天平の女帝 孝謙称徳(玉岡かおる)
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![]() 天平の女帝 孝謙称徳
玉岡 かおる (著) 大好きな玉岡かおる先生の近著『天平の女帝孝謙称徳』。
待ちに待った新刊なので、一気呵成に読みたいような、じっくり読みたいような。複雑なファン心理でした。 結果としてはじっくり読むことになりました。その理由は、私には時代背景、登場人物に馴染みがなかったから。 もちろん、弓削道鏡や、和気清麻呂、吉備真備といった、日本史の教科書に載っている有名どころは知っていましたよ。 しかし、道鏡の弟・浄人や、和気清麻呂の姉 和気広虫、吉備真備の妹 吉備由利となると、存在すら知りませんでした。お恥ずかしいことで。 この小説は、タイトルロールである女帝 孝謙称徳帝の崩御から始まります。 そのあとは、女帝に使えた二人の女官 和気広虫と吉備由利を中心に物語が紡がれていきます。 和気広虫と、吉備由利。二人は女帝を崇拝する気持ちは同じであるものの、辿った運命は違っていた。広虫は、女帝から遠地へ追放され、由利はご最期まで寝所に通される存在だった。
女帝崩御を機に、都に帰ることを許された広虫は由利とともに、女帝の「ご遺志」を後世に伝えようとする。しかし、それは一筋縄でいかないこと。 そもそも一族の娘を入内させることで栄華を保ち、権力を守ってきた藤原の男たちにとって「女帝」は旨味がないもの。やっと男性の天皇になったからには、自分たちの思うようにできるよう、何もかも周到に計算している。時に人を陥れ、時に人を殺めてでも。 都にうずまく権謀術数。その中にあって、おのが生きる意味を確信し、まっすぐに生きる者もいる。女帝の死後、生きている者たちによって徐々に輪郭が見えて来る『天平の女帝 孝謙称徳』。彼女は、平成の現代に問題にされていることをすでに見つめていたのだった。女性が一人の人間として、自分の能力を活かしながら働き、同時に女性として幸せになれるしくみが必要だと。 玉岡さんの講演会でよくお聞きするのは「ほぼ全ての歴史(書)はオトコが書いたものです。そこにはほとんど女性が出てきません。私は名前も埋もれている女性たちに光を当てたいんです」という言葉。
まさにこの小説ではさまざまな女性に光が当たっていました。 伊勢神宮に向かう斎王や、未来を見、死んだ者の思いを語り、呪術を行う巫。帝の妃たちや、それをとりまく女官たち… 中には「嫌なやっちゃなぁ」と思う女性もいますが、本人の身になれば、こう生きるしかないのかと哀れにも思えます。それは時代に関係のないことかもしれません。 また、ある種ミステリ小説としても読めるようになっているのもおもしろいところ。 最後に特筆したいことは、この「本」の完成度、一体性の高さです。 表紙の絵と、文体、登場人物の品格が見事に一致しているのです。 だから、最初に書店で手に取った時の印象と、読んでいるときの感じ、読後感が一緒。 これはありそうで、なかなかないことだと思います。 次はどの時代の、どんな女性に光が当たるのか、次回作も楽しみにしています。 天平の女帝 孝謙称徳
玉岡 かおる (著) 新潮社 (2015/11/27) 女性初の皇太子となり、「女に天皇は務まらない」と言われながら、民のため、国のため、平和の世のために生きた孝謙称徳帝。聖武天皇の娘として奈良に仏教王土を築き、遣唐使を派遣し、仲麻呂ら逆臣の内乱を鎮め、道鏡を引き立て、隼人を傍に置いた。一人の人間として、女性としての人生をも求めた女帝の真の姿とは。突然の死と秘められた愛の謎を、和気広虫ら女官たちが解き明かす、著者初の歴史大作。 出典:amazon ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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