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セカンドチャンス(篠田節子)

他人事ではない

セカンドチャンス
篠田 節子(著)
読書にはいろいろな楽しみ方があると思います。非日常のファンタジーや、自分とは違う世界に生きる主人公の人生を楽しむこともあれば、「わかる、わかる!私も!」と、主人公に共感しながら読むことも。

篠田節子さんの『セカンドチャンス』は、主人公のあれこれがまるで自分のことのように感じられる小説でした。
大原麻里51歳。

以前は医療事務の仕事をしていたが、今は眼科の検査助手として働いている。

20年余り両親の介護をしてきた。

親の介護をする一方で、姪っ子の育児も手伝ってきたし、叔父や叔母に頼まれ親戚の法事も切り盛りしてきた。

その間「出会い」の機会を逃してしまったのかもしれない。二親を見送った今、麻里は独身で子どももいない。

おまけにいつの間にか、ぽっちゃりを通り越すほど太ってしまい、大学病院の生活習慣病撲滅プロジェクトに参加するよう指導された。血圧も高いし、血液検査の数値も悪く、このままでは60代で心筋梗塞を起こすだろうと医師に言われてしまった。

どうにかしなくてはいけない。

親友のアドバイスもあり、麻里は重い腰を上げて近所のスイミングスクールに通うことにした……
(篠田節子さん『セカンドチャンス』の冒頭を私なりに紹介しました)
「治らない人っていいうのは、必ずそういう言い訳を用意して、ここに来るんだよね」
(篠田節子さん『セカンドチャンス』P8より引用)
 
これは冒頭、生活習慣病撲滅プロジェクトの医師が麻里に言った言葉です。

保健師さんのアドバイスを受けているのになぜ体重を減らせないのか、なぜ運動を始められないのかを語る麻里に向けられた医師のこの言葉はそのまま私に突き刺さりました。

うっ!確かに、私もあれこれ心の中で言い訳して、体重を減らせないでいるし、運動も全然していません。

この時点で私は麻里に自分を重ね、どうやって生活を改善していくんだろうと興味津々でページをめくることになりました。

麻里は近所のスイミングスクールに通うことにします。

大手のスポーツジムに比べると会費が安いことが決め手になったわけですが、安いだけあって施設はボロボロ。

だけど、意外なことにコーチが良くて、ちゃんと理論を説明し基礎から指導してくれるので、麻里はなんとか続けることができるのでした。

体を整えることで、麻里の人生が好転していくのを見守りながら読むのはとても楽しいことでした。

とはいえ、私と麻里が一致しているのは「生活習慣を改善しないといけない」という点のみ。

性格はまるで正反対です。

麻里は、頼まれたら嫌とは言えないし、我を通して波風を立てるくらいなら、自分が我慢して相手の思う通りにことを運んだ方がいい、と思うタイプ。

だからお兄さんもいるというのに、20年間自分一人で親の介護をしてきたのでしょう。

その兄が離婚して男手ひとつで育てることになった姪っ子のために、送り迎えをしたり、ケーキやパンを焼いたりしてきたけれど、兄が再婚してからは姪っ子にもあまり会えずにいます。だけどそれに文句は言いません。

叔父や叔母は、法事の時には自分たちの子どもではなく麻里に差配を頼んでくるし、もしかしたら、この先自分達に介護が必要になったら、介護慣れしている麻里をあてにしてくるかも。

もしそうなったとしても、麻里は引き受けてしまいそう。

おまけに町内会や自治会の役員や行事の手伝いまでも……。

我を張りまくり、文句ばっかり言っている私とは全然違う、不平不満を言わずに役目を果たしちゃう人なんですね。

そんな麻里に親友はこういうのです。
「少しは自分ファーストにしな。このままじゃ、あんたの人生は人に利用されるだけで終わるよ」
(篠田節子さん『セカンドチャンス』P16より引用)
親友は麻里には自分のために時間を使ってほしい、今からでも出会いがあれば結婚なんてことがあってもいいじゃないかと思ってくれているわけです。

麻里はこれまで自分がしてきたことは「人に利用されるだけ」なんかじゃない、と軽い反発の気持ちを持ちながらも、自分の将来がなんとなく見えていて、自分を変える気持ちになれないのでした。

というのは、麻里のお母さんが脳梗塞で倒れたのは58歳の時。高血圧、高脂血症からの心筋梗塞で介護が必要になったのです。だから生活習慣病撲滅プロジェクトに通い、毎度のように医師から検査の数値が悪いと叱られると

「自分は母親と同じ道筋をたどっていくのだな。でも私には面倒を見てくれる子どもはいないけど」

なんてことを思ったりしていたのです。それは諦めの境地であるけれど、ひっそりとしていてある種「居心地のいい心境」でもありました。

私は本来、こういうタイプの人が苦手です。

嫌なことは嫌と言おうよ!角が立ったっていいじゃない!と思っちゃう。

だけど、スポーツで健康状態が良くなるにつれて、麻里の体と心が変わっていくのです。

その代わっていく麻里が好きになり、最後まで気持ちよく読めました。

読後感もとっても爽やか。

余談ですが、この本を読んですぐに、私も筋トレを始めました。

麻里のように、血圧や血液検査に良い変化が現れると良いのだけれど。
セカンドチャンス
篠田 節子(著)
講談社
麻里、51歳。長い介護の末母親を見送った。婚期も逃し、病院に行けばひどい数値で医者に叱られ、この先は坂を下っていくだけと思っていたが…。ほろ苦く元気の出る応援歌。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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