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六月のぶりぶりぎっちょう(万城目学)

シリーズ第二弾

六月のぶりぶりぎっちょう
万城目学(著)
『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞された万城目学さん。京都を舞台に、「ありえない人との遭遇」を描くシリーズ第2弾『六月のぶりぶりぎっちょう』を読み終えました。

この本には『三月の局騒ぎ』と『六月のぶりぶりぎっちょう』が収められています。

ここでは『六月のぶりぶりぎっちょう』についてお話しいたします。

『六月のぶりぶりぎっちょう』という不思議なタイトルを見た時、ああ、これは戦国時代の有名な武将が出てくる話なのだな、と予想がつきました。

というのも、2017年に見た映画『本能寺ホテル』で、綾瀬はるかさん演じるヒロインが「ぶりぶりぎっちょう」という遊びをするシーンがあったので、「ああ、あれか」と思ったのです。

ぶりぶりぎっちょう、不思議な響きの言葉ですよね。

試しにスマートフォンやパソコンで「ぎっちょう」と入力してみてください。

「毬杖」という文字が変換されるはずです。

「毬杖」、あるいは「ぶりぶりぎっちょう」とは、木製の球を木製の杖で打って相手陣営に入れる遊びなのだそうで、平安時代からあったようです。江戸時代には儀礼化し、いつの間にか廃れたのだとか。

ともかく、私の記憶には、戦国時代にタイムスリップした綾瀬はるかさんが「ぶりぶりぎっちょう!!」とコールしながら遊んでいたシーンが焼き付いていて、これは戦国時代の話に違いないと思ったわけ。

予測通り、『六月のぶりぶりぎっちょう』は、戦国時代で最も有名なクーデター「本能寺の変」の謎に迫るお話でした。

本能寺の変の首謀者は明智光秀。

その際、中国地方に遠征していた豊臣秀吉が、主君信長の悲報を聞き、信じられない速さで京に戻り仇を討ったことは「中国大返し」と呼ばれています。

しかし、豊臣秀吉の対応が早すぎるため、もしかしたら豊臣秀吉が仕組んで、わざと明智光秀に信長を襲撃させたのではないかと考える人もいるそうですね。

織田信長の死体が見つかっていないのも謎を深めています。

小説の主人公は現代の日本人で、日本史の教師をしている滝川という女性です。

彼女が勤めている大阪の高校は、京都と奈良に姉妹校を持っており、毎年、合同の研究発表会を開いています。会場は大阪・京都・奈良で毎年持ち回り。今年は京都が研究発表の場となりました。

滝川は、同僚の外国人教師と共に、前日から京都に泊まり観光を楽しんだのですが、気がつけば「本能寺の変」の再現現場に迷い込んでいました。これは夢に違いない、と、脱出を試みますが、どうやってもその場から出ていくことができません。

滝川は日本史教師として、本能寺の変の真相に興味があります。が、滝川以上に「本能寺の変」がどのような動機でどうやって行われたのか真相を知りたがっている人物がいました。どうやら滝川が迷い込んだその場所は、その人物によって作られた「本能寺の変」の再現現場だった模様。

その人物とはもちろん、「デアルカ」のあの人です。

ちょっと複雑でわかりにくい部分もありましたが、この不思議さが万城目学さん作品の魅力だと思いました。

さてここでちょっと下世話な話を。

先に話に出した映画『本能寺ホテル』は、映画館で見ている時にこれは万城目学さんの原作だろうと思えるほど、万城目学さんワールドでした。

ところが、映画の制作陣に万城目学さんのお名前はありませんでした。

そしてのちにX(旧Twitter)を通して、映画『本能寺ホテル』の脚本を当初は万城目学さんが担当していらしたこと、ところが万城目学さんは映画の脚本から下ろされてしまっていたことを知りました。

万城目学さんは映画の脚本を手がけるのは初めてということもあり、シナリオ学校に学びにいくほど努力されたようで、脚本から下ろされたことは非常にショックだったようです。

それでも、これも人生経験の一つだし、映画にはできなかったけれど今後小説にすれば良いのだ、と考えるようにしていた万城目さん。完成した映画を見てびっくり。ご自分のアイデアがそのまま使われている部分があったそうです。

映画でボツになったアイデアを小説に活かそうと思っておられたけれど、それをすると、万城目さんが映画から盗用したようになってしまう、と嘆いておられたのでした。

私の勝手な想像ですが、この小説は映画『本能寺ホテル』でボツになったアイデアを元に作られたものではないかと思います。

元々独自の世界を描いておられた万城目学さんが直木賞を受賞され、押しも押されもせぬ立派な作家さんになったからこそ、盗用のそしりを恐れずに、あたためていたアイデアを世に送り出すことができたのかもしれません。

ちなみに、万城目学さんが脚本からはずされた映画『本能寺ホテル』の脚本家は相沢友子さん。日本テレビのドラマ『セクシー田中さん』の脚本を手がけた方です。ドラマ『セクシー田中さん』の原作者の不幸な事案を思うと、なんとも複雑な気持ちになります。

話がそれてしまいました。

『八月の御所グラウンド』から始まった、京都を舞台に、ありえない人物と遭遇するこのシリーズ。『八月の御所グラウンド』は12月と8月、『六月のぶりぶりぎっちょう』は3月と6月の京都が舞台となっています。まだまだ8ヶ月残っているわけです。次は何月で、誰が登場するのかしら?牛若丸(義経)あたりかなぁなどと想像すると楽しい。今後もシリーズが続くことを期待しています。

シリーズ前作『八月の御所グラウンド』の感想はこちら
stand.fm
音声での書評はこちら
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六月のぶりぶりぎっちょう
万城目学(著)
文藝春秋
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池田 千波留
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