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文豪と暮らし( 開発社)

文豪との距離が縮まる

文豪と暮らし
〜彼らが愛した物・食・場所〜
開発社
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、開発社編『文豪と暮らし〜彼らが愛した物・食・場所〜』。

福沢諭吉、小泉八雲から三島由紀夫、時代で言えば江戸末期から明治、大正、昭和の文豪たちが愛した物、食、場所を紹介した本です。

私が一番興味深かったのは「物」編。なぜ作家がそれを愛したのか、理由を知ると、今まで文学史の中の一人でしかなかったような「文豪」がぐっと身近に感じられます。

一番感動したのが樋口一葉。

樋口一葉が生活に困窮しても決して手放さず、大事にしたのは薩摩七宝の紅入れでした。今みたいにリップスティックがない時代は、口紅は練り物で、各自入れ物に入れて使っていたのですね。

でも樋口一葉といえば、髪の毛も少しほつれて、いかにも薄幸そうなイメージ。口紅などさす余裕がなさそうなのに、どうして無用の長物「紅入れ」を大事にしたのでしょう?

それは、次兄からのプレゼントだったからなのですって。樋口一葉の次兄は、素行が悪く親に勘当された後、薩摩七宝の技法を学び名手となったのでした。

自分が9歳の時に戸籍上の縁が切れたこの兄のことを樋口一葉は誇りに思っていたのですね。兄から製造法を聞いて『うもれ木』という作品を書きました。そしてそれが出世作となり人気作家への階段を駆け登る事になります。

24歳でこの世を去った樋口一葉。この紅入れがなかったら『たけくらべ』や『にごりえ』を私たちが読むことはなかったのかも知れません。

もう一つ、太宰治のお気に入りの「黒マント」も面白い。

太宰治は自分が大好きな人だったと思います。ファッションに関してもかなりオシャレ、昔風に言うと伊達男だった太宰治。

イギリス発祥のインバネスコートを和装に合うよう改良した黒マント。それだけでもオシャレなのに、太宰治はどうやら着方にも自分なりの工夫をしていたよう。
マントは、わざとボタンを掛けず、小さい肩から今にも滑り落ちるように、あやうく羽織って、そうしてそれを小粋な業だと信じていました
(太宰治『おしゃれ童子』の一節『文豪と暮らし』P36より引用)
わざと着崩して悦に入っている、さすがナルシスト太宰治!

文豪が愛した「食」編で印象深かったのは与謝野晶子です。

与謝野晶子が愛した「食」は「羊羹」。与謝野晶子の実家が老舗の和菓子店「駿河屋」さんだったと初めて知りました。

子ども時代、家業を手伝っていた晶子は、与謝野鉄幹との間に生まれた11人の子どもたちに、手作りの和菓子を食べさせていたんですって。

こだわりは こしあん。小豆の粒が残っている粒あんのことを晶子は「手抜き」とバッサリ。私も羊羹はこしあん派です。晶子が作った こしあんの羊羹はどんな味だったんでしょう。

ちなみに関西人の私は、作家と食といえば織田作之助の自由軒ライスカレーを連想します。

もちろん、それも紹介されていました。私は大学生のころ、この有名なライスカレーを食べたくてわざわざ難波まで行きましたよ。

でも……私は自由軒のライスカレーは苦手でした。どんなものかは、実際に食べていただくか、この本でご覧くださいね。

この本のいいところは、それぞれが見開き1ページで紹介されている事だと思います。構成は左側がカラー写真、右側にエピソード紹介文で、文章の文字数はわずか570字。すぐに読めます。

すぐに読めるのに奥深い。どのページから読んでも良いし、好きな作家のところだけつまみ読んでも面白い。隙間時間や、寝る前の5分のお楽しみにどうぞ。
文豪と暮らし
〜彼らが愛した物・食・場所〜
開発社
創藝社
萩原朔太郎×マンドリン、太宰治×黒マント、池波正太郎×ポークカツレツ、江戸川乱歩×東京駅ステーションホテル…文豪たちのこだわり。近代に活躍した47名の愛した物・食・場所を3章立てで紹介。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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