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吾輩はぺいである(髙汐巴)

真摯なぺい様を垣間見た

吾輩はぺいである
髙汐巴(著)
元花組トップスター高汐巴さん。
ニックネームは「ぺい」。
私はどうしてもぺい様と呼んでしまいます。

先日(1月15日)出版記念のトークショーに参加させていただいた ぺい様のご著書『吾輩はぺいである』を読了しました。( 『ペイさま健在!マヤさんも楽しい!@『吾輩はぺいである』出版記念トークショー』

実は読了したのは日曜日。トークイベントから帰宅して一気読みです。最初は読んですぐに感想を書こうと思っていたのですが、そうはいきませんでした。

ぺい様のことだから、面白おかしいエッセイなのだろうと思い込んでいたのに、とても深い内容だったから。ちょっと自分の中で寝かせて、発酵させないと書けないなと思いました。

では心を落ち着けて感想を書かせていただきましょう。

先にお断りしておきます。私は長く”ペイ様”とカタカナ表記してきました。

でもこのエッセイを読みまして、ぺい様ご自身がひらがなで統一されているのを拝見し、今後は私もひらがな表記に改めます。

トークイベントのレポートでも書きましたが、このエッセイは市販されていません。発行は「高汐巴50周年記念出版プロジェクト」「株式会社高汐巴事務所」の連盟になっています。

2022年、舞台生活50周年を迎えられた記念に出版されたもので、広く一般に本を売ろうという目的ではなく、これまでペイさまを応援し続けてこられたファンの皆様や親しい方々、スタッフの皆さんに向けて書かれた感謝の書のように思えました。

だからでしょうか、このエッセイは ペイさまが隣に座って語りかけてくれているようなそんな文章で綴られています。

目次を紹介しましょう。
第1章 カエルの子はカエル
第2章 トップは1日にしてならず
第3章 ぺい's be ambitious.

ヒストリー

特集
対談 真矢ミキ×高汐巴
対談 海老名香葉子×高汐巴

あとがき
(高汐巴さん『吾輩はぺいである』表紙より引用)
第1章の「カエルの子はカエル」では、ぺい様のご両親のご紹介の後、生い立ちが描かれています。

つまり宝塚音楽学校入学前のぺい様なのですが、予想外に波瀾万丈な幼少期を包み隠さず書いておられ、驚きました。

全てを紹介するのはご遠慮しますが、ぺい様のお父様は三人の女性と結婚しておられ、ぺい様は2番目に結婚された女性との間に生まれていらっしゃり、妹さんもいらっしゃいます。つまり二人姉妹ですが、義兄弟・義姉妹が複数おられるのですって。しかも、ご両親の離婚時9歳だったぺい様はお父さんについて行くことを自ら選んだため、数年間は新しいお母さんたちと一緒に暮らした…というのです。

そこからお母様と妹さんの元に戻り、宝塚歌劇を知り受験するまで、ここまでですでに小説の世界のよう。

私もイレギュラーな幼少期を過ごしているので、ほんの少しだけ、ぺい様の気持ちがわかり、胸がきゅうっとなりました。

トークイベントで「人間はそれぞれ生まれた境遇で戦って行かねばならない」とおっしゃったことがどういうことなのか、理解が深まりました。

そしてぺい様は私より少し先輩なので、すでにご両親を見送っておられます。

自由奔放だったお父様を見送られた時のお気持ち、お母様をお見送りされた時のお気持ちなど、読んでいると泣けて泣けて仕方がありませんでした。こういうプライベートなことをしっかりと書いておられるぺい様の真摯な気持ちが伝わってきましたよ。

さて、第1章で大泣きした後、第2章へとページをめくった私の手が喜びで震えました。

第2章の表紙の写真がすごいデジャブだったから。

以前も書いたことだと思うのですが、私が最も宝塚歌劇をよく見ていたのは大学時代。ちょうどぺい様が花組トップスターだった時代です。

ある公演日(多分『名探偵はひとりぼっち』の時だと思う)、宝塚南口駅で電車を降り、宝塚大橋を渡って大劇場に向かおうとしていた私。宝塚大橋のたもと(噴水があったあたり)で、ふと、後ろから自転車が近寄ってくる気配に気がつきました。左に寄って避けながら後ろを振り返ってびっくり。ぺい様が自転車に乗って走っておられるではありませんか。思わず「あ!ぺい様だ!」と声をあげてしまった私。すると ぺい様は私に「おっはよ〜」と歌いかけながら通り過ぎて行かれたのでした。

もう、こんなトップさん、他にいらっしゃる?!

通りすがりの私なんぞに「おっはよー」ですよ。

今だったらすぐにスマホを取り出して後ろ姿だけでも録画しちゃうかもしれませんが、当時はそんなものはありません。でもそのシーンは消えることなくずっと私の中に生きていました。

話がそれたように思うでしょう?

第2章のお写真、ぺい様が宝塚大橋で自転車に乗っていらっしゃるお写真なんです。

服装といい、被っておられる帽子といい、「おっはよ〜」の当日に撮影されたものではないかと思うくらい、「あの日」と同じ。

まさか、私の胸に残り続けたあのシーンを写真で見ることができるとは。

もう、嬉しくてぴょんぴょんしちゃいました。

さて、第2章は音楽学校時代から退団まで、公演ごとにかなり詳しく振り返って書かれています。

私が宝塚歌劇を見始めたのが1976年なので、それ以前のことは興味深く、それ以降は懐かしく読むことができました。

中でも1977年雪組『鶯歌春』の回想は「覚えてる〜!!」と声をあげて笑ってしまいました。
主役の方がセンター、その横にメインの武将たちが並び、毎回「名乗り」という自分の名前を大向こうまで届くように、一人ずつ名乗る場面があった。私もその中の一人として末席を汚させていただいた。しかし、まだまだひょろひょろの丹田(臍の下の下腹部)。腹からの声が出ず、土日祝日お客様が満席の時に限って緊張のあまり声がひっくり返り、先輩たちに毎回失笑された。
(高汐巴さん『吾輩はぺいである』P40より引用)
覚えていますわ。

この場面、カーテン前で、武将たちが横一列に並び「我は●●!」と名前を叫ぶんです。

私の記憶が正しければ、ぺい様のお役の名前は「チャガタイ」でした。

「我はチャッガタイ」⇦赤い字あたりで声がひっくりかえる。

懐かしいです。

この調子で懐かしい部分を上げていったら、このブログの文字制限に引っかかると思うので、やめておきますが、この舞台の振り返りの中で興味深かったことは、広い広い宝塚大劇場への気持ち。

1981年花組公演は三本立てで、そのうちの一本『恋天狗』では、まだ新人の平みちさん、若葉ひろみさんが主役で、ぺい様が村の男と天狗の二役という大役を演じました。

ほぼ初めて大きな役で宝塚大劇場の舞台に立って客席に向かった時、ぺい様には客席がとても広く大きく、果てしなく見えたんですって。「永遠に続くビッグバンのよう」だったそうです。

でも、トップスターとなり、数々の公演を経験した後、退団公演では3階席に手が届きそうな気がしたのですって。

私はこの気持ちの変化を非常に興味深く思いました。舞台人として成長し、お客様と向き合ううちに、距離が縮まるんでしょうか。全ての舞台人がこういう感覚を味わえるとは思えません。本当に素晴らしいことだと思いました。

第3章では退団後の活動や、講師を務めておられる芸術大学でのお話などが綴られています。

笑いと涙なくして読めない『吾輩はぺいである』は、ぺい様の人生の棚おろしのようなエッセイでした。私のようなものが推測するのは僭越極まりないのですが、きっとこれを書き終えられて今、

ぺい様は清々しいお気持ちなのではないかしら。

そしてまた改めて新しい道を歩み出されるのだと思います。

ぺい様は退団後すぐに1冊目のエッセイを出版されました。(買って読んだけど、阪神淡路大震災で廃棄せざるを得なくなったのが残念)それから約33年後に2冊目のエッセイ『吾輩はぺいである』が書き下ろされました。

ということは、もしかして3冊目のエッセイは30年後かな?

3冊目も拝読できるよう、私もぺい様に負けないよう元気で長生きしなくては!!

見開きページに直筆サインが。

永久保存です。
stand.fm
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【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
この記事とはちょっと違うことをお話ししています。
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吾輩はぺいである
高汐巴(著)
『吾輩はぺいである』は市販されていません。ご興味のある方は「髙汐巴オフィシャル ウェブサイト」に購入方法が記載されています。
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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