ライオンのおやつ (小川糸 )
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![]() ここで最期を迎えたい ライオンのおやつ
小川 糸(著) 海野雫、33歳。クリスマスの日に、瀬戸内海にある通称「レモン島」にやって来た。
旅行ではない。末期癌で余命を宣告された雫が、人生最期の場所として、この島にあるホスピス「ライオンの家」を選んだのだ。 生まれて初めて見た瀬戸内海は穏やかに輝いていて、来て良かったと思えた。 「ライオンの家」は雫が予想していたホスピスとは違い、病院というより隠れ家的ホテルのよう。だからだろうか、ここに入所した人たちは「患者」ではなく「ゲスト」と呼ばれている。 ここではゲストが守らねばならないルールはほとんどない。決まっているのは、朝ごはんがお粥であること。毎日違うお粥が朝ごはんとして供される。 もう一つの決まりごとは毎週日曜日の午後3時にお茶会が開かれること。そのお茶会では、ゲストがリクエストした「もう一度食べたい思い出のおやつ」ができる限り忠実に再現される。それをみんなでいただくのだ。ゲストの思い出話と一緒に……。 (小川糸さん『ライオンのおやつ』の導入部分を私なりにご紹介しました) この小説の中には、雫を始めとして、人生の最期を迎える人たちが何人も登場します。
おじいさんもいれば、雫のような若者も。 皆、自分の命の終わりが近いことを、なんとか納得しようとしています。 もちろん、納得できず気持ちが荒んでいる人もいます。 どの人の心情も、理解できるところです。 そんなゲストたちを見守る「ライオンの家」のスタッフはとても味わい深い人物たち。 「ライオンの家」の代表者の”マドンナ”、食事を作っている狩野姉妹、そして犬の”六花”。それぞれの立場でゲストたちを温かく包んでくれています。 読者は、タイトルにもなっているおやつの時間、日曜日の午後3時に開催されるお茶会で、ゲストそれぞれの人生を垣間見ることになります。 ゲストは入所時に「もう一度食べたいおやつ」について、詳しくリクエストカードを書くように言われます。 「ライオンの家」に集う人にとって「もう一度食べたいおやつ」とは「人生最後のおやつ」と言い換えることができるでしょう。 リクエストの際には、そのおやつはどんなものなのか、いつ誰とどんな状況で食べたのか、できる限り詳しく書かねばなりません。 そうすることで、食事担当の狩野姉妹ができる限り思い出の味に近いものを作ってくれるのです。 でも、実際に食べるまで、誰のおやつが再現されるかは明かされません。 おやつをみんなでいただく前に、マドンナがリクエストカードを読み上げます。 おやつのことを語っているはずなのに、その人が歩んできた人生が感じられるのが素晴らしい。 この小説の中で、ゲスト一人一人の記述にはそれほどページが割かれていないのに、このおやつの時間だけで、読み手には、彼らがどんな人物であるかが伝わって来るのです。 読んでいて思わず泣いてしまう「おやつの時間」もありました。 また、この小説の中では度々「人生とは思い通りにならないもの」という言葉が出て来ます。 だけど、思い通りにならないからといってヤケになるのではなく、大切に生きることが大事だということも同時に描かれています。 また、余命が宣告された後も毎日を大事にすることの大切さも強く感じさせられました。 一日一日をちゃんと生き切ること。どうせもう人生は終わるのだからと投げやりになるのではなく、最後まで人生を味わい尽くすこと。
イメージしたのは、昔、父と住んでいた町の商店街にあったパン屋さんのチョココロネだ。 端から端までクリームがぎっしり詰まったあのチョココロネみたいに、ちゃんと最後まで生きることが、今の私の目標だった。 (小川糸さん『ライオンの家』P159から引用) これは33歳で人生の幕を閉じようとしている雫の言葉ですが、実際は、今生きている誰の人生においても(私の人生においても)、余命の長さはわかりません。
だから本当は誰しもが明日死んでも良いように今日を生きるのが正解なのかも。 「ライオンの家」では、ゲストが亡くなった夜は明け方まで玄関ホールにキャンドルを灯すことになっています。 何回かのキャンドルの場面を読んでいて、できることなら私も「ライオンの家」で最期を迎え、こんなふうに送ってもらいたいと感じました。 ライオンのおやつ
小川 糸(著) ポプラ社 余命を告げられた雫は、残りの日々を瀬戸内の島のホスピスで過ごすことに決めた。そこでは毎週日曜日、入居者がもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があったー。毎日をもっと大切にしたくなる物語。 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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