまでG3B3の生活を支援していたご兄弟は、今までは「魚(お金)」を渡してきたのだけれど、G3自らミシンで作り上げる商品のためにお金を出すことは「魚の釣り方」を援助することになる、と思ったそうです。まさに、その通り!


歳をとってからは、なるべくならお金がかからない趣味を楽しまなくてはいけないな、と思うのですが、お金がかからないどころか逆にお金を自分の力で稼げるようになったG3は、お孫さんにお小遣いをあげたり、食事を奢ったりすることができるようになり、それが一番嬉しいのだとか。

そうでしょうね。全て人にしてもらう、助けてもらうだけではなく、自分も誰かに何かをしてあげられる、助けてあげられることは喜びだと思います。金額の多い少ないに関わらず。


G3sewingでは、役割分担がはっきりしており、G3がミシンで作った製品を、B3が検品・丁寧に梱包、kikiさんが商品の発送とSNS更新を担当。素敵な家内制手工業です。


G3の仕事場=Gさんのお部屋は整理整頓が行き届いているのですって。

どんな小さなものでも、何がどこにあるのかちゃんと定位置が決まっていますし、使ったものはすぐに元に戻す。これは単にG3が几帳面というわけではないそうです。

G3は戦争を体験していますし、戦後の貧しい時代の日本を生きてきました。 どんな部品であれ、無くしたら簡単に買い揃えることができない時代を知っているのです。

ですから、一つ一つ丁寧に収納し、仕事場はいつも綺麗な状態に保つ癖がついているのだそうです。


いつもどこかにちょいと置いて、それを忘れ
「あれ?おかしいなぁ、○○はどこに行ったんだろう?」と探し物ばかりしている私はG3を見習わなくてはなりません。今からでも改善できるかしら……。


2024年9月現在、G3は96歳でいらっしゃいます。

これからもお元気で。G3sewingが繁盛しますように。
あちこちガタが来てるけど 心は元気!
80代で見つけた 生きる幸せ
G3sewing(著)
KADOKAWA
老後資金2000万円なんてなくても働いてちょこっと稼げたら、楽しく暮らしていける。82歳で始めたがま口バッグ作り。年金3万円でも生きがいがあるから毎日が楽しい。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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