777 トリプルセブン(伊坂幸太郎)
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![]() リンゴはリンゴになればいい 777 トリプルセブン
伊坂幸太郎(著) 世界で一番不運な殺し屋「天道虫」こと七尾。
七尾が引き受ければ、どんな簡単な「仕事」も大騒動になる。 今回は、ヨーロッパにいる娘から父親への誕生日プレゼントを届けるだけの、いたって簡単・安全な仕事のはずだった。 父親は仕事で忙しくホテル住まいだという。 そのホテルの一室に荷物を運んだ七尾だったが、いきなり人が死ぬような事態になってしまった。 なぜ?荷物を届けるだけのはずだったのに? 現場を離れようとした七尾だったが、そのホテルで起こっている別の事件に巻き込まれることになった。 人を道具のように使う男「乾」が、神野結花という女性を探しているという。 神野は乾の会社で働いていた。彼女は超人的な記憶力を持ち、一度覚えたことは全て忘れずに覚えていられる。 乾はそれを利用して、莫大な量の仕事のデータを神野結花に覚えさせていた。 極秘データのパスワードまでも。乾は非合法な仕事をしている上に、恐ろしい趣味の持ち主だとの噂がある。 人間に全身麻酔を施し、生きたまま解剖するのが趣味なのだと。 神野結花は秘密を知りすぎている自分がいずれ消されると思い込んだ。 生きたまま解剖されるのかもしれない、と。 逃げ出した神野結花は、人生で最初で最後になるかもしれないのだからと、贅沢なホテルに宿泊し、逃走の計画を練ることにしていた。 恐るべき情報網で、神野結花の宿泊ホテルを突き止めた乾は、裏稼業の人間を雇い、彼女を捉えようとしていた。 「業者」に追われたら、素人の神野結花はすぐに捕まってしまうだろう。 ところが神野結花は「天道虫」こと七尾に助けを求めることになった。 今すぐにでもホテルから出て行きたい七尾だったが、行きがかり上、神野結花を逃す手伝いをすることに。 世界でいちばん不運な殺し屋「天道虫」らしく、事態はますますややこしくなり、次々に死体が転がることになるのだった…… (伊坂幸太郎さん『777 トリプルセブン』の出だしを私なりに紹介しました) 割と早い段階で「天道虫」こと七尾が登場しまして、「あれ?私この人知ってる」と思いました。
というのも、「天道虫」こと七尾は、伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』の主人公なのです。 私は読んでいませんが、2年ほど前にそれを原作とした映画『ブレット・トレイン』を見たので、この作品もきっと、はちゃめちゃなことになるんだろうなと予感しました。 というのも、いつもどんな時も不運な「天道虫」ですから。 案の定、ボスから逃げている神野結花と出会い、ますます窮地に立って行きます。 とにかく、彼らがいるホテルにはいろいろな闇の「業者」が集合してきます。 ホテルの清掃員を装う二人組の殺し屋 モウフとマクラ。 吹き矢を武器に戦う6人グループ。 ひょんなことで大金を得たため、今はお金のためではなく、世のため人のために働きたいと願う二人組は爆発物が得意。 人の過去を消したり、逃亡を助けたりするココの得意なのはハッキング。 彼らが東京都内の豪華ホテルで追いつ追われつする様子が、テンポよく描かれていて、面白いのなんのって。 面白く読み進めていくうちに、多くの登場人物の関係性が少しずつ見えてきます。 そしてラスト60ページほどで、あらゆることが繋がった上で、表が裏に、黒が白にひっくり返されて行きます。 私は全て読み終えた後、迷わず1ページ目に戻って読み直しましたよ。 だって、なんでもない会話やエピソード一つ一つに無駄がなかったことがわかったので。 「あれ」はどこに書いてあったっけ?「これ」についてはどこの会話にあったっけ?と初めから読み直さずにはいられないのでした。 ところで、この小説はある人物の壮大な計画の物語であり、同時にコンプレックス克服の物語でもあるのが興味深かったです。 悩みの程度は違っても、コンプレックスを持って生きている人は多いと思います。 この小説にも、コンプレックスを持って生きている人が登場します。 世界一不運な殺し屋「天道虫」は、自分の不運さを呪っています。 幼少期から今まで、いろいろな不運に見舞われてきました。 平凡な人生がいい、普通にしていたい、といつも思っています。 神野結花はなんでもすぐに覚えられる上に、記憶が全く消えないことを辛く感じています。 人間が平気で生きていられるのは忘れる能力があるから。 彼女はどんな些細なことも忘れず覚えているせいで、良好な人間関係を築けないことを負担に思っています。 ホテルの清掃員を装う二人組の殺し屋 モウフとマクラは元は高校のバスケットボール部のチームメイトでした。 彼女たちはバスケットボール選手としては身長が足りず、運動神経がさほどよくなくても背が高いだけで試合に出られるチームメイトに、いつも理不尽なものを感じていました。 モウフとマクラは、体格や容姿など生まれながらのアドバンテージで世の中を軽々生きている人のことを「スイスイ人」と呼び、仄暗い気持ちを抱いています。 そんな中、こんな会話が描かれます。 誰かに嫉妬を感じたり、羨ましいと思ったことはないのかといった会話の続きの文章です。 驚いた奏田が「羨んだりしないんですか?」と声を大きくすると高良はむしろ、きょとんとした表情で、「梅の木が、隣のリンゴの木を気にしてどうするんだよ」と答えたのだという。「梅は梅になればいい。リンゴはリンゴになればいい。バラの花と比べてどうする」
(伊坂幸太郎さん『777 トリプルセブン』P176より引用) この言葉は、この後、何度か出てきます。
私も読んでいてハッとしましたが、この言葉を聞いた登場人物たちも何度か心の中で呟きます。 リンゴはリンゴでいいんだと。 また、こんな言葉も出てきます。 「他人と比べた時点で、不幸は始まりますね」
(伊坂幸太郎さん『777 トリプルセブン』P197より引用) 実際の人生でもとても大切な言葉だと思いました。弱い部分、情けない部分があったとしても、人は人、自分は自分なんですね。
一方、モウフとマクラがスイスイ人と呼ぶ人種の代表が、吹き矢を使う男女6人組。 彼らはモデルのような容姿や、可愛らしい外見を持っており、世の中を文字通り、スイスイ渡ってきています。 そしてそんな自分たちを選民だと思っています。 コンプレックスなど皆無。薔薇の花こそ最高で、他の草花など生きている資格はないと思っているのでしょう。 吹き矢での「仕事」の際も、自分たちより見劣りのする愚鈍な相手を倒し いたぶることに快楽を感じています。 『777 トリプルセブン』は、コンプレックスの塊だった人たちがスイスイ人に対峙する物語といえます。 そしてその延長として「人生はやり直せる」というテーマもこの小説の根底に流れているのが、読後が爽やかな理由ではないかと思います。 人生をやり直すためには「勉強が大切」とも描かれていました。 面白く読める上に、人生訓も得られる、伊坂幸太郎さんの『777 トリプルセブン』でした。 【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) 777 トリプルセブン
伊坂幸太郎(著) KADOKAWA そのホテルを訪れたのは、逃走中の不幸な彼女と、不運な殺し屋。そしてー。やることなすことツキに見放されている殺し屋・七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼が請け負ったのは、超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるという「簡単かつ安全な仕事」のはずだったー。時を同じくして、そのホテルには驚異的な記憶力を備えた女性・紙野結花が身を潜めていた。彼女を狙って、非合法な裏の仕事を生業にする人間たちが集まってくる…。『マリアビートル』から数年後、物騒な奴らは何度でも! 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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