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羊と鋼の森(宮下奈都)

ああ、早く生のピアノ演奏を聞きたい!

羊と鋼の森
宮下奈都(著)
2016年の本屋大賞受賞作 宮下奈都さんの『羊と鋼の森」。
ようやく読むことができました。
この小説の舞台は北海道。主人公は高校二年生の二学期、偶然「ピアノに出会う」。もちろん以前から、この世にピアノという楽器があることは知っていただろうが、別の意味で、運命的に出会ってしまったのだ。

彼は調律師を目指し、専門学校に通い、実際に調律師になる。そして、調律師の事務所に所属し、先輩に連れられて、いろいろなピアノ、いろいろなピアニストと出会うことになる。

彼の仕事仲間である先輩はみな個性的だ。それぞれに信じるものがあり、真剣にピアノに向き合っている。良い調律とはなんなのか。良い音とはどんなものなのか。悩みながら彼は一人前の調律師を目指す……
(あらすじを自分なりにまとめたものです)
私はラジオパーソナリティーの仕事を始めて約15年。自分で選曲をしなくてはならない番組を担当して13年になります。

最初、選曲が苦痛でした。リスナーさんに、カッコ悪い選曲と思われるんじゃないか、とか、流行の先端の曲をかけた方がいいのではなだろうか、とか、そんなことばかり考えて恐れていたのですね。

ところがある日、「基本的に、あなたが好きな曲を選べば良いんですよ」とアドバイスをいただいて、肩の荷がおりました。

そうだ、何を考え込んでいたんだろう。自分の大好きな曲、その季節になると聴きたくなる曲、話したい内容にぴったりな曲、そんな曲を選んでいれば、自分自身が楽しい。そしてそれが間接的に私の個性を表してくれるんだわ、と。

そうやって選曲が楽しくなってきた時、自分で自分の好みがわかってきたのです。

どうやら私は、楽器の中で特にピアノの音が好きなんだなぁ。別にピアノがガンガン前に出てくる曲でなくても、アレンジで、ポロンと一箇所素敵なピアノの音が耳に飛び込んでくるとか、そういうのでもOK。

仕事用の、密閉性の高いヘッドフォンで音楽を聞くと、普段と違う聞こえ方をすることにも気付き始めました。ヘッドフォンなしで音楽を聞くと、音楽全体が聞こえます。融合しているというか、全体像で迫ってくる感じ。

ところがヘッドフォンで聞いていると、楽器一つ一つ、個別に聞き取れる感じがするのですよ。それぞれの楽器の音の粒が耳に飛び込んでくる感じです。だからますます、ピアノがきれいな曲が好きになったのかも。

でも、この小説を読んで、ハタと気がついたのです。ピアノの後ろには調律師さんがいるんだと。今まで、調律師さんに思いを巡らせたことなんてなかったワ。

私が小学生のころ、女の子の習いごとといえばピアノでした。親がアップライトのピアノを買ってくれたものの、私にはピアノの(音楽の)才能はなく、弾くことも好きではなかったため、唯の家具になってしまったのは申し訳なかったなぁ。

そのピアノのメンテナンスのため、自宅に調律師さんが来たことがあるのはうっすら覚えているけれど、この小説の登場人物みたいに、どういう音にして欲しいとか、そんな希望を思ったこともなかったです。単に音階を合わせるのが調律師さんだと。

でも違うんですねぇ。調律によって、硬い音、華やかな音、響く音……様々な音が出るようになる。そして調律師さんは、弾き手にとって最も良い音を模索している……。

ピアノは(普通は)自分でその場で調律できる楽器ではありません。ピアニストと、調律師さん、そしてピアノ本体の力が合わさってステキな音が響くんですねぇ。

ところで私は、音楽の番組や、音楽イベントのMCもさせていただいているんですけど、ただ鍵盤を指で押す(叩く)だけのピアノなのに、なぜ弾く人によってこんなに音色が違って聞こえるんだろうと、いつも不思議に思っていました。この小説を読んで謎が解けましたわ!

椅子の高さ、ピアノと椅子の距離、姿勢が前のめりかどうか、本当にちょっとしたことでピアノの音は変わるんですね。だから人によって音が変わるのは当たり前!目からウロコ!ああ、早く生のピアノ演奏を聞きたい!

ピアノや調律についてのうんちくだけでなく、天才と努力について、一番大切なものは何なのかなど、他の仕事や人生にも通じる言葉がいっぱい。派手さにはかけるかもしれないけど、じんわり心に入ってくる作品でした。

余談にはなりますが、登場する双子の名前、由仁(ゆに)と和音(かずね)はユニゾンと和音(わおん)にちなんでいるのかしら?凝ってますね。

また、タイトルも秀逸。「羊」「鋼」「森」一見無関係なこの3つの漢字が、読後無理なく1つに収まりましたよ。さすが本屋大賞。
羊と鋼の森
宮下奈都(著) 文藝春秋
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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