田舎のポルシェ(篠田節子)
じんわり味わい深い 田舎のポルシェ
篠田 節子(著) この本は3つの中編小説からなっています。
「田舎のポルシェ」 「ボルボ」 「ロケバスアリア」 三作それぞれ小説の舞台や登場人物は無関係ですが、どれも車が登場することが共通点です。 どれも皆面白かったのですが、ここでは「ロケバスアリア」に焦点を当ててみます。 春江は今年古希を迎えた。これまでの人生いろいろあったが、いつも歌を歌って気持ちを晴らしてきた。今勤めている介護施設でも、春江の歌は入所者に人気がある。生まれつき声が大きくて張りがあるのだ。
夫と死に別れてから、一生懸命働いて生きてきた春江だったが、思いがけず、近々まとまったお金が手に入ることになった。そんな時、ある有名ホールが、コロナ禍で公演を行えない期間、一般人に貸し出ししていることを知った。 春江はそのホールを貸し切ってオペラを歌い、自分のDVDを作ることにお金を使うことにした。もちろん無観客だが、自分のためだけの記念だ。この計画に協力してくれたのは孫の大輝。大輝は、ホールを借りること、DVD制作の段取り、衣装の調達、ホールまでの送迎を全部引き受けてくれた。 大輝はかつて警察のお世話になったことがある。その時、春江は大輝を預かり、何も問いたださず一緒に暮らした。そのおかげだろうか、大輝は立ち直り自分に合った職業を見つけて、今は一生懸命働いている。 その仕事とは、ロケバスの運転手。細かいところに気がつく大輝は、ロケのスタッフにも、送迎するタレントにも評判が良いらしい。春江は、孫が運転するロケバスに乗って、晴れ舞台となるホールに向かうのだった…。 (篠田節子さんの『田舎のポルシェ』 「ロケバスアリア」の冒頭を私なりにまとめました) おばあちゃんと孫のほんわか物語かと思ったら大間違い。
春江と同じ古希のエンジニアが加わり、予想と違う展開に。 素人が記念に作るDVDであっても、妥協しないのがプロなのでしょうが、素人のおばあちゃん相手に、ああでもない、こうでもないとダメだしの嵐。 読んでいる私もつい力が入り、「良いDVDができると良いね」と、一生懸命になってしまいます。 小説だというのに。 一度道を踏み外しかけた大輝が、今は立派に働いているのも頼もしく、嬉しい。 春江さんは良いおばあちゃんだなぁ。 そしてこんな孫がいたら、可愛くて仕方ないだろうなぁ。 いろんなハプニングを乗り越えて、収録は終わり、帰路に着くロケバス。 最後の最後に、春江さんがなぜDVDを作ることにしたのかがサラッと明かされ、読者は驚かされます。 そして、再度、春江さんを見直すのです。 「春江さん、アナタ、すごい人だね!」 本を閉じてからもしばらくは、春江さんのこれからに思いを馳せ、幸せな老後を過ごしてほしいと願ってしまいました。 小説の中の架空の人物なのに、そこまで思わせる篠田節子さんは素晴らしい。 「田舎のポルシェ」は、″田舎″における女性の現状に、ため息をつかされました。 「ボルボ」では、20年にわたって愛してきた車(ボルボ)との「お別れ」が描かれています。 大泣きする主人公には悪いけど、私は大笑いしてしまいました。 車への思い入れが強すぎて、オカシイ。 3作とも面白さの種類は違えどもどれも、じわーっとした後味でしたよ。 田舎のポルシェ
篠田 節子(著) 文藝春秋 実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍(『田舎のポルシェ』)。不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったがー(『ボルボ』)。「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る(『ロケバスアリア』)。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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