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死神の精度(伊坂幸太郎)

再度読んでも面白い

死神の精度
伊坂 幸太郎(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回は伊坂幸太郎さんの『死神の精度』。

実は私はこの小説を一度読んでいます。映画も見ています。でも、最初からもう一度読んでみました。
この世には死神が存在する。

彼らの仕事は「選ばれた人」に接触し、観察・調査して、その死を「可」とするか「見送り」とするか決めることだ。ただし寿命や病死は死神の管轄外だ。

死神は観察対象者に合わせた年齢や外見に設定される。つまり対象が変われば、毎回違う外見でこの世に現れるのだ。

ただし名前は変わらない。死神たちにはなぜか地名が名前としてあてがわれている。

この小説の主人公(死神)の名は千葉。千葉が仕事をするときは、なぜかいつも雨が降っている……
(伊坂幸太郎さん『死神の精度』の主人公について私なりに説明しました)
『死神の精度』は6つの短編から成り立っています。

つまり千葉によって「死」か「生」かを振り分けられる六人の物語です。

「死神の精度」は、企業の苦情処理電話応対を仕事にしている冴えない外見の藤木一恵。

「死神と藤田」は、今時はやらない筋の通ったヤクザ 藤田。

「吹雪に死神」は、雪の山荘で連続殺人に巻き込まれている田村聡江。

「恋愛で死神」は、イケメンなのにそれをメガネで隠して恋をしたい萩原。

「旅路を死神」は、逃走中の殺人犯 森岡。

「死神対老女」は、千葉が死神だと見破る老美容師。

千葉が「可」「見送り」どちらに決めたのか、はっきり書かれているものもあれば、わからないものもあります。

一体どちらに決めたのか、もし「可」ならどんな最期を迎えるのか、物語が終わっても読者が続きを想像する余地があるのが面白いです。

それ以上に面白いのは、千葉と「対象者」の会話。

千葉は死神なので、人間らしさがありません。食欲もないし、殴られても痛くないのです。

言葉に関しても人間らしさがありません。「仕事」をするために人間の言葉を勉強しただけなので、比喩や言い回しに時々ついていけないし、疑問に思うと質問してしまうのです。

例えば「そろそろ年貢の納め時だ!」と言われたら「え?今でも年貢制度があるのか?!」と聞き返してしまう。言われた側は馬鹿にされたのか、それとも冗談なのかと悩みます。

そういうすっとぼけた会話が随所にあり、思わず声を出して笑ってしまうことも。

その反面、生きることや死にまつわる深い言葉もたくさん散りばめられています。
「一喜一憂してても仕方がない。棺桶の釘を打たれるまで、何が起こるかなんて分からないよ」
(伊坂幸太郎『死神の精度』P299より引用)
これは「死神対老女」の老女の言葉です。

人生にはいろいろあって、幸せに見えたり不幸に見えたりするけれど、最後の最後までわからない、というのです。

確かにそうかも。

単なる短編集と思いきや、伊坂幸太郎さんらしい仕掛けがあり、「あれ?この人って……」と、ページを遡ることになるでしょう。

2度読んでも面白い小説でした。

ちなみに、死神たちはみなMusicがお好きなんですって。

視聴コーナーで至福の表情をしている人がいたら、それは死神かもしれません。

続編『死神の浮力』は『死神の精度』よりハードですが、面白いことは太鼓判を押せます。合わせてどうぞ。
死神の精度
伊坂 幸太郎(著)
文藝春秋
CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしないーそんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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