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小暮写眞館(宮部みゆき)

小暮写眞館
宮部みゆき(著)
主人公は高校生の花菱英一。友だちからは花ちゃんと呼ばれている。いや、花ちゃんと呼ぶのは友だちだけではない。両親そして8歳年下の弟までが英一のことを「花ちゃん」と呼ぶ。ちょっと変わった家族なのだ。

そう、変わっているといえば極め付けがマイホーム。「古家あり」という物件を買った花ちゃんの父親。それは、持ち主だった老人が亡くなって売りに出た古い古い建物(写眞館)がついた土地。

誰が見ても当然取り壊した方がいいだろうと思うような「小暮写眞館」だが、古家を壊して立て直すとなると建築基準法や消防法などにより、同じ容積の家は絶対に建てられない…

なぜそんな不動産を買うのか?花ちゃんには理解しがたいが両親は気に入って購入。結局は建て替えずに、土台や柱、水周りの補修を行ってそのまま住むことになった。予算の関係上、内装のリフォームは最低限度で…

ということで花ちゃんの自宅には、写真撮影の背景に使うロールスクリーンがあったり玄関のわきには二畳分くらいの大きさのウィンドウもそのまま残っているのだ。極めつけは「小暮写眞館」という表札。

周囲の住人は、花ちゃん一家が小暮写眞館の跡取りだと勘違い。そしてその誤解から、花ちゃんの手元に不思議な写真が持ちこまれることに。それはいわゆる心霊写真。普通なら写らないはずのものが写っている…トリックなのか、それとも霊か?行きがかり上、調べることになる花ちゃんの導いた答えは…。
「小暮写眞館」は
第一話 小暮写真館
第二話 世界の縁側
第三話 カモメの名前
第四話 鉄路の春
という四話の連作です。

最初は、新手の「ゴーストバスターズ」ものかと思ったら少しずつ、花ちゃん一家の抱える「傷」が明らかになってきます。

家族4人が、それぞれに心の中に凍らせていた過去の出来事。

4人ともが自分を責め続けていた過去の出来事との折り合いの付け方とは…。

第四話を私はとある喫茶店でコーヒーを飲みながら読んでいて危うく泣き出しそうになりました。

危なかった。

これは家族の物語であり、青春群像でもあり、少年の成長譚でもある小説ですね。

花ちゃんの同級生がとても個性的で魅力的なのも読んでいて楽しい。

親友のテンコこと店子力(たなこつとむ)
丸顔で色黒、甘味屋の跡取り娘、コゲパンこと寺内千春。
コゲパンに恋するのっぽの橋口くん。
背の低いバレー部の田部女史。
鉄道への愛を語らせたら限りないヒロシこと田中博史。
などなど。

そうそう。
花ちゃんの恋やら、小暮写眞館に出ると噂のあった亡くなったおじいちゃん(小暮さん)の活躍(?)もお楽しみに。

お勧め度は★★★★☆

一つたりないのは、これまでの宮部みゆきの作品に比べると地味かな、と思うので。

それが良い味でもあるのですが。

補足。
この本の装丁、どうしてこんな写真なんだろう、良い写真だけれど、小説の中身とどう関係があるのだろう…と思いましたが、読み終わった時にじーんと来ますヨ。
小暮写眞館
宮部みゆき(著)
講談社(2010)
もう会えないなんて言うなよ。あなたは思い出す。どれだけ小説を求めていたか。ようこそ、小暮写眞館へ。3年ぶり現代エンターテインメント。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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