まてないの(ヨシタケシンスケ)
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![]() 人生は待てないことだらけ まてないの
ヨシタケシンスケ(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFM みのおエフエムの「デイライトタッキー」。
その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。 2025月6月4日放送の番組では、ヨシタケシンスケさんの『まてないの』をご紹介しました。 ヨシタケシンスケさんはイラストレーターとして活動後、広告や書籍の装画などを手掛けたのち、2013年に絵本作家としてデビュー。 デビュー作『りんごかもしれない』で、第6回MOE絵本やさん大賞を受賞されました。 以来、多くの絵本を発表されていますが、どれも日常の何気ない瞬間をユーモアたっぷりに描き出していて、誰もが思わず「わかる」「自分にも経験がある」と親近感を覚えずにはいられません。 だからでしょうか、ヨシタケさんの作品ファンは子どもから大人まで幅広いだけでなく、今では海外にも人気が広がっています。 そんなヨシタケさんが今年(2025年)3月に出版されたのが『まてないの』です。 冒頭、タイトルと共に描かれているのは、お母さんのお腹の中で丸くなって、出産の日を待っている赤ちゃん。 早くお外で遊びたい。出産の日を”まてない”赤ちゃんからスタートします。 生まれたら生まれたで、言葉を覚える以前に喋りたくてたまらなくて”まてない”し、友だちと遊ぶ年代になると、おもちゃやブランコ、滑り台など順番を”まてない”のです。 早く遊びたくて。 また、お母さんに何か聞いてほしい、見てほしい時にも、お母さんの都合を”まてない”です。 「ねーねー、お母さん!!」の連発です。 このように、お腹の中で生まれる日を待ちきれないでいた女の子は、成長に応じて「まてない」こと、「まてない」ものを増やしていきます。 やがて女の子も成長して、自分自身がお母さんになります。ああ、赤ちゃんに早く会いたい。「まてない」! 人生って待てないことだらけなのですねぇ。 ただ、すでに還暦を過ぎた私には、幼い女の子や、若い女の子の発する「まてない」は、微笑ましく、また眩しくも見えます。 年を経ると「まてない」対象がちょっと寂しくなるのですね。若いうちの「まてない」は勢いがあって華やかです。 この絵本でも、そのような年齢に沿った「まてないの」が描かれていきます。 そして人生の終着駅付近まできた主人公が、悟りを開いたかのような境地に達して、読んでいる私も若干感動しそうになるのですが、次のページをめくって苦笑。 人間の価値観はそんな簡単に収まりがつくものではありません。 生きている間じゅう「まてないの」かも知れません。 この絵本は、誰にでも経験があるようなこと、経験がなかったとしても想像がつき納得ができることが描かれています。 私がこの絵本で一番我がことのように感じられたのは ほかのおじいちゃんだったら まてるのに
じぶんのおやだったら まてないの
(ヨシタケシンスケさん『まてないの』より引用)
というページ。
そうなのです。まさにその通り。 人様の親御さんだったら、どんなにスローモーションでも、何度同じことを言われても、会話が今ひとつ噛み合わなくても、いつまでも待てるし、何度でも同じことをして差し上げられます。 人の親なら! このページを読んで一瞬涙ぐみそうになったのですが、ヨシタケさんの絵本は何事も笑いに包んでくれている感じがしてホッとします。 読む人の心に寄り添って「大丈夫だよ、あなただけじゃないよ」と話しかけてもらっているよう。 だからこそ、ヨシタケシンスケさんの絵本は幅広い世代の人に支持されるのでしょうね。 読む人によって心に響くページが違うと思います。 あなたは今、この絵本のどの時点の「まてないの」を体験されているのかしら? ぜひ読んでみてください。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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